あんだけかっこつけて居場所を訪ねるとか言ったけど、正直手がかりゼロなんすよ。知ってんのはテキサスファミリーの総本山はクルビアにあるってこと。マジでそれくらい。
あと手がかり以前に疑問に思ってることがある。一応腐ってもヴェネツィアの跡取りなベラ姉とかにテキサスの印象を訊いてみたりしたけど、ミズ・シチリアの顰蹙を買うようなファミリーには思えないんだよな。「腐っても」って失礼だなと俺も思った。でも言い切るしかなかったんだ!!!!
「現在のテキサス当主であるサルヴァトーレ様は大変気骨のある御方ですわ。そうですわねぇ……道行く人々に『サルヴァトーレとはどんな人物か』と訊いてみるとよいでしょう。
みな口を揃え彼のことを『誰よりもシラクーザ人らしく、誰よりもシラクーザを愛している男だ』と答えること間違いありません!」
「ほえー」
ま、つまりミズ・シチリア的感性の持ち主ってことになるな。じゃあなんで老サルヴァトーレはシラクーザの地を離れ、クルビアの地へと降り立ったのか。これはクソみてぇなB級映画が教えてくれた。タイトルはなんだっけな……『サルヴァトーレ人生記』だっけ?
これを見つけた経緯がまたおもろくてさぁ。あれからまあまあ遊ぶようになったラップランドに死ぬほどオペラとかシネマ座とかに連れてかれてさ。こいつマニア過ぎて色んな演目と色んな映画を観させられたのよ。
しかもこいつネタバレこそしねぇけどずっと横で「このオペラの劇作家は繊細な人間模様は得意だけど肝心なクライマックスの締め方が下手でね」とか、「この監督は映像美は褒めることができるけどセリフ回しがダメダメ。これじゃあ自己満足でしかないよ」とかうるっっっさいの。
ぺらぺら喋るラップランドに適当に相槌打ちながら劇場から出た時、それを見つけたのよ。映画館行く時さぁ、今期やる映画の看板みたいなの何個か並んでたりしない?そこに『サルヴァトーレ人生記』がボンと!
「──おいラップランド! コレ観るぞ!!」
「おやぁ? やっとキミも映像の良さを分かってきたのかな!」
ごめんけど全然分かんない。お袋もそうだったけどなんで女の人ってオペラと映画好きなんですか?主語大きめ思想マシマシ。
内容はこんな感じ。サルヴァトーレ・テキサスはその都市で有名な腕っぷしの強い非行少年だった。父は蒸発し、母に女手一つで育てられた彼は、家を去ってもなお自分と母を苦しめる父の影に対する怒りを発散するため、日夜喧嘩に明け暮れる毎日を過ごす。
ある時仲間の一人がマフィアによって殺され、そこで現実的な生と死に直面したサルヴァトーレは、このまま搾取される人生では母も仲間も守れないと決意を抱き、テキサスファミリーを発足した。彼には特別な才能があった。人を惹き付けてやまないカリスマと、立ち塞がる障害を払い除ける暴力の才能が。
それから、彼の耳にある噂が届く。はるか西の地、未開拓の大地に新しい国が興るらしい、と。サルヴァトーレは今や搾取される側ではなく、搾取する側にまわった。しかし、彼のしたいことはそれではない。母に、仲間に、そしてシラクーザに。今まで彼を支えた全てに恩を返すことだった。
そして自分を育てた全てに恩を返すために、サルヴァトーレは仲間たちと共に未開拓の国、『クルビア』へと向かうのであった。そこで待ち受ける出逢い、別れ、仲間との衝突、愛人との悲恋……サルヴァトーレの半生を描いた、ヒューマンドラマ!はーいご清聴あざまー。ぱちぱちー。
まあ色々誇張してあるだろうけど、基本的に若かりし頃のサルヴァトーレはヤンキー捨て猫理論の最大値みたいな男かつベンチャー企業の意識高い系社長みたいなやつだと思ってくれていい。失礼?いや、カリスマってそういうもんだろ。所々ノンデリで、所々イイやつなのがカリスマ。
ラップランドさんは塩キャラメルのポップコーンをつまみながら、「どうしてこういう形式って片親がちなんだろうね」ってツイッターにいる日本人みたいな批評してた。オレは今日一で爆笑した。で、シラクーザからクルビアに行った理由は大体もういいじゃん。ここからなんよ。
老サルヴァトーレはマッッジでシラクーザが大好きな、親シラクーザ派の人間なんだけど。彼の息子って生まれも育ちもクルビアなのね?だからシラクーザの気風とか、お国柄とか好きじゃないのさ。名前ジュセッペっていうんだけどね、この息子さん。
あのー、前世にもいたよね。日本に出稼ぎにきた海外の両親を持ってるけど、生まれと育ちは日本だから見た目すっげー外国人なのに全然思想と言語が日本人なやつ。ジュセッペさん、それ。シラクーザに愛着湧かないのも納得だわな。
これ、壮大な親子喧嘩です。あざす。これを知ったミズ・シチリアがブチ切れ寸前ってわけよ。当然老サルヴァトーレもキレてる。おじいちゃん高血圧気を付けてねって感じ。
で、この怒りの余波によってジュセッペ派閥でありながらもクルビアでさえ立場が弱かったトラディトーレファミリーはビビりまくって逃げ帰ってきたと。
俺の読みはねぇ、流石に老サルヴァトーレ、もうおじいちゃんすぎるからいつぽっくり逝くか分かんないわけ。意外とこの世界気合いで長生きできるとはいえね?だからそろそろジュセッペの時代来ちゃうんじゃないかなぁ……って思ってます。
まあそこはもうしかたないじゃん。二代目が無能ってのはよくある事だから。たーだぁ!ここでもう一つ耳寄りな情報手に入れやして、あっし。……アッシュだけにあっし!?ごめん取り乱した。どうやら居るらしいじゃん、三代目。
チェリーニア・テキサス。老サルヴァトーレがめちゃくちゃ可愛がってるとかいう孫娘。こいつがどっちの思想に付くかで割とこの後の生き方変わってくんじゃないの!?ってところまで考察で辿り着いて今ココね。
「……あのさぁ、ラップランド。 テキサスって知ってるか?」
「テキサス?……ああ、最近サルッツォの屋敷に居候してるチェリーニアのことなら知ってるけれど、それがどうかしたの?」
世間って狭い。あとこいつはヒントをもう少し早くだせ。それ言ってくれたらあんなバカ真面目に調べ物とかしなくて良かったじゃん。
マジで俺が知ってるかなぁ……いや、知らないとしてもダメ元で訊いてみるか!ってしなかったらどうなってたのよ。
次会ったときラップランドの尻尾の毛むしってやろ。嫌がらせ。
「お前が……あいつの言うアッシュか?」
黒色や灰色が多いループスにしては珍しい紺色の毛色。そんでもってあどけないっつーか、ちょっと童顔な顔立ちをしてる少女。可愛い系のツラしてんのに言葉遣いが粗暴でビビった。あの老サルヴァトーレの孫娘だし、まあ有り得なく……ない、か。
「……おい、聞いているのか?」
「ん!? あ、ああ〜! そう、そのアッシュ!ラップランドからどう伝わってるか知らねーけどそのアッシュで間違いねぇよ」
おいおい、ちょっと考え事してただけじゃん……なんでそんな不機嫌そうなんだよ。短気は損気って教わらなかったのか?おめーのおじいちゃん、教えてくれなさそう。
どっちかってーと「殺られる前に殺れ!」とかすげー言いそう。もちろん老サルヴァトーレが。映画による偏見だけど。
んな事考えてたらえげつない速度で剣を振るわれて草なんですが。しかも殺意高ぇよ。なんで最初から殺す気満々で頸動脈スパッと斬ろうとすんだよ。頑張ってナイフを食い込ませて、なんとかすげぇ勢いの剣を防ぐ。
「────ハッ、やるじゃないか」
「……マジでたまたまだから、二度とこういうことしてほしくないんですけど」
実際まぐれ。やりかねないやつだなーって失礼ながら思ってたから覚悟ができてただけみたいなところあるよ。人生舐め腐ってなんぼかもしれない。こういう命拾いしちゃうとね、変なこだわりが拭えなくなっちゃうよね。
ちょっとムカってきたから少し仕返ししてやろーと思う。やられたことは倍にして返せって半〇直樹で学んだから、俺もガチの殺意高めで行っちゃうゾ!♡
鍔迫り合ったナイフの持ち手を離してしゃがんだ。するとずっと抑えてくれると思い込んだチェリーニアの腕が勢い余って前のめりに崩れる。
筋肉のかけ方としちゃあ、後ろ脚に比重が偏るよな。そのまま行けば重たい剣によって身体が持ってかれちまうから。
「お前何をっ……!?」
「喋ってたら舌を噛むぞ?おらさっさと体勢を整えてみろよ──!」
だから足払いで後ろ脚を崩して……まあ大体かかとあたりかな。そこをもう一度掴んだナイフで斬りつける。がくん!って力がいきなり伝わらなくなって驚くチェリーニア。そのマヌケな顔面目掛けて、複数の『任意に発動/対象に射出/対象:チェリーニア』だ。これで死んだらごめんね♡おら逝けや。
「舐めるなよ…………! 全て、斬り墜とす!!!」
……バケモンみてぇな解決方法だな。前脚を支柱にして踏みとどまりやがった。あとは元々の動体視力とその剣捌きで『アーツ言語』で射出した遠距離攻撃を斬り墜としちまった。脳筋バカのそれなんですが?
「……なあ、今からでも普通に話したりできない? 俺やり合って無駄に体力消耗したくないんだけど」
「お前、反撃しておいてよく言うな。 ……私としてはまだやれるし、ここで手を引く理由もない。……やるぞ」
あーだりぃ。なんかスイッチ入っちゃったみたいだし、こいつが良いと思うまで付き合わなきゃならなくなったじゃねぇか。さっき鍔迫り合って分かったけどこいつイングリッドと同じ素の身体能力が高いタイプの術師だし、真っ正面で戦いたくないよ……。
「避けてばかりでさっきのような反撃はしないのか?」
「今反撃できそうか見極めてるところでしょーが! 俺の反撃を待ち望んでるならよォ、そのバカみたいな速度の連撃の手を緩めろってぇ!!」
「───それは無理な相談だな!!」
確かにかかと部分しか斬ってないから力が伝わらんのは足先だけだがよぉ、なんでむしろそっちの脚で剣の攻撃と交えながら蹴ってきたりしてんだよ……!スタイリッシュすぎて捉えきれねぇだろうが!
とりあえず頭目掛けナイフをぶん投げてチェリーニアの攻撃を中断させる。避けさせるためにわざと軽く投げたからちょっとしか止まらなかったが、その避けた一瞬の隙を伸ばすように剣を握っている方の腕に物質精製した小さい刃を突き立てる。しっかり肘の付け根をぐさぐさっと、三本。呻いたチェリーニアはその場で動けなくなっている。
「発動」
「……まさか、後ろか!?」
察しがいいっつーか、勘付くのが早いっつーか。まあ意味合いは変わらないか。『アーツ言語』で手元に戻す際にわざとチェリーニアを軌道上に立たせた。普通に行けばチェリーニアの後頭部をかち割るはずなんだが、バレちまったからな。そうは上手くいかねぇ。
「……でもさ、そっちを意識してたら俺は自由に動けちまうぞ」
「ぐ、うっ……」
別にこの一回に賭けなくていいしな。俺は。チェリーニアの腹を蹴り上げ、宙へと飛ばす。手元に戻ってきたナイフをまた浮いたチェリーニアへと投擲して、念の為に『アーツ言語』の準備をしておく。
「────ふざけるなよ」
いやぁ……そうだよね。さっきから純粋な身体能力だけでお前はやっていたもんな。そこに『アーツ』まで来たらどうしようかなとか思ってたよ。ちゃんと。
チェリーニアは落ちながらもその周りに『アーツ』によって精製した大量の剣の雨を降らそうとしている。
「これじゃあちっぽけな俺のナイフは弾かれて届かねぇなぁ……」
チェリーニアの『アーツ』はラップランドみたいな最強って感じのアーツじゃない。なんの特殊効果もない物質精製。
代わりに無駄なアーツ消費もなく、コスパもいい。イングリッドと同じで、超常的なアーツじゃなくていいんだ。身体能力がずば抜けて高いから。
イングリッドはどちらかといえば頭脳派寄りの脳筋だ。自分に必要不必要を理解した上でたどり着いたスタイルが脳筋ってだけで、全てを暴力で解決するっていうような戦い方じゃない。
反対に、チェリーニアは頭を使うような脳筋じゃない。剣を振るってそこにあるものを薙ぎ払う。武器の供給を途切れさせないように精製で補い、時には大量に精製した剣の雨で広範囲を殲滅する。
暴れやすいだろうなぁ?だって雑魚はそれで大体死ぬもん。今まではそれでやってこれたんだろうけど……トラディトーレのやつらと戦ったら十中八九こいつ負けると思うわ。
こんなん俺でも対策できる。即座に戻したナイフにアーツを込めて『アーツ言語』を設定する。久しぶりのやつ。
『設定対象に接触したとき発動/無作為に暴発』を。
「───おらァ!」
ナイフをもう一度宙へと投擲する。ナイフは精製された剣に接触し……暴発するアーツによってチェリーニアの剣の雨をぶっ壊した。目を見開くバカ。ざまぁ。
「器用な『アーツ』の使い方だな」
「お褒めに預かりどーも。……で、まだやるの?」
さっきまでは人間的な闘志を宿していたのに、今のチェリーニアの瞳は獰猛な猛獣のようなギラつきじゃねぇの。
「いいや、まだだ。まだ……私はやれる」
「────死んでも知らねーぞ、後悔すんなよスカタンがァ!!」