異世界転生モノだと思ってるバカ   作:さぼさぼさん

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 孤独は世界を壊す理由足りうるか否か。


出来の悪いコンサート/LS-3

「────アッチは片がついたようだね。

 ボクらも……そろそろ終わりにしようか!」

 

「まだ旋律はクライマックスに到達しておらんぞ!

 指揮者としては落第だな、貴様ァ!」

 

 アーツユニットを鈍器のように振るうルパート。特殊なアーツユニットの形状は鈍器というには楽器的な側面が強く、楽器というには無骨な大きさをしていた。

 アッシュがこの様相を見ていたらこう評するだろう。「モン〇ンの狩猟笛かなんか?」と。

 

「生憎だけど、ボクは観たり聴いたりするほうが好きでさ!指揮者の気分じゃないし、なるとしても映画監督がいいなっ!」

 

 ラップランドの剣がアーツユニットの間を縫うように器用に振るわれる。ルパートは避けも防ぎもせず、彼を覆う『何か』がその攻撃を受け止めていた。

 

「さっきから閉じこもってる()()、メンドクサいんだけど?」

 

「神聖な演奏を妨げられては困るのでな」

 

「演奏演奏って……そんなにガチャガチャ音を鳴らしたければさあ、楽器店でも行って試奏でもしてきたらどうかなぁ!!!」

 

 ラップランドはアッシュほどでは無いがアーツの解析をある程度習得している。そこから導き出すに、ルパートを保護している『何か』はアーツによるものだということは判明していた。

 指を鳴らし、『抑制』するラップランド。ゆっくりと消えていく防護膜の異変に驚愕するルパートの顔を蹴り飛ばして追撃をお見舞いした。

 

「ぶふっはぁっ…………!!!!」

 

「よっぽどその楽器?アーツユニット?……ま何でもイイや。よりいい音鳴るじゃない!」

 

 かなりの距離を飛ばされながらも、ルパートはアーツユニットに指をかけ、『アーツ』による音波を生成した。

 それを見逃すほどラップランドの目は衰えておらず、すぐさま指を鳴らして『抑制』しようとするが、先に放たれたルパートの音の方が彼女に到達するのが早かった。

 

 音の壁に阻まれ、ルパートへ近付くことを許されないラップランド。好戦的な笑みを崩さず、愉しげに舌打ちをする彼女は、少し呼吸を整えるために一度攻撃の手を停止した。

 

「音って厄介だねぇ? ボクもこの『抑制』は指を鳴らすことがトリガーだから分かるよ。音速っていうのは正直で……速く発動すればするほど有利なんだから」

 

「ただの音とは不愉快な表現をする。確かに俺の旋律はかの偉大なる巫王のそれとは比べ物にならんほど拙い!

 だが、同志たちは俺の旋律に心打たれ、賞賛を述べてくれるほどには成長しているッ!」

 

「────もういいって、飽きたよその話」

 

 にこやかに話していたラップランドの表情から『喜』の色が抜け落ちた。つまらないオモチャを見るような冷ややか瞳と同時にまたルパートのアーツの出力がみるみると落ちていく。

 ラップランドが言っていたように、『抑制』は指を鳴らさなければ発動しない条件付きの『アーツ』である。だが、今ラップランドは()()()()()()()()()()()

 

「元々、これはハンデだったんだよ。だって、見せてあげないとズルいでしょ?」

 

 『抑制』という属性は源流を辿ると干渉系に連なるアーツの類である。ラップランドのアーツが他術師のアーツに対して優位な親和性を発揮し、本来発動するのに必要なアーツの組成式を阻害する。この仕組みが『抑制』である。

 

 イメージとしては一酸化炭素中毒のしくみに近い。一酸化炭素が酸素よりヘモグロビンに対してより優位な親和性を持つことによって、血中に酸素が行き渡らないのと同じように。

 彼女のアーツもまた、他術師のアーツが身体中に行き渡るのを妨害していた。 

 

 であるから、『抑制』を長く維持しようとすればするほどラップランドのアーツ消費量は比例して多くなるし、時間が経過すればやがてゆるやかに『抑制』は解けるという性質を持つ。

 

 このアーツの触媒として、『指を鳴らす』という行為をラップランドは条件付けで選択した。これには条件を指定することにより、効率的にアーツを周囲に伝播できるというメリットが明確に存在する。

 

 だが、ラップランド・サルッツォは卓越した戦闘技術の持ち主である。そんなことをしなくとも、条件付けによる成功率の底上げなどしなくとも……『抑制』させることなど欠伸をするくらい簡単なことであった。

 

 いわば、無詠唱の『抑制』!ルパートは戦慄した。

 目の前にいるこの才能ある少女は、紛うことなき化け物の類であると!

 

「キミは遊びたいと思うほど強くなかったし、手加減してあげるほど弱くもなかった。

 …………あーあ、これならあっちの敵と交換してもらえば良かったよ」

 

「イカれた快楽殺人鬼がっ…………!」

 

「ボクにその悪口は褒め言葉でしかないけど、気付いてる?

 それに毎度同じセリフを吐くヤツらほど、こぞってボクよりイカれた目をした連中ばっかなんだから、皮肉だよね!ッハハハ!」

 

 為す術なく振るわれた剣によって沈むルパートを、なんの達成感も得られず静かに見つめ続けるラップランド。そこには殺人の快楽もなく、かといって殺人の罪悪もない。ただの虚無しかなかった。

 

「……よし! アッシュの助太刀に行かなきゃだね、急がないと!」

 

 数分経過して固まった機械が再び動き出すかのように、にこやかな顔を取り付けたラップランドは、疲労困憊で地面にへたり込んでいるチェリーニアの方へと向かうのであった。

 

 

 

「……んっ……ここは……ああ、そうだったわ……」

 

 アッシュによって倒された用心棒の影が解除され、意識が回復したベアトリーチェは目眩によろめきながらも、覚束無い足取りで屋根裏部屋の酷い有り様を目撃した。

 

 確か舞台が終わり、友人たちの暖かい賞賛の言葉を受け止めていた直後の出来事だったと記憶している。

 謎の『影』によって引き摺り込まれ、鉱石病による侵食で正気を失った『影』の張本人によって意識を奪われていた。体感として、1〜2時間程度だろう。まだそこまで経過していないはずだ。

 

 段々と足取りもしっかりとしてきて、足早に2階の廊下を、さらに1階の大階段を降りていく。

 少し角を曲がればもう玄関だ。恐らくはベアトリーチェを救助に来たエリザたちと、アッシュら三人が待ってくれている。

 

 愛するお父上でないにせよ、わたしのことを心配してくれる人々がいるということに、彼女は表しようのない喜びが込み上げていた。

 嬉々として玄関のドアノブに手をかけ、外に出ようとしたその時、視界の右端にそんなわけがないと思うようなシルエットがチラついた。

 

「み……見間違いよ。そんな……そんなわけがないっ」

 

 そうだ。そんなわけがない。まるで左の膝から先が千切れて、随分と経過しただろう赤黒い血の塊がその断面に乾いて固まっていて。

 腹からも相当な血の量を流したのだろう、血色の悪い青白い肌で物言わず仰向けに倒れているその人物は、最近友達になったばかりの……アッシュであるわけがない。

 

 恐る恐るアッシュとは別人であるはずの誰かに近寄って、その確信を確かなものにするために血が付着することなど気にもとめず、彼の身体を小さく揺すっているベアトリーチェ。

 

「……うそよ……これはゆめで……おきてっ!……おきてよ、ねぇ、おきて……!」

 

 大粒の涙をぽたぽたと床に落としながら、ベアトリーチェは歌声でもないその泣き声に『アーツ』を宿していく。拐われた際に、『音律器』は楽屋に置いていってしまった。

 暴走する彼女の言霊は、奇跡と災厄を同じ分だけこの場に(もたら)した。

 

 奇跡は、アッシュの身体を修復するように周囲の物質を使って治癒をし始めたことである。これは厳密には治癒の『アーツ』ではない。

 そういった類のアーツは身体構造についての造詣が深くないと行えない芸当であり、ベアトリーチェの行った治癒はどちらかと言えば失った箇所への『補完』に近いものだった。

 

 災厄は、ベアトリーチェがその感情の渦に呑まれ、悲しき形でその『アーツ』の解釈を拡張したことである。感情を乗せた言霊は質量を持ち、実体を得て、ベアトリーチェの鎧として機能し始めた。

 小さな少女を包み込むその大きな鎧はまるで、かの最悪の時代の巫王、ヘーアクンフツホルンに酷似していた。

 

 彼女の声に反応するように、アッシュから数メートルほど離れて事切れていた用心棒の死体が不気味な脈動をして動き出していく。

 

〖……そうだ……これは……ゆめ……ゆめならば……すべて(つい)えてしまえ……!!!!〗

 

 

 

 静かに揺れる蝋燭の火が、仄暗い部屋をぼんやりと照らしている。目を悪くしそうなほど少しの灯りしかない部屋の中で、皺だらけでありながらも男性らしい無骨なその手で盤上の駒を動かしていた。

 時にはもう片方の手で捲る羊皮紙の(ページ)の擦れる音が、大きくないのにも関わらずやけに部屋に響き渡っている。

 

「……………………」

 

「難しい顔をして何を読んでいるのだ?」

 

 有象無象の「巫王の余韻」の一人が彼に語りかけている。姿勢は盤上に向けたまま、視線だけをその者に合わせて壮年の男性は(しゃが)れた声を発した。

 

「単なる『塵界の音』によるフィードバックさ。

 どんな効果をしていて、どんな範囲までそれは及ぶのか……詳しく知っておかなければ、使役する私たちはいけないだろう?」

 

「……そんなことは今いる被検体で実証できるだろうに」

 

「ははっ、そうだね。 ……ただ、私はある一つの被検体だけ、手元に置いておくことを忘れていたと思っていてね……」

 

 パチ、パチ。と駒を動かす音。まるでそれが悪いことではないかのように、無邪気な子供のような物言いでつらつらと話している男性。

 「巫王の余韻」の中でもとりわけ頭の悪くない方だった、男性の話し相手を務めている彼は、その真意に気付いてしまう。

 

「……おい、まさか」

 

「そうだ、私には一人娘が居てね。

 彼女はとても歌が上手いんだ。……そんな()の頭に()()を埋め込んでみたくなるのは、当然の好奇心だろう?」

 

「そいつは、今どこにいる!?」

 

「シラクーザ。『金律楽章』にも連なる(れっき)とした国家の名前だよ、どうしてそんな嫌な顔をしているんだい?」

 

 これまた悪戯が成功した子供のようにくつくつと笑う男性。この男の正体こそ、ベアトリーチェの父親、今アッシュたちが巻き込まれている事件の諸悪の根源であった。

 

 ベアトリーチェに期待していたのは『巫王の声』と呼ばれる巫術の再現を可能にする生物的器官の誕生であった。この研究は敢えなく失敗に終わったが、それはそれとしてベアトリーチェの父はもう一つ副産物を仕込んでいた。

 

 それこそがベアトリーチェの頭に埋め込んだプロトタイプの『塵界の音』である。今も現在もまだ完成品とは言えないが、さらに劣化版といえるものによる化学反応はどうなるのかと、彼は考えたのだ。

 

「いつその種が芽吹くか分からないが、楽しみだね。

 全てを混沌に陥れる巫王のアーツの残滓……ああ、本当に楽しみだ」

 

 彼の馳せる想いは知ってか知らずか、そのささやかな願いは遠き地のシラクーザにて、叶うこととなる。

 今、孤独を抱えた歌姫(ベアトリーチェ)が孤独を抱えた(アッシュ)により共鳴を迎え、壊れたものたちのコンサートが始まる。




ルパートに過去なんてないです。ただのテロリスト。

アッシュ三人衆は三すくみだと思っていて
『アーツ』がそこまで無くても素の戦闘力が高いチェリーニアがラップランドに強く、
基本的なステータスのバランスがいいアッシュがチェリーニアに強く、
『抑制』による手数の封殺ができるラップランドがアッシュに強い

あとこれ書いてるときジェネリック静かなオーケストラやんと思ってました
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