異世界転生モノだと思ってるバカ   作:さぼさぼさん

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呆気なく/LS-EX-2

「それで。 現状の説明はまだ? 私は気が短いってこと、知らないはずがないでしょう」

 

「ちょっ、怖いってイングリッド!話す、話すってば!」

 

 急な呼び出しでそもそも機嫌が悪かったイングリッドさん。イライラの最高潮に達したのか俺の襟を掴んで持ち上げてはすげー怖い顔で詰め寄ってきた。ぐ、ぐるじぃ……絞まってる、首絞まってますぅっ……!

 

 説明のために呼吸できるようにしてよ、って意味合いでイングリッドの腕をめっちゃ叩いたら呆れた顔してやっと離してくれた。危ねー……し、死ぬかと思った……。

 

「……けっこー前にトラディトーレっていう変なファミリーが居たろ」

 

「覚えているよ。君が巻き込まれた傍迷惑な連中のことでしょう?」

 

「そ。んで、そん時に殺り損ないの用心棒が居たんだ。そいつ、生き残ってた挙句に鉱石病になっててさ。

 このクズが最近俺たちと仲良くなった女の子を連れ去って、俺個人に対しての……復讐?……報復?みたいなのに巻き込もうとしてた……と思ってたのよ」

 

「ふぅん。『思ってた』って?」

 

 俺最近気付いたんだけど、説明超下手くそかもしれん。もっと簡潔に話まとめて言えばいいのに長ぇ。うぎ〜!自分でもイライラするぅ〜!けど話しちまったもんだからやめるにやめれないっていうね。じれんま。

 

 でも早くしないとまた鎧の言霊で四肢が捥がれても動くゾンビが再稼働しちゃう。急げ俺ちゃん、できるだけ簡潔にな!えーっと、えーっと!?

 

「復讐心を煽って用心棒を裏で動かしてるやつがいた。そんでもって俺らが仲良くなった女の子は厄ネタの爆弾抱えてて今こーなった!以上!」

 

「……いつも稽古の時、焦るのはその場において最も悪手だと私は教えているよ。説明が不足するくらいなら冗長でもいいから、しっかりと話して」

 

 うっ、お小言貰っちった。でもガチギレって感じじゃないよ。こーいう叱り方するときのイングリッドはむしろ優しさから物を言ってることのほうが多い。

 それに、俺の下手くそな説明でも何となく状況把握ができたようで、一切の隙を感じさせない自然な佇まいで片手剣を持ち直してる。なんなら余裕のスマイル。

 

「君たちが攻めあぐねている理由は、あの『影』と『旋律』による補助が邪魔だから。つまりは、私がそれらを抑えておけば自分たちで解決まで持っていける、ということだ」

 

「……あの『鎧』もやってくれてもいいんスよ?」

 

「冗談は良くないよ。本当は自分自身の手でケリを付けなければならないと思っているはずだ、アッシュ」

 

「じゃあ、善は急げと言うからね」なんて言って一瞬で影人形の群れに突っ込んでったイングリッド。暗に私はあの鎧の相手はしませんよ〜って言ってるようなもんで、それ以上の手助けはしないつもりらしい。

 

 さて、困惑してるチェリーニアとなんとなーく理解してるっぽいお利口さんなラップランドにどう説明しようかな?呼べるんだったらさっさと呼べ!ってキレそうじゃない?ひえ。

 

「『私を救って(殺して)』……か」

 

 お前拐われた直後にPTSD起こしたやつに頼む願い事じゃなくない?やだねーシラクーザって。こういう悲劇が今もどっかでありふれてるんだから。え?これはありふれた内に入らないって?うるせ。

 

 

 

 ヒトガタのようでヒトガタではない不定形の影人形の一体が鞭のようにしならせた腕を伸ばした。また、ある一体は流動的なその体を一点に集中させることで密度を高め、それを振るうことでひとたまりもない打撃を可能にしている。

 

 またある一体はその体を部分的に射出することにより遠距離を、またある一体はその体の表面積を広くすることで盾の役割を……数えればキリがないほど、多種多様な影人形の攻撃はイングリッドに集中していた。

 

 猛攻の嵐の中、イングリッドはただ穏やかに微笑んでいるだけだった。人対人であれば感じうる、イングリッドに対して浮かぶ違和感を生物ではない影人形は察知できなかったため、猛攻は止むことはない。

 

 ふと、片手剣を握るイングリッドの腕がブレたような気がした。瞬き一つ、その間にあらゆる影人形が不定形でその場に存在することさえ許されず細切れになる。紛れもなく、イングリッドによるものだった。

 

「感情を一切持たず、途切れない連携を取れるのがあなたたちの強みなのに、どうして色んな形態を取ってバラバラに動いてしまうの?」

 

 極めて退屈そうに呟くイングリッドの愚痴を受け止める相手はもう、いない。代わりにもう一体、もう一体とまた新しい影人形が生み出され、無為に同じことを繰り返していく。

 

「…………同時に叩こうか」

 

 先ほどの一振りはただの挨拶代わりとでも言うのだろうか、イングリッドはその黒いコートを宙に投げて告げた。今度は彼女の腕だけではなく、彼女の全体像がブレてその場から消え去った。────ように見えた。

 

「まずは、このコートを撃ち落とせるかやってみて?」

 

 かつてアッシュが述べた通り、イングリッドはそもそもの身体能力が突出している。広範囲殲滅が可能な『アーツ』はその身体能力との相性が悪いし、遠距離から戦う『アーツ』もせっかくのフィジカルが宝の持ち腐れとなってしまう。

 

 故に、彼女が使う『アーツ』は身体強化と認識阻害の二つのみ。迅速に、合理的に。相手が自分を見失っているその間、気付かれることなく致命傷を与える。それが、ヴェネツィアのイングリッドと恐れられている所以。

 

 奏でるために必要な指が落ちたとしても、言霊によって無理やり奏でることを強制させられた骸ルパート。彼の防護膜が影人形に届くよりも速く、イングリッドの振るう刃によって再び細切れにされる。

 

 死体に感情や道理など無いとしても、『アーツ』の失敗は失敗。骸ルパートは再度『旋律』を奏でるためにある程度のアーツエネルギーの練り直しが必要となる。

 

 コートが最高点まで達し、ひらりと裾を揺らし地面へと落ち始めていく。相手の行動機能を奪ってもあの『鎧』による言霊で無理やりにでも再起されてしまう。ならば、影人形と同じく細切れにしてしまえば良い。

 

 今度は不定形の影人形ではなく、言霊によって動かされているとはいえ死後硬直して間もない死体である。一般人であれば切断するにも一苦労するはずのそれを、影人形となんの違いがあろうかという素振りで難なく賽の目状に切り刻んでしまう。

 

「これで、一人目」

 

 コートは未だ宙を舞い、最高点から半分ほどしか落下していない。『旋律』の恩恵が受けられなくなった『影』及び用心棒の出力が僅かだが落ちる。

 理性を失った『鎧』も言霊による骸ルパートの再生を試みようとするために、比重が偏っていく。

 

 〖Aaa……! 嫌っ……死んじゃ……死んじゃうっ……!〗

 

「……お友達があの『鎧』なんだね。手こずっていたのは、成程そういう事情が絡んでいたわけだ」

 

 ならば、尚更急がねばなるまい。そう考えたイングリッドは精細を欠いた影人形らの攻撃の間を縫うようにして、用心棒の目の前へと躍り出た。死者を甚振る趣味も無い彼女は、いつもの仕事のように、淡々と用心棒を肉片へと変えていく。

 

「さて、二人目。……あとは、あのメイドだけど……」

 

 〖Eee……エリザ……! だめよっ……Lala……逃げて!〗

 

「……アッシュと生活を共にして、私も耄碌したかな。あれを追い詰めるのは、少々心が痛むね」

 

 骸エリザを見逃したとしても、『影』と『旋律』を失った『鎧』は相当弱体化しただろう。何となくそう言い聞かせ、その行為に正当性を持たせようとするイングリッド。

 随分と甘くなった自分に対してイングリッドはため息を吐き、コートが地面に落ちかけたその瞬間に手にかかるよう一瞬で元居た場所へ戻ってみせた。

 

 彼女は静かに木の幹に背を預け、この壊れたものたちのコンサートの終幕を見届けるオーディエンスとして、最期までこの場に残ることを決意した。

 

「アッシュ……君はどんな結末を望むのかな……」

 

 

 

 ……やりやがった。やりやがったよあの女!連戦で消耗してるとはいえ、苦戦していた『影』と『旋律』を、5分も経ってねぇぞ!?

 イングリッドと打ち合いしてるとき、ずっと底が知れねぇなと思っていたが、ここまでとは思わないだろふつー……!

 

 おっそろしいのが、どんな『アーツ』を使ったかの想像はつくがあいつの一挙一動を目で捉えきれなかったってことだ。たった5分の間の、その行動がだぞ!?

 気付けば骸ルパートはサイコロステーキみたく転がって、用心棒はミンチにされた挽き肉みてぇになってる!うげ、当分ハンバーグ系は食べたくない。

 

「おい、なんだあの人は……!? 誰なのか教えろアッシュ!あれは私の『上位互換』だ!」

 

 がっくんがっくん肩を揺らすのやめてね?俺さっき首絞められてたのよ。脳に酸素が戻ってきてまだすぐなの!気持ち悪くなるから!吐くから胃の中の物ぉ!!

 

 でもチェリーニアが気になるのも理解はできるぜ?イングリッドは現在のチェリーニアをカンストしたみたいな戦闘スタイルだもんな?唯一違いがあるとすりゃ、持ちうる『アーツ』が物質精製か認識阻害かってだけで。

 

「……あ゛〜気持ち悪ぃ。 確かにあれはあるかも知れない未来のチェリーニアだわな。 でも、お前はあれじゃないだろ。 お前は()()()()()()だ」

 

 らしい事言ったけどヴェネツィアの屋敷にチェリーニアを招き入れたくないだけ!ぜぇ〜ったいリサちゃんに悪影響。ただでさえ脳筋のイングリッドで心配なのに、こいつまできたらリサちゃんが将来ムキムキマッチョになってしまう。それは避けたい。

 

 と、言うのは冗談で半分くらいは思ってたりする。チェリーニアはイングリッドじゃないし、イングリッドはチェリーニアじゃない。お互いにお互いの到達点は違くて、極めるべき技術も然るに違う。『誰かのようになりたい』という願いはある種素晴らしく聞こえるものだけど、俺ァ思考停止の一文にしか聞こえねーな。

 

「……私は、私の……」

 

 久しぶりに前世累計で云十歳なところ出ちまった。おっさんくさい説教というか、ご高説というか。まあでも不貞腐れることなく、素直に面食らってくれてるこいつは俺の言いたいこと分かってくれるだろーよ。

 

 現在『鎧』……うんにゃ、ベアトリーチェは言霊による再起が機能しない用心棒と骸ルパートによってただでさえ危ない精神が更に危ぶまれている。実はさっきから戦ってて気付いたことなんだが、用心棒>骸ルパート>骸エリザの順で言霊による扱き使い方が違うっぽい。

 

 恐らくはどれだけ長く過ごして、どれだけ操る死体に愛着があるかで発狂しつつも優先順位を定めているんだろう。持ってる能力は大変えげつないのに、覚悟が据わってないっつーか。

「大切な人を傷つけたくない」っていう甘ったれた少女思想がどこかやっぱり垣間見えてる。そらぁ、日夜殺し合いに身を置いてるわけでもない、オペラでちょっと有名な女の子だしね。それが普通だよ。

 

 現実逃避って、現実を直視あるいは何となく無意識に現実を認知しているからこそ行うものだと思うんだ。何が言いたいかっていうと、ベアトリーチェはその実、エリザたち使用人が死んでいることを心のどこかで認めている。だからこそ目の前のことから閉じこもって逃げている。それが最も大切な人の尊厳を踏み躙っていると知らずに。

 

 〖Aaa……エリ、ザ……私のため……だめっ! ……げて、貴女は死なないで……〗

 

 今はそれを否が応にでも突きつけられている最中だ。言霊によって無理やり生きているような状態にはもうできない。死んでいると認めざるを得ない。だがそれを認めればたちまちベアトリーチェの心が壊れてしまう。

 

 物言わぬ骸のエリザはそんなベアトリーチェの揺らいでいる言霊の影響を受けて、硬直している。二つの命令が同時に伝達され、競合しあっているためにどちらを遂行すればいいのか判断できずにいるんだろう。機械みてぇだ。それもまたこいつが死んでるんだな、って思わせる現実的要素だったりする。現実は非情に真実を突きつけてくるというか。

 

「エリザって人、生前とっても強かったでしょ。 よく倒せたねぇ……今回ボクの『抑制』が効かない相手ばかりで苦労したよ!」

 

 骸エリザが動かなくなったお陰でラップランドも手が空いたのか、俺たちの元へと戻ってきた。え、俺は骸ルパートに苦戦してたのに、あの人もっと強いの!?ほんでもって死体だから『抑制』効かないんじゃないんだ!?

 

「彼女は元々『アーツ』を使えない体質なのだろう。代わりに異常なほど『眼』と『脚』が発達していた。……今は『眼』の方は使い物にならんだろうがな」

 

 ほぇ〜……天与〇縛のフィジギフみたいなね?つってもこの世界、保有するアーツエネルギーはあってもそれを術として扱う『アーツ』が無いって人は多く存在する。そもそもアーツに触れ合う機会がある人ってひと握りなんだよ。

 教育が上手く受けられない層の人間だったりすりゃ、アーツ操作なんて難しいことはできないほうが当たり前っていうか。フィジギフっていうか、エリザはこれに該当すんじゃないのかな。

 

 あら、頭のいい人は気付いた?さっさと『鎧』をぶっ壊してベアトリーチェを殺しちゃいなよ!って思ったよね。あのさ、ベアトリーチェのことを甘ったれた少女思想だとかさんざ言ってましたが、それ実は俺もなんだよね!

 

 さっきからずっと心が漣を立ててんだ。シラクーザじゃ……いや、テラじゃよくあるありふれた悲劇だとしても、俺はここでベアトリーチェを殺したら両親が死ぬところを直面したガキの頃の俺に顔向けできなくなりそうで。

 

 俺ってばどこまで行っても自分本位だろ。わーってらぁんなこと。まずは自分を愛せないで誰かを愛せますかってんだ。今はその愛せる俺と決別しなければいけない場面ってこと。色んな人を殺してきて、色んな罵声を浴びてきたよ。でも初めてなんだ。同い歳の女の子を手にかけなきゃってのは。

 

 手が震えてる。後戻りはできなくなるって他でもない俺自身が囁いてくる。でも、誰かにその責任を……ましてやベアトリーチェのせいだって責任を押し付けるのはもっと嫌だ。これは俺の問題なんだ。

 震える手に、年頃の女の子にしては傷だらけで、重たい剣を振るっているせいかまめだらけの白く細い手が添えられた。

 

「────大丈夫、ボクも共犯者になってあげるから」

 

 殺さない方法を考えよう。ベアトリーチェを助ける道を探そう。普通ならそうやって励ますだろうところを、普通じゃない彼女……ラップランドは「一緒に殺してあげる」ということで罪を分け合う選択をした。

 めちゃくちゃ間違ってるはずなのに、めちゃくちゃおかしいはずなのに、どんな少年漫画にありそうな王道な励まし方よりもすげー心に沁みて、漣立っていた心は落ち着きを得た。

 

 いつもみたいな貼り付けた笑顔じゃなくて、なんかちょっとエロめの退廃的な微笑みなのも効いたわ。ヤンデレにあまり造詣が深くねぇから強く主張できませんけども、一緒に地獄に落ちてくれるって言われて嬉しくない男なんていないよなぁ!?

 

「私は疲れた。 殺るならお前ら二人で殺ってこい。ここで見物でもしているとする」

 

 今いいところでしょーが!この空気読めない子ったら!嘘。今んとこマジでこいつのお陰で死なずに済んだからゆっくり休んで。

 じゃ、友達殺しいっきまーす!!!!

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