異世界転生モノだと思ってるバカ   作:さぼさぼさん

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あ、タイトルと内容物は一致していません


照れ照れテレジアのてりやき

「ファブリツィオから話は聞いているわ。こじんまりとした所だけれど、バベルのシラクーザ支部へようこそ。アッシュ、ベアトリーチェ」

 

「……テレジアさん。あんた、最高責任者じゃないのか?」

 

「ええ、そのとおり。ただ、私が執務室で書類とにらめっこをするのが好きじゃないの。そんなことより……こうやって誰かとお喋りをするために西へ東へ奔走する方が、よっぽど性に合っているらしくて」

 

「……わたしも主題歌の詩が決まらない時はエリザとお話していたわ。とっても共感できます」

 

「……あら! ここにも同じ気持ちを分かち合えるお友達が居たなんて! 嬉しいわ、ふふ」

 

 バベルとコンタクトは早めの段階で取ることができた。残念なことに、シラクーザにバベルの支部を建設する予定が無かったとかどうとかで、数ヶ月先までバベルの医療施設による治療は受けられないだろうと言われていたんだが……。

 

 なんと我らがヴェネツィアの長、ファブリツィオの義父が気前よくヴェネツィア傘下の都市内に支部を建設してもよいという許可を下ろした。

 

 今バベルの方々がせっせこ機材を運んでたりしてたりすんのはそのせい。建設してすぐだからってんでそれは分かるんだが……このサルカズのお姉さんはなんでいんのかね?

 

 テレジアと呼ばれるこのサルカズ……まずサルカズってなに?みたいなところから話さないとか。今まではループスは狼、ヴァルポは狐……みたいに前世にいた動物に当てはめることができたんだが、サルカズは違う。

 

 ま〜無理やり前世の生き物?で言い表すなら、サルカズは悪魔の種族だ。架空の物語に出てくるヴァンパイア……とか、ちぎってもちぎっても再生するスライム……とかよく分からん種族をぜーんぶひっくるめてサルカズに区分している。

 

 んで、このサルカズって種族に分類されてるテレジアってどんな人となりなのよ?ってのをバベルの人たちからそれとなーしに聞いてみたら、すげぇ身分の女性だとか言うじゃねぇか。

 

 サルカズには十王庭つってこの名称に突っ込まれた中でもかなり発言権を持つ10の種族が存在する。それらを統べる『魔王』とやらがこの人……テレジアなんだとさ。

 

 ほんでこの種族はバカみてぇに寿命が長ぇ。十王庭って名前も何百年も昔の言い伝えによるもんで、実在しているかどうかってのは分からんってのが今のサルカズの若い衆の正直なところらしい。

 そんな古い伝説の生き証人がここにいるってんだから、俺がちょっとビビるのも分かるっしょ?

 

 見た目はベアトリーチェに似たほんわかふわふわ系。胸の前で手を組んでうふふ〜ってするのが似合う。てか言わずもがな手を組んでうふふ〜ってしてる。

 しかもこれがうん百年ほど熟成された熟練のほんわかなんだから凄いよ。テレジアから母性がぶわっと出てる感じがする。なんかこの人の近くにいると落ち着く。

 

「……さて、本題に入りましょうか。 ベアトリーチェの鉱石病の進行を抑えたい……というのがあなたたちの目的なのよね?」

 

「ああ。ベアトリーチェはクソみてぇな奴らのクソみてぇな理想に巻き込まれてこうなった。被害者だ。

 彼女をどうか元に戻す……ってのは難しいのはよーく知ってる。できれば、普通の生活を……歌姫としてその歌声をまたオペラで披露できるようにしちゃくれねーかな」

 

「……ぁ、アッシュ……」

 

 大して力の無い俺はさくっと息の根を止めてやるくらいしかベアトリーチェを助けてあげる方法を思いつかなかった。だけどそれ以外の道があって、実現できる力を持つやつがいるなら……どうか助けてやってあげてくれねぇかと思うのは普通じゃないだろうか。俺には、できないことだから。

 

 テレジアは微笑む。椅子から立ち上がって、コツコツと小さい足音が俺の脇を通り過ぎていく。……ガキの青臭いお願いなんて聞き入れちゃくれねーか。そうだよな。

 

「……分かったわ。アッシュ……あなたの純粋な優しさはこの残酷なテラでは珍しいものよ。どうか、その心を無くさないでいてね」

 

「テレジア……あんた」

 

「────ふぅ、気を張ったらお腹が空いちゃった。

 ……そうだ!シラクーザには美味しいご飯があるって聞いたの。アッシュ、おすすめのお店に案内ってしてもらえない?……だめかしら?」

 

「……ったく。毒気を抜かれるっていうか……お転婆なんだな、あんたって」

 

「くすっ……そんなことを言うのはテレシスくらいよ」

 

 

 

 あの後ベアトリーチェも連れて行きつけの料理店を貸切で予約した。貸切にした理由はまだ目立ちはしてねぇが鉱石病患者であるベアトリーチェ、ひいてはテレジアも鉱石病に罹ってるっぽいんで、周りの奴らの冷ややかな目を浴びながら飯を食いたくなかったからだ。

 

 あれからベアトリーチェは時折どこかぽっきりと折れちまいそうな、そんな危ない背中をしているときがある。その身に降りかかった不幸をちゃんと見つめる決意をして、大切な人を喪った哀しみにしっかりと押し潰されそうになってるんだ。

 

 んな奴をほっとけるわけがなくて、双子の妹みてぇな感じで色々と世話を焼いちまう。『音律器』とやらも、出処が胡散臭かったんで余りに余って使ってねぇ俺の財産で楽器型の最高品質のアーツユニットを買ってやった。

 まあ受け取りはしたが、困ったように笑ってそれきりだったけど。

 

 そういう裏事情もあってか、現状の俺とベアトリーチェの関係は良いものとは言えなかった。テレジアはそんな俺らをただ微笑ましく眺めるだけで、何かを言ってくることは無かった。それに、「お腹が空いた」なんて言っておいて全く食事に手をつけてない。

 

「……それ、食べないのか?」

 

「口がちっちゃくて、ひとくちに入る量が少ないだけ。……そんな顔をしないで。本当は、離れたカズデルで貧しさに喘ぐ子供たちのことを思ってしまって、手が付けられないの」

 

「……俺ァ、そうやって目の前に食べれるものがあるのに、それに手を付けるのがさもしいみてぇな態度をとる方がカズデルとやらにいる貧しき人々にとっちゃ侮辱だと思うがね」

 

 人々は望んで貧しさに身をやつしたわけじゃないだろうに。それがさも高潔さの表れのように評価されてしまったら、いつ彼らは恵みを受け取れる日が来るってんだ?

 

 きっと日々の生活がより良いものになればなるほど、「あの頃の我らは気高さを忘れぬ……」だとかなんとかいう堅忍不抜を強いるやつらが出てくるのさ。

 

 それこそ、耐え難い日々を生き抜き、時には息絶えた、歴史書にも残らない彼らへの冒涜だろうが。

 

 横でちまちま食べてるベアトリーチェの頭を撫でる。綺麗に生え揃っていた美しい鹿の角が、今は痛々しく片方折れてしまっている。まだ若いから生えてくるかもしれないが、何年掛かることやら。

 

 テレジアは、未だに黙ってそれを眺めている。思うこともあるだろう。俺らより何百年も生きてる人に、10年そこらのガキの言葉は軽すぎるように感じるかもしれない。

 だからって年長者に慮って言葉も紡ぐことが許されねぇようじゃ、テレジアが理想する感染者……ひいてはサルカズの地位なんてのは築けやしねぇよ。

 

「……私からすれば、あなたたちも庇護すべき子供たちだと思っているの。私たちサルカズとは尺度が違うけれど、その小さな一身に悲劇を背負いすぎている。

 様々な禍根をばら蒔いた私たち大人こそ、子供たちが年相応にいられる環境を作ってあげなければ」

 

「それとこれとは話が違うね。

 あんたがテラ全土で起きている悲しみの連鎖で人々が磨り潰されてることに心を痛めてんのは分かった。んで、だから次の世代の子供たちに贅沢をさせてあげたいことも。

 でも俺は今シンプルな話をしてんだ。『あんたも一緒に飯を食おう』っていう、超シンプルな話をな。

 なぁ、なんでそんな簡単な話を壮大な物語へと風呂敷を広げた?」

 

 多分さぁ、この世界の人たちには自分が今どんな状況に置かれているのかを客観視できる余裕が無いんだ。

 皆がみな、出来事の当事者だから、他人と自分を切り分けて考えることができない。

 皆がみな、悲劇の被害者だから、誰かを救う前にてめぇが救われなきゃいけないことに気付けない。

 皆がみな、呼吸をすることがどこかで誰かを殺すことだって理解していないから、なんてことのないように残酷に隣人へ手を差し伸べる。

 

 ……やっと目が合ったじゃん、テレジア。どっか遠くにいる「助けなきゃいけない人たちのひとり」みたいに一緒くたに捉えやがって。傲慢で独善的なんだよ、その善性は。

 俺はアッシュで、俺の隣にいるこいつはベアトリーチェだ。目に焼き付けて「個」として認識しろ、テレジア。

 

「……アッシュ、あなたはその歳でそこまで視座高く物事を……」

 

「……悲劇に巻き込まれてばっかのガキばかりじゃないんだよ。それはさっきからいつでも殺れるようにスタンバってるそこの人も分かってんじゃねぇのかな」

 

「…………えっ? ……はぁ、アスカロン。彼らはバベルに助けを求めてきたお客さまよ。そうやって警戒しすぎるのは考えものだわ……」

 

「……殿下はお人好しがすぎる。そこの小娘はともかく、この少年は貴女を勾引(かどわ)かしているようにしか見えん。

 ────おい、それにお前……よく私を見破ったな?」

 

 たまたまなんで睨まないでね。アーツ解析でやけに空気中の成分が一定なところがあるなって違和感だったんだよ。完璧な隠密だったよ。景色に溶け込んでいたし、漏れ出るアーツも無かった。ただラップランドの貼り付けた笑顔みたいに、完璧すぎるとそれ自体が違和感なだけで。バカみてぇにつえーだろうな、こいつ。

 

 テレジアの恵まれているところは、こうやって彼女を尊敬し慕ってくれる若者が居ることだと思う。こいつ若者……か?まあサルカズ基準なら若い方だろ。

 新しい可能性が、テレジアの思想の欠片を引き継いで、また新しい可能性へと未来を託す循環が生まれようとしている。

 

「…………まあとりあえずはさ、ベアトリーチェをバベルに引き取って貰えりゃ俺はなんもしないよ」

 

「……アッシュは一緒にこないの?」

 

「俺はシラクーザに残らなきゃ。腐れ縁のバカ二人も待ってるし、ヴェネツィアのみんなが心配しちまう」

 

 大丈夫。また顔を見にくるから、それまではテレジアんとこで良くして貰いな。てかそんなに薄情だと思われてんの俺?殺そうとしたから薄情か。やべぇなんも言い返せない。

 

「……わかったわ。わたしも、絶対にしあわせになる。……エリザにそう願われたもの」

 

 なんか最近お兄ちゃん欲をくすぐってくる子が多い。リサちゃんでしょ?アンジェリーナでしょ?そこにベアトリーチェが参戦。うーん、どうしよう。撫でる手がとめられない。

 

「……ちぐはぐな子ね。アッシュ……」

 

「冷めきった成熟した精神と、容姿さながらの幼さを感じる精神が両立しているように見える……と?」

 

「あれは両立とは言わないわ。無理に切り離しているのよ───心を」

 

 おっ、やっとひとくち料理に口を運んだな?目を見開いて頬に手を当ててびっくりしてら。どうよテレジア、美味いっしょ?

 うお、アスカロンもちょっと味見したそうにしてて草。頼めばいいじゃん、奢るって。え、それは矜恃が許さないって?プライド高っ。




これによって時折バベルとの交流をアッシュはすることになりますが、バベル(本編)の基本的な出来事には関与することはありません。ただ、ロドスの前身をアッシュが知っていることになります。
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