どけッッッ!俺はリサちゃんのお兄ちゃんだぞッッッ!!!
「うう、ていっ!」
「……うん。振り下ろしは綺麗だね。でも重心が前のめりになってる。気持ち後ろめに体重をかける意識で振ってみて。いくよ……せーのっ!」
おう、久しぶり。今なにをしてるかって?
見ての通り、今年5つになったリサちゃんに危なくないように稽古を付けてあげてんだ。イングリッドと俺はそもそも危なかっしいからやらなくても……って言ったんだけどね。
リサちゃんってすっごい良い子で、しかも頭が良いのさ。「お母さんがいないとき、アッシュおにいさんがいないときはかならずあります」だってさ。そんなとき、自分で自分のことはなんとかしなきゃ!って思ったそうだよ。
ヴェネツィアの屋敷で稽古でも良かったけど、外でやるってなると転んだりして血が出ちゃうと大変じゃん?なので地主権限、バベルシラクーザ支部の訓練施設をお借りさせていただくことができました!
あれからちょくちょくバベルに顔を見せてたのもこのお願いが通った一個の理由だと思ってるんだけど、どーかね!?遠征の中継扱いで時々アスカロンとか、何だっけな……エリートオペレーター?とか凄そうな肩書きを持ってる気さくなScoutって名前のやつがここに来たりしてて、割と面白く過ごせてた。居心地いいんだよなぁ、ここ。
「はぁ、はぁっ……まだ、やれますっ」
「いいや、今日はここらへんでやめよう。無理に体を酷使しても変なクセが付くだけだよ。バベルの女性職員さんに案内してもらって、着替えておいで」
「でも……このままだとわたし……つよくなれない気がします……」
リサちゃんは物心つく前から俺のいたヴェネツィアを見てきたから、ちょっと理想が高すぎるきらいがある。俺ちゃんが才能無いやつらの中では割と上澄みなのがヘンな勘違いを生んでるよね。たはー!俺なんかやっちゃいましたか!?w
「うんにゃ、リサちゃんにはリサちゃんの『強み』があるよ。だいじょうぶさ。一歩ずつだけど、しっかりと成長してるから」
「わふっ……えへへ、アッシュおにいさん……!」
いやぁ、成長してもにへらって笑い方が変わらないのがいいよな。俺の下手っぴな励ましで少しは元気が出たのか、九本の尻尾をパタつかせながら更衣室へとてとて走り去っていくリサちゃん。はぁ……はちゃめちゃに可愛いぜ、俺の妹は。……え?血が繋がってない?嘘つけ!俺はッ……俺はぁッ……!
「────アッシュ。医療部から伝言だ」
「うわっ、びっくりすんだろうが! あれ、なんでここに居んのよアスカロン。ヴィクトリアとの関係悪化で忙しいとか言ってなかったか?」
気付きゃ俺の真横に立ってるアスカロン。本当にびっくりする。ずっとアーツ解析で気を張り巡らせないと分からないくらい精密な潜伏だからさ、こういう別の人と会話した後とか油断しきってて分かんないのよ。ちょっとこいつ初めましてのときに見破ったからって俺の事高く見積もりすぎてるところある。でも強いやつって思われるの気持ちいいから訂正してやんない♡
「……いつの話をしている。それは4年も前の事だ。ちょうどお前と知り合ってすぐに起きた、な。話が逸れた……本件を話すぞ。お前のその『脚』と『腹』の物質調査、及びお前の身体への影響を調査させろ、とのことだ」
「あ、却下で」
「頑なに検査を拒否するのならば、医療部トップのケルシー自らが直々に赴きにくるそうだが、いいのか?」
「あ、却下でー。……つーかバベルのやつら情報機密漏洩の観点だいじょぶそ?ケルシー女史がここに来れるわけないってこと、俺ちゃん知っちゃってるんだけど」
「…………おい、誰から聞いた」
「Scout。なんつってたかなー……たしか『お前になら話しても問題がないと、そう俺の勘が言っている』だとか」
「…………あの馬鹿が…………」
誰がどこでどうやって聞いてるか分からないから、詳しくは答え合わせをしない。ま、アスカロンが今痛そ〜に頭を抱えているそれが答えみたいなモンだから口に出さなくても分かっちゃったけど。
謎の『石棺』の発掘。そして、それの真実の鍵を握るであろうケルシーという人物。正直バカな俺でも分かるくらい歪な世界構造をしてるんだから、あの長生きなテレジアが世界の謎に辿り着いていないはずがない。でもテレジアは無闇に聞き出すことはしなかったというからおったまげだよな。なんともあの人らしいっつーか。
で〜?確かな情報筋(Scout)くんによれば〜?俺はケルシー女史とやらに直接会ったことは今んとこ無いんだけど、ウワサのその人の証言を参照すりゃあ、『石棺』の中に
「……もどりましたっ! ええと……アッシュおにいさんは、まだバベルでおしごとですか?……そのぉ、アッシュおにいさんといっしょに帰りたいので、わたしまってますねっ!」
「あぁ〜〜!!!! お仕事とかナイナイッ! リサちゃん待たせる仕事とかテラの彼方にぶっ飛ばしたわ!!!!」
「……つくづくお前がバベルのオペレーターでなくて安堵する」
甘え上手になっちゃっても〜!この天使を育てた親に感謝申し上げたい、どなただろうか!え、イジメッ子みたいな悪戯でいじわるな女必殺仕事人がお母さん?そのジョーク、まじバカウケなんですけど。
あれ、ここまで読んでおかしいな……?って思った人いたりしちゃう?そーだよね、アスカロンってば『4年前』だとか言ってたし、なんならリサちゃんは大きくなって、丁寧な言葉づかいで喋るとっても偉くてぷりちーな大人のれでぃに成長してたね。
今はテラ暦1090年。今や俺も立派な14歳……ハイスクールスチューデントになったった。ここまで来ると小学校みたく
シラクーザって日本の教育制度と違うこと。前世の感覚でいくと6-3-3年制って感じだよね。ここはそうじゃなくて、5-3-5年制なんだよ。シラクーザの国風と文化・文法から導くに、イタリア系?の教育制度なのかな。俺あんま詳しくねーけど。
でさ、まあ言っちゃえば俺とかラップランドは進学校に行くしかなくなるわけよ!どう足掻いても俺らって普通の子どもより頭がいいし?当然だよネ!でもさ、俺の友達ん中で唯一
そーそー!最近ご無沙汰、俺の存在しない記憶では大切に育てた一人娘扱いの……安心院アンジェリーナちゃんですよ。安心してくれ?ここで別々の学校になって、離れ離れ……しくしく〜……みたいな展開にはならなかったからさ。
これを阻止したのはなんとラップランド!……初めてできたお友達と離れ離れになりたくないのはこいつも一緒だったみたいでね、めちゃくちゃ勉強会にアンジェリーナを招いて受験対策しまくってた。
ん?アンジェリーナは抵抗しなかったのかって?言わせんなよ、あの子も同じ気持ちだったなんて猿でも分かるだろうが。とはいえ分厚い参考書をだいたい十ページくらい開いてすぐに頭から煙が出てたけどね。ちょっとあんときゃ笑っちゃった。
「……うぅ、合格できなかったらどうしよ……緊張する〜!」
「だいじょーぶ、気にすんなって!こーいうのはなるようになるって相場で決まってんの」
「アハハ、ボクも初めはどうなることかと思ったけど……メキメキと演習問題を解けるようになって、問題はないように見えたけどなぁ?……それに、もし不合格でも安心してよ。いくらでも手はあるからさ……」
なんかラップランドって歳を重ねれば重ねるほど美人になっていくんだけど、14歳が身につける色気じゃなくて怖いんだよな。ここ4年間でめったにしたことないポニーテールにしてるし、頭のいいボクちゃまは合格確定だろつって既に学校指定の制服を着崩してボーイッシュなコーディネートで合否発表の会場に来てたわ、そーいや。
こいつ女なのに会場に来てた女の子全員が色めきたってたのも思い出した。悔しくてしょうがなかったよ、俺。モテるモテないは思春期の重要な一要素ですからね?これによって男友達との『差』をつけて5年間争うんだから。
「あ、あった!……この番号!あたしこの番号だよっ!?」
「おお〜、よかったな〜!! また5年間一緒にいれるな!」
「ふふ、おめでとう。ボクも嬉しいよ」
ま、ということで俺ら三人は無事同じ高校に通うことができたとさ。余談なんだけど、チェリーニアって俺らの2コ上なんだよね。16歳つったらいいオトシゴロよ?
あいつも不真面目じゃなきゃ高校に通って青春を謳歌するはずでさぁ……運が良けりゃだぜ?この学校にいてもおかしくないよなぁ?
で……もしだ。もし……あいつが居そうなところつったら、どこだと思います?みんなはさ。
「……ちょっとこの屋上の扉、重いし錆び付いてるしで危なくない? 源石ハイテクの時代なんだからさぁ、自動開閉式とか……エレベーター式とか……ねぇ?
─────そう思わない?サボり魔のチェリーニアせ・ん・ぱ・い」
「……うるさいやつが来たな。睡眠の邪魔だ、どこかに行け」
つーか話逸れるんだけどさ、アスカロンにも言われた俺ちゃんのこの『脚』と『腹』。どーやら生体金属?って言うのかな、見てくれは金属とかが混ざったような人工物的なデティールだったのにさぁ、細かな細胞膜が表面にあるって言うもんだから目から眼球飛び出たよね。
しかもこれ、ひっぺがそうにも剥がせないのよ〜。繋ぎ目の筋肉と強く結合しちゃってて、切り離そうとすると
…………っていうのをバベルの医療部がうるさかったから初診で診てもらったら判明しちゃったもんでさ。あれ以来「あ、却下で」で逃げ続けてる。怖いじゃん自分も厄ネタの宝庫に片足突っ込んでるとか。知らなきゃ知らないままでいれるし、俺まじ天才。
「どうした? 腕が鈍ったか?」
「……おめえの膂力がバカみてぇに向上してるだけだわド阿呆ォ!」
ああ、俺とチェリーニアってことある事にドンパチやらなきゃ気が済まない仲っていうかさ。喧嘩するほど仲がいいってやつ。あれあれ!
もちろんこれは
「……ッチ。抜け目ないやつだ、アッシュ」
「抜けるも抜けないも、そっちがいきなりぶん殴ってきたのに何言ってんのさ。俺ァただ三人じゃなく、四人でバカやれそうだなってウキウキで声掛けただけだってのに……悲しー」
「お前、ラップランドよりも態度を偽装するのが下手くそだな」
「……何言ってんの?」
「こんな私でも分かるんだ、さぞヴェネツィアの連中も……
あー、懐かしいこの感覚。心をざわつかされて、弱みを握られてる感じ。ラップランドと初めてあった時のやつだ……チェリーニアにやられるとは思わなかったぁ〜……俺のミスだなこりゃ。
「────なあアッシュ。どうやら……義姉のベラ・ヴェネツィアが危篤なんだって?」
あーっ!駄目ですお客様!大事な大事な俺の核心に触れちゃだ…………あっ。
「…………っぐぅ!!!! お前っ……!」
「────そーなんだよね。ベラ姉ってばある日突然目ぇ覚まさなくなっちゃってさぁ、ここ数年小康状態だったのにだぜ?おかしいよな。
誰かが……
「……それで?」
「お前を容疑者として疑ってはいないよ。けどベラ姉のかかりつけ医と……あとそいつが所属してる医療学会と『おはなし』したときに奇妙な点があったのさ」
「すり替えられた処方薬の製造元を辿ると、クルビアに本社を構えるまあまあ有名どころの製薬会社だった。重要なのは、代表取締役員の名前が妙ぉ〜〜〜に知ってる名前ってことでさぁ」
さりげなくかかと落としをかましてくるチェリーニアちゃんの足を掴んで下に捻り回すように関節を抑える。これで片脚の自由は無くなった。お陰で胴体ががら空きなんで、曲げた肘を振り落として肋骨を折る。
「チェリーニアお前さぁ……この4年間で
制限された脚の自由を取り戻そうと、すげぇ体幹で助走のない飛び蹴りみたいな要領でもう片方の脚によって俺の胴を突き飛ばすチェリーニア。いやぁ、ジジイ譲りのカリスマ性だけじゃなく……清濁併せ呑む昏い信念も培っちゃったのねぇ、お前。
「…………ぷぇっ……馬鹿と鋏は使いようと言うだろう? 使い道があったから、利用しているに過ぎん」
「──────てめぇのそれにベラ姉が巻き込まれてんだよクソアマァ!!!!!!!」
どんな思惑があったか知らないけどね。一遍お前を殴らないと気が晴れないんだわ♡だから大人しく一回殺されろよ。
ベラ・ヴェネツィアは本編でも病死しています。安心してください