異世界転生モノだと思ってるバカ   作:さぼさぼさん

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鶏肉を増量してください


親子丼食べたい。玉ねぎでかさ増しするなァ!!!!

「──うい、ここに俺の親父たちの墓があんの」

 

「この地区は……あまり治安が良いとは言えないね」

 

「……うーん、まあそうなんだけどね。絢爛豪華な都市部に墓を設けたら、うるさくって親父たちもおちおち眠れねぇだろ? だからこれくらいの閑散としたところでいいんだよ」

 

 超源石社会とはいえ、農耕だったり畜産という人間の足がかりとなる一次産業は消えてない。これらを大切にする思想は古くからある炎国という遠い土地から伝わったとされるらしい。この地区はそういった農家たちが暮らす、経済の中心で過ごす所得階層とは別ベクトルにある生活区域だ。

 

 ただし、食うに困った鉱石病のやつらが畑を荒らしたり、バレねぇ程度に動物を拐うとかして安全上の観点で言えば下流(ロウワー)層の住宅区と大差ないかもね。まあこんな地区の墓の中に金目のものなんて無いってのはバカでも分かるから、荒らすやつなんてそうそういない。穴場中の穴場だ。

 

 俺ガキの頃からずっと疑問に思ってたんだよな。どうしてこういう農業や畜産の区画って移動都市の外郭周辺に位置するんだって。移動都市って文字通り移動する都市だろ?中心にあったほうがインフラ的には都合良さそうじゃね?

 ここで一旦考えてみよう。農業区画ってテラの大地から水を汲み上げて汚かったら濾過なりなんなりして農業用水として使うんだけど、もし農業区画が中心にあって移動都市をテラの大地にある水源の上に降ろしたらどうなる?

 

 水源の直径と水深にもよるけど、実質的にその空間は接地面が少ない空間になるわけだよな。それって地盤的な問題で天災どうこうの前に危ないよね?ってなるんだとさ。あ、この問題を一歩どころか三百歩くらい先の技術で解決してるのが炎国ね。

 元々あった荘厳な山々と河川ごと『天師』と呼ばれるアーツ技術の最先端の専門家が移動都市に移したっていう力技。でもバカげた技術だよ。

 

 いつか行ってみたいんだよな、炎国。地理公民の教科書を見る限り前世で言うところの中国っぽいし、景観がとても楽しめそう。あと宿泊業が盛んらしいじゃん。余裕があったらラップランドとか……イングリッドは意外と出不精だから、もし快復したらベラ姉とかを連れて行きたいな。

 

 一昨日は雨がけっこう強く降っていたから、墓石についていた雨水が二日もかけて乾き、水垢みたいになっちまってる。近くにある給水ポンプにホースを繋ぎ、墓石に思いっきり水をぶっかける。

 こういうところには乾いた雑巾みてぇなのが備え付けられてんのよ。それを拝借して、墓石をふきふきっとな〜。……最近ずっと来てなかったから、汚れが酷いね。

 

「……うし! ほんじゃ、手ェ合わせて合掌すっか!」

 

「色んなところで思わされるけれど、君って家庭的だね。君のご両親は、そういうのに厳しかったの」

 

「いや? 親父はこういうの不器用で、てんでダメだったよ。あ、でも……お袋はけっこうマメだったかなぁ……」

 

 日本だと墓石に卒塔婆を添えて、あとはお供え物とかなんなり……って感じが主流か?こっちに来て結構経つしうろ覚えだけど。シラクーザの文化体系はイタリアに似てるっつー話したっけ?全然雰囲気違うよ、お墓の文化。

 

 こっちは墓石に『チェーネレ家の〇〇、ここに眠る』みたいな言葉が刻まれて、その横か上あたりに生前の写真が飾られるんだ。ちょっと金かけると電子ホログラムとかにできるらしいけど、人間味みたいなのを感じなくて嫌だったからやめた。

 

 献花を添えて、ちょっとここは日本……うんにゃ、極東ちっくに線香をあげる。イングリッド経由で夫さんから調達してもらったのよね、いえーい。遺影だけに。

 杉が静かに燃えて薫る素朴な匂いが、今は目の前にいる親父たちのこと以外を忘れさせてくれる。あとなんか線香の香りって懐かしさを覚えるよね。

 

「…………言おうと思っていて、言い出せなかったことがあるんだ」

 

「……ん、なによ。言ってみそ?」

 

「私はいつか、君に裁かれなければいけない。君にはその権利が十分にあって、どんな法にもそれは阻まれてはいけないものだと」

 

「はは、マジ?なら素直にぶっ殺されてくれんの?」

 

「────それは、難しい。 リサや君を……独りにはさせられない」

 

「知ってる。…………憎んでないつったら、嘘になる。

 でも……『ボタンの掛け違い』ってやつだと思うんだ」

 

 この世界に完全な悪人なんていない。どこか狂ってるやつでも狂うしかなくなった理由があって、その運命から逃れられなかったんだ。それはそいつのせいじゃない。

 同時に、この世界に完全な善人なんていない。少なからず誰かの命を踏みにじって、尊厳を侵害しあいながら皆は生きている。それも、そいつのせいじゃない。

 

 イングリッドは確かに殺人鬼だ。新聞の朝刊の大見出しに『一家惨殺事件の真犯人を逮捕!』なんて乗るくらいには世間では悪人のレッテルを貼られているし、俺だけじゃなく殺された遺族は数多くいるだろう。

 

 その一方で、こいつにも『愛』はある。一人娘のリサに、自分を愛する夫に、幼なじみのように関わってきたベラに、愛を与えることができる。その側面を見て、完全な悪人だと断じることのできるやつは、いるのだろうか。残念ながら俺は無理だった。

 

 もしかしたら、俺の親父とお袋はイングリッドと良き仲を築けたかもしれない。すれ違うことのない世界の人間が、奇妙な(えにし)を結んで固い絆を育めたかもしれない。

 俺はその夢想を捨て去ることができない。イングリッドを殺すという手段ではもう俺は救われなくなってしまった。

 

 あとはさぁ、イングリッドも言ってたけどリサちゃんを俺と同じ境遇にさせたくねぇよ。俺がこんなにぶっ壊れてんだぜ?すげぇ寂しい孤独の不幸を他者にも押し付けるなんざ、それこそ『悪』だろうが。

 

「俺はイングリッドを憎むように世界に『思わされている』……そう考えるようになったんだ。

 それで言うと、イングリッドだって。俺の両親を殺すように世界に『動かされていた』……。

 だってさぁ、今だってそんな哀しそうな顔をする人が、意味もなく俺の両親を殺すわけねぇじゃん?」

 

 

 

 墓参りも終わって、あとは帰るだけって感じだったんだが、イングリッドはどうしても納得……っつーか思い詰めた顔を変えることがなくて俺ァ困っちまった。

 罰を与えて欲しいんだよな、イングリッドは。よく裁判モノのドラマで被害者遺族は死刑を求めないみたいな話あるだろ?

 

 あれは死ぬという行為は逃げだからだ。死ねば罪悪からはオサラバできるし、社会の掲げる法に縛られなくなる。思考という檻から解き放たれた魂を罰する(すべ)は無くなってしまうんだ。

 

 そんなの、許せるわけないよな。苦るい死んで(狂い死んで)もらわないと困るんだ。死ねないことを絶望して、いつか同じ巡り合わせによって踏み躙られる側になる恐怖に怯えて生きてもらわなきゃ。……ってのは冗談だが、まあ俺が思いつかねーんだよな。罰ゲーム。

 

「ひっさしぶりにさぁ、稽古付けてくんね?」

 

「…………稽古? こんな時に、どうして」

 

「んー、なんとなく。じゃ10秒カウントしたらスタートな?

 

 いーち、にー、さーん、しー、ごー、ろーく、しーち、はーち、きゅーう、じゅう!

 

 おら、死ねよ女狐ェ────!!!!」

 

 ああ、昔はよくボコボコにされたなぁ。どさくさに紛れて殺してやるとも思ったことがある。殺れると思った一手が気付けば防がれてたりして、なんだこのバケモンはとか初めは思ったっけか。

 

 今でもイングリッドはつえー。不意打ち気味に始めたってのに俺の瞬間移動の軌跡を目で追ってやがる。じゃあ、こんなのはどうよ。『アーツ言語』でククリナイフとまんまおんなじ形状の物質を精製する。流石に鉄製じゃねぇから、殺傷力はお察しだけどね。

 

 これを、左右にぶん投げた。俺の『アーツ言語』は一応アーツの解析ができるやつなら付与したことくらいは察知できる。でも、設定した言語がどんなものかまでは判別できない。だってそれはアーツによる事象ではなく、ただの命令でしかないから。アーツの残滓では読み取れない部分だ。

 

「どっちに俺が飛ぶか分かんねぇだろ────?」

 

「さあ、それはどうだろうか。……やってごらん」

 

 イイね。戸惑いはまだ残して、それでも身体は戦うスイッチを入れている。染み付いた殺人鬼の性ってやつか?

 発動は同時だ。片方は『任意に発動/同質のアーツを引き寄せる』。もう片方は『任意に発動/対象に分散しながら射出/対象:イングリッド』。まぁお前らにネタバレすりゃあ精製したナイフ(もど)きが後者なんだけどね。

 

「……目で追えてねぇじゃん。ちゃんと目薬さしたかァ!?」

 

「────追えなくとも、振りが遅ければこうやって防げるでしょ?」

 

 売り言葉に買い言葉、左へTPした俺の一撃を反応が遅れても刃を差し込み防ぎやがるイングリッド。分散して射出した散弾はコートを翻すことで防ぎ、そのままコートごと俺を蹴り飛ばした。

 視界がひらひらと舞うコートによって阻害された俺は背後に回り込むイングリッドに気付かず────背中に手痛い攻撃を……喰らうことはなかった。

 

「それ、新しい『アーツ言語』だね」

 

「鉱石病に罹って出力が上がったんでね。面白い使い方ができるようになったのさ」

 

 今までの俺は物質にアーツを込めることで遠隔操作・物質の移動・物質の精製をやってのけた。執着していたんだ、『物質』を使わなきゃならないって。

 インスピレーションを与えてくれたのはベアトリーチェの使用人で、「巫王の余韻」の楽団員だったルパート。アイツの『旋律』による防護膜だ。音色によってアーツの指向性を変え、様々な効果を付与するってさぁ、俺の『アーツ言語』がやってることと一緒だよな?

 

 しかも、これは『物質』に命令を与えていない。アーツ()()()()に指向性を与えている。「巫王の余韻」とはいえ下級楽団員のあいつができて俺にできないわけない。設定した言語は『常時発動/自身を中心に半径1mのアーツの壁を付与する』って感じ。いわば、アーツの具象化。

 

 物質に込めるという手間がこちらは減り、相手はそれを分かったとしても二択を迫られる。物質による展開か、具象化したアーツによる展開かを。

 ぎゃりぎゃりとそのままアーツの壁を削り取ろうとするイングリッドにわざと近付き、手のひらを腹に当ててゼロ距離でアーツの弾丸を放つ。普通なら胴体に穴が空いてるはずなんだが……

 

「咄嗟にアーツを腹に集中させて防ぎやがった……あー、やだやだ。これだから頭のいい脳筋は嫌いなんだよ」

 

「ごほっ────、痛いじゃないか。殺したくないんじゃなかったのかな」

 

「殺してもらいたそうな顔してたもんでね、俺ァ優しいから叶えてあげようってハナシよ」

 

 あーあ、高そうな黒いシャツが台無しじゃん。遠目から見たらただの黒いシャツなのにね?近くで見るとすげぇ刺繍がしてあって綺麗なんだよな。鈴蘭の刺繍。しかも肌触りもいい。今は破れて綺麗な刺繍じゃなくてイングリッドの綺麗に割れてる腹筋が見えるけど。

 

「で、どうよ。痛みを与えられて、少しは罰せられた気分になったか?」

 

「────全く。むしろ、君に優しくされるほうが身体ではなく、心が痛んでどうにかなりそうだった」

 

「じゃ、それが罰ゲームでいいじゃん。

 どれだけ悪行を()そうとも、俺はイングリッドを悪とは罰してやらない。俺の前ではおめーは善い人で在り続けなければならない。ん〜、良い地獄じゃないの」

 

「そうだね。とっても優しくて、それでいて惨憺たる地獄だ。君の優しさを復讐の刃に変えてしまった私にお似合いだろう」

 

 なんで俺の周りの人間関係ってなんかこうも歪なのかね。ラップランドは恋人なのになんかちょっと仄暗いし、チェリーニアはほぼ間違いなくこいつの父親がベラ姉の仇っていうややこしい状態だし。イングリッドも、なんか義理の家族って感じで収まんなくなっちまった。

 

 ずるいよなぁ、俺が復讐を成し遂げる前にリサちゃんが産まれちゃって、リサちゃんに罪は無いもんだから殺すに殺しきれなくて幾星霜。しかもこれで俺を腫れ物のように育てるわけでもなく、愛情感じちゃう接し方なもんだから頭バグるってもんよ。

 

「……あ、丁度いいから裁縫のしかた学ぼうぜイングリッド。リサちゃんの服とか新しく買うより縫い直せたほうが安上がりで済むし」

 

「────指が血だらけになるから嫌だ」

 

 なにガキみてぇなこと言ってんのこの三十路は。もういい歳なんだからさ、嫁入り修行だと思って……あれ、もう嫁になったのか。ごめんごめん!おっと、危ないよ?見えない速度で足を振り下ろさないでね?




久しぶりに怪文書コーナー
イングリッドの背を見て育ったリサちゃん(27)、家事全般完璧にできるようになってる概念。
生活が乱れて自室がぐちゃぐちゃなロドスオペレーター(♀)のお部屋を勝手にお掃除して「あの……ご迷惑でしたか……?お疲れだったようなので、しっかりと休息をとってもらいたくて……」と善意マシマシの答えが返ってきてお部屋にお持ち帰りしようとしてしまう事件
携帯食が不味いとボヤいていたロドスオペレーター(♂)の愚痴をどこかで聞いていたのか、「任務に行く時はこのお弁当を持っていってくださいっ!」と渡されたこじんまりとしたお弁当の尊さに無事頭をやられる事件
これは、リサちゃんが27歳であることがなによりも重要。イングリッド譲りで大きくなっても胸は育たないと思うんですよね。え、さいてー?あはは。
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