異世界転生モノだと思ってるバカ   作:さぼさぼさん

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浮遊する涙、ヘッドライトに照らされて

 シラクーザに浮かぶ双月が、何だか今日は近い。それもそのはず、あたしは今や誰も住んでいない取り壊される予定の廃ビルの屋上にいる。

 

 足をぷらぷらと宙に投げ出しながら街並みを眺めては、退屈に飽きたら立ち上がり屋上の(きわ)を歩いてスリルを味わう。こんなこと、普段はやらない。特に夜中に帰るのが遅いと、パパとママに怒られるし。

 

「よっ! ……ほっ! えいっ……って、うわぁっ────」

 

 まあそんなことをしていたら、足を踏み外して落ちそうになるのは当然で。バランスを崩したのをきっかけに、身体は外へと傾いていく。死にたくなんてないけど、恋する女の子としては死んだ日。

 

 あたしは今日、大好きな人を大好きなともだちに奪られちゃった。すごい速度でビルの屋上から落ちていきながら、色んなことを思い出す。このシラクーザに初めて来たときのこととか、アッシュと初めて喋ったときのこととか。

 

「まだ、好きだなぁ…………」

 

 諦めきれない感情を、涙によってあたしの身体から追い出していく。屋上から落下するあたしより涙は軽いから、涙の粒は空に浮いてゆくように見えて、なんとなくキラキラしたビー玉みたいで綺麗だった。あたしを包むネオンライトは、優しい彼を象徴して……ではなく、傷心したあたしの退廃した心を象徴しているように思えた。

 

 

 

 あたしが初めてシラクーザに来たときの感想は、知らない建物ばかりでこわい、だった。それまでは極東で暮らしていたのもあって、見渡すかぎり屋根の高い建築物はがりのシラクーザは、どこか閉塞感のある街並みに見えたんだ。

 

 安心院っていう名字はママの極東の家系で、移り住んだシラクーザはパパの生まれ育った故郷なんだって。大学を卒業してすぐの卒業旅行で、たまたますれちがったママに一目惚れしてパパが声をかけたのが馴れ初めだとか。

 

 ママはそれこそ怪訝な態度でパパをあしらっていたんだけど、猛烈にアピールするものだから、「……少しだけね」と言ってデートに応じたって言ってた。パパは「若気の至りなんだ……」って恥ずかしそうに顔を覆っていたから、本当は話したくない内容なんだろうな〜って思って聞いてた。

 

 ちょっと話が逸れちゃった。あたしは怖くなって、パパの足にしがみついて人がすれ違うたびにびくびく怯えてた。途中から怯えすぎて立ち竦んじゃって、困り顔のパパがしゃがんで背中を向けて「おぶってあげるから、掴まって」っておんぶしてくれたのを覚えてる。

 

 でもちょっとは期待もしてた。極東で仲良しだった子たちも居たし、ばいばいしたのは寂しかったけど、シラクーザではどんな新しいおともだちができるかなって。

 あたし、お洋服とかコスメとか大好きでママによく流行雑誌を買ってもらってたんだけどさ。そういう趣味を話し合えるともだちができたらいいな〜ってすっごくどきどきしてた。

 

「あっちにいけよ、この*シラクーザスラング*女!」

 

「………………ぁ、えっ?」

 

 転校初日で最初に聞く言葉がこれとは思わなかったなぁ。今ならなんとなく分かるよ、あたしの髪色はループスでは珍しい色で、更にいえばループスですらなかった。

 ループスの大人はそういった種族差別からは卒業して、大体が寛容かまたは無関心だったりするけど、やっぱりまだ子どもだったからね。『違い』にはとっても敏感だった。

 

 極東でもちょっと口の悪い男の子はいたから、まあ驚きつつも誰かがこの子の行儀の悪さに怒ってくれるかなって教室を見渡したんだけど、誰も何も言わない。え、ちょっと……誰か助けてよ。

 なんて言えたらよかったんだけどね。喉がきゅってなって、上手く言葉を紡げなかった。抵抗じゃないけど、俯いて返事をしないようにして、「嫌だよ」って気持ちを表現するので精一杯。

 

 ショックすぎてその日の授業、何をしたのか覚えてない。今でもなにしたっけな〜……?ってくらい覚えてないの。衝撃的すぎて。ちょっと今ではメンタル弱かったかなぁ……?と思うけど、あの時はまだ小さかったし。

 でもあたしは仲良くなりたかったし、イジメにやり返したら同じになっちゃうでしょ?だから言い返したり、やられたことをそっくりそのまま……みたいなことはしなかった。

 

 直接やり返したりすることなく、ほぼ無抵抗だったからか、いい気になっちゃったのかな。イジメは段々とエスカレートしていった。最初は悪口とか陰口だったんだけど、やり方も過激になっていくし、それに加担する人数も増えてた。

 ある日は教室に入って早々に水をかけられたり、またある日は持ってきてた教科書をビリビリに破かれてゴミ箱に捨てられてたり。

 

 パパとママに相談すればいいじゃん、なんて今では思うけど……相談したくないってあの当時あたしが思ったのも分かるんだよね。やっぱり迷惑、かけたくないし。

 それに意外と慣れていくもので、ああまたこれか〜とか今日は比較的嫌じゃないやつだな〜とか思えるようになってくるんだ。

 

 嫌な学校も終わればパパとママが待ってるおうちに帰れるしね。これくらい、へっちゃら!って空元気でへらへら笑ってたりもしたよ〜。

 ちょっとその日は眠れなくて、朝早くにおうちを出発して学校に行ったんだよね。入る前に一呼吸ついて、教室の扉に手をかけると、なんだか教室の中で誰かが喋ってるのが聞こえたの。

 

「……で、こんな早くに呼び出してなんだよ。アッシュ」

 

「……おう、めちゃくちゃ早朝に集まってくれてすまん!単刀直入に言うわ!

 ……転校生ちゃんイジめんの、ダサいからやめない?」

 

 扉を少しだけ開けて目を細めて覗くと、いつもあたしを虐めてくる男の子とか、気の強い女の子たちが一人の男の子を囲んでいた。中心でへらりと笑っている男の子は、いつも遠くで虐めを見ていた、独特な雰囲気を纏っている子だった。

 

 アッシュ……そう呼ばれた彼は、燻んで傷んでいるような灰色の伸びた髪を一つ結びにして、その痛々しい右眼のやけど痕を恥ずかしがることもなく晒してた。『違い』に敏感なこの学校のみんなからすれば、アッシュくんのやけど痕はそれこそイジメの対象になりそうなものだけど、それができない圧力が彼にはあるように感じた。

 

「……はぁ? なんで私たちがあの*シラクーザスラング*女をイジめちゃだめなわけ?」

 

「俺もこれぽっちも分かんねぇ。なあ、前から思ってたけどよぉ……自分だけ違いますぅ〜みたいな態度取っててうぜぇんだよ、アッシュ!」

 

 でも、その均衡はアッシュくんの一言で崩れてしまったみたいで、一斉に彼らの不満は爆発した。アッシュくんは笑みを絶やさない。だけど、さっきはあくまでも『話し合い』で終わらせるつもりだったかのような雰囲気はどこかに消えて、話の通じないおバカな動物を愛でるような……怖い笑顔に見えた。

 

「…………ん〜、何がなんでも転校生ちゃんへの態度を改める気ない? 今ならまださぁ、俺たち転校生ちゃんに謝って仲直りできると思うんだよね」

 

「……だーかーらぁー! 意味わかんねぇこと言ってんじゃねぇ……ぞっ!!!!」

 

 堪忍袋の緒が切れたのか、虐めっ子の一人が拳を固く握りしめてアッシュくんに振りかぶった。子供ながらに残忍な、やけど痕を狙ったそれは、ちゃんとヒットすることはなく……アッシュくんの軽々しく差し込んだ左手によってぱしん!と音を立てて押さえられてしまった。

 

「……こっち(右眼)の方は視力が悪ぃって思ったのか? あ゛ぁ?」

 

「……い、いてぇっ! はなせっ! 調子乗んなよっ、このっ……炭っ被りが!」

 

「はっ、皮肉のセンスは中々だな? 炭っ被りねぇ……じゃ、お前らはンな俺より下ってことで……塵ぼこりとかどう?」

 

 虐めっ子たちはアッシュくんがなんてことなく殴られて倒れるものだと思ってたみたい。右頬に残る痛みに泣きわめいて、ごめんはさいって言うのを愉しみにして……ニヤニヤしてたのに、そうなることはなくてみんな顔を一瞬で強張らせてた。

 

「お〜い、お前ら今が虐めるチャンスなんじゃないの? 手ぇ塞がってるよ? ほら、こんな感じにさ」

 

 押さえている左手をふりふりと振りながら、余裕そうにするアッシュくん。ふざけているようにしてるけど、左手を動かしつつ虐めっ子の関節を何気なく外していて、そのさりげない凄技にあたしは喉を鳴らした。

 

 ループスの子たちはその気性の荒さから、誰が狩る側で誰が狩られる側なのかをよく見極める習性がある。みんな薄々気付き始めていた。意地の悪い笑みを浮かべながらわざとこっちに主導権を握らせようとしてくるアッシュくんこそが、今この場において狩る側なんだって。

 

 でも子供らしいプライドがそれを認めることを許さない。ここで逃げ出したら、自分たちのしている事が悪い事だと認めることになるし、なにより……アッシュくんに負けるということが屈辱だから。これから起きる結末に顔を青ざめながら、それを誤魔化すように叫んで虐めっ子たちは一斉にアッシュくんに襲いかかった。

 

 結末は一瞬だった。アッシュくんはその場から一歩も動くことなく軽々しく虐めっ子たちをのして、地面に倒れ込む彼らを屈伸座りで見つめながら、頬杖をついて呆れ返ってた。ちょっとしてから教室の隅に集まって震えて動けなくなっちゃった女の子グループを一瞥して、アッシュくんは彼女たちを鼻で笑った。

 

「あのさ、一人の女の子さんざん虐めておいて、自分が同じ立場になったらその態度? ナメてんのか、なあ。 ……平和ボケし過ぎてっと、お前ら死ぬときゃ一瞬だぜ」

 

 ここでノびてるこいつら含めて自分のしたことをしっかり先生と親に話してしこたま怒られてこい。そう言い残して、立ち上がって教室の扉に手をかけて外に出ようとするアッシュくん。……あれ、もしかしてあたしの方に来てる!?

 

「…………およ、転校生ちゃん? ……あー。もしかして、見てた?」

 

「あは、あはは〜〜……み、見ちゃいました……」

 

 

 

「────ほんっと〜にごめん! 転校生ちゃんへのイジメ、見て見ぬフリしてやり過ごそうとしちゃってた……!

 俺昨日の夜にさ、なんか夢でお袋に叱られちゃって、『そんな子に育てた覚えはありません!』ってゲンコツ喰らったのよ!」

 

 あのあと慌てたアッシュくんがあたしの手を引っ張って、人気(ひとけ)のない場所に連れてきて、手を合わせて謝ってきた。さっきの凄いアッシュくんとは別人みたいな気の抜けようにわたしも釣られちゃって、そんなのもう笑っていいよって許すしかないじゃん?

 

「ふふ、あっはは! なにそれ、変なの〜! 現実で叱られたんじゃなくて、夢なんだ?」

 

「…………そう、夢だったんだよ。現実で叱ってくりゃいいもんをね、本当にお袋ってば不思議だよな」

 

 おかしな夢もあるものだなぁ〜って面白がっていたら、アッシュくんの顔はなんだか寂しげで、何か隠し事をしてるような感じだった。でも、悲しくって泣きそうなんじゃなくて……「逢えて嬉しかった」ような、そんな顔。

 まだ友達にもなってないのに、深くは聞き出せなくて、でも凄く印象的だったから今でも脳裏に焼き付いてる。おちゃらけてる普段の彼が見せることのない、大人びた表情。

 

「……うし。今教室行ったらあいつらにかち合うし、ちょいと今日は学校サボっちまうか!」

 

「うぇっ!? パパとママになんて言い訳すればいいんだろう……うぅ……」

 

「……赤の他人の俺が言うのもなんだけどさ、絶対に転校生ちゃんのご両親は君の味方をしてくれるよ。言うのが怖かったら俺も付いてくから、言い訳じゃあなくて、正直にあったことを話しちゃいな」

 

 アッシュくんも言う通り、赤の他人であるあたしのためにどうしてこんなに優しくしてくれるんだろうってわけが分からなかった。あたしのパパみたいに、やんわりと間違った道に進まないように諭して、味方をしてくれる。

 

 でも、ずっと寂しそうだからなんだかこっちも胸が痛くなって、弱気なあたしを見せてばかりじゃいけないなと思えた。彼の気遣いは嬉しいし、受け取るけどこれはあたしが言わないといけない。

 

「……うん。怖いけど……だいじょうぶ! パパとママに帰ったらしっかり話すよ!」

 

「……そっか。偉いね、転校生ちゃん」

 

 わしゃわしゃと乱雑なのに暖かい手で頭を撫でてくるアッシュくん。髪の毛は女の子の命なんだけど、心地よくて抗議しようと思ってたのにやめてって言えなかった。くやしい。

 

 アッシュくんはシラクーザの色んな所を知ってた。しわくちゃのおばあちゃんと無口のこわいおじいちゃんが営んでいるティラミスだけを作ってるケーキ屋さんとか、綺麗な湖畔を眺めながら美味しいカプチーノが飲めるカフェとか。

 

 他にも色々な場所を知ってるみたいだったけど、多分あたしが好きそうな所を選んで教えてくれたんだろうって、場所の話をしてるアッシュくんの顔を見てなんだか嬉しかった。

 

 そうだよ、あたしはこうやって好きな物を共有できるおともだちが欲しかったの!いつしか期待をやめていた最初の願いが、こうやって実現できて、ほんっとうに嬉しかった!

 

「ありゃま、すっげー浮かれちまって……」

 

「ねね、次はどこ行くの!? 美味しいものは食べたし、お洋服とか見てみたい!」

 

「……洋服、プレゼントしてやってもいいけど、それこそ誰から貰ったってご両親に言うのさ。ンなお金持ってないでしょーよ」

 

「う゛っ…………見てみたかったけど、やめる……」

 

 陽も暮れて、シラクーザが夕焼けに染まってる。後ろに手を組んで見守るようにあたしの後ろを歩くアッシュくんが、夕陽に照らされてすこし赤い。

 そんな夕陽にも負けじとその白を強かに咲かせているプリムラの花があたしの視界の端に映った。

 

 みんなはそんなことあるわけないって言うかもしれないけど、その時たしかにプリムラの花から弾けるようにあたしの視界はさらに彩づいたんだ。ふわりと花びらが舞うように、あたしの心も浮ついて。この世界がすごくいいものだって思えるほど綺麗に、鮮明に見えたの!

 

 あたしはシラクーザに来てからというものの、自分の存在意義を見失いかけていた。自分のためにここに居るのではなく、大好きなパパやママのために。いつか仲良くできるかもしれないクラスメイトのために。そうやって自分の心を押し殺して生活してた。

 

 でも今この瞬間、強く肯定された気がしたんだ。あたしは安心院アンジェリーナで、誰でもない自分のためにここに立ってていいんだって。ロマンチックでもなんでもない、ドタバタして格好のつかない出逢いだったけど、それもあたしらしくてとっても好き!

 

 感動したままのあたしの心が赴くままに、アッシュくんに向き直って言葉を紡ぐ。不安を吐露するのは怖いからじゃないよ。先にある未来を考えてどうしてもワクワクしちゃって、あたしどうなっちゃうんだろうって、そう思うからなの。

 

「そういえばさ、自己紹介……まだだったよね!」

 

 全能感があたしに力を与えてくれる。ふわ……っとあたしとアッシュくんの足が大地から離れて、天地がひっくり返った。人々が営む街並みは今は天にあって、煌々と照るシラクーザの夕陽はあたしたちの足元にある。

 

「────っ!? おいおい……『重力操作』か、こりゃあ……!?」

 

 いきなりの出来事に戸惑ってるアッシュくん。それでも自分のことからじゃなくて、咄嗟にあたしに手を差し伸べて守ろうとするところとか、あたしの仕業だって分かってもちっとも怒ったりしないところとか、そういうところがあたしの心の弱いところをくすぐる。

 

「よぉ〜く聞いてよね?

 Ciao! あたしの名前は安心院アンジェリーナ! これから宜しくね!アッシュくん……ううん、アッシュ!」

 

 

 

 ……ああ、ちょうど今みたいに天地が逆さまだったなぁ。あの頃の全能感とは正反対の、どうにでもなっちゃえって気持ちで満たされた自暴自棄な力で乱暴にあたしの身体を浮かせる。現実に戻れば、酷い落差に風邪をひいちゃいそうなぐらいあたしの顔はぐちゃぐちゃだ。

 

 ラップランドちゃんはとってもいい子だ。あたしはそこまで頭が良くないけど、あの子が周りを見て気を遣うのが上手なことくらいは分かってる。そんなあの子が、誰にも渡さないって表情をするくらいの熱を露わにして、アッシュと付き合うことをあたしに伝えた。

 

 …………どうこの気持ちに向き合えばいいんだろう。悔しい。ずるい。羨ましい。ラップランドちゃんのことが……憎い?ううん、やっぱりそれは違うなって思う。夜風にママ譲りの茶色の髪がたなびく。この失恋を抱えて、あたしは別の人と結ばれることはできるだろうか。

 

「それは、だめなの。 君だから……アッシュだからあたしはっ……」

 

 この先きっとこれほど人を愛することはないだろうって確信できる。もう少しアッシュと一緒にいる時間が短かったら違ったかも。でも、あはは……幼なじみってくらいずっと居たからさ。別の男の人と付き合っても、その影にアッシュを見ちゃうだろうな〜。

 

 かなりの速度だった落下はあたしの力で羽が落ちるような軽さを伴って、あたしの身体をふわりと着地させた。乱れた髪を少しだけ手で梳いて、涙で乾いてかぴかぴになった頬をマッサージする。……帰ろう。お腹もすいちゃった。

 

 酷くまとまりの無い思考を後回しにしようとしたからか、あたしは周りが見えてなかった。夜中であたしのシルエットは暗闇に隠れていたこと。夜とはいえ車の往来はまだある程度あった時間帯だったこと。歩行者信号は赤いランプを灯していたこと。

 

 様々な要因が重なって……というか、当たり前の因果であたしはクラクションを鳴らしていた車のヘッドライトに照らされて、ぶつかる瞬間にようやく気付いた。

 

「────あーあ。

 まだアッシュに好きって伝えてないや」

 

 強い衝撃でぐわんと揺れた脳みそは、轢かれた痛みを鈍麻させてくれて、なんだか夢見心地の気分にさせてくれた。相も変わらずに無情にもあたしを照らすシラクーザの双月は、さっきよりも幾分か遠くに感じられて、綺麗だった。

 

 誰かが叫んでいる。何を喋っているのかは聴こえない。あたしに近付いているようだけど、どうなんだろう。結構な勢いだったし、助かるのかな。正直どっちでも良かった。

 あたしはラップランドちゃんにもアッシュにも、醜い感情をぶつけずに済んで安堵の気持ちでいっぱいだったから。




この話を持ちまして【テキサス粛清までに起きたこと】を終幕といたします
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