異世界転生モノだと思ってるバカ   作:さぼさぼさん

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狡知なるジュセッペ

 ジュセッペ・テキサスは心から他人を信用したことが一度も無い。大多数から善人と言われる人間も権力の前ではその善性を歪めるし、その反対に大多数から悪人と言われる人間も気紛れで命を救うことだってありうる。

 

 人間の本質は混沌だと、ジュセッペは知っている。故に人間が築き上げた文明、社会構造も信用していない。それらはいずれいつの日かさらに強大な文明、社会構造によって刷新されるものだから。そのようなものに縋って生きていくことは、哀れ以外の何物でもない。

 

 父であるサルヴァトーレを木偶の坊だと見限ったのは彼が齢十五の頃であった。ミズ・シチリアの古臭い因習を未だに誇りに思い、それを息子の自分にさえ押し付ける老害にジュセッペは吐き気を催した。

 

 古きものが築き上げてきたものは必ずどこかに『無駄』が目立つ。要らない法、要らない技術、要らない人間。それらを大事にして、一体何が得られるというのだろうか。ジュセッペは唾棄すべきものは全て捨て去る決意をした。肉親とはその最たるものである。

 

 だからといって、彼は生まれ育ったクルビアを愛していたわけでもなかった。未だ新しく混沌に渦巻くクルビアは、ジュセッペの望む本質に近かったために、ただ居心地が良く自分のしたいことが限りなく可能な環境であったに過ぎない。いつかこのクルビアも古めきたち、また新しい開拓の国がテラのどこかで興るだろう。その時がこの地を彼が殺す合図である。

 

 1086年のあの日、わざと父サルヴァトーレとの確執をシラクーザにいるミズ・シチリアの耳に届かせ、ジュセッペ派であるトラディトーレを追いやったのは何を隠そうジュセッペ本人である。

 彼はトラディトーレの次期当主を除くトラディトーレ姓のある人物を一人残らず殺害し、命綱の源石採掘権を与え後退を許されないトラディトーレがどう動くか理解していながら、それらを利用してシラクーザに小さなボヤ騒ぎを起こさせた。

 

「────いたっ!あっ、わたし前を見てなくて……!ご、ごめんなさいっ……!」

 

「────こちらこそ、オレも考え事をしてしまって前を見ていなかった。すまんな、お嬢さん」

 

 その結果、ヴェネツィアファミリーという十二家の中の節穴を見つけた。あの当主の娘は少し小突くだけで死ぬような女だった。やはり混沌というのは素晴らしい。秩序を謳うシラクーザの老害どもにも、この顛末は防ぎようがなかったではないか。

 

 幹部のテオドラにサルッツォの情報収集を命じたのもそうだ。大した才覚もない無能が収穫を持ち帰ってくるとは最初から考えてもいない。このクルビアで、先に暴れたのはサルッツォであるという……「被害者」の権利を得るために行った。

 

 彼らが後に気付いてももう遅い。シラクーザの連中は既にジュセッペが生み出した混沌の坩堝に片足を引き摺り込まれている。高揚したジュセッペは、数刻前に肩をぶつけてしまった成人女性の首から上……彼が切り離したまさか自分が死ぬとは思ってもいない、物言わぬ愚かな頭部を眺めて恍惚としている。

 

 クルビアの閑静な通り道で、今なんてことのないように一人の女性の生涯が幕を下ろした。頭部を失った女性だったモノから、血がとめどなく吹き出し地面を赤く染めて非日常を訴えている。ジュセッペ・テキサスという人物は、彼自身が忌み嫌うシラクーザの暴力性を色濃く引き継いだ原点回帰の生き物であった。

 

 ジュセッペの成した惨状を悍ましげに見下ろしながら、どこからか出没したテオドラが彼の背に向けて話しかけた。信用していないジュセッペは、恍惚に取り乱した表情を無に染めテオドラを視界に収めたまま不動を貫いている。

 

「……うっわ、エッッグ。ドン、また殺しちゃったの? いつもウチらとか下のやつらには無駄な殺しを禁止してるくせに、自分には甘くね?」

 

「……日常に殺人という選択肢が入り込むと、途端に人間は善と悪の区別が付かなくなる。倫理不全とも言えるそれは、社会的生物である人間が混沌に堕ちる様相に面白みを無くさせてしまうからな。

 つまり、お前らも()()なんだ。お前らは今はまだオレの庇護下にあるが、いつ何時もこのお嬢さんと同じ骸にならないとは限らないことを肝に銘じておけ」

 

「うげ、こわっ……合理的なんだか、はたまた破壊的なんだかワケ分かんね〜。ま、んな文句言ったところでウチらは従うだけなんだけどさ。……で、もう知ってそーだけど、下のやつらのおつかいは失敗したよ。次はどーすんの。ウチらは何をすればいい?」

 

 チェリーニアを思わせるその紺の髪を短く切り揃え、全てを見下した瞳を細めるジュセッペ。ヴェネツィアの当主、ファブリツィオの娘、ベラを毒殺した際に彼はもう一つ面白い掘り出し物を見出していた。

 

 シラクーザマフィアというカビの生えた古臭い連中に所属しているのは些か鼻につくが、裏の世界に半身沈みかけているというのに未だ表の世界に未練や執着を残しているような、善悪の狭間に揺蕩う一人の青年。アッシュ・チェーネレという正気と狂気を行き来する青年。

 

 血の繋がらない赤の他人が死んだだけだというのに、ベラ・ヴェネツィアの死に最も憤り、裏の人間さえも恐怖するほどの濃密な殺意をジュセッペに向けてきている。裏腹に気を許した相手には陽だまりのごとき優しさを振りまくのだから、酷く歪である。まさに、彼の愛する混沌を体現したかのような理想の人間であった。

 

「アッシュ・チェーネレというマフィアの青年が、このテキサスの『粛清』に必ず参加している。彼を見つけ次第、殺さずに捕えてオレの目の前に連れてこい。

 ────アッシュを、オレ直属の幹部として迎え入れるぞ」

 

 

 

 新情報を手に入れた俺たちはといえば、ご褒美が待っていると分かって張り切っているラップランドさんによって、粛清がすげースムーズに進んでいる。というかクルビアマフィアが内部分裂しているのもやりやすさを加速させてるところはある。

 

 老サルヴァトーレ派閥のクルビアマフィアはめちゃくちゃ大人しい。これはさっさと首を出してくれるって意味の大人しさではなくて、どこを探しても老サルヴァトーレ派閥の痕跡が無い。夜逃げしたんかってくらい尻尾が掴めない。

 

 逆にジュセッペ派閥のクルビアマフィアは目立っている。つーかあのバーの一件が独自のネットワークによって伝わったんだろうね。俺たちクルビアマフィアに喧嘩を売ってどうなるかわかってんのかあぁん!?くらいの勢いで襲ってくる。

 

 正面からぶん殴ってくるやつもいれば、すれ違いざまに腹にどすっ!とナイフで一突き!みたいな暗殺タイプのやつもいたりして、も〜飽きるほど見たわ!こういうフラッシュモブの動画ぁ!ってくらいエキストラさんがいっぱいですわ!

 

 その全部を返り討ちにして、オーバーキル気味にめちゃくちゃ(文字通り)にするからラップランドちゃんってば凄いっぴ!あでも、雑魚ども殺すの満足し終えてこっちに向かってきて「どう!? ボクのことを褒めてもいいんだよ!?」みたいに尻尾振り回して期待の眼差しをしてくんのはウケた。わんこらっぴー。

 

 おいお前、ベラ姉の復讐ばっかり考えててチェリーニアのこと忘れてないかって?ノンノン、俺にはちゃんとした考察があんのよ。聞くべか!?

 当たり前にマフィアの俺らって裏のお仕事と表のお仕事の二つがあるじゃん。んでもってどう頑張っても表の仕事する時に名前を出さざるを得ないんだよね。

 

 だからベラ姉を嵌めた製薬会社のホームページのさ、最後のCEOとかにチェリーニアの名前が使われていたんだけども。これジュセッペの仕業じゃん、どー考えても。んな自分の名前を出さずに暗躍したがる小心者の野郎がチェリーニアを餌に暴れてこないってことはよ?

 

 絶対あいつのおじいちゃんが根回ししてチェリーニアを匿ってるに決まってるよねぇ〜!?だから音沙汰もない老サルヴァトーレ派閥にちょっと安心したところあるよね。あ、これ絶対どこかに隠れて粛清が終わるのを待ってんなって。お陰である程度の時間はチェリーニアの安全は確保されてるだろうから、後回しにしていいかなって思えた。

 

 あとさぁ、先にチェリーニアを見つけて老サルヴァトーレに土下座して「このバカ連れて帰ってもいいですか!?」って頼み込んで、奇跡的にオーケー貰えたとしてよ?政略道具として価値を見出してるジュセッペが黙ってないんだよね。だから復讐もできるし先の安全も買えるしで大は小を兼ねてんのよ、俺ちゃんの行動は。

 

「…………一応聞くけど、ラップランドはそこんところどっち派なのさ」

 

「ボク個人としてはどっちでもいい。 まあサルッツォの体裁を保つならチェリーニアのお爺様を殺す方向性で動かなくちゃならないかなぁ……」

 

「え、じゃあ俺って一回お前と戦わなきゃなの? ……手加減とかして貰えない?だめ?」

 

「可愛くお願いしてもだめだよ?ミズ・シチリアに背いたアッシュは可哀想だけど痛みを感じないように殺してあげるから、大人しくてて欲しいな。その後ボクもすぐに逝くから」

 

 しれっと頭おかしいこと言うラップランドさんマジ尊敬。なんでそこの死生観バグっててふつーに生きたいと思えないの?いや、一昔前の俺も鉱石病そのまま放置して自暴自棄に死のうと思ってたから人のこと言えないんだった。誰かこいつ説得してー!!!誰かぁー!!!

 

「俺さぁ、ラップランドくらい強かったらミズ・シチリア殺れると思うんだよね。どーなんそこんところも」

 

「キミの師匠兼義母であるイングリッドが百人居ても勝てるかどうか怪しい強さしてるよ、あの人は。

 もし戦ってもボクが敵意を向けようとした瞬間死んでるんじゃない?キミも同じく、死んでるだろうね」

 

 なにそのラスボス系ババアは。イングリッドで勝てねぇんじゃ誰が勝てんだよ。……あ、だから十二家は逆らってないのか。説得力違ぇなやっぱ。どうりでいつも口喧嘩で敵わないわけだ、俺が。あ、ミズ・シチリアの方だと思った?残念惚気でしたぁ〜!べろべろばぁ〜!!

 

「────え、なにに向かってやってんの。こわ…………」

 

 やべっ、虚空に向けて変顔してるの可愛い女の子にバレた。ってかなんでこんなとこに女の子いんの?テオドラ探しがてらついでと言っちゃなんだけど粛清でクルビアマフィアの支部潰してるんですよ?ここマフィアの建物!ルイ〇ィトーン!?!?

 

「ああ、気にしないで。彼って時々ああやって変なことするんだ。……それで、よくボクらがここにいるって分かったね? テオドラくん?」

 

「それさ、気にしない方が無理じゃね?ま、いーや。その変人がアッシュくんね、りょーかいりょーかい。

 ────トラディトーレ!」

 

「────わかった! テオ!」

 

 ちょいまち!俺だけがついてけてないよォ!? 女の子っぽいとは聞いてたけど、こんなめちゃくちゃ男の娘とは思わねぇだろうが! 声もじゃん! 詐欺じゃんこれ!

 一瞬で場面が移り変わるB級映画みたく、またどっから湧いてきたか知らん肌の黒いリーベリのショタがラップランドにかかと落としを繰り出して分断しやがった。

 

「ッチィ……アッシュ、そっち行ったよ!!」

 

「んじゃ、アッシュくんはウチが貰うから。 トラディトーレと遊んでてね〜、ばいばい〜」

 

 置いてきぼりの俺をその華奢な身体のどこに力があんのって感じで肩に背負って、建物からおさらばしようとするテオドラ……ちゃんだろこれ。可愛いもん。男じゃないよこれ。

 んでもってこの子いらねぇ捨て台詞を吐いちゃったもんだから、ラップランドの顔が怖いことになっている。うーんと、ハイライトオフってる。戻ってきて〜!ハイライトさん〜!?

 

「────貰う? ボクのアッシュを? ……ははっ、その減らず口、二度と開けないようにしてあげるよっ……!!」

 

「────テオに殺意を向けたな? お前、生きて帰れると思うなよ」

 

 え、二の腕柔らかっ。しかも髪きめ細かっ。そんでいい匂い。これで男マジ?テオドーロって何歳だったっけ……うわぁ殺す前に聞いときゃよかった!! 弟のこいつが何歳かで俺の新しい性癖の扉が開きそうなのに!出来れば成人しててくれ!そっちの方がエロいから!

 

「…………で、なんで俺が抵抗しない前提なんだお前?」

 

「うぇ、あれま。 背負ってたのに居なくなっちゃった……面白い能力じゃん、なにそれ〜!」

 

「お前の身を以て体験すりゃわかんじゃない? 敵に対して教えるバカがどこにいるんだよ」

 

 俺の『アーツ言語』って触れて設定しないと発動できないって弱みを抱えてたじゃん。でも物質だけじゃなくアーツエネルギーそのものに『アーツ言語』を設定することで、具象化できるようになったよね!

 

 質量を含ませることができるなら、それって「触れてる」ことにならないですかね。この気付きは凄かったよぉ〜マジで。くだらない出来事から閃きを得たんですけどね。ちょっと言うの憚られるんで、ヒントだけ置いときますね?

 

 ラブホ、ベッドからテーブル遠い、飲み物取れない、でしたね!これヒントじゃねぇって?ぴえん。

 で、実験したんだよ昔みたいにね。アーツ解析って鉱石病検査と似た感覚で自分を中心にぶわ〜ってアーツの波を周囲に当てる感じなんよ。

 

 ここに『アーツ言語』で質量を持たせる。あの……ここまで言ってて思ったけど、アーツ解析のくだり……すげー昔、5歳くらいのときに言ってた『衝撃波みたいなアーツを放つ』ってやつの方が分かりやすいかもね、てへぺろ!

 どうでもいいかンな事は。とりま設定した言語としてはちょっと難しく言語化してるが『任意に発動/自身を中心にアーツの波形を放つ/アーツの波形は物質に当たった場合、それに留まり続ける』って感じだね。

 

 留まり続けるっていうのはアーツエネルギーの残滓ってこと。これによって遠くからでも予め触れてない物質にも俺のアーツエネルギーが付着して好き勝手に『アーツ言語』が設定できるってわけ!これで行った『アーツ言語』はいつも御用達、テレポートのやつ。

 

「ふーん。 ウチのこと舐めてんね……『アーツ』の遠隔操作だけど、仕掛けた予備動作も無かったし……ってかその謎がアンタのとっておきってところっしょ?」

 

「見た目に反して頭良いのやめてね? 見た目もそうだけど属性盛りすぎなんだよお前」

 

 気になってる俺の能力を知りたいそうなんで、お望み通りそのとっておきで四方八方から遠隔操作&物質精製による粗悪な短槍の包囲網で囲ってやる。これやってみたかったんですよ、指でくんっ!ってやったら全部が射出されるやつ。はい、発動〜!

 

「────だからさぁ、ウチのこと舐めすぎだって」

 

 あ゛〜っ、テオドーロしかモデルケース居なかったんで全然検証してなかったことその1があったわ。属性がアーツエネルギーそのものにある術師って、血統で同じ効果を持ってんの?ってことね。今その答えが目の前にいます。

 

 テオドラはあのテオドーロよりもさらに実体化した『水』を手に纏いヴェールのように水の帯を創って短槍の勢いを相殺した。こいつ、アーツエネルギーのみの術師じゃねぇ。『アーツ』としてその能力の解釈を拡張してやがる。…………厄介だ。

 

「ちょいムカってきたから……遊んだげる。 半殺しくらいならドンも許してくれるっしょ」

 

「あ゛ぁ、うぜぇ……許しを乞うのはおめぇらのドンじゃなくて目の前の俺にじゃないの? 俺もちょいムカってきたから全殺しで行くわ。許してね?テオドラちゃんくん」




描いていないしアレなんですけど、これの裏でイングリッドもジュセッペ殺そうと動いてます

強さ指標
SSS
ミズ・シチリア
サルヴァトーレ・テキサス(全盛期)

---越えられない壁---

SS
イングリッド
ジュセッペ・テキサス
アルベルト・サルッツォ

S
ラップランド・サルッツォ
チェリーニア・テキサス

A(Sに近いA)
アッシュ・チェーネレ
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