異世界転生モノだと思ってるバカ   作:さぼさぼさん

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 継ぎ接ぎされた心象世界に幼い自分の死体が転がっている。それは腐ることもなく、朽ちることもない。
 瞬きをしない死体の両眼が希薄に漂う自分を見つめている。僕を見捨てないでと訴えるその瞳に、ただ蹲って謝り続けるほか、自分にはできることがなかった。


ちぐはぐに繋ぎ直された/VV-4

「────おっ、ラップちゃんの愛しの彼ピ、戻ってきたよぉ〜!!」

 

「……いちいち癪に障る言い方をするね。言われなくてもボクはアッシュの方に行くから、そう煽てないでよ」

 

 治療を受けたとはいえまだ身体に蓄積されたダメージが残っていたのか、気を失っているイングリッドを自らの肩で支え、ジュセッペの隠れ家の地下階段から顔を見せるアッシュ。一方、イングリッドの行った『交渉』によって、ラップランド達は一時休戦の協定を結んでアッシュとイングリッドの帰還を待機していた。

 

 テオドラはマフィア社会における自らの美学を有しているが、自らを扱うリーダーがすげ替わることにはなんの忌避もないために、もしもジュセッペがアッシュに殺されたとしてもそれは自然の摂理だと考えていた。

 『交渉』の結果、ジュセッペの隠れ家の情報をテオドラたちが吐かなければいけなくなったとて、この不都合を跳ね除けることができなければ偽テキサスファミリーは元の木阿弥である。

 

 アダムに関しては、そもそも一族を滅ぼした下手人がジュセッペであるため、誰かが彼を殺してくれるのならばそれは願ってもみない悲願であった。自分の力ではジュセッペに敵わなかったために、普段から憎しみの感情を唇から血が滲むほど嚙み潰しながらも従っていたのだから。

 

 残念ながら、ジュセッペは若かりしサルヴァトーレのようなカリスマで人を惹きつける才覚は無かった。皮肉にも彼が好む混沌のように、辛うじて組織の体を為していたそれは信頼からくる秩序だったものではなく、暴力からくる恐怖政治によるものだったのだ。

 

 故に、二人は率先してジュセッペを助けることはなかった。テオドラは「命令されたら助けなくもない」、アダムは「命令されたら従うしかない」という受動的な姿勢を取って事態の顛末を傍観することにした。

 

「アッシュ……!ごめんよ、ボクも戦いに参加してあげられなくて……」

 

 ラップランドは本当に心の底から申し訳ないと思っていた。アダムに牽制され、アッシュの助太刀に駆けつけることのできなかった自分はもしかしたら彼に捨てられてしまうのではないかと。今回手助けをすると言っておいてこの体たらく、正直合わせる顔が無かった。

 

 反面、彼がジュセッペに打ち勝ち、こうして舞い戻ってきたことに狂喜してもいた。ああ!やはりボクが見込んだ男は間違いではなかった!理不尽に打ちのめされ、地面を這いつくばりながらもそれでも泥臭く進むその姿……!

 

 ラップランドはより深くアッシュという泥沼に身体が沈み込む感覚に襲われ……それでいい、その地獄こそボクの望んだ運命だと小さく身体を震わせて頬を赤らめた。

 サルッツォをいずれ継ぐラップランドはアッシュと築く新しいサルッツォファミリーに大いに期待をしていた。もしかしたら、彼と共に居れば……ロクでもないシラクーザも少しはマシになるかもしれないと。

 

 三者三様、アッシュが成した小さな偉業によってこれから大きく変化していくクルビアマフィア……ひいてはシラクーザマフィアの情勢に心馳せていたその時、その嵐の目であるアッシュ本人から更に衝撃の発言を耳にする。

 

「…………あんたたち、イングリッド()()と同じマフィアの人か? 出来ればこの人が休めるところを探してあげてぇんだけど……どっか知らね?」

 

「────ちょ、ちょっと待って。アッシュ……彼女のことをいま、なんて……」

 

「……ん? やっぱこの人と知り合い? ジュセッペの奴を殺すときさぁ、この人と一時的な協力関係になって……まじでこの人クソ強かったわ……俺なら敵として相手したくないね」

 

 またもや、この場において一番賢いテオドラは異変の確信に真っ先に得心がいった。ニヤける口許を手で押えながら、アッシュが今どんな状況であるのかを再度脳内で言語化して整理している。

 

(……きゃは! アッシュくぅ〜〜ん……!!おそらく断片的な記憶障害を引き起こしてんねぇ〜。あらら〜、ラップちゃんかわいそ〜! でも……このアクシデント……ウチらにとっては都合いいかも♪)

 

 高速で算盤を弾き損得を計算したテオドラは、わざとらしい演技でアッシュの方へ近付いた。戸惑いながらも記憶喪失前の人の良さが隠しきれていないアッシュは、一応敵意のないテオドラの行動を咎めずに距離を詰めることを許している。

 

「良かったぁ〜〜……! 死んでないかヒヤヒヤしてたんだよウチら! だってアッシュはウチらファミリーの()()なんだもの、居なくなったら困っちゃうよぉ〜! ねっ!? トラディトーレ!!」

 

「うぇっ!? う、うん……俺もテオも気が気でなかったんだ……ええっと、ドン」

 

 ジュセッペ・テキサスはその無軌道な暴力性だけ目を瞑ればテオドラにとっては理想的な王だった。彼の統制するファミリーを管理し、その恩恵を惜しむことなく受けることができればテオドラは十分と考えていた。

 

 ……だが、誰ぞかに負け、あまつさえ死ぬようなうつけ者ならば鞍替えだ。しかもそう、ここにちょうど居るではないか!暴君ジュセッペに打ち勝ち、少し危うい精神性をしているが、そんなことなど余りあるほどの善性を宿している青年が!狡賢いテオドラは彼を新たなファミリーの()()に仕立て上げることにした!

 

 しかし、それを指をくわえて黙って聞いているラップランドではない。テオドラの下手くそな演技によってある程度の推測に辿り着いた彼女が、間髪入れず剣を振るってお互いの間にある休戦協定を破ろうとしていた。

 最悪な事実を想像したくもないが、その答えが目の前にあることで嫌でも目の当たりにせざるを得ないラップランドは、酷く落ち着きのない表情を隠せずにいる。

 

 そして、このラップランドの攻撃を止めたのはテオドラ本人……でもなく。

 テオドラを救世主と崇め、彼に危険が及べば真っ先に助けるはずのアダム……でもなく。

 最悪なことに、立ち位置的な状況からラップランドの濃密な殺意に本能的に反射してナイフを食い込ませたアッシュだった。

 

「…………おい、それはねぇだろ。俺も俺の記憶の穴抜けが激しいのは自覚してる。正直、この薄青色の髪の人と俺がどんな関係だったのかは知らねぇが……あんたが殺そうとするほどのことはしてないだろうが」

 

「さっきから……ボクのことをあんたあんたって……ねぇ、忘れちゃったの? ボクとキミは恋人だったじゃないか……ボクらは同じ苦しみを分かち合う運命の二人だったじゃないか!」

 

 どんな地獄に堕ちるとしても、それは二人で。そう約束したじゃないか。ラップランドはこのような結末を認めるわけにはいけなかった。いつかの時、確かにキミは言ったね。俺はロクでもない死に方をする……シラクーザの雨音に掻き消えてしまうような、滑稽な死に方だって。

 

 ボクはそれでもいいと思っていたんだよ。お互いはぐれ狼同士……身を寄せあって、誰の目にも留めないシラクーザの片隅で寂しく死んで……生まれ変わってまた巡り逢えたらなんて……そんな事を思って。だから、こんなのはボクは認めない。キミが忘れたとしても、ボクが忘れてやらない……!

 

 テオドラを殺す意志を削がれたラップランドは、力なくアッシュの胸に頭をぽすん……と押し付けてすっかりボロボロの鈴蘭のコートを涙で湿らせた。どれだけ狂気的な側面が彼女の本質の一部としてあっても、まだ彼女も16歳の少女であることには変わりない。か弱い乙女は、迫り来る恋の終わりを受け入れることができずにいた。

 

「……どれが真実かわかんねぇから、俺には『はい』も『いいえ』も言えそうにない。だけど……その涙が嘘じゃないってのは分かるよ。俺もさ……すげー悲しい思いをしたって記憶は遺ってんだ。どんな記憶かは、靄がかかってて曖昧なんだけどさ」

 

 物理的に突き放すでも、言葉で拒絶するでもなく、アッシュはラップランドの頭を優しく撫でながらそう独りごちるように言葉を零した。顔を埋めていたラップランドは、その表情を誰にも見られることなく歪めて、酷い嗚咽を止めることなく一層深く泣き出した。

 

 いっそのこと、彼女の知るアッシュでなくなっていればまだ心の整理のつけようがあったかもしれない。だが、こうしてぶっきらぼうなようで……遠回りな言い方をするクセに心の一番くすぐったいところに寄り添うような優しさは……紛れもなくいつものアッシュと同じじゃないか。

 

「……やだ。 やだよぉ……! どこかに行かないでっ……ボクを、独りにしないでっ……」

 

「……困ったなぁ。 つーか困ることが多すぎる……俺って前世で極悪人だったりしたんか?」

 

 アッシュは記憶の中に無い見知らぬ女の子を泣かせている現状に「俺ってこんな美少女を泣かせるほど悪いやつだったんか?」と戦々慄々としつつ、ラップランドが泣き止んで落ち着くまで優しく背をさすり続けるのであった。

 

 

 

 

 ジュセッペの隠れ家、激闘が行われていた地下室でジュセッペはとめどなく流れる血に呻きつつ、まだ息絶えていなかった。彼は死にかけながらも、自らを追い詰めたアッシュに憤るでも怨みの呪詛を吐くでもなく、ただ停滞していた自分の進化を促してくれたことに感謝の念で胸を占めていた。

 

「……ははっ! はははははは! 有難う!本当に有難う! アッシュ、お前のお陰でオレは一段階上のステージに昇ることができた!

 ……だが、惜しいなぁ。オレはここで幕引きとなるのか……なんとも名残惜しい……願わくば、またあの青年と……死合いたいものだ……」

 

 仰向けに倒れ、倒壊している天井を眺めて意識が遠のいていく感覚を味わうジュセッペ。影が揺らいで、口に広がる血の匂いと鉄の味に顔を顰める。本来人ひとり……ジュセッペの影であるはずのそれは彼の持つ『殺意』のように膨張し、変容して……一匹の大狼に成った。

 

「ジュセッペ・テキサス……愚かな人間の形貌(なりかたち)をしていながら、その本能は我ら獣主のそれに近しいものを持つ烏滸がましい男……お前、まだ死にたくないのだろう? 我と取り引きをしようではないか」

 

 まずは餞別と言わんばかりに、大狼がひと舐めするとジュセッペを苛む傷の数々が再生していく。見慣れた『アーツ』による治癒でもなく、かといって自然現象の増長でもない理外の力に目を見開いて驚くジュセッペ。

 

 しかしそんなことよりも、もっと本質的なことがある。ジュセッペは嗤った。これでまた……オレはアッシュと夢のような殺し合いに耽ることができると。大狼は無感情な眼で勝手に動き出そうとするジュセッペに低く唸り、一度黙らせるために簡単に『殺した』。

 

「!?……っ、はぁっ、はぁっ……オ、オレは……今死んだのか……!?」

 

「取り引きと云っただろう、蒙昧なるジュセッペよ。本能のみがぶくぶくと肥太った結果がその御せぬ『殺意』と『混沌』なのか?人間は皆総じて愚かだが、その中でもお前はいっとう愚かだな」

 

「……お前はなんだ。……オレをこうも容易く殺してみせる、お前の存在は……!? 同じ生物なら読み取れるはずの感情もなぜ読み取ることができん……!?」

 

「────『同じ』? 同じにされては困る。我らはお前たち人間が誕生するその遥か太古から存在する獣主であるぞ。……しかしよくもまあ、お前のせいで話が一向に進まぬな。間怠こしいのは嫌いだ。本題を話すぞ、ジュセッペ・テキサス。

 ────我の余興の舞台道具として動いてもらう。その代わり、この一夜に限りお前を生き返らせてやろう」

 

 その言葉を最後、どくん!とジュセッペの心臓が脈動したかと思えば、ジュセッペは意識を刈り取られ……その暴力的な本能に囚われた怪物に造り変えられた。彼はどろりと大狼の伸ばした影に呑み込まれ、大狼の望むときに呼び出される操り人形と化した。

 

 ジュセッペとしての人格はこれにより消えることとなったが、大狼は彼の望む殺し合いを叶えてやるつもりであるし、実際のところ大狼の描く展開通りに進めば、ジュセッペはこれから先大量の殺し合いに身をやつすことになるだろう。

 この超常的所業を起こした自らを獣主と称する大狼は、先程のジュセッペのようにこれから起こる舞台の展開に心踊らせてただ高らかに嗤い吠えるのみであった。

 

 

 

「……ごめんね、右も左も分からないだろうに。急に泣き出して困っちゃったよね?初めまして、ボクの名前はラップランド・サルッツォ。キミの記憶の中でサルッツォファミリーって名前に聞き覚えはない?」

 

 暫くして泣き止んだラップランドは、今はアッシュに無理に思い出してもらうのではなく少しずつ思い出してもらえる範囲で寄り添っていこうと決意した。記憶喪失に陥った者は、その記憶が蘇る際に混濁した記憶に戸惑って半ばパニック状態になると聞く。

 

 もし強引に思い出させようとして、いつかの時のようなPTSDを起こした痛ましいアッシュを見るのは心苦しかった。それに、彼を狂わせる原因となった凄惨な過去を思い出させて、また苦しい現実を与えるよりは、何も知らないこの今がアッシュにとって幸せなのではないかとも考えていた。

 

「……あ゛〜〜、シラクーザ出身なのは覚えてる。そして俺は()()()()()

 んで、路頭に迷ってたところをマフィアのおっちゃんに拾われて……っ!? 痛っ……わりぃ、順々に思い出そうとすると頭がかち割れそうになる……!」

 

「…………そっか。だいじょうぶ……色々ゆっくりと、新しい知識として覚えていこう。……慣れてきたら、少しずつ思い出せばいいからさ」

 

 ラップランドが無理のない範囲で聞き出そうとして分かったことは、記憶喪失状態のアッシュの記憶は凄惨な記憶ほど完全に消え去っているということだった。

 両親が十二家のヴェネツィアファミリーに殺害されたこと、実の姉のように慕っていたベラ・ヴェネツィアが毒殺されたこと……これらを中心として関連する名称、人物名を記憶から抹消しちぐはぐに繋ぎ直して精神を保っているようだ。

 

 よって、今のアッシュの自認はマフィアの抗争で親元からはぐれた孤児(みなしご)であり、仁義あるマフィアの中年男性に拾われシラクーザで生き残る術を教わった一端の構成員である。ただ、ここ数ヶ月分の記憶が抜け落ちている自覚はあり、直近で覚えているのは誰かを護ろうとしてジュセッペと戦っていたということのみらしい。

 

「……えっとだから、テオドラ……さんが言ってたようにワンチャン零細ファミリーの頭である可能性は無きにしも非ずって感じなんだよな。なんか知らねぇけど俺の身に余るすげぇ力を俺自身が手にしてるし」

 

「思い出してきた〜〜? そうそう!ウチらを率いるのに相応しい、つよつよ『アーツ』の持ち主だったんだよぉ〜!」

 

「……正直ジュセッペよりはマシ……か? テオの言う通りここはこいつを担ぎあげてドンにすれば……」

 

「────いいや、アッシュは普通の子だよ。ファミリーの命運を握る頭目でもないし、ましてや身に余る力を有してるわけじゃない。それは君が努力で勝ち取った、大切な成長の証だ」

 

 上手く軌道に乗りそうだったテオドラによるアッシュ洗脳作戦は、敢え無く気絶から目を覚ましたイングリッドによってその根本から叩き折られることになった。

 好き勝手にアッシュの身の上を改竄する不届き者を睨みつつ、ラップランドと同じように内に秘めた大切な思い出をなぞるように自らの服の鈴蘭の意匠に指を添わせている。

 

「もー、病み上がりだろ? イングリッドさん、安静にしといてよ! 俺が『逆転』で治したとはいえ、内側まではどうなってるかはちょいと分かんねーんだから」

 

「暖かい気遣いが沁みるけれど、もう動かなければ。私たちもマフィアの端くれでね。君が覚えているか知らないけれど、今私たちは遠路はるばるクルビアまで赴いて『粛清』に来ているんだ」

 

「……『粛清』って、誰を? いや……少し聞き覚えがある……ファミリーごと、皆殺しにするっていう……あの」

 

「そう。ボクたちはシラクーザに属しながらも、クルビアに根を張る十二家の一つ……テキサスファミリーを潰しにきているんだよ。……そこには、キミのかつての親友だったチェリーニアっていう名前の女の子もいる」

 

「……真っ白なキャンパスのようにまっさらな状態の君に、私たちのこの所業がどう映るのか分からないけれど、善か悪かその目で確かめるといい。

 その果てで君が前の君と同じような結論に至るのか……はたまた、新しい君なりの答えを見出すのか。どんな結論であれ、私たちは邪魔をしないよ」

 

「…………マジか。過去の俺はなんちゅー星の元に生まれてんだ……?人間関係の因果、ヤバすぎだろーが……」




ん、これ曇らせか? タグ付けた方がいい可能性でてきたな

あ! 加筆修正が空を飛んでる! 加筆修正だ!
えっ!? どこ!? どこに加筆修正がいるの!?
あぁ〜……加筆修正がいなくなっちゃったよ、ちゃんと探してくれないから〜!

真面目に個人的に難産だったので加筆修正は大いにする可能性が高いです。お気をつけて〜〜〜〜
あと誤字脱字見つけたら報告助かります〜〜〜〜〜〜〜〜
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