異世界転生モノだと思ってるバカ   作:さぼさぼさん

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蘇りって見方を変えれば地獄への招待状だよネ!

「テオ、ジョヴァンナ! サルヴァトーレさんの血が、血がっ…………! ああっ……止まらないっ!! どうしよう!?」

 

「うっさいアダム! ウチだって本気で『水』使って傷口塞いでるっ!! でも、おじさんがまるで()()()()()()()()()()()みたいに、塞いでも塞いでもどんどん血ぃ噴き出しまくってんの!」

 

「……おじい様の魂が、まるでこの肉体に無いみたい。

 もしかすると……アッシュに託したあの剣に、おじい様の魂は宿っているのかもしれないわ。なにせアッシュがあの剣を振るうたび、あんなに眩ゆく生き生きと……嬉しそうに輝いて……」

 

 サルヴァトーレの精製した剣はアッシュの見立て通り従来の物質精製では創りあげることのできない、聖遺物(アーティファクト)的存在と呼んでも差し支えない代物であった。

 アーツエネルギーを密集させ、その組成を現実にある物質に限りなく近いものとすることで成す物質精製。そこに、自らの魂を混ぜ合わせて創られた特大剣は、劣化することなく所持したものにサルヴァトーレの『絆』を与え旧友たちが用いていた4大属性の行使を可能にさせる。

 

 ジュセッペのような暴君が持てば誰にも止められない一時代の暗君として、アッシュのような純粋な者が持てば皆を導く英雄として。持ち手によってその顔を変えるこの特大剣は、サルヴァトーレの長年の勘……「まあ、こいつになら託して大丈夫だろ!」という半ば楽観的なものによりアッシュに渡ったのだ。

 

 然はいえ生きる伝説の直感は流石と言ったところか、アッシュはサルヴァトーレの意志を継ぎ、不死であり数余年もすればまた人間にちょっかいをかけてくるだろうザーロをそうだとしても一度殺してみせた。彼の魂は若かりし自分を写し鏡に見ているようで、アッシュに託したことが間違いではないと心底喜んでいた。

 

「……やっぱ、おっさんは戻ってこないんだな」

 

「ハッ……この世に帰ってこようものなら、オレがこの手でもう一度殺してやるところだ」

 

「うわっ!? え、ド……ドン? なんで生きてんのさ〜! えっと……アッシュ、また捕まえる?」

 

「テオドラよ、もうおべっかは要らん。オレはこいつ(アッシュ)の軍門に下ることにした。これからはお前らと同じ、無名ファミリーの一構成員にすぎん」

 

「……じゃあ、テオと俺があんたの寝首を搔いたとしてもアッシュは不問にしてくれるのか?」

 

 テオドラとアダム、ジュセッペの間に剣呑な雰囲気が漂う。アダムが構えを取り敵意を向けている傍ら、ジュセッペは何処吹く風といったような面持ちで、さりげなく手の内に『殺意』を込めはじめている。

 アッシュは重大な問題だと思っていないのか、未だサルヴァトーレの遺体に手をかざして延命処置を施しているジョヴァンナを見やっている。

 

「『永劫』の応用か? 死にもせず、生きもしていないこの現状を……『永劫』で留めてるんだな」

 

「……ご名答。 私だっておじい様が助かるとは思ってないわ。でも……チェリーニアが目覚めてない。このままじゃ、彼女はおじい様の死に際に立ち会えないじゃない。だから、まだ逝かれるのは困るってだけ」

 

 ジョヴァンナの話を聞きながら、その片手に握った特大剣を見つめ直すアッシュ。アッシュの『逆転』は元の状態を()()わけではない。因果の流転は結果次第では()()のではなく、真逆の性質に()()()というのが実際のところである。

 

 事象の重なり次第では戻ったかのような結果をもらたすことはままあるが、おそらくサルヴァトーレの魂が宿った特大剣に『逆転』を付与しても魂が肉体に戻るわけではない。また逆の性質を持つ別の何かに変容するだけなのだ。

 

 更に『分解』の効果も特大剣から魂を引き剥がすことが可能ではあれど、それを別の容れ物……肉体に移し換える能力までは有していない。つまり、ジュセッペが蘇るに至れた条件を、サルヴァトーレは持ち合わせていなかった。

 

「フン、なんとも間抜けな死に様だなお父上よ。 もう一度全盛の自分に返り咲くこともできただろうこの一夜に、役に立ちもしない孫娘を護って死ぬとは」

 

「────それ以上おっさんを侮辱するなら、もう一遍殺すぞジュセッペ」

 

「ッ…………!! オレのことを人と思ってもないようなその態度、やはり悦い……!」

 

 当たり前の話だが……アッシュが部分的な記憶を消去しようとしてできなかったのと同様に、一度死んだ人間がまたこの世に蘇ってくるなぞできるわけがない。

 ジュセッペは厳密には()()()()()()。『逆転』で死の因果を死んでいないものと否定しただけで、生の因果への逆転には至っていない。死の『逆転』の行き先は死⇄生ではなく、死⇄非死であったのだ。

 

 

 非死とは、生ではない。ただ()()()()()()()()()()()

 

 

 なのでジュセッペには痛覚が無い。定期的に腐るだろう身体を『逆転』によるメンテナンスで補いながら、死を否定された魂のみの形で存在している。その状態でもなお『殺意』と『混沌』が扱えるのは『アーツ』という概念が魂に刻まれている根源的な力であるからだった。

 

「チッ……じゃあ本当の意味で俺はトラディトーレの復讐が果たせないってことか?」

 

「もうゾンビみたいなものだからな。まあでもお前らがこいつを仲間にしたくないなら、今すぐにでも『逆転』しなおしてくたばらせることはできるぞ」

 

「ちゅーことはぁ……ウチらにこの暴れん坊をいつでもぶっ殺せるスイッチがあって、手綱を握ってる状態ってことねん?なら危なげないしウチは賛成〜」

 

「俺は反対だ! こいつはドス黒い悪だ! 考えてくれアッシュ! 俺たちはみんなを護るために戦うんだろ!? こいつの力を使って何しようっていうんだ!!」

 

「私は……中立の立場を貫かせてもらうわ。 確かにこの粛清の発端は彼だし、家族たちがそれで命を落とした……。でも、クルビアマフィアの発展に寄与していたのも彼。

 おじい様はお年を召してからはずっと保守派だったから、緩やかなマフィア社会ではここまで大きく発展することはなかったわ。そういった他を顧みない彼の力は間違いなく我々の助けになるでしょう」

 

「クハッ! 多数決で決めるとのことだったが……物の見事に意見が割れたなぁ? ドン?」

 

 アッシュは考えても見なかった展開に頭をがしがしと掻いて、困り顔になっている。優しいだけでは誰も救えない……ザーロとの戦いの際、自我を得たような脳内で響く過去の自分の声を今になって思い出す。

 

 サルヴァトーレだって……そうだったはずだ。仲間を護るためにどんな愚図でも使えるやつは全員仲間にして……清濁併せ呑んでここまでやってきたはずなんだ。ジュセッペはどうしようもないくらいに悪に傾いた人間だ。

 だが毒を以て毒を制すという諺のように……ジュセッペはこのどうしようもなく自分たちに優しくないクソったれな世界を生きるためには必要な悪なんじゃないのか?

 

「────死から舞い戻るっていうのは、常人には耐え難いものなんだよ。アダム、お前の気持ちは俺だって理解できるんだ。俺もさぁ、こんなやつより蘇ってほしい人がいた……らしい」

 

「アッシュ……」

 

「でもよくよく考えれば、俺やお前のようにすげー狂いそうになる悲劇に見舞われる現世って……死ぬよりも苦痛な地獄じゃないか?

 んな地獄に……愛しい人々をもう一度蘇らせんのか? そーいうのはこいつ(ジュセッペ)みたいなので十分だと思わないか?」

 

(…………キャハ♡ 記憶はまだ全部戻ってないみたいだけど……出会い始めのアッシュみたいな顔してる……♪)

 

 かつて昏い世界に足を踏み入れていた過去のアッシュは、現在直面している問題に早くも気付いていた。今よりも弱く、今よりも立場に雁字搦めになっていたアッシュは諦めた。善性だけを抱いていても、人生はうまくいく物ではない。

 

 救うという表現は大言壮語で、自分には過ぎたるものだ。だから、同類同士のラップランドと傷を舐め合って泥沼のシラクーザに身を埋めることにした。

 

 手に収まる程度の人間だけを大切にして、救えない命は残念ながら取り零していく。時には、自ら殺人に手を染めて手折りにいくことを厭わない。そうして、自分たちの心を守るしか弱者には選択肢が無いと。

 

 サルヴァトーレに託されるまでのアッシュはある種どこか幼児退行的で、幼い彼が本来持っていた優しさだけが前面に露出していた。陽だまりの如き善性は、サルヴァトーレのような身内に無償の愛を施すカリスマを皆に幻視させるほどに。

 

 しかし戦いの中で『逆転』を使いすぎた代償も相まって、過去のアッシュと少しずつ混じりあっている。それにより家族を惨殺され、憎しみに焼かれながら狂うに狂えなかったあの頃のアッシュのような純粋な冷徹さが顔を出し、優しいだけのアッシュでは無くなりつつある。

 

 このことは良いことばかりではない。記憶喪失状態のアッシュが過去のアッシュと違う人格として確立しつつある現状、彼の中には二つの人格が存在している。時に共鳴し合い、時に反発し合いながら保っている()()は…………危うい。

 

 ともすれば鉱石病初期段階、顕著だった双極性障害の感情の落差よりも他者からは分かりにくく、本人も自覚しにくい。不治の病だが理性剤や抑制機がある鉱石病の方がまた手立てがある。今少しずつ、ゆっくりと……代償がアッシュの背を指でなぞるように追いついてきていた。

 

 ただ慎ましやかに日々を生きていた、ジョヴァンナが匿っていたクルビアマフィアたち。

 ザーロに傀儡として弄ばれていたジュセッペによってほぼ皆殺しにされたなか、運悪く生き残ってしまったサルヴァトーレ派のマフィアたち。

 そして、現在のアッシュについて行くと決めたテオドラ、アダム、ジョヴァンナの3人。立場の違う彼らそれぞれが、アッシュの為す一挙手一投足に目を離せないでいる。

 

 このまま現在のアッシュが彼らを選ぶのならば、その分だけ自己が確立し、過去のアッシュは融け合って消えることとなる。

 

「────だからって、その『蘇らせたい人』……ベラ・ヴェネツィアを殺したジュセッペを生かす理由にはならないんじゃないのかなぁ? アッシュ」

 

 その逆に……喪った16年間の彼を知る者が記憶の扉をこじ開けようとすれば、過去のアッシュは激しく反応し主導権を奪おうとするだろう。

 ジョヴァンナ率いるクルビアマフィアの人混みから、かき分けるように身体をねじ込んでアッシュの前へと歩み出る一人の少女がいた。

 

「あれだけ憎んで……あれだけ生かしちゃおけないって大声出して泣いてたのに、変わっちゃったねぇ? 」

 

「……ラップランドか。全身血まみれじゃねぇの、どした?」

 

 ぐちゃぐちゃになった彼の記憶領域が、ラップランドを認識するやいなや知らない人間だと判断しながらも、16年の中からピックアップされた思い出をフラッシュバックさせ知っている人間だと判断する。二つの相反する脳信号に頭が麻痺していく感覚を得つつ、まだ記憶を取り戻してもいないのにラップランドを呼び捨てにするアッシュ。

 

 月明かりが瞳孔に反射して、血糊でボサボサの前髪で瞳は隠れているというのに丸い二つの点が浮かんで見えている。口元は三日月の形をして、恐ろしいくらい笑っていた。ラップランドはその表情のまま静かに歩み寄って……アッシュに向けて剣を振るった。

 

「あのさぁ……ボクのことをこれっぽっちも思い出せてもいないような顔をしておいて、『ラップランド』って呼び捨てしないでくれる? ……イライラして、殺したくなっちゃうじゃないか」

 

 放たれた剣閃、その切っ先はアッシュが防御するよりも前に、テオドラとアダムの両者によって阻止されることとなる。アッシュの眼前すれすれでぴたと静止する剣に、表情群が追いつかないのか、はたまた人格の競合が起きてどちらのアッシュとして対応するべきなのかと脳がエラーを吐いているのか……当の本人は無表情を貫いていた。

 

「……あっぶないなぁ、ウチらのドンに何するつもり? ラップちゃんの事情は分からないでもないけど……ぶっ飛ばすよ」

 

 テオドラはその脚に『水』を纏わせて横に薙いだ剣の中腹を押さえ込んで睨んでいる。アッシュを柱に据えてから、テオドラは柄にも無く無茶をすることが多くなっている自覚があった。そして、それが案外悪くない気分であることも。

 

「今俺たちは大事な家族会議をしてるんだ。 部外者は引っ込んでてくれない? 過去の人間は……もうお呼びじゃないんだよ」

 

 アダムはその膂力を解放してラップランドを羽交い締めに近い形で押さえながら、ラップランドが最も嫌がるような台詞をわざと選んで挑発した。アダムは殺し合いばかりの生活から、こうも暖かみを帯びた居場所を得れるなどと考えてもみなかった。歪な人物依存はより強く、テオドラだけでなくアッシュにも向き始めていた。

 

「アハッ! キミら、今のアッシュに気に入られてるからっていいご身分だねぇ……ウチらのドン? 部外者? 好き勝手言ってくれるじゃない……アッシュはボクのだよ。キミたちこそ、雑魚は引っ込んでてよ」

 

 今のラップランドはなりふりを構わない凶暴さを身に纏っている。記憶喪失状態のアッシュが過去のアッシュと乖離していく原因がテオドラたちにあるのなら、アッシュが何を言おうと殺してしまおうかと考えるくらいには、ラップランドはこの現状が気に食わなかったし、何より独りでいることの寂しさが限界点に達していてどうにかなりそうだった。

 

 愉しむための戦いではなく……ただ邪魔なやつらを始末するために。一人は『アーツ』を使えない体質であることは先の戦いで覚えている。あの時の手はテオドラを相手取りながらは難しい。

 

 にしても、いつでもどこでもこの女々しい格好をした(テオドラ)が邪魔をする。嗚呼……苛立つなぁ。まずはこいつから────無詠唱の『抑制』を発動しようとしたラップランドだったが、アッシュから放たれる威圧によって全てが遮られる。

 

 まだある程度冷静さを保っているテオドラが、じたばた暴れるアダムを宥めながら引き下がっていくのを見守りつつ、ゆっくりと口を開くアッシュ。

 

「まあ、待ちなって。俺が目当てなんだろ? あいつらに構ってないでさっさと本題入ろーぜ、ラップランド()()よ」

 

「ふぅん……キミも雰囲気が変わったね。ちょっとくらいは記憶が戻ってきたのかな? 昔みたいに捻くれた言い回しをするようになったじゃない」

 

「雰囲気っつーか、現状どっちの俺が多いかっていう……割合のハナシだよ。綺麗さっぱり真っさらな状態の俺と、お前の知る昔みたいな俺。じわ〜〜っと混ざりあってんだ。本人には自覚がない。()だけが知覚してる厄ネタなんだけどさ」

 

「どうでもいいよ、ボクの知るアッシュじゃないんだから。それで、そこの元凶(ジュセッペ)は殺すの?殺さないの?」

 

「いや聞けよ、大事だろーが。自暴自棄になりすぎてどうでもよくなってんじゃねーぞイカれお嬢様?

 ったく……一応おめーの質問に返答するのを優先してやるが……結論から言やぁ、ま〜殺さねぇ方向で行くんじゃね?

 あ、俺を非難するんだったらイングリッドも非難しろよな。あいつこそ俺の家族をぶっ殺しといて俺を殺せないダブスタ女じゃん」

 

 ラップランドは温もりに対する途轍もない飢えからか、最初(ハナ)からアッシュの違和感に気付いていたようだった。アッシュの言う通り、自暴自棄でどうでもよかったのもある。

 しかしどこか芝居がかった他人の物真似のような喋り方に嘘臭さを感じていたのも事実で、靴のつま先を地面に叩きつけて苛立ちを隠さずにいた。

 

「昔のキミに似てるようで、似てないのは丸わかりなんだよ。ボクはイングリッドを憎みきれずに、照れくさそうにしつつも家族愛をひけらかす、かわいらしいアッシュが好きだったんだ。

 それに、どれだけ精神を追いやられても、アッシュは彼女のことをそんな酷い物言いで貶すことはしなかった。

 アッシュの顔でアッシュじゃない仕草をされると不愉快だから、さっさと元の彼に代わってくれない?」

 

()()? おめーがどれだけ違う違うつっても、紛れもなくこの俺も俺なんだけどなぁ……ま、露悪的に言いすぎたっちゃあ、言いすぎたか。 いやさ、記憶喪失の俺を内側で見てて……なんつーの? いわゆる俯瞰的な物差しで見るようになっちまったよ」

 

「────ならば、違うと頭ごなしに否定するのではなく……お前は今間違った道を進んでいると、かつてを知る友としてお前の前に立ちはだかってやろう。私からも意見する。お父様……いや、ジュセッペはここで殺すべきだ」

 

 どうやら気絶から目を覚ましたチェリーニアが、顔馴染みのジョヴァンナの肩を借りつつ、サルヴァトーレの遺体に祈りながら話に混ざってきた。

 『永劫』で延命してくれていたジョヴァンナに感謝を伝え、少しふらつきながらもしっかりと自分の両脚で地面を踏みしめるチェリーニアは、ラップランドの様相を鼻で笑い軽口を叩いた。

 

「ふっ。乱心してところ構わず暴れ回ったのか? さぞかし敵も味方も災難だっただろうな」

 

「……うるっさいなぁ。ボクに殺されたやつらがツイてないだけでしょ」

 

「恋する乙女とはさぞかし大変だな。

 どうやら身の丈に合わない力を手にして天狗になった彼氏の鼻をへし折らないといけないようだし。しかし、アッシュとは久しぶりに会ったが……なるほど、記憶喪失かなにかにでもなっているのだな」

 

「なんだかキミだけ少し遅れた時の中で過ごしているみたいでちょっと安心するよ。

 みんながどんどん先に行くから、ボクも立ち止まる訳にはいかなくて、焦ってたところだったからね。

 ……ちなみに、あの鈍すけはボクのことを恋人だとは思い出せていないようだよ」

 

 ラップランドから放たれる衝撃の発言に開いた口が塞がらない様子のチェリーニア。彼女も大概鈍感だが、同じ女の子として言われたくない言葉がどんなものかくらいは共有できているようだった。額に手を当て、呆れ返ったチェリーニアは半目でアッシュの方を向いた。

 

「…………謝るなら今のうちだぞ、アッシュ」

 

「……いや、いつも謝れねぇお前が言うことじゃないんじゃないの、チェリカスさんよぉ」

 

「……おお。 昔のアッシュのような頭にくる言い返しだ」

 

 諸君、今一度思い返して貰おう。この人々の思惑絡まる『テキサスの死』は、アッシュが第二のサルヴァトーレとして台頭する物語か?否、そうではなかろう。

 題目の通り、これは『テキサスの死』である。どこまでいってもこの物語はテキサスファミリーの凋落……そしてチェリーニア・テキサスが馬鹿な親友を取り戻す話だろう。

 

 チェリーニアは物質精製で二刀の剣を顕現させ、憑き物が落ちたすっきりとした面持ちでアッシュへと剣を向けた。これは逃げるための敵対ではない。テキサスを『粛清』するはずなのに、きっとうじうじと悩んでばかりの私に一喝入れに来ようとしてくれた彼と向き合うための大事な衝突なのだ。

 

「なあ、昔のように大喧嘩しようじゃないか、アッシュ。手加減は要らん。本気で来い」

 

「珍しくボクも参加するから、覚悟してよ……? ボクに負けて死んじゃっても文句は言わないでよね、二人とも!」

 

「────はっ、勝てると思ってんのか? これは乱戦じゃねぇ、お前ら二人が俺にチャレンジする……ボス戦だぞ?」

 

 誰もが固唾を飲んで見守ろうとするこの展開に、どこまでも混沌を愛する男だけが唯一愉悦に浸り、至極の笑みを浮かべ酔っていた。

 

 

 ────そして、鈴蘭の庭師はそれを許すほど器が広くは無い。

 

「貴女はあの集まりに行かないの? あの男の子の義母なのでしょう?────イングリッド」

 

「貴女こそ、彼らを『粛清』するために私たちを招集したんじゃないか。潰しに行かず、見物でもしていていいのかな」

 

「若い子たちの青春を邪魔するほど、意地悪な老婆になったつもりはないわ。サルヴァトーレだって、無粋なことはするなと怒るでしょうし」

 

「ザーロが襲撃したとき、助けに行こうと思えばできたはずだ。老サルヴァトーレにそこまで敬意を抱いておいて、行ってやらなかったのは何故?」

 

「────負けたら負けたでそれまでの男だったってことでしょう? ふふっ、弱い男に興味なんてないもの。……まあ、惜しくも死んでしまったけれど、最期まで彼らしい生き様だったわね」

 

 双月を見上げ、風にたなびく髪を押えながら在りし日のサルヴァトーレとの思い出に耽るミズ・シチリア。あの跳ねっ返りの紺色の彼とはもう顔を合わせることもできないのだと、一抹の寂しさを抱えながらも後悔や罪悪はその胸にないようだった。




ジュセッペを巡る言い争いでこんな盛大な大喧嘩が起きるのおもろいな
いや、でもジュセッペのやってることわりとチェルノボーグ事変に近いから妥当か。天災が起きてないだけか。
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