異世界転生モノだと思ってるバカ   作:さぼさぼさん

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主人公がボスとして出てくるRPGをやりたい

 最初に動いたのはチェリーニアだった。両の手に持ったうち片方の直剣を突き出し、アッシュの火傷痕目立つ右眼を狙う。対して、中々の速度で放たれた剣と空間の余白にナイフを食い込ませるという常人離れした技量を見せ、刺突に合わせて逆手持ちしたククリナイフの刃を這わせた。

 

 ナイフの刃から伝わる、方向転換をする余地のない刺突の推進力を利用して、手の甲を外側へと払うような最小限の動作で地面へと叩きつけ、軌道を逸らすことに成功する。

 イングリッドを想起させるような神懸かり的な一手をこの一瞬で見せつつ、アッシュは涼しげな顔で二人の動きを洞察している。

 

(……今この中で最も弱いのは間違いなく私だ。無駄なことを考えたところでどうせ差は埋まらん……だからこそ、攻める)

 

 規格外の『アーツ』を開花したアッシュはもちろん、見慣れたラップランドの『抑制』にさえ相性の悪いチェリーニアは自分だけが置いていかれていることを理解していた。故に選択した役割は、先鋒。積極的にアッシュへ仕掛けることで、リソースを割かせラップランドに対して意識を向けさせない。

 

 付け加えれば、今や得体の知れない能力を有しているアッシュの手の内を探り、あわよくば深手を負わせるつもりである……ということを、アッシュも目敏く気付いていた。

 

 すかさず逸らされた直剣の持ち手から手を離し、もう片方の直剣を両手で持ち直して数段の連撃を放つチェリーニア。その一連を見向きもせずいなし続け、出方を伺っているラップランドに向けて手が空いたナイフを投げつけるアッシュ。

 

 サルヴァトーレの特大剣は増幅器の役割を持つ基本的なアーツユニットとは違い、所有者の持ちえない『アーツ』を行使させることのできる、いわば外付けされた『アーツ』保存装置。

 攻守共に優れた4つの『アーツ』が保存された特大剣は、それそのものの殺傷能力だけでなく術師にとって最高の触媒として働いていた。

 

「落雷は落涙よりも(はや)く────フルミナ。墜とせ」

 

 本来ならば特大剣から放つほかない4大属性の『アーツ』だが、アッシュは『分解』を用いてそれらを別の物質あるいは自身を経由して放つことを可能にしていた。

 ククリナイフがチリチリと放電し、蓄積された電荷が一定量に達したその時、避雷針のように落雷が撃墜する。ナイフを墜落点として、劈く雷光はラップランドを巻き込む形で展開された。

 

「────危ないなぁ……ボクの『抑制』でも防げないように、『雷』を使って自然の雷を呼び寄せるとか……頭おかしいんじゃない?」

 

「お前も咄嗟に武器真上に投げて避雷針代わりに直撃避けてんだから人の事言えねーだろ。

 なんなら『アーツ』由来の可能性も考慮して武器にある程度アーツを纏わせてやがるし。頭おかしい同士ってこった」

 

 お互いに褒めてるのか貶しているのかよく分からない気の抜けたやり取りを交わしながらも、両者は本気で殺しあっている。

 ラップランドは表面上冗談を飛ばしてはいるものの、その内心に余裕の色は無い。裏腹にアッシュはあくまでも二人を試すように汗ひとつ垂らすことなく飄々としている。

 その証拠に、いつ設定したのか精度の増した『アーツ言語』によってククリナイフを手元に戻して反撃をせず立ち止まっているのがアッシュの余裕を物語っていた。

 

「随分と悠長だな……手加減は要らんと言っただろうが!」

 

 それを見逃すほどの馬鹿ではないチェリーニア。大量に精製した剣を雨のように降り注がせ、嫌でも対応せざるを得ない状況を作り出す。彼女はある程度の予想をつけ、アッシュの次の動きに合わせて一撃を叩きこめるよう、目を細めている。

 爆風がチェリーニアの頬を掠めて、視界が開けるその瞬間……砂埃から顔を見せたのは特大剣の()だった。

 

「ぐうっ……!? ()()()()()きたな!?」

 

「────バカ重てぇだろ。安心しな。おっさんの剣で孫娘を斬るとかいう趣味悪ぃことはしねぇよ。

 遍くを(さら)う人魚の涙、澎湃(ほうはい)し爆ぜる乙女の一雫────アズール。波濤をここに」

 

 速度がその特大級の重量に乗ることで、うまく弾くこともできず後ろに押し込まれながら受け止めるしかないチェリーニア。いつの間にか背後を取っていたアッシュは、テオドラのように小さな『水』の一雫を射出した。

 圧縮、凝縮された『水』のアーツエネルギーがアッシュの手から離れたと同時、より一層その雫を小さくしたかと思えば、弾けるように膨張し、擬似的な超新星を起こした。

 

 直撃したらただでは済まない!そう考えたチェリーニアは背に居るアッシュに振り向いて対応することは不可能だと判断し、両腕で受け止めていた特大剣を片腕で受けることにする。空いた片腕を後ろに翳し、形を定めない物質精製の壁を数枚作ることで衝撃を和らげた。

 

「おめーも中々やるじゃん。ダメージ分散は狙い通り成功したっぽいけど……おっさんの剣が逃げ場を無くして、無傷とはいかなかったよーだが」

 

「っ……よくもまあ、上から目線で物を言うッ……!」

 

 その場しのぎの防御によって、爆発した地点から最も近かった物質精製に充てた片腕は皮が剥がれ酷い有り様になっている。また、大きく吹き飛ばされたならば衝撃を逃がしつつもアッシュから一度距離を離すこともできたのだが、サルヴァトーレの特大剣とアッシュの射出した『水』によって挟み撃ちの構図となり、チェリーニアは衝撃を逃がすことがままならなかった。

 

(『アーツ言語』とかいう……アッシュが見出したアーツ操作技術の段階からそもそもイカれた精密性は垣間見えてたけど……)

 

(ここまでやって全く底が見えないっ…………! アーツエネルギーを消耗しているかさえ怪しい……なんだっ? この圧倒的実力差は……!?)

 

 ラップランド、チェリーニア。共に相対する存在の大きさに今一度直面し、気圧され始めている。特にチェリーニアに至っては何の役にも立っていない現状に打ちひしがれる以外に何も出来ずにいた。

 

 緊迫した空気感。剣を強く握る音が遠巻きに見ているマフィアたちにも聞こえるほど。下手に動いたところで、先程のチェリーニアの二の舞になる。動けない……!

 

 そう逡巡する二人など知らぬ存ぜぬと、特大剣が輝きを器用に発してアッシュになにやら訴えかけている。アッシュも初め困惑気味に剣を見つめていたが、次第に合点がいったのか、めんどくさそうにしながら特大剣に向けて言い聞かせるようになにやらボヤいている。

 

「────? あ゛ぁ? ……わぁったよ、治しゃいいんだろ治しゃ! ほらよチェリーニア。おめーのおっさんがうるせぇから餞別だ」

 

「……余計な気遣いは要らん。拒否すると言ったら?」

 

「……特大剣(おっさん)が一生自己主張激しくアーツエネルギーを逆流させて言うことを聞かなくなる。つまり、俺が弱体化する」

 

「あははははっ! なにそれぇ! ボクらに得しかないじゃないか! チェリーニア、そのまま断っちゃってよ!」

 

 虚仮にされること。侮られること。馬鹿にされること。チェリーニアの傷を治癒するという行為それこそ、暗にお前は弱いと宣告しているようなものだ。チェリーニアは思いっきりブチ切れた。

 物質精製の『アーツ』はサルヴァトーレの遺伝。では、シラクーザの原点回帰……ジュセッペから受け継いだものは何ぞか。

 

 三世代に渡って、テキサス家それぞれがシラクーザらしいともいえる特徴を有している。サルヴァトーレはシラクーザを忘れぬ愛国心を。ジュセッペは古き狼が宿している本能的な暴力を。

 そういえば……シラクーザはよく雨が降る。じめじめと肌に纏わりついて気持ち悪く、湿気で尻尾がたわついて鬱陶しい。

 

 だが……雨は何もかもを洗い流すのには最も適している。例えばそう、目の前で余裕綽々としているバカ(アッシュ)(つら)を叩きのめすため。恋人と殺し合いという名目の乳繰り合いによって本来の目的を忘れかけている腑抜けたバカ(ラップランド)の頭をぶん殴るため。

 

 チェリーニアは物質精製の解釈を拡張し……シラクーザの『雨』の如き性質を魂に刻んだ。豪雨が……バカ共二人を吹き荒ぶ。今までチェリーニアの力任せの剣雨は実体を伴ってしまっているが故に本人も誤爆してしまう可能性を孕んでいた。しかし本来雨というのは執行者にとっては都合のいい環境である。

 

 忍び寄る足音は雨音に消え、流れる血は水溜まりになっていずれは乾く。無数の剣が演出する豪雨の真っ只中をチェリーニアは影響を受けることなく闊歩する。

 こちらの意思決定など関係なく治癒された片腕をもう一度壊してみろと言わんばかりに、積極的にそちらを使って目にも止まらぬ剣技をアッシュにぶつけた。

 

「手加減は要らんと────言っただろうが」

 

「ハッ、おめーだってまだ奥の手隠し持ってたじゃねーか。そっちこそ手加減してんなよ」

 

 ごうごうと降りしきる剣が地面にぶつかり、飛沫が視界を悪くさせる。雨はなにも強く降るばかりではない。霧雨のように、人を惑わすものもまた雨と呼べる。

 アッシュはまどろっこしい霧を払おうとロッサティの『炎』を使おうとして……振るった腕を起点に全身に無数の切り傷ができ始めるのを察知して、すんでの所で発動を中止した。

 

「……脳筋って一度インテリにならなきゃダメみたいな約束事があんのか? この霧、極小の刃で出来てるのな? かぁー! あったま良いねぇ〜……」

 

「説明するわけないだろう。勝手に推測を立てて、勝手に対策をしろ。私はただお前に吠え面をかかせるだけだ」

 

「イイね……ボクも混ぜてよ! 二人だけ楽しそうでいただけないなあ!」

 

 自身の周囲数十センチを常に『抑制』してチェリーニアの『雨』を無効化し続けているラップランド。長く伸ばした腕でチェリーニアを牽制し、アッシュに対して的確な攻撃を繰り出すことで、二人の間に割って入るようにして参戦する。

 先の通り、チェリーニアはしっかりとこのバカ(ラップランド)にもキレている。ぶん殴りたい相手はアッシュだけではない。

 

 『抑制』できる物量には限りがある。チェリーニアは出力をさらに上げ、一瞬だけ全ての『雨』をラップランドに集中させた。驚きに満ちた顔をするラップランドにしたり顔のチェリーニアは、笑われた仕返しと言わんばかりに小馬鹿にしくさっている。

 

「ちょっと! ボクに攻撃するのは違うでしょ!?」

 

「いいや。一度として私はお前と同盟を組むなどと言った覚えはない。私を笑った仕返しだ。とくと鉄の味を噛み締めろ」

 

「あ〜〜! もうっ! めんどくさい性格だなぁキミって!!」

 

 段階(ステージ)が上がった物質精製の『アーツ』を手にして、チェリーニアはいつもよりハイになっている。アッシュが現在回復に専念していることを視界の隅で捕捉して、精製を解除せずに地面に突き立てておいた『雨』の残り香を掴んだ。

 

 チェリーニアは解釈を拡張した『雨』と、アッシュがやってみせたフルミナの『雷』から着想を得て、剣雨として突き立てた打刀を居合の構えで掴み直す。

 武器に帯電した稲妻を全身に行き渡らせ、神速を可能にするために身体制限(リミッター)を外していく。これは雷雨の前兆だ。

 

「────この一太刀で……お前を斬る」

 

「曙を越え、赫灼たる炎天を掲げよ────ロッサティ。おめーの神速が先か……この火種がおめーに届くのが先か……競走だ!」

 

 ロッサティの『炎』を多重発動して、赤炎……蒼炎……白炎と、その色を順々に変えて温度を上げていく。やがてその超高温となった『炎』の色は巡り巡って赫々と揺らめいている。暗雲立ち込め雷鳴呼び寄せる雷雨と、未だクルビアの夜は明けていないというのに晴天の如き陽炎を幻視させる炎。

 

 

 ────一触即発、人外魔境のぶつかり合いをただの人に引き戻す指鳴りが聴こえる。

 

 

「ボクを置いて楽しそうにしないでって……言ったでしょ!!!!」

 

 戦いの当初からいつアッシュに『抑制』をぶつけるかタイミングを見計らっていたラップランドは、その隙のなさに手をこまねいていた。

 特に、サルヴァトーレの特大剣からなる『アーツ』があまりにも厄介。アッシュが元々持っている『逆転』と『分解』に加えて……『炎』『水』『雷』『癒』……これらも『抑制』しなくてはならない。

 

 仮にアッシュの全能力を『抑制』で抑えるとして、ラップランドの持ちうる総アーツ量で抑えられるのかということと、なまじ抑えられたとして地力でアッシュに勝てるかどうかという二つの点がラップランドにとって不確定要素だった。

 

「どうもありがとう、チェリーニア! キミが土壇場で強くなったお陰でアッシュを虐め抜くことができるよ!」

 

 しかし、チェリーニアが覚醒したことにより綻びが生まれる。必ず割いていた『抑制』への意識をチェリーニアの雷雨対策に寄せたアッシュ。格子状にアーツの刃をアッシュに放つラップランド。

『抑制』がギリギリ解けるか解けないかの絶妙なラインで着弾するだろうアーツの刃をブラフとして、肉薄して本命の近接戦に持ち込もうとしている。

 

「……流石にキッツいなぁ……伊達に十二家の跡取り名乗ってないねぇ、お前ら」

 

「肩書きで人を見るな。私はたった一人のチェリーニアだし……」

 

「ボクもサルッツォのためにキミと殺り合ってるわけじゃない。ただ一人のラップランドとして、キミと向き合ってる」

 

 アーツを練れない無防備なアッシュにラップランドの凶刃、ラップランドの対象選択からこっそり外れていたチェリーニアの雷雨の居合抜刀。

 二方向から見舞われる会心の一撃がアッシュの身体を斬り裂いて……『逆転』する。

 

「────じゃ、第二ラウンド……行ってみっか」




ラップランドって雑魚相手には敵味方関係なくぶち殺しそうだが、認めた相手にはすっごい甘そう
チェリーニアは雑魚に無関心or殺す価値もないと判断して無視、逆に認めた相手には「これくらいでお前らは死なんだろ」と無茶な攻撃を仕掛けそう

今回で言えばブチ切れチェリーニアがラップランドにも剣雨ぶっぱなすシーンとか、ラップランドがさりげチェリーニアには抑制かましてないシーンとか
そういうさりげなさ、出していけ
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