異世界転生モノだと思ってるバカ   作:さぼさぼさん

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今回短いです


トラディトーレ戦/TR-2

 アッシュがトラディトーレの用心棒と楽しくバカスカやり合っているその頃、ラップランドはアッシュに付与された探知の『アーツ言語』の精度に驚愕していた。

 

(ちょっとアーツが吸われているような……目減りしてる感覚はあるけど、それを考慮したってこの『視界』は凄いね……!)

 

 自分を中心として半径50メートルのアーツの痕跡がリプレイ機能のように視界に映し出される。

 アッシュの言う理論通り確かにやればできなくはない理屈だが、それはつまり下手な探知系アーツよりも高度の次元にいるアーツ使用者の領域のそれである。

 さらに付け加えれば、アッシュがアーツ解析をしている際の半径50メートルという範囲限界を他者に『アーツ言語』にて無意識に設定している点も変態的だ。

 

 簡単に言えば、やれるわけがないことをアッシュは可能にしてしまっている。それも最小限のアーツ消費で。

 ラップランドは自分の口角が上がったまま元に戻らないでいることを自覚していた。このシラクーザで自分の実力に届きうる人間はほぼ居なかった。

 おそらく、アッシュが本当に本気を出せばラップランドは負ける可能性がある。なんてことのない、アッシュの言う『基礎的なアーツ』で。

 

「アハッ……彼といると退屈なシラクーザが面白くなって……飽きないなぁ……!」

 

 いつの間にか、ラップランドの足取りが早くなっていく。アンジェリーナの身を案じていないわけではない。関わった時間はまだ少ないが、一人のラップランドという少女として純粋に接してくれるアンジェリーナには感謝をしている。

 

 ただ、それは理由ではなかった。一刻も早く、アッシュという人間を視野に収めておきたい……あんな面白い人間が、面白いことをしでかさないワケがないという、本能的直感によってラップランドは急かされていた。

 そのためには、トラディトーレなど即座に潰さなければ。

 

 

 

「新進気鋭……って言ったけど、これじゃあボクはアッシュに訂正しなきゃいけないかもね」

 

 トラディトーレの中継地点兼シラクーザでの拠点はアッシュの目論み通りシラクーザの南西にある都市にあった。最速で到着したラップランドはトラディトーレのみすぼらしさに鼻で笑わざるを得なかった。

 

 それはヴェネツィアやサルッツォのような格式高い屋敷のようなものではなく……どちらかと言えばコンテナ倉庫のような無機質な造りの建築物だったからだ。

 半グレヤンキーとかがたむろする湾岸沿いの埠頭をイメージすれば分かりやすいだろうか。やけに広いが、貨物コンテナが積まれていて見通しが悪い。仮拠点とするにはうってつけだろう。

 

「ボク、独り言があんまり好きじゃなくてね? お喋りできるならお相手は欲しいと思うタイプなんだ。

 ────いるんでしょ? 出ておいでよ」

 

 パチパチと拍手をしながら現れたのは、厨房で蹂躙したような下っ端と違い、この場所とは不釣り合いな装いをした……いわばクルビアらしくないスーツを身にまとった大男だった。それはつまり、逆説的にここシラクーザをよく知っているような、シラクーザ人らしいとも言える。

 ラップランドは少し舌なめずりをした。本来は品のない行為に映るそれが、絶世の美少女であることによってか艶めかしさとしてむしろ引き立っていた。

 

 ────この男、強い。

 ともすれば、アッシュが今おそらく相手をしている奴よりも。ラップランドが舌なめずりをしてしまったのは、これから始まる戦いに、胸躍っているからであった。

 アッシュのために……そう思っていても、目の前に豪華な料理が並べられていたら、少しくらい味見をしたくなってしまうのが人間の性というものである。

 

「すげぇな。 よく俺が隠れてたって分かったな。ガチでイイよ、嬢ちゃん」

 

「────『嬢ちゃん』? ボクの名前、知ってるくせによく言うね……?」

 

「ああ、知ってるぜ。あのサルッツォの狂犬……ラップランド、だろ?」

 

 ラップランドは殺意をワザとらしく男にぶつけている。しかし全く動じる気配もなく、かといって緩みきった立ち振る舞いでもない。隙のない立ち姿。こちらから手を出すのは、悪手。

 

(相手の手の内が分からないのに先手を取る……まあ、それで相手が死ぬなら正解かもね……でも、それは『一撃必殺』が前提だ)

 

「……へぇ。確かに慎重と噂に名高いサルッツォだ。道理のわかんねぇガキだから、さっさと攻撃してくるもんだって舐めてたよ。ちょっと見直したぜ……ラップランド」

 

「……さっきからさぁ、『すごい』だの『見直した』だの……なんでまるでボクの方が『弱い者』扱いされてるのかな?」

 

「────そりゃあ、お前が弱いからに決まってんだろ」

 

 さも当たり前かのように言う男に向かって予備動作など見せず剣を振り翳したラップランド。

 明らかに捉えていなかったというのに、しかし遅れてもなお防ぐ男。チリチリと剣が擦れる音を肴にお互い苛烈な笑みを浮かべている。

 

「…………そんな傲慢な……キミの名前を教えてよッ!」

 

「テオドーロ。トラディトーレの兄弟たちからはテオの愛称で呼ばれてるッ! ははっ、マジでイイよお前!!」

 

 

 

 攻撃的な姿勢を崩さぬまま、心は冷静さを保っていたラップランド。彼女はテオドーロに与えた攻撃から違和感を得ていた。

 テオドーロは武器の類いを使わず、その拳……正確には手首でラップランドの剣を防いでいた。

 身体強化のアーツの倍率次第ではできない芸当ではない。ただラップランドも確実に斬り落とすつもりで振り翳している。少なくとも骨が見える程度には傷がつくものだが……しかし、テオドーロが纏うアーツの『波』がそうではないことを物語っていた。

 

「……従来のアーツより少し()()()()んだね。 まるで、流れる『水』のような感じだ!」

 

「それにも気付くか。 そうさ、俺のアーツ特性はそんじょそこらの奴らとは少し違くて、なぁっ!!」

 

 拳にアーツを集中させたテオの一撃を脇に喰らうラップランド。打撃のはずが擦り傷のようなものまで作られ、痛みに顔が歪んだ。

 

「痛っ……!ハハ……『アーツ』を使う時に属性が乗るんじゃなくて、キミはデフォルトで水の特性が乗ってる……そんなところ?」

 

 擦り傷が出来た原理は流れる川による風化の現象に近い。拳に密集した『水』の特性のアーツが、そのまま固定されることなく延々と拳を中心として循環し続け、触れたものを削っていく。ラップランドの脇腹に出来た擦り傷はこの効果によって削られたために起きた。

『アーツ』を使用しなくともこの操作技術、この発想力。テオドーロが間違いなく上澄みの強者であることを証明していた。

 

「でも……それだけじゃボクの方が強いかなぁ……?」

 

 パチン。ラップランドがふと指を鳴らした。訝しげに睨むテオドーロだが、すぐに何が起こったか気付く。ラップランド以外の全ての生物・物体にあるアーツが……『抑制』されたのだ。

 

「……上手くアーツが練れねぇ。 お前まさか……アーツを無効化するアーツなのか!」

 

「アハ……アハハハハッ!! ボクが懇切丁寧に教えると思うの? キミみたいにお人好しだと思ったら大間違いだよッ!!」

 

 テオドーロはその身に纏うアーツを柔化させ、相手から与えられる攻撃の勢いを殺すことでダメージを軽減および無効化していた。しかし、ラップランドによってアーツを封じられてしまった今、無防備なテオドーロはラップランドの一撃を防ぐことができなかった。

 

 ラップランドはそれを見逃さず、斬撃ではなく……刺突。表面ではなく内部を破壊するという選択肢を取り、追い詰めようとした。狙ったのは、骨や筋肉の少ない箇所……鳩尾。

 しかし真っ直ぐに伸ばした腕をテオドーロがすかさず膝で蹴り飛したことによってそれは失敗に終わり、あっけなくラップランドの腕はぱきゃっ!と音を立てて折れてしまう。

 

 ぷらぷらとぶら下がって使い物にならない腕を見つめるラップランド。マジで死ぬところだったぜ……と頬に伝う汗を拭うテオドーロ。どちらも譲らない神懸かり的な攻防。

 

「うーん。これは不味いね! 体格差を考えてなかったよ……ボクの貧相な身体じゃあ、キミの攻撃でカンタンにこうなっちゃうんだねぇ……フフ、アハッ。アハハハハハ!」

 

「……イカれてんな、お前。イカれてやがる……が、ははっ!俺も同じ感情だァ!!!!ラップランドォ!!!お前はマジでおもしれぇヤツだ!」

 

「それは光栄だねぇ……!

 ────じゃあさっさと死んでくれるかなぁ!?」

 

 利き腕が使えなくなったのにも関わらず、ラップランドは重心を損なうことなくもう片腕で剣を握って肉薄する。『抑制』されたアーツがまた出力を取り戻したのを確認したテオドーロは、最大出力で拳に全アーツを込めてラップランドめがけ振りかぶった。

 

 ラップランドの眼前、拳が届きそうになったその直前……潰された腕の方で指を鳴らし、また『抑制』を行使した。

 それにより、出力を失ったテオドーロの攻撃は辛うじて耐えられるものとなる。ラップランドは甘んじてそれを受け入れ、脳が揺さぶられる感覚に浸りながらも確実にアーツエネルギーが0になり、必然として防御力も0となったテオドーロの心臓を突き刺した。

 

「まあ……もしこの後ボクが生きてたら、ボクの勝ちっ……か……な」

 

「ハァッ……ハァッ! ゴホッ……グフッ!! マジで……強かったよ。 もし突き刺されたのが『右の胸』じゃなくて……『左の胸』だったら……俺ァ死んでたぜ……!」

 

 ラップランドの敗因は二つ。重心を損なうことはなくとも、力を入れて維持することのできない片腕の重さによってやはり狙いはブレてしまうということ。

 そこに加え、大男であるテオドーロの攻撃によってよろめいた状態では、どう足掻いても心臓に届きうるはずがなかった。

 もしどちらか片方が起きていなかったら、テオドーロの心臓を確かに貫くことができ、ラップランドは負けることはなかっただろう。

 

 ただ、それはテオドーロも痛いほど理解していた。これはあくまで身体的成長の差異による勝敗でしかない。もしもラップランドが同じ年齢で、同じようなシチュエーションで戦っていたら……そもそも腕を折れたかも怪しい。

 戦闘のセンス、『アーツ』の才覚、そしてそれを行使するタイミングと度胸。どれを取ってもテオドーロは負けていた。

 

 これこそが試合に勝って勝負に負けるというやつだろうか。殺し合いという試合には勝ったが、『どちらが強者か』という狂人たちの勝負事……またはゲームとも言い換えてもいい。それには完全に負けた。

 テオドーロはここでラップランドを殺すのは惜しいと考えた。また成長して、殺りあうその日まで……彼女は最高の好敵手になりうると判断した。

 

 だが、その驕り高ぶった判断が彼の身を焦がす。

 

「ねぇ……あたしの友達に……なにをしたの」

 

 今、怒りに吹き荒れる引力が、テオドーロを押し潰さんと睨み唸っていた。

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