ご了承ください
「おいおい、ちゃんと気ィ失わせとけよ……」
テオドーロは浅く突き刺さったラップランドの剣を抜いて、応急処置として傷口にアーツを集中させることで止血した。そもそもテオドーロは実行班ではなく、この拠点を守るトラディトーレの幹部だ。
誰がどんな子供を拐って、そしてどうやって運んだかは詳細に知りもしなかったし訊きもしなかった。
故にこそ、アンジェリーナがここにいる不手際を咎めることも、悪態をつくこともできる。
アンジェリーナは依然としてテオドーロのことをその双眸を涙で潤ませながら睨んでいる。時折、視界の右脇で倒れているラップランドを見て悲痛に歪みながら。
「……ラップランドちゃんに、何をしたのってきいてるの……! 答えてっ!」
子供らしい友情・正義・義憤……友のかたきを討つ動機としては素晴らしいものだが、テオドーロという強さが指標の男には全く響いていなかった。
そんなもので人間の強さを測れるのならばシラクーザにおける都市裁判官はもっと確固たる位置を築けている。そうでないからこそ、このラップランドのような狂った少女やテオドーロのような強敵との戦いに生を見出す気狂いが存在し、『強者』とされるのだ。
自分の哲学に則した結果、心底どうでも良さそうに顛末を話すテオドーロ。
アンジェリーナに彼は食指が動かなかった。なぜならば、彼女は日夜戦いに身を置く『こちら側』などではなく、よくシラクーザにいるただの烏合だったから。
「……こいつとはマジで楽しい殺し合いができたよ。
んで、最高にギリギリの戦いの結果……俺が立ってる。それだけだ。……聞けて満足か?」
だが、その考えは真っ向から覆されることとなる。突如、テオドーロの真下のコンクリートがミシミシと軋みはじめた。木材の床などならば『軋む』という表現は妥当だ。しかし……ここは密度高く固められたコンクリートだぞ!?テオドーロはもう一度アンジェリーナを見やって確信した。
「───食わず嫌いは良くなかったなァ……!!」
「あたしは、あなたをゆるさないっ……! 友達を傷つけたこと……後悔させないと気が済まないっ!!」
アンジェリーナのその宣言と同時、テオドーロは文字通り床に押し潰された。見えない何かに押し潰されているというより……否、これは『自分自身』が自分を押し潰しているっ!
テオドーロはその卓越したアーツ操作技術と渇望する強者への興味によって、アッシュほどではなくてもアーツ解析も得意としていた。
属性系『アーツ』には二種類の特徴が存在する。
一つは、出力した属性系『アーツ』にそのまま残存するアーツエネルギーが残り続けるもの。これはアーツの起こりやアーツの移動先などが読みやすく、防ぎやすい。
もう一つ、こちらの方が厄介なのだが……属性系『アーツ』に消費したアーツエネルギーの形跡・痕跡が全く見られないというものだ。先ほどのラップランドもそうだが、何かの事象を術師がもたらすときどうやってアーツを使ったかどうかが極めてわかりにくい。アンジェリーナの『アーツ』はこれに該当する。
アーツの発生を見切るにしても、ラップランドならば指を鳴らす、アンジェリーナならば対象に手を伸ばさなければならないといった……こういった発動の手助けをする『補助動作』を予め見ておかなければならない。そして、これは全くのブラフであることも考慮しなければ。
動作だけでアーツを発動しないなど術師同士の読み合いではザラにある。
「拐ったガキがこんっっな才能の原石とはなァ! 重量か重力かなんだか知らんが、そこらへんを操作するアーツだろォ!?」
「なんで……なんでそんなに楽しそうなのっ!?
人が傷ついて、死ぬかもしれないんだよっ!?」
「甘ェんだよ嬢ちゃん! んなことを気にして戦ってたら生き延びれるモンも生き延びることができねぇぞ!」
足元に『水』のアーツを集め、地面に向けて放出するテオドーロ。ジェット噴射のように飛ぶテオドーロは未だ重量を増す身体を逆手にとった。自らの足に集中した『水』を意識的にOFFにすることで落下速度を速め、落下攻撃の威力を高めた。
自身は『水』の特性によって落下の直前に衝撃を抑え、しかし重量はそのままであることによって、最重量のトラックが墜落してくるかのような押し潰しを可能にする。咄嗟の思いつきにしてはあまりにも対策が上手い。
アンジェリーナは残念ながらアーツで戦うことにおいて素人だ。身体をアーツの防護膜で守る技術も、はたまた身体強化で撃墜するテオドーロの攻撃を逃げるという発想もない。テオドーロはその才能に驚かされはしたが、戦い方に驚いたわけではなかった。これでは残念ながらアンジェリーナに勝ちの目は薄い。
そう…………アンジェリーナ一人で戦った場合は。
──────パチン。
どこからかまた、指を鳴らす音が聞こえた。
「ッハハ……別にまだ気を失ったなんて……自己申告してないんだけど?」
地面にうつ伏せになりながらも、不敵な笑みを浮かべてテオドーロを嗤うラップランド。彼はラップランドがまだ戦う意志があることに喜びつつ、そして心底面倒だと舌打ちをした。彼女の『アーツ』によって全てが『抑制』され、アンジェリーナの重量操作も、テオドーロの『水』も出力を落としていく。
ラップランドがテオドーロの殴打によって脳震盪を起こし、気絶をしたのは事実ではある。しかし彼女はこのような『おしおき』に慣れていた。サルッツォの長、アルベルトの逆鱗に触れ、施される体罰によって。
ただし意識を取り戻すには少々時間が必要だった。そこでアンジェリーナの登場により、時間を稼いでくれたことによって、ラップランドは目を覚ますことができた。
これにより、戦いは2vs1とアンジェリーナ側の人数有利となる。アンジェリーナの望み薄だった勝利の運命はここから大きく変化することとなる。
「────まだオちてなかったのかよ、えぇ?」
「あぁっ……うぅ〜、ラ、ラップランドちゃんっ! だ、だいじょうぶっ?」
慌てて駆け寄ったアンジェリーナの肩を借りて、息も絶え絶えにテオドーロに相対するラップランド。口に溜まった血を吐き捨て、アンジェリーナに折れた腕の重量を軽くしてもらうことで自分の足で立つことに成功する彼女。
「……うん、まあ……これでなんとかなるかな?」
「ね、ねぇっ……あたしも無事だし……だから……に、にげようっ? 今ならにげられるよ!?」
「……それは、アリかもね。 でも、そうだなぁ……さっきから3時の方向……そこから4歩右側かな。なんだか知ってる雰囲気のするやつが近付いてる気がしない?」
アンジェリーナのおずおずとした提案を流し聞きしながら、身体の調子を確かめるようにジャンプしたり、手を握る開くなどとしているラップランド。
さっきまで死に体だったとは思えないほどのテンションの軽さに呆けているアンジェリーナは「知ってる雰囲気……?」とピンと来ていないようだった。
皮肉なことに、それに遅れて気付いたのはアンジェリーナではなく敵のテオドーロだった。
「……なんだ? 何かが来るッ────!」
突如、トラディトーレの用心棒がアンジェリーナとラップランドの目の前に吹き飛ばされ、横切っていった。いきなりの出来事に目を丸くするアンジェリーナと、「遅かったじゃないか」とニヤけているラップランド。
「────なあ、すぐに連れ戻すって言ってなかったか? なに死にかけてんだおめぇ」
「……いやぁ、ちょっと遊んでたら酷いしっぺ返しをもらっちゃってね? でもご覧よ、アンジェリーナは無事だよ?」
「……なんだ、ちょっと心配して損したわ。死に体にしてはよく回る口だわほんっと!」
用心棒を吹き飛ばしたのは、追跡をしながら彼を追い詰めていたアッシュだった。死に体とラップランドをなじってはいたが、同様にアッシュも中々にボロボロだった。
ここに来るまでに『影を操る』アーツの持ち主である用心棒を一方的に蹂躙していたのではなく、むしろその逆……覚醒した用心棒の『影』の特性を検証しながら戦っていたため、かなり苦戦を強いられながら辿り着いたというのが本当のところである。
「────アンジェリーナっ! どっか怪我してねぇか!?
頭とかくらくらしてないか? 気持ち悪かったらすぐ隅っこで休んどけよ!?」
「……ぷっ。あっはは!あたしは大丈夫だって〜!
アッシュってば心配しすぎだよ〜〜っ!」
「そら心配するに決まってんだろーが! マジで良かったぁ……正直気が気でなかったんだよっ……!」
テオドーロによって逆立ったアンジェリーナの激情を、なんとも緊張感のない態度でほぐしていくアッシュ。
二人が和やかに話しているのを穏やかな表情で眺めているラップランドは、反吐が出るかのような神妙な面持ちのテオドーロに気付く。
「……ボクも、その気持ちにちょっと心あたりがあるよ。
殺し合うのにこういう……『友達ごっこ』って無意味な気がするよね」
「……ああ。そんなのは最高の戦いには不要だ。必要なのは強さを証明する力と、それを更なる高みへと押し上げる狂気。それ以外はカスだ」
散々な物言いに弾けるように高笑いするラップランド、片腕だけで器用に腹を抑えて笑っている彼女は、しばらくして笑いすぎて目尻に残った涙を指で拭って同意した。
「……ッフフ。ボクも正直同意見だよ。 守るものがある人って不自由だしさ、それに雁字搦めって感じでキュークツそうだよねぇ……!
────でも、それも悪くはないとも思うんだけど、そこはキミとは違うかな」
「それほどまでの才能と環境がありながら……腑抜けた感性だぜ。残念だよ、ラップランド……お前は俺の好敵手になれたかもしれねェのに」
「生憎とボクはキミより素敵なお相手を見つけていてね? よかったよ、勝手に失望してくれて!」
いやぁ、『影を操る』アーツの法則性を見つけるのに超苦労した。日が暮れちまったら影ができまくっちまって法則性どうのこうのって話じゃなくなっちまうからさぁ、必死に条件整えまくったよ、マジで必死に。
まずは影と影を行き来できるかもしれないっていう疑問を解消するためにさ、ある程度の間隔で影が点在するロケーションを探したりして。
結論としちゃ元々のアーツ効果範囲の倍かな?だから……100メートルとちょっとくらいだろうね。それくらいの距離で影を行き来できる。うん、普通にチート。
あとはアーツの解釈を拡大したことによって、足元に影がある場所に限り影の人形みたいなのを使役できるみたい。強さはトラディトーレの下っ端よりちょい弱いくらい。
代わりに同時に動かせる数が3体から4体と、ちょいウザい足止め役くらいの感覚。
ただちょっとアーツ操作が雑になったかな。手負いなのもあるだろうけど、新しく得た力の使い方に慣れるのに少し時間がかかってんだろうね。アーツ解析だけで追いやすかった。
で、そんなこんなでトラディトーレの拠点に辿り着いたわけなんだけど……ベンチャー企業とかが頑張って土地を借りた物品倉庫、って感じであれだね。お金……ないんだろうなって。苦労してる人たち見ると少し優しい気持ちになれるよね、今俺はそれです。
そうしたらなにさ!ラップランドは死にかけだし、アンジェリーナは気を失ってないし!しかもあの大男はなんだ?
『アーツ』が無い……?でも独特なアーツをしてる。しかも体内に循環させてるアーツが洗練されてる。淀みがねぇ。
普通に用心棒より強そうなんだけど、ウケる。
ビビりちらかしてる俺を知ってか知らずかラップランドさんは啖呵切っちゃったしさぁーあ?もう戦うしかないじゃん……。あ、トラディトーレの用心棒?おもしろいヤツだったよね。でももう多分敵わないと思う。
「……アイコンタクトで伝えてこないでよ。 あいつのアーツを『抑制』すればいいんでしょ……? ホラ、どうぞ」
「……マッッジでありがとうございます! 次なんか買いたいもんあったら奢らせてください姉御ォ!」
そうっ!なぜならばこちらにはラップランド様の最強アーツ、『アーツを抑制する』アーツがあるから!アーツガチャUR過ぎだろマジでイラつく。それがあったらもう他の能力要らねぇもんね。あとフィジカル育てたら終わりじゃん。
それで済むならあの大男に殺されかけてねぇからそう簡単な世の中じゃないんだろうけど。はぁ、世間は狭いね。
さて『抑制』された可哀想な用心棒くんは実体がそのまま出てきちゃって超困惑!そんなお顔にぼーん!ってダイレクトキックをお見舞い!
……やべ、楽しんでるところアンジェリーナに見られた?あ、器用に片腕でアンジェリーナの目塞いでら。ありがとう本当にラップランド。なんでそういう他者を慮るモラリティあってお前自身にモラリティが無いの?世界ふしぎ発見。
「……狂人、ガッ……!」
「いや、ガキ拐ってるやつらのほうが狂ってるだろ」
もう抵抗する気力もないのによく喋るねぇ〜?そんな安い挑発で手が緩まるほど伊達に人殺してないよ、俺。
もーいっか!つってさくっと殺そうとナイフでぐさり……ってしようとしたら、大男さんが足蹴で軌道ずらしてきやがった。ま、ずっと見守ってくれたりしないですよね。知ってます。
「……ほーん。『アーツ』に使うアーツが特殊な術師っているんだな」
「最近のガキは目敏いやつらが多いのか? それともなんだ、お前らが特別そうってだけか?」
おもしれー。本来消費するだけのアーツエネルギーに属性が伴ってる。こういうやつが例えば店内で戦ったゾル〇ラークみたいな『アーツ』を使ったらそこに属性が上乗せされるのかな?チートってほどじゃないけど、かなり便利だな。
そんで?この感じは……『水』か。攻撃的なイメージが湧かないけど、まあ密度をあげりゃ石も穿つし物量増やせば溺死だってさせられるか。そこはまぁ、使う術師次第?
「アンジェリーナ……頼みがある」
「ふぇっ、あ、あたし!?」
ドラフト指名が来て驚いてるアンジェリーナちゃん。大人しくしてようと静かにしてたのかわいいね♡でも今回はお前の出番だ。ガチで。
「……なんだっけ? テオ……テオジョウロさんじゃないほうの、あいつ。 あいつの重量をすっげー重くしてくれ」
「わ、わかったっ。むっ……えいっ!」
まだ『抑制』が効いてるうちに、用心棒には身動きが取れないようになってもらう。正直こいつ自体にゃ脅威をもう感じないんだけど、足止め役かつ数の多い影人形を相手取りながらこのテオ……なんとかさんと戦うのはまーじでシブい。
「んで、ラップランド。 おめーまだやれる?」
「……誰に言ってるのさ。 もちろん、殺りたくてウズウズしてたところだよ……!ッハハ!」
「うーし。じゃあ俺らもボルテージ上げてくぞ、気合い入れてけェ!!!!」
「……なんだよ、お前もラップランドと同じ……『こちら側』の人間じゃねぇか!!」
まあ、ゲームで言うとこの1面ボス的な?攻略やっていきましょうかねぇ!そしたら用心棒くんは中ボスになんのかな?俺こいつが万全の状態でまた来たら勝てない気がするから中ボスじゃないと思う。うーん、言うなれば、1面裏のボス的な?
アンジェリーナは『重力』という属性を
ラップランドは『抑制』という属性を有していると解釈しています。
唯一無二性の高い『アーツ』は他に類似例がないためにそれ単体が『属性』扱いになります