病気の少女が貰った玩具の電話。それは宝物だった。

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第1話

私は小さい頃からの大切な友達がいる。だが私は彼の顔を知らない。彼は一体どんな顔をしているのだろう。

 

両親は大企業の社長と秘書でいつも家には居なかった。寂しかった私はメイドさんに「遊ぼう!」と声を掛けるが「仕事ですから」と遊んではくれない。自ずと1人で遊ぶ事になり、1人で話す事が増えていった。身体が弱く、手術をしたばかりで学校にも行けず、日々寂しい思いをしていた。

そんな時1人、病室で遊んでいた時だった。テーブルに置かれたおもちゃの電話がチリリン、チリリンと綺麗なベルの音が鳴り響く。私は受話器を上げる。

 

「こんにちは!未来(みらい)ちゃん」

 

「こんにちは…あなたは誰ですか?」

 

一瞬の沈黙の後に電話の向こうで彼は答える。

 

「僕は君のお友達だよ」

 

「私、友達いないよ?もしかして…オレオレ詐欺さんですか?」

 

当時のテレビのニュースで誰かになりすまし、お金を騙し取る悪い人がいると言っていた。彼も友達のふりをする悪い人なのだろうかと未来は考える。すると彼はアハハと笑って答える。

 

「違うよ。そうだね、これから君とお友達になるんだ!」

 

「何で私なの?」

 

「君が1人で寂しそうだったからだよ。僕も君とお話がしてみたくなったんだ」

 

未来は少し考えてからおもちゃの受話器を持ったまま頷く。

 

「わかったわ。友達になってあげる」

 

「良かった。僕は渚(なぎさ)よろしくね。未来ちゃん」

 

それから未来は沢山のお話をした。1人で遊ぶ時はおままごとが好きだとか、パパとママは忙しくてほとんど家にいないとかいっぱい話した。

 

「パパひどいのよ!私が手術の日も来てくれなかったの」

 

「そうだったんだ。ママは来てくれたの?」

 

「ママは来てくれた!でも心配で泣いてたわ」

 

「泣いてくれるお母さん、優しいね」

 

「うん!渚くんのパパとママは?」

 

すると渚は黙る。しばらくの沈黙の後に未来は「もしもし?」と言うが返事は返ってこなかった。

 

しばらくして未来は退院する。その時は父も母も帰って来て祝ってくれた。とても嬉しかった私はすっかりあの時の事を忘れてしまっていた。

 

未来は 学校から帰り、ランドセルを自分の机に降ろすとチリリン、チリリンと電話がなる音がする。未来の部屋に電話はないから辺りを探す。するとおもちゃを入れて置く箱の中からだった。箱を開け出てくるおもちゃの電話、あの時を思い出し電話に出る。

 

「もしもし?」

 

「もしもし?未来ちゃん?退院おめでとう!」

 

「やっぱり渚くんだ!あの時、突然電話切っちゃうんだもん!」

 

受話器向こうで「ごめん、ごめん」と渚が謝る。

 

「学校にも行けるようになったんだね!」

 

「うん。でもあんまり楽しくない…」

 

「どうしてだい?」

 

「皆ガキなんだもん!」

 

 

未来が学校に行き教壇に立つと、皆が好奇の目で見つめてきた。先生が未来の隣に立ち紹介する。

 

「未来ちゃんは身体が悪くて学校に今まで来れませんでした。でも良くなったのでこれから皆と授業を受けます。皆さん仲良くしてあげてくださいね」

 

皆が「はーい」と返事をするが、どうも嫌な感じだ。空いてる席に未来が座ると、隣の男の子が話しかけてくる。

 

「お前、社長の娘なんだって?お金持ちはいいな!学校に来ないでも先生が家に来てくれるんだろ?」

 

未来は怒りが込み上がってくる。好きで家で授業を受けていた訳では無い。未来だって外に遊びに行きたかったし、運動会や遠足だって行きたかったのだ。

 

「そうだけど?そんなに羨ましいなら、あなたもそうすれば?」

 

「は?先生を呼べんのは金持ちだからだろ!」

 

「なら、貧乏なあなたの両親を恨むのね」

 

怒った男の子は席を立ち上がる。それを見た先生は男の子を注意する。

 

「ホームルーム中ですよ!席に着いて下さい!」

 

男の子は乱暴に音を立て席に着き未来を睨む。未来はそんな視線を無視して前を向く。

 

ホームルームが終わり1時間目の授業の準備をしていると隣の男の子が立ち上がり、未来に突っかかってくる。

 

「お前、あんま調子に乗るなよ?」

 

「貴方こそ、早く授業の準備をしたら?貧乏で仕方なく学校で授業を受けるんですもの。ルールを守りなさい」

 

男の子は顔を真っ赤にさせながら怒り狂う。未来の机を手で押し飛ばし、未来に掴みかかる。

 

「許さねえ!」

 

男の子は未来の頭を殴る。突然の衝撃で未来は倒れ込む。顔を上げると男の子は嫌な笑いを浮かべていた。未来は頭に血が上り、立ち上がりざまに男の子の顔に頭突きをする。すると男の子の鼻に当たり鼻血を出し倒れ込む。男の子は「うわぁーん」と泣き出してしまう。立ち上がった未来は先程の男の子と同じ笑みを浮かべてやる。

 

「貴方こそ言葉に気をつけなさい?この貧乏人!」

 

それから教室は騒然となり、1時間目の授業は潰れてしまった。未来はこっぴどく先生に怒られてしまう。正直、授業を受けるのを楽しみにしていた未来はガッカリだった。

 

受話器口から渚が「おー」と声を上げる。

 

「未来ちゃんは身体が弱かったんじゃないの?随分とパワフルになったんだね…」

 

「そうなの!今までが嘘みたいに身体が動くのよ!」

 

未来は笑顔で答える。ただ、直ぐに眉根を落とす。

 

「ただね…その後から隣の席の男子が陰湿な事するようになったのよ。上履きとか教科書を友達と隠すの!美味しい給食にゴミ入れたり酷くない!?だからちょっとずるいけどパパとママの力を借りたわ!」

 

「どうしたんだい…?」

 

渚が受話器向こうで息を飲む。

 

「消えて貰ったわ…」

 

「えっ!?」

 

渚が大きな声を上げる。それに未来はうふふと笑って答える。

 

「パパの会社が男子達の親が働いている会社を買収して、江ノ島に転勤してもらったわ!」

 

「君、本当に小学生かい?ちょっと怖いよ…」

 

「あの子達が悪いのよ!せっかくの学校生活が台無しになる所だったわ!それに江ノ島はいい所よ?たぶん…」

 

受話器向こうで渚がため息を吐く。

 

「君が良いならいいけど、それだと孤立してしまうよ?」

 

「うぅ…」

 

その言葉に未来は口篭る。現に皆からは恐怖の対象として避けられている。噂は尾ヒレがつき、登校初日に隣の席の男の子に難癖をつけ殴り飛ばした挙句に東京湾に沈めたとか、人をゴミのようにしか思っていない怪物で目が合うと消される等の噂が広がっている。

 

「いいもん!渚くんがこれからずっと友達で居てくれるんでしょ?」

 

「ああ、そのつもりだよ。でもせっかく学校に行けたのに…」

 

「うるさいわね!あなたはどうなのよ!友達は他にいるの?」

 

渚は黙る。少し待つが渚は喋らない。

 

「渚くん?」

 

また電話が切れてしまっているようだ。乱暴な事を言って怒らせてしまったのだろうかと少し怖くなる。

それから自分の机の上におもちゃの電話を置くことにした。いつでも渚の電話に出れるようにしたいのだ。

 

それから何日かして机で宿題をやっているとおもちゃの電話が鳴る。未来は急いで電話に出る。

 

「もしもし?渚くん?どうしてこの前また電話を切ったの?」

 

「ごめんね…僕もよく分からないんだ。自分の事を話そうとすると切れてしまう」

 

「私に怒ったからじゃないのね?良かった…」

 

「怒ったりしないよ。未来ちゃんは可愛いね」

 

「可愛くなんか…ないわよ」

 

電話の向こうでうふふと笑う声が聞こえる。未来もつられて笑ってしまう。それから未来はまた渚と話しをたくさんした。アドバイスも貰った。学校でどうすれば友達ができるかとか、面倒な同級生のあしらい方とか色々と話した。

それから渚とは数日おき位で電話をした。渚との話はとても楽しかった。アドバイスに従ったら学校でもチラホラとだが友達も出来た。未来にとって渚は居なくてはならない大切な友人となっていた。

それから数年の時が立ち、中学もそろそろ卒業となる頃だった。未来は大きなお嬢様学園に入学が決まった。そこは全寮制で家を出なくてはならなかった。

流石にその頃にはおもちゃの電話で渚と話すのは余りに奇妙な事だとわかっていた。それでも未来にとっての渚は必要な存在だからと考えないようにしていた。

 

「ただいま」

 

「お帰りなさいませ。お嬢様」

 

学校から帰った未来にメイドがいつもの様に無機質に頭を下げる。そのまま横を通り過ぎ、自分の部屋へ入る。鞄を放り投げ、ベッドへ横になる。今日は渚から電話は掛かってくるだろうか。自分からも掛けられればいいのにと未来は思う。チラリとおもちゃの電話が置かれた机へを見ると電話が無くなっている事に気付く。驚き身体が起き上がる。急いで電話を探す。下に落ちてはいないかと机の下を見るがない。何処にもない。自分のゴミ箱を見るとゴミが無くなっている。メイドが勝手に入って掃除をしたのだと気付き、ドアを蹴破る勢で部屋を出る。急いでキッチンにいるメイドに声を掛ける。

 

「貴女、私の部屋に入ったわね?」

 

メイドが無機質にまた頭を下げる。

 

「はい、お嬢様。学園に行く支度を僭越ながらさせて頂きました」

 

「は?勝手に入らないように言っていたよね?それに学園に持っていく物は既に準備しているわ!」

 

「はい、お嬢様。しかし、学園に相応しくない物をお持ちになろうとされていましたよね?」

 

メイドが無機質で残酷な顔をする。

 

「あんなおもちゃで1人お喋りをしていては貴女のお父様とお母様を悲しませます」

 

未来は腹が煮えくり返るような怒りを覚える。最近は渚に言われて、自分の怒りを抑える努力をしていた。だが今回は…

 

「それで…?電話は何処にやったの?」

 

「あんな小汚いものは捨てました」

 

その瞬間、未来はメイドの頬を思い切り引っ叩く。メイドは「きゃ」っと声を上げて倒れる。

 

「何処に捨てたかいいなさい」

 

メイドは頬を抑えながら未来を見上げ睨む。

 

「私は悪くありません!あんなもので1人で喋っている貴女が悪いんです!貴女は病気です!」

 

その言葉で未来はメイドの顔を蹴り飛ばす。

 

「何処に捨てたか聞いてるの…早く言いなさい…」

 

涙を流しながら嗚咽を漏らすメイドの髪を引っ張り、頭を持ち上げる。

 

「痛い!痛い!離してっ!」

 

「離して欲しければ、早く言いなさい」

 

「ゴミ処理施設の人に…直接渡しました…」

 

それを聞いた未来はメイドの髪を離す。メイドの頭が床に当たりゴンと鈍い音がする。それからメイドは動かなくなるが未来は気にせず家を飛び出す。急いでタクシーを捕まえて、ゴミ処理施設へと向かう。

 

「嬢ちゃん!大丈夫かい!?そんなに泣いてどうしたんだい!?」

 

タクシーの運転手が心配そうにミラーを覗いている。

 

「大丈夫です。急いで下さい」

 

私は涙を拭き、窓の外を眺める。私は病気なのだろうか。イマジナリーフレンド、幼少期に寂しい思いをしていたりすると架空の友人を作り出す事があるらしい。私はあの頃とても寂しい思いをしていた。確かに渚の声は受話器の向こうから聞こえるし、電話のベルも鳴っている。だがそれは私が生み出した幻影に過ぎないのだろうか。考えなかった訳では無い。自分がイマジナリーフレンドを生み出してしまっているのではないかと、でも怖かった。そうだとわかってしまったら渚に会えなくなってしまう。いつも私を支えてくれた渚に直接会ってお礼を言いたかった。そして、渚にこの気持ちを伝えたかった。

 

「着いたよ。嬢ちゃん!」

 

私は財布から数枚の万札を取り出して運転手に渡し降りる。

 

「多すぎるよ!嬢ちゃんっ!」

 

後ろでタクシーの運転手が叫んでいるが未来は走る。ゴミ処理施設の職員が居るであろう事務所に入っていく。

 

「どうなさいましたか?」

 

初老の職員が奥からのそのそやって来る。未来は堰を切ったように喋り出す。

 

「今朝、女性がここにおもちゃの電話を持ち込みませんでしたか!?とても大切な物なんです!」

 

職員が「ああ!」と声を上げる。

 

「確かに持ち込まれましたよ。無表情にメイド服を着てるから凄く目立ってたね」

 

「電話はどうなりましたかっ!?」

 

職員のゆっくりとした口ぶりに未来は急き立てる様に聞く。

 

「ちゃんとありますよ。ああいうのは大抵訳ありですからね。直ぐに処分したりはしないんですよ」

 

その言葉に未来は安堵し、座り込んでしまう。また頬に涙が伝う。

 

「良かった…良かったよ…」

 

「大丈夫ですか!?今持ってこさせるのでお待ちくださいね!」

 

職員さんが慌てて未来を椅子に座らせてくれる。直ぐに私のおもちゃの電話を若い職員が持って来て渡してくれる。

 

「とても大事な物なんですね」

 

「はい、親が私に買ってくれた物なんです」

 

親が忙しい中で小さな私に買って来てくれた物だ。忙しい父は「これでお父さんとお母さんに電話を掛けてきなさい」と言い渡してくれた。それがとても嬉しくて私は毎日、毎日、パパとママに電話を掛けた。おもちゃだから本当にかかる訳ではなかったが、それでも確かに繋がっている気がした。

病気を治す為に入院した時もこの電話だけは持って行った。1人で寂しくてもこれがあれば安心できた。

手術当日に父は来れなかったが母は来てくれた。母は悲しそうに泣いていた。とても難しい手術だったが、それでも世界一の名医のお陰で成功する。

私の回復力は目を見張る程で退院を数日後に控えた頃にこの電話が鳴った。私の大切な人からの電話。

 

私がおもちゃの電話を持って家に帰ると両親が帰って来ていた。メイドが事情を話して親を呼んだのだろう。メイドが顔にシップを貼ってこちらを勝ち誇った様な顔で睨んでいる。

 

「未来!?一体どういう事なの!?」

 

ママが取り乱した様な顔をする。パパは隣で黙っている。するとメイドが口を開く。

 

「お嬢様は私に暴力を振るいました。彼女は病気です!あんなおもちゃの電話で1人で喋っているような子です!直ぐに病院に入院させるべきです!」

 

病気だった頃の私に向けていた心配そうなの目をママは向けてくる。私は内心面倒くさくなる。自分でもわからないのだから、渚は私のイマジナリーフレンドかどうか。そこで初めてパパは口を開く。

 

「あれは昔、私が未来にプレゼントしたものだ。それを君は勝手に捨てたのかね?」

 

パパの鋭い目がメイドを見やる。メイドが一瞬、怯むが言い返す。

 

「確かに何の断りもしないまま捨てたのはよくありませんでした。しかし、このまま彼女にあんな事をさせておけば学園で変な噂が広がります。学園には政界や大企業の令嬢がいらっしゃいます。そうなれば旦那様や奥様の会社にも影響が出かねません」

 

パパはメイドを睨んだまま答える。

 

「私はあれをプレゼントする時にこれでお父さんとお母さんに電話を掛けなさいと言ったんだ。それをしていた娘は何も悪くないだろう。悪いのは私という事になるのかな?」

 

メイドが黙りこくるが私は口を開く。

 

「パパ、ママごめんなさい。本当はそのメイドが言うようにたぶん私、病気…」

 

両親が未来に向き直り、目を見開く。

 

「手術が成功した後から電話がなる様になったの。それに出ると男の人が出るんだ」

 

ママが口を抑えて哀れみとも悲しみとも取れる目を向ける。正直辛い。または2人を悲しませる事になる。メイドが薄ら笑みを浮かべる。

 

「ほらやっぱりそうでした!ずっと部屋に篭ってぶつくさ言っておられましたからね!イマジナリーフレンドってヤツですよ!気持ち悪い…」

 

「渚は…!そんなんじゃ…ない…」

 

未来は全力で否定したかったが声はどんどんと小さくなる。それを聞いた両親は驚き聞き返す。

 

「今、何て言った未来?」

 

すると突然チリリン、チリリンとおもちゃの電話が部屋に鳴り響く。未来の手の中で鳴り響くそれを両親とメイドは息を飲み見つめる。恐る恐る未来が受話器を取る。

 

「もしもし、渚?」

 

「未来?少し耳を離しといてくれるかな?」

 

未来が耳を離すと受話器から皆に聞こえる程の渚の声が響き渡る。

 

「こんにちは、未来のお母様とお父様、それとメイドさん…」

 

3人の顔が引き攣り固まる。だがそんな事はお構い無しに渚は続ける。

 

「まず僕は未来のイマジナリーフレンドでは無いので安心してください。もしかしたらご両親はもう気づいていらっしゃいますかね?」

 

パパが頷く。

 

「やはり、そうだったか…君には何と言っていいものか…お礼を言うべきなのか…」

 

「いえ、いいんです。私も未来さんの為になれて本当に良かった!」

 

パパは頭を下げ涙を流す。

 

「ありがとう…」

 

私は泣くパパを初めて見た。一体どういう事なのだろう。パパは渚の事を知ってるようだ。その会話にメイドは震えている。

 

「やあ、メイドさん君の事はよく知ってるよ。まだ幼い未来の事をほっといた張本人。両親が居ないことをいい事に未来の事は何もしないクソ野郎だ。それだけじゃ飽き足らず、両親から未来の為に使う様に渡されているお金は全部私利私欲で使ってしまったね?」

 

メイドが歯の音を鳴らし首を横に振る。

 

「嘘はいけないな。通帳を見れば直ぐにわかるよ?」

目の前に通帳が落ちてくる。それを急いでメイドは取ろうとするが、先にパパが取る。ペラペラとめくり怒りの形相をメイドに向ける。

 

「これは娘が学園で使う為のお金だ。君から渡すように言っておいたはずだが?」

 

「これは…そう…!彼女が全部使ってしまったんです!私は止めましたが遊ぶ為に全部使ってしまったんです!」

 

メイドは血走った目で未来を指さす。

 

「は?マジであんた終わってる…」

 

「やれやれ。未来から話は聞いていたけど、本当にゴミみたいな奴だね」

 

パパはスマホで電話を掛ける。すると直ぐに黒服を着たガタイのいい男達がやって来てメイドを引きづるように連れていく。

 

「私は悪くない!あいつがあいつが全部使ったのよっ!」

 

メイドが居なくなり、父がため息をつく。

 

「すまなかった。私が無能なばかりに未来には辛い思いをさせたね…」

 

未来はそんな事はもうどうでもよかった。パパがどうして渚を知っていたのかが知りたかった。知っているのなら会って直接喋りたかった。

 

「パパは渚が何処に居るか知ってるの!?」

 

「渚くんは…未来のドナー提供者だよ…」

 

「え…?」

 

「彼はバイクを運転していたら、飲酒運転のトラックと接触し脳死した。だが彼の心臓は無事だった。未来との適合率は完璧だったんだ」

 

未来の視界がどんどん暗くなっていく。パパの声が遠くから聞こえてくる。渚は既に死んでいる。もう直接会うことは出来ない。ではこの気持ちはどうなるのだろう。私の初めての…

 

「未来、そんな顔をしないでよ。僕は君の中で生きているんだ。こうして話だって出来た。これまでの人生で1番幸せな時間だったよ」

 

「私だって…貴方と話す時が1番大事な時間で…どうして…こんな…」

 

「うん。こんな形で会うんじゃなくて、もっと別の出会い方だったら少し違ったかもしれないね」

 

「だって私、会って直接お礼が言いたかったよ…貴方のアドバイスで友達も出来た。怒って人を傷付ける様なこともしなくなった。それに私、貴方の事が…」

 

渚は未来の言葉を遮るように喋る。

 

「おや、ごめんね…電波が悪いみたいだ。きっとこれで最後だ!さよなら未来…」

 

おもちゃの電話は喋らなくなる。もう二度とベルは鳴る事はない。未来はそう感じた。

 

 

卒業式の後に花を持って未来はある場所に来る。そこには白石 渚と書かれた墓石がある。花を飾り、線香を焚く。静かにゆっくりと煙が上へと上がる。天にも届きそうなその白い線は彼へと繋いでくれるだろうか。胸に手を当て彼の温もりを感じ、未来はおもちゃの受話器を持ち上げ耳へと当てる。

 

「もしもし、渚?私ね…貴方の事が大好きなんだ!」

 

何も答えは返ってこない受話器を戻し、渚の墓の前に置く。ゆっくりと元来た道を帰っていく。するとさっき契約したばかりの携帯が鳴る。未来は電話に出る。

「もしもし?」

 

おしまい


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