BanG_Dream! 前へ‼︎My Way!!!! 作:&Makoto
「人間になりたいとか、迷子とか、一生、とか言葉が重すぎます。もっと明るい物語にしませんか?」
「信じて、この物語は明るいですよ」
花というものは、印象に残りやすい。
少し真面目に言えば、人間の五感に伝わりやすいから、だろう。
視覚、嗅覚、触覚、複数の感覚を同時に刺激されると、脳に強く記憶されるらしい。
しかも花は、とりわけ記憶の中に残りやすく、いくつもの記憶を呼び起こす特別な存在でもある。
物としての記憶と、場面としての記憶。 それらが同時に残ることで、情報は一気に流れ込んでくる。
たとえば桜。ピンク色という「物」としての記憶に加え、春という季節、そして始まりの時期という場面としての記憶が重なる。
そこに感情が混ざることで、出来事は丸ごと刻み込まれる。 そうして強い衝撃を受けた記憶は、どれほど奥底に埋もれていたとしても、ふとした瞬間にまるで蘇るかのように鮮明に思い出される。
ドルチェ&ガッバーナの香水で君を思い出す。
ずいぶん前によく聞いたフレーズだ。
プルースト効果。まさに、それだ。
キンモクセイの花をご存知だろうか。
秋を代表する花として親しまれ、甘くフルーティーな香りが特徴の、小さなオレンジ色の花。 その香りは遠くまで漂い、秋の訪れを告げるものとして知られている。
開花期間は一週間ほどと短い。 強い香りで秋を知らせたかと思えば、いつの間にか、香りごと消えてしまう。
思い出だけを残して、日常からあっさりと消える。
別れの季節と呼ばれる秋と、強く結びつく花である。
そんな、キンモクセイのような出来事。
あるいは、キンモクセイのように、思い出だけを残して綺麗さっぱり消えていくような。
客観ではない、もっと主観的な
散る花びらのように。
なんてことのない、本屋の雑誌コーナーに置かれた音楽特集誌。
ページをめくれば、こういった見出しが並ぶ。 天性のリズム感を持つ子供 未来の歌姫候補 天才ギタリスト小学生。などなど。
小学生で大人並みの表現力!?。
いま注目のバンド!!。
よくある、少し誇張された見開き。そこには、まだ小学生ほどの子供が載っている。
誰が最初に言い始めたのかは分からない。 勝手に投稿されたSNSの動画がきっかけかもしれないし、親かもしれない。知人や、学校の先生かもしれない。
だが、多くの業界人は口を揃える。 この子たちは天才だ、と。
天才。怪物。音に愛された子。
けれど、当の本人たちは、ただ音楽を楽しみたかっただけなのかもしれない。
だって、「音を楽しむ」と書いて音楽なのだから。
音を鳴らせば、それはもう音楽だ。 風呂場から聞こえる鼻歌も、机を適当に叩く音も、帰り道の足音もすべて音楽になり得る。
音楽は自由だ。
自由だからこそ、時に残酷だ。
自由は平等だ。
だが横一列に並んだところで、上下の差が消えるわけではない。
つまり、称賛される者もいれば、心をへし折られる者もいる。
目に焼き付いて、脳内で何度も再生される。 自分たちが数年間積み重ねてきた努力が、無意味だったかのように突きつけられる。
井の中の蛙か。お山の大将か。
そんなつもりなど、なかったはずなのに。
それでも、それが現実として降りかかる。
この光景は、決して忘れられない。
音楽を楽しみたかった。
それだけだった。
だから、音楽をやめた。
「んー……君、誰だっけ?」
「え、忘れた…の?」
──────────
私、千早愛音は現在、とある新宿のライブハウスに来ています。
同じクラスメイトの子とバンドをすることになったからには、やっぱり一度は場の雰囲気を味わっておくべきだと思って。
事前リサーチは完璧。 なんでも今回のライブは、SNSで話題のバンドが多く出演するらしい。一言で言うなら、ロック。 そうロックとソウルを感じに、千早愛音はここへ来たのだ。
フンッ、と気合いを入れて扉を開ける。
そこに広がっていたのは、先日知り合いと訪れたライブハウスとは対照的な空間だった。
「前の場所はもっとシックな感じだったけど、ここは……なんかディープ? 、正直…場違いかも」
RiNGとは違い、ここには歴史が染みついている。
(うぅ……誰か誘ってくればよかったなぁ。友達連れてきたら通っぽいって思われそうだし)
少し怖い。でも、それがむしろ興奮に変わっていく。
そんな浮ついた気持ちを悟られないよう、さりげなく周囲を見渡すと、意外にも普通の人が多い。
(もっと尖った人ばかりかと思ってたのに)
年季の入ったポスターを眺めながら、少しずつこの空気に慣れてきた頃。
入口のほうが、僅かに騒がしいことに気づいた。
(ちょっと、なに~……喧嘩とかやめてよ)
それでも、気になってしまうのが人間というもの。
恐る恐る人混みの隙間から覗き込むと、その中心には二人組の男の子がいた。
1人は、いかにもバンドマンといった風貌だった。
それに、なんというか、チャラい。
服装、髪型、全体的に軽い。 夏の海でヒップホップを流しながらBBQをしているようなタイプではなく、私立の進学校に一人か二人はいるような、あの手のチャラさだ。
そして、もう一人は。
(あれ?…見覚えがあるような。というか、2人ともどこかで…)
学校ではない。
近所でもない気がする。
(んー……どこだっけなぁ)
記憶を掘り起こすように遡ってみても、いまいちピンとこない。
お気に入りの服をしまった場所を忘れて、引き出しを片っ端から開けているような感覚。
そもそも、会話した記憶がない。
「おい見ろよ、
人込みの中で聞こえてくる名前。
聞き覚えはある。
(葉加瀬…達郎…。…あっ、SNSで見た人!)
数日前にSNSでみた。今回のライブで演奏する注目バンドのひとつ、そこでベースを担当している人だ。
派手な見た目とは裏腹に、精密で丁寧な演奏、荒々しさとは対極にある、オーケストラのようにバンドのリズムを支える。
ハード、パンク、ポップ、フォーク、オルタナティヴと、どんなロックスタイルにも正確無比に対応してみせ、そのバンドの音に溶け込んでしまう技術力から失敗しないベーシストと界隈では人気らしい。
(確か同じ世代らしいんだよね、一部の界隈で人気者って職人みたいな感じでいいなぁ~。じゃあ…その一緒にいる人は…)
若干、蚊帳の外状態になっているもう一名の方に目を向けると、タイミング良く向こうと目が合う。
というより。
(え、めっちゃこっち見てるんだけど)
なにその眼差し。憂いなのか期待なのかわからない。
とりあえず千早愛音は
関わらないほうがいい。そう判断して人混みを離れようとした、そのとき。
「もしかして俺の友達でしょうか!?」
(なんでついてきたの!?)
脳内で悲痛な叫びをあげるが、状況は変わらない。
「いや本当参っちゃうよ、完全に蚊帳の外なんだもん。ボールが全然こない鳥かごしている気分だったぜ…、でもこうやってさ誰かがみててくれるんだよね、ありがとうマイフレンド」
(すごいしゃべるな、この人)
「いやー、あの、人違いじゃないでしょうか?。私、初めまして…ですけど」
「そうなの?。じゃあ…ファンとか?」
「違います」
「じゃあファンにならない?」
「嫌です」
「恐ろしくはやい即答、俺でも傷つくね」
男の子はダンゴムシのように蹲ってしまった。
なんなのこの人…。と内心引きつつ、何故か可哀そうに思ってしまった千早愛音は、しゃがみ込んでダンゴムシに声をかける。
「えっとぉ…貴方、名前は?」
「よくぞ聞いてくれました!、アイアム
(高低差激しい、シンドイ…)
「そうなんだーよろしくねー」
蹲っていたかと思うと今度は地中から飛び出たタケノコの如く勢いで立ち上がった。
もうライブハウスの場の雰囲気が台無しである、でも言葉では言い表せないが、千早愛音は乙成操一に妙な親しみやすさを感じていた。
「乙成君も今日は演奏するの?」
「しないしないやったこともないし。バンドとか楽しくなさそうだしさ、なんかすぐ人間関係拗れそうだし、俺さ平和主義者だからね」
「あーなんか凄い心当たりが…。方向性の違いって言うのかなぁ」
「バンドマンって新宿とか下北沢のライブハウス近くのコンビニでギターケース背負って黄昏れているだけじゃないんだよな」
「偏見が過ぎる…、怒られるよ。」
確かにここに向かう途中いたけど。と千早愛音は近くのコンビニの前で電子タバコをふかしている数人のグループを見かけたことを思い出した。
「本当はここに来たくもなかったんだから!、動物園とか水族館とか癒しがある空間に行きたかったです自分。でもさタっちゃんがさ…」
「タっちゃん?」
千早愛音がタっちゃんなる人物について疑問を浮かべたのとほぼ同時に、その答えは向こうから近づいてきた。
ギターケースを背負い、先ほどまで向こう側の中心にいた人物
「ソーイチの友達ですか?」
「そうなんだよね」
「違います」
あ、萎んでった。としなしなと丸くなっていく男の子を呆れ顔で見下ろしながら、千早愛音はこちらに近づいてくる男の子、葉加瀬達郎を見上げる。
背たっかっ!と若干の威圧感を感じた、女子校にいると成長期の男子の身長差に驚くのだ。
「どうしましたソーイチ?、まぁ…置いておきましょう。すると…じゃあ貴方は今日のライブを見に来たんですかね?」
(あれ、なんかこの人…)
「その予定です、この乙成君とはさっきそこでお喋りをしたというか、絡まれたというか、アハハ…」
「そうでしたか、うちの知人がご迷惑をおかけしてすいません。この通りバカなものでして…。さて、今日はライブにお客さんとして来てくれてありがとうございます、ご期待に応えられるように頑張りますね」
(見た目と合わなさ過ぎる!!!!)
「ギャップ!!!」
「え?」
詐欺師みたいな見た目なのに行動が紳士。というギャップに思わず反応してしまう。
しかし、詐欺師は基本的に表面上の性格は紳士的なので寧ろ更に胡散臭さが滲み出てくるが
気にしないでください。と首を横に振り話題を戻す。
「タっちゃんこうみえて、堅物だから。学校生活も真面目だし、学習塾通ってるし、ペットの犬の散歩とか毎日してるし、バイトもして貯金してるし、夏休みの宿題とか前半でしっかり終わらせるタイプだよこれは」
いつの間にか復活した乙成操一は葉加瀬達郎を指さし語る。
「丁寧な生活が心地良いだけですよ。それに夏休みの宿題とか復習みたいなものなんだから出来て当たり前、すぐ終わらせた方が予定の調整もしやすいですし」
人は見かけによらない。その言葉にピッタリな人物だと感じるが、逆に千早愛音から見てこの2人の組み合わせが謎すぎる。
「それより!!、タっちゃんさ、女の子を紹介してくれるって言うから一緒に来たのに何処にもいないじゃん、この子違うって言うし…傷ついちまったよ俺は!」
(私が悪いの!??)
「ん?。あー…女の子もいるよって言っただけで紹介するよとは一言も言ってないですよ。最近はガールズバンドブームの影響で女性の方の利用が増えているのは事実ですけど」
「なんですとッ!!?、俺のバラ色の生活は!?」
「ここで見つけられるといいですね」
「騙されたッ!!。俺は女の子の前だと緊張してうまく喋れなくなっちまうんだよ!そこんとこ助けてよ!!よろしく頼むぜ本当さ!!」
「他力本願ダサい」
ドサッと腰を落として、そう訴えかける目の前に男の子に対して呆れ顔になってしまう。
自分も女の子なんだけど。というツッコミすら言う機会を逃してしまった。
言ったらなんかめんどくさそうなので、千早愛音はとりあえずスルーすることに。
「そういえば、貴方のお名前は?」
「あ、千早愛音です。そちらは葉加瀬達郎さんで合ってますよね?」
「はい。よろしくお願いします、千早さん」
慣れたものだと言わんばかりの相方スルー。
葉加瀬達郎に名前を聞かれたので、千早愛音も軽く自己紹介をおこなう。
内心、話題の人物と知り合いになったことにガッツポーズをし、明日にでもクラスメイトに自慢するのが今から楽しみという気持ちだ。
「でー、貴方は乙成操一さんね。よろしく」
「はい、ヨロシクオネシャス」
「ちょっと今さら緊張しないでよ」
もしかして、先ほどまで女の子扱いされてなかった?という疑問については触れないでおくことに。
「ソーイチとは幼馴染なんです。前は一緒にバンドを組んで活動もしてましたし」
「え!?乙成君もバンドやってたの?、あれ…でも、確かやったことないって言ってたような…?」
千早愛音は記憶力が良い方である。
さきほどの乙成操一との会話を思い出してみる。
(―――乙成君も今日は演奏するの?)
(―――しないしないやったこともないし―)
(うん、言ってた)
千早愛音の話しを聞いた葉加瀬達郎は少し表情を崩した困った顔を浮かべ、そのまま顔を傾ける。
言うべきか言わないべきか、言葉を選んでいるような雰囲気で隣の乙成操一に視線を向けた。
それを察したのか、とくに気にしている素振りもなく、平然とした態度で乙成操一は口を開いた。
「そうそう。じつはさ俺って記憶喪失らしいのよ」
「…はい?」
私、千早愛音のリアクションを想定していたように、葉加瀬君は何処か悟りでも開いた目で、ため息混じりの笑い声をあげている。
っていうか、もっと気にしなさいよ!!
音楽とはなにか?
その答えはーー
完璧なんてつまらない、欠けているからこそ美しい。
〈 フレディ・マーキュリー 〉