「フェルン…また当てちゃった…」
フリーレン様がしょんぼりした顔でこちらを見てくる。
「はぁ…」
思わずため息をついてしまった。これで今日14回目だ。
私は仕方なく二塁を離れ、マウンドへ向かう。
「フリーレン様、さすがに当てすぎです。シュタルク様は真ん中に構えているじゃないですか。何故すべて頭の方に行くのですか?」
「昔から苦手なんだよね…魔力探知とストライクゾーンに投げるの…」
フリーレン様は恥ずかしそうに指を擦り合わせながら言う。
フリーレン様はとてつもない投手だ。躍動感のあるフォーム、美しくしなる腕、華奢な身体からは想像できない球速。
そして…異次元のコントロールの悪さ。死球率は16.85。
1試合にデッドボール17回の計算だ。
見かねた捕手のシュタルク様がマウンドへ向かってくる。
「フリーレン、打たれてもいいからストライク入れようぜ」
シュタルク様の声掛けにフリーレン様は不満そうな顔をする。
「それくらいわかってるよ…でも、なんかずっぽ抜けちゃうし…」
「ですが…ここまでぶつけれるならば魔族にも通用しそうですね…」
冗談気味に言うとフリーレン様とシュタルク様は同時に私の顔を見る。
「「それだ!」」
〜2日後〜
私は何故かグラウンドにいる。
どうやらフリーレン様は私の冗談を真に受け、本当に魔族をデッドボールで葬ろうとしているのだ。
「久しぶりだねアウラ」
「そうねぇ…80年ぶりかしら」
試合前、フリーレン様と断頭台のアウラが一触即発状態になっていた。
「野球で魔族を倒すなんて…どうしてそんな回りくどいことをするの?前に戦った時は派手に魔法で吹き飛ばしていたじゃない」
アウラの挑発的な問いにフリーレン様は苦笑じみた顔を浮かべる。
「あとでヒンメルに怒られたんだよ…」
「なら益々こんなことをする必要ないでしょ?」
フリーレン様の動きがピタッと止まる。
「どうして?」
「ヒンメルはもういないじゃない」
悪気なく言うアウラの発言に
フリーレン様が拳をキュッと
握るのが見えた。
「…よかった。やっぱりお前達魔族は化け物だ。容赦なくぶつけられる。」
表情こそ変わらないものの、フリーレン様から感じるおぞましいほどの殺気に私まで身がすくんでしまった。
「あの…フェルンさん、あの二人どうにかできない…?」
シュタルク様が不安げな顔で私に尋ねてくる。
「それは無理です…。今邪魔したらフリーレン様に殺されます。」
なんやかんやありつつ、球審のゼーリエ様のプレイボールの宣告と共に試合が開始した。
「1番、れふと、ドラート(野球に興味無さそうなウグイス嬢、ゼンゼのコール)」
名前が宣告されると少年の姿をした魔族が打席に立つ。
「断頭台のアウラが配下、好球打ち役人の1人、ドラートだ。
お前を打ちに来た。」
魔族はマウンドにいるフリーレン様に宣言する。
「そう…言っておくけど私、強いよ」
「俺よりもか…?」
問いに対し、フリーレン様は
ほんの少しだけ笑う。
「断頭台のアウラよりも」
フリーレン様が初球を投げる。
カーーーン!
快音が聞こえる。
魔族の打球はポールギリギリで切れ、ファウルが宣告される。
「魔力での打撃か…面白い魔法だ。」
フリーレン様は焦る様子もなく冷静に分析する。
「コースギリギリに投げてスタンドインを防いだか…だが、俺のバットコントロールは魔族の中でも随一だ。ボールごと、お前のメンタルをへし折ってやろう。」
「…この程度で勝利を確信か…最近の魔族は駄目だね。試合経験が無さすぎる。」
勝ち気になっている魔族に対し、フリーレン様が小さく呟くのが聞こえた。
次の瞬間、フリーレン様は2球目を投げた。
ボールは魔族の身体スレスレに飛んでいく。
「…っ!コイツ、俺の胸元に…!」
焦る魔族もお構い無しにフリーレン様は3球目を投げる。
「待て…!話を…!」
何か言いかけた少年の姿の魔族だったが、ボールが頭部に直撃し、身体が崩壊する。
「まずは一匹」
フリーレン様はアウトカウントを伝えるように人差し指を立て、私達に見せる。
「2番、せかんど、リーニエ(野球に興味無さそうなダウナー系ウグイス嬢、ゼンゼのコール)」
シュタルク様に閃天撃くらってそうな少女の姿をした魔族が出てくる。
「私は三塁手、藤村富美男のフォームを模倣できる」
「?」
「?」
魔族は得意げに言うが私は藤村なる者が誰か分からない。
シュタルク様も同じようだ。
ポカンとアホ面を晒してる。
「リーニエ、この子達10代だから戦前の選手なんて知ってないよ。」
フリーレン様が冷静に言い放つ。
「…!」
よく分からないが魔族はショックを受けたようだ。
ゴン…と鈍い音と共に身体に
ボールが直撃し、少女の姿の魔族は絶命する。
「3番、ぴっちゃー、アウラ(野球に興味無さそうなダウナー系ウグイス嬢、ゼンゼの低音ボイスでのコール)」
ついに宿敵、アウラが登場した。
「フリーレン、あなたはデッドボールを武器にしている投手が自分だけだと思っているの?」
「…どういうこと?」
フリーレン様の問いに対し、
アウラは不敵な笑みを浮かべる。
「どうして私が投手をやっていると思う?…そう、あなたと同じよフリーレン。私もデッドボールで数多くの戦士を仕留めてきたわ。」
高らかに言うと共に、どこからともなく天秤を出す。
「《与死球数が多いほうが服従させる魔法(アゼリューゼ)》」
魔法の宣言とともにアウラとフリーレン様、双方の魂が天秤に乗せられる。
ギィ…ギィ…
天秤が音を立てながら傾き始める。
勝負は意外にも呆気なかった。
一瞬でフリーレン様の方に傾いたのだ。
「な……!」
アウラは先ほどまでの威勢が消え失せ、わなわなと震えだす。
「ふ…ふざけるな…私は年間500与死球の大投手だ…!」
狼狽する彼奴を前にフリーレン様は冷徹に、非情に返答する。
「アウラ、お前の前にいるのは……年間1000与死球の投手だ」
その言葉を聞き、ぺたりと座り込んでしまった。
「アウラ…自打球しろ」
フリーレン様が命令をすると
アウラの手から天秤が落ち、ガシャンと音が鳴る。
フリーレン様は立て続けにアウラの頭目掛けて投球する。
「ありえないっ…!この…私が…!」
悲痛に満ちた表情で惨めったらしくボロボロ涙を零しながら
アウラは操られたようにボールを振り抜く。
その打球は自らの頭に直撃し、アウラはくたばった。
略
「四番、しょーと、リュグナー(野球に興味無さそうなダウナー系低身長お姉さんウグイス嬢、ゼンゼの低音ボイスでのコール)」
私にゾルトラークぶちかまされてそうな青年の姿の魔族が打席に立つ。
「…なぜだろう、私は昔、お前から死球を受けた記憶がある。」
「そうだっけ?」
フリーレン様は自覚がないようだ。
するとやがて、魔族の表情が険しいものとなる。
「そうか…思い出した…!
卑怯者め、お前は投手の風上にも置けない…!」
魔族は苦虫を噛み潰したような顔で吐き捨てる。
「人類のデッドボールの研究解析に大きく貢献し、歴史上で最も多く死球で魔族を葬った投手、暴投のフリーレン。私の嫌いな天才だ…。」