「…わ、私。いや、俺の名前は
他人の体の中にいるというあんまりな事態に、つい一人称が女性に引っ張られてしまった。
自分の喉から出る、前世?のときよりも更に透明度の増した「女」の声。
ズキン
――ああ、またなのか。
命を捨ててまで手放したはずの「女」という呪いが、再び
私は自分の肉体を好きだと思ったことは一度もなかった。
自分の肉体に女性としての魅力を感じたこともない。
体が男としての自分を閉じ込める檻として機能していたからだ。
遊んでいて楽しいのも、話していて楽しいのも男の子だった。
カードゲームや仮面ヒーローだって当たり前に大好きだった。
でも世界、社会は個性を「エラー」と見なして矯正しようとしてくる。
だから、私は誰かに自分を否定されないようにするために、自分を否定するしかなかった。
おままごとではお母さんになりたいと嘘をつき、
学芸会ではうさぎさんになりたいとヒーロー役を譲った。
女の子の友達ができた時はかっこつけたい気持ちを押し殺し、
愚痴ノートがクラス女子の間に出回った時も、決定的なズレを自覚しつつ無理して共感を装った。
そして――大好きな、ずっと一緒にいたいと思っていた親友の男の子に告白された時、吐き気を覚えた自分を呪った。
恐らくあの瞬間が人生で女であったことを強く後悔した最初の出来事であり、
その後、親友が私の初恋の女子と付き合うことになった時には、もう自分にとっての「異常」に蓋をするのは不可能になっていたように思う。
たまたま家族も、友人も、誰一人として私の周りには私の在り方を肯定してくれる存在がいなかった、ただそれだけ。
でも、それだけのことでも私が壊れてしまうには十分すぎるほどの衝撃だったんだ。
私は自分だけしか狂っていない「狂った世界」で自分を殺し続けることでしか存在を肯定出来ない。
どんなに容姿を男性に近づけて多くの人と交流しても、一番理解してほしい人に「異常」を受け入れるという概念が存在しなかったことが、常に人生に飢餓感を与えてきた。
だからこそ、このいびつな人生を手放すという思考にたどり着く他なかったのだ。
「...ふ、ふふ。」
顔を伏せ、桜色の透き通るようなツインテールとその豊満な体をふるふると震わせる、私とそっくりな容姿の女性。
そして、鏡に映る自分とは違う女性らしい体つきと均整の取れた顔立ちに、自分の意思とは無関係に高鳴る心音。
思わず前世で抱いた自責がこみ上げ、興奮とも吐き気とも言えない胸の苦しさを覚えながら目の前の美少女を見つめ返す。
「……ふ、ふふふ。ふふふふふふ」
「ふふふふふ。あはははっ!!!
これは雪ねえに一本取られちゃったなぁ」
「………」
「あ!ちゃんと説明してなくてごめんなさい!
雪ねえ。
「阿月さんが今入っている肉体の持ち主です!」
…こいつ、今なんて言った?
「……全く状況が飲み込めないんだが…」
私の言葉を聞き、ふふんと鼻を鳴らす双子の妹。
まるで、そんなことだろうと思っていました、想定通りですとでも言わんばかりの顔だ。
「阿月さん!ご安心を!
心配なんて吹っ飛んじゃうほどの最強美少女転生ライフを、雪ねぇの妹である私、
…この少女は今、自分の名前を、なんと言った?
自分があの『永愛』だと言った、のか?
忘れたくても忘れることのできない、魂に紐づいた事故の記憶が胸の深い深い底で震えだす。
――「「わたしたちがぜったいたすけるから!!!」」
……いや、そんなわけない。
そんな事実は認められない。認めたくない。
でも目の前にいる少女の顔つきや特徴的な髪色とくせ毛。
ひいては彼女の双子の姉と思わしき私の体に至るまで、かつての双子と類似している点が多すぎる。
「君は、ほんとうに」
でも。もしそれが仮に本当だとしたら、どうして姉の体が他人のものになってしまっている事実を受け入れられる?
どうしてそんなにも喜々として私に語りかけられる!?
なぜ、そんなにも残酷な選択ができるんだ…!?
「それにしても感動だなぁ…!あの阿月さんにもう一度会えるなんてっ!」
――やめてくれ。
私は、こんな結末を望んであの時の双子に言葉を残したわけじゃない。
「私、あの時からあなたにもう一度巡り合うためだけに生きてきたんです!」
私のしたことは本当にただ自己満足でしかなく、自分のような人間が双子に希望を残そうだなんて考えてしまったことが人生最大の間違いだったのか…?
「あ、ぁ……」
私は、ただ、二人の記憶の中に嫌な記憶としてではなく、前に進んでもらうための。
他者が命がけで助けてくれるほどの価値が自分たちにあるのだという、
私がついぞ死ぬまで得ることができなかった安心を、せめて死ぬ前に誰かへと与えてあげたかっただけなのに。
「ね。お姉さん。あづねぇさん。」
阿月の四肢にねっとりとした視線を這わせながら近づく永愛。
まるで宝物を慈しむかのようにゆっくりと阿月の両手を永愛の両手が包み込み、はぁ~っと白い吐息をかける。
「私と一緒に、青春しましょ?」
あぁ、やっと理解した。
私が人生最後に託したと思い込んでいた希望はただの呪いで。
双子の人生の在り方を歪めてしまうだけの枷でしかなかったのだ。
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おそらく次回からガルコメ編に入れるかと思いますのでお楽しみに!