アセンション学園に入学して、瞬く間に一年間が過ぎた。
本当にこの一年、色々あった。
そして、この生徒会室も賑やかになった。
「来年こそは俺が生徒会長だ、メグル!!」
「おう!! 負けないぜ、ガイ!!
あ、でも生徒会長の仕事は代わって欲しいかな……」
「はッ、軟弱な!!」
メグルと御曹司は今日も騒がしい。
ここ一年で分かったことは、この二人は意外と似た者同士だということだ。
「若人は元気でいいねぇ」
「……なぜこちらを見るのですか?
私は故郷では幼子も同然ですよ」
いつの間にかメグさんも受け入れられてるし、キュリアと一緒に紅茶を飲んでいる。
私も御相伴に預かり、執事のヨコタさんが作ったクッキーと一緒に彼が入れてくれた紅茶を嗜んでいた。
「このアセンション学園も何度か吹き飛びそうになったけど、無事来年度を迎えられそうでよかったね」
この何でもない平和を噛み締めているシュウ君が、そんなことを言った。
正直、私も一年前なら、何を言ってるんだ、訳が分からないわよ、と言うだろう。
でも本当だ。本当だったのだ……。
学園の地下に封じられたカードが暴走したり、異世界に行って大立ち回りしたり、空中要塞がここに落ちてきそうになったり……。
なんだろう、なんでこんなに波乱万丈なんだろう。
そんな時である。
バン、と我らが魔王様が生徒会室に飛び込んできた。
「アニメを作るわよ!!」
また始まった、生徒会室の面々はそう言う表情になった。
「この一年の鮮烈な出来事を、アニメにして後世に残すわ!!
声優はあなた達本人に出て貰うから、そのつもりで」
本当にこの人はいつも通りであった。
「シュウ、ガイ、声優以外の手配をするから手伝って!!」
「はい、魔王様。仰せのままに」
「なんだか楽しそうだね、ミク」
御曹司は恭しく頭を下げ、シュウ君は笑っている。
「主人公はメグルね!!」
「お、俺ぇ?」
「魔王様。納得がいきません。主人公は俺でもいい筈です!!」
「それはシーズン2を作る時に考えるわ」
御曹司は魔王様の御言葉に、ありがとうございます、と再び頭を下げた。
「第一話は二人が校門前でアセンションした時のシーンにしましょう」
「ああ、そんなこともあったわね」
すっかり監督気取りの魔王様に、私は当時の記憶を思い返した。
「あれ、でもそうなると、メグルが主人公ってことは、第二話はキュリアさんがメインになるんじゃ」
「あッ」
皆の視線が、キュリアさんに向いた。
彼女はかちゃり、とソーサーにカップを置いてこう言い出した。
「何と言いましたか、若気の至りと言いましょうか、それとも黒歴史だったかしら?」
彼女の真っ白すぎる顔に、赤みが差している。分かりやすすぎる。
「ふむ、タイトルは“未知との遭遇”だろうか」
メグさんがからかい交じりにそう言った。
そう、あれはもう一年前の出来事なのか。
§§§
「あの二人は、人間ではない」
その真意を、私達はメグルに割り当てられた自室で問うことになった。
流石に私の部屋は相部屋なので、この三人での内緒話はできなかった。
「なあ、メグ、さっきの話はどういう意味なんだ?」
メグルが彼女に問うと、はぁ、とメグさんはあからさまに溜息を吐いた。
「霊視を使いたまえ。魔力の質が尋常ではなかった」
「あッ、なるほど」
「ねえ、どういうことなの?」
勝手に納得している二人に、私は問うた。
「うーんと、人間って最初から魔法を使えるように出来てないんだよ。
小さい頃からの訓練とかで、徐々に魔力を身体に慣らすんだ」
「へぇ。でも、それっておかしくない?」
そう、この世界には魔法を扱う文化や文明は無い。
メグさんは文字通り、異界の存在なのだから。
「そうだね。そして仮に、人間が幼い頃から魔法の訓練を受けてもああはならない。
あれは、魔法を使用することを前提とした種族だ」
メグさんがキュリアさん達を人間ではないと言う根拠がそれだった。
「例えば、私の故郷にはハーピーと呼ばれる種族が居た。
彼女らの多くは成人しても身長150㎝、体重は30㎏を上回ることはない。
その腕は両翼であり、飛行を可能にする。だがそれだけでは物理的に、彼女達は飛行は出来ない。
自らの中心に魔法的な浮力や指向性を産み出し、それによって飛行をするのだ」
メグさんの例え話によるならば、キュリアさんはそのレベルで魔法を前提とした生物だと言うことだった。
「ふーん、じゃあキュリアはどんな種族なんだ? 肌が真っ白だし、吸血鬼とか?」
「ははは、吸血鬼なんて空想上の生物じゃないか!!」
メグルの言葉を、メグさんは笑い飛ばした。
「いやいや、それを言うなら私達にとってメグさんは空想上の存在だったんだけど」
「いやまあ、そうなんだけどね」
実戦的な魔法の数々に、ホムンクルス。
メグさんも、ファンタジーやメルヘンもいいところだ。
「だが、吸血鬼なんて存在するわけがないよ」
「え、なんでだ?」
いやに断定するメグさんに、メグルも不思議そうに問うた。
「……そうだね、仮にだが、吸血鬼が実在するとして、だ」
メグさんは、私達を見据えてこう言った。
「そんな、人間を主食とするような怪物を、あの女神メアリースが存在を許すと思うかい?」
ああ、と私達は納得してしまった。
「この国にはかつて、“日本住血吸虫症”という寄生虫疾患があったそうだね。
しかし、その病気は中間宿主である貝を駆除することで、根絶に成功した。周囲の環境に害悪な生物が居るなら、滅ぼすのが人間だよ。
たとえ貝に何の罪が無くともね」
外敵を滅ぼし尽くして、やっと安心できる。人間とはそう言う生き物だ。
「だから、吸血鬼なんて空想上の生き物なのだよ」
「でもさメグ。メグの世界には魔物が居たんだよな?
じゃあなんでメアリース様は魔物なんて人間の敵対生物を産み出したんだ」
メグルの指摘は鋭かった。
私達にとって、魔物さえ空想上の生き物だ。
「それは恐らく……いや、止めておこう、憶測に過ぎない」
「また始まったよ……」
肝心なことを語りたがらないメグに、メグルは呆れたようにそう言った。
「まあ、それを言ったら日本にもなぜクマが居るのか、という話になる。
そう言えば、この国ではクマを殺すと大量の抗議が発生するんだろう? 余りにも平和ボケしすぎて、理解に苦しむよ。自分が被害に遭うとは思わないのだろうか、あれ魔物じゃん」
「それはそうだけどさ」
メグさんは為政者側だったから、偶にそう言う視点が混じることがある。
これで本業は学者だって言うのだから、とてもメグルの同一人物とは思えない。
「おっと、話が脱線してしまったね。あともう一つ、根拠がある」
「へぇ、なんなの?」
「君たち。彼女は何語を喋っていたかな?」
え、と私とメグルは顔を見合わせた。
「日本語だよな?」
「日本語だったわよね」
「なら、次はよーく口元を観察するといい。
彼女の言語は英語に近いが、訛りが酷くて英語話者でも聞き取れないだろう。日本語で言うなら沖縄弁みたいなものだ。
彼女は翻訳系の魔法を使用している筈だ。私と同じようにね」
私達はメグさんの発言に驚くしかなかった。
それって殆ど別の言語じゃないだろうか。
「確かに、メグさんがこっちに来てカードに成る直前、なんて言っていたのか分からなかったわ……」
「カードに成って居る時は念話……所謂テレパシーで話しかけていたからね、その必要は無かったのだが」
まさに学者らしく、実証を積み重ねていくメグさん。
「まあ、彼女について言えることは、私と同じこの世のものではないだろう、ということだ」
彼女はそう結論付けた。
「ええと、確かキュリアさんの家名ってドランだっけ」
私はスマホを取り出して、検索エンジンに文字を打った。
「二十六代目って本人が言ってたし、実在する家かもしれないじゃない」
が、検索結果はゼロだった。
26代も続いている伯爵家なのに、全くの情報も無かったのだ。
「もしかして、魔王の手下とかじゃないのか?」
「あり得るね。あの魔王共は最初、魔物の軍勢を嗾けてきていたようだから」
メグルの言葉に、メグさんはその可能性はありうると頷いた。
それで、その時の私は思い出した。
あの時のシュウ君の台詞を。
「でも、わざわざ魔物にこの学園に入学させる意味は分からないけどね」
「……うーん、あのさ」
最終的に、メグルはこう判断した。
「なんか、別にキュリアの正体とかどうでもよくないか?」
メグルの発言に、メグは目を丸くしていた。
私はそのメグルらしい発言に、苦笑するほか無かった。
「色々あるみたいだけどさ、こうしてお互いに話が出来て、アセンションが出来る。
シュウもキュリアの事を気に掛けてるし、事情も知ってるんだと思う。
なら、別に同じ学園に通う仲間で良いんじゃないのか?」
メグさんはその言葉に絶句し、やがて仕方なさそうに息を吐いた。
「君の考えを支持しよう。もう一人の私よ」
彼女は微笑んで、そう言った。
メグさんはまだ、メグルと言う奴を理解していなかったようだった。
このバカはアセンションが出来れば誰でも友達だし、仲間みたいなものなのだ。
それはずっと争いの世界で生きて来たメグさんには救いだった。後に彼女はそう言っていた。
「だろ? メアリース様も学ぶ権利は誰にも等しくあるって言ってるしな」
……ただ、世の中はこいつの頭くらい物わかりの良い連中ばかりではなかった。
キュリアさんはバカみたいに見た目も良いし、格好も独特だ。
人間という生き物は出る杭を打ちたがるし、異物を排除しようとするように出来ている。
それに加えてあの性格である。当人に悪気が無いのが始末に悪い。
擁護するのなら、キュリアさんはただ高貴なだけなのである。
私達のような庶民には理解が及ばないだけだった。
アセンション学園の授業は単位制で、必修科目以外の履修は自由だ。
なので、寮とかは関係無く同じ授業を受けたりする。
必修の選択科目に、美術の授業があった。
私とキュリアさんはそれで同じ教室になったのだが、彼女はそれに四苦八苦していた。
最初の授業は、好きなカードを題材にした模写だった。
各々好きなカードのイラストの構図をトレースしようと四苦八苦していた。
それはキュリアさんも同じだったのだが。
「……」
「うーん、あれ、キュリアさん、どうしたの?」
隣に座っているキュリアさんの手元を見て、私は絶句した。
彼女のモデルは、キュリアさんみたいに美麗なイラストのカードだった。
しかし、当人のスケッチは、なんか棒人間の親戚みたいな有様だった。
「ほほほ、我が一族は創造性というものが欠落しているのです。仕方ありませんわよね」
当時、それは単なる強がりかと思ったのだが、割とガチだった。
キュリアさんの一族、或いは種族は、見た目こそ人間そっくりだけど、全然違うのだ。
言うなれば、チーターのような瞬発力で狩りをする肉食動物に、草食動物のように持久走をしろと言っているようなモノだった。
人間のように平均60点を取れる種族の中で、彼女は100点を取れる競技と0点しか取れない競技がハッキリしている。
実際、彼女の頭脳は抜群だった。
最初の実力テストで、彼女は堂々の全教科満点。全生徒で1位を獲得した。
それは彼女の努力の賜物であるのは勿論だが、彼女はそれを当然のものとして誇った。
「我が伯爵家は、盟主に当たる我が氏族の公爵家の初代様の頃から参謀や助言役として仕えておりますの。これぐらい当然ですわ、おほほほ」
「へぇ~、すごいんだな!!」
半ば思考停止して受け入れているアホのメグルはうんうん頷いている。(全科目下から100位くらい)
「そこのゴスロリ女、次も頂点で居られると思うなよ!!
この学園のトップとは、この来須ガイのものなのだ!!」
と、勝手に敵愾心を燃やしている御曹司。(国語を1問だけケアレスミスして2位)
「メグルは少し二人を見習った方が良いわよ」
そんなメグルに苦言を呈する私だった。(私は平均よりやや下ぐらいだった)
とは言え、この頃からだろう、明確にキュリアさんの陰口が増えた気がした。
キュリアさんは必修の体育の授業など、一切参加せずに見学ばかりだった。
体操着に着替えさえしない。長袖のゴスロリで、手元さえ手袋で覆って、執事のヨコタさんに日傘をさして貰って優雅に、運動している私達を見ているのが印象的だった。
最近は何かと配慮だのなんだのとうるさい世の中ではあるが、私達はまだ子供だった。
それを特別扱いだと思う人たちは多かった。
私は彼女に聞いてみた。
「キュリアさんはやっぱり身体が弱かったりするの?」
「ええ、体質と言いますか、数分でも直射日光を浴びると炎症を起こして、一時間もそのままだと焼けたように爛れ始めますわ。
三時間もそのままですと、命に関わるそうですわね」
それは、私の想像以上に深刻だった。
私達と机を並べて勉強をするのにそこまで問題はないけど、やはり大きなハンディキャップを彼女は背負っていた。
校内や各施設の窓は完全なUVカット仕様らしいのであまり問題はないらしいけれど、介助が必要なのは当然だった。
だからこそ、そのトラブルは必然だったと言えるかもしれない。
アセンション学園の食堂は安くて量も多くて食べ盛りの私達の年頃には非常に助かるものだった。
その上で味も良いから、いつも満席だった。
私とキュリアさんが定食が乗ったお盆を持って、席を探している時だった。
四席のテーブルに一人で座っている食べている男子生徒に、彼女は声を掛けた。
「もし。ここに座ってもよろしいでしょうか」
彼はキュリアさんに話しかけられたことに驚いた様子だったが。
「はん、嫌だね。お貴族様なんだから高級レストランでも行けばいいじゃねえか」
「なによ、その物言いは。失礼じゃない!!」
私はそいつの言い方にかちんと来てそう言った。
「まあまあトキコさん。庶民に我ら高貴な者の生活が想像できないのは仕方がないことですわ」
しかし、キュリアさんは慣れたものだと“聞こえない振り”をした。
「でも!!」
「この程度の事で目くじらを立てるほどではありませんわ」
私はシュウ君にキュリアさんが困ってたら助けてあげて欲しいと頼まれたけど、別にいつも一緒に居るわけでは無い。
執事のヨコタさんも校内にいることは滅多にないし、この程度の心無い言葉など日常茶飯事なのだろう。
「別の席を探しましょう」
「そうね、ここだとご飯がマズくなるわ」
私は吐き捨てるようにそう言った。
キュリアさんの方がよっぽど人間が出来ていた。
「なんだと、てめぇ。金魚の糞の分際で」
「はッ、私が金魚の糞なら、あんたはそれ以下よ。品性は生まれでは身に付かないみたいね」
いや、もしかしたら、この件はちょっとばかし私も悪かったかもしれない。
「はん!! こんな中二病のエセ貴族の仲間がなに言ってやがんだ!!」
「はぁ!? なに言ってるのあんた」
「みんな知ってるぜ、こいつのいう伯爵家なんてどこにも無いってな!!
こんな格好してる頭おかしい女の何が良いんだよ!!」
「そんなの個人の自由でしょ。頭がおかしいのはあんたよ!!」
「なんだと!!」
まさに売り言葉に買い言葉だった。
「どうせ貴族なんてのも嘘っぱちなんだろ、26世だとか、バカなんじゃないのか、何の設定だよ!!」
「ほほほ、庶民が何か言っていますわもう一度言ってみてくださいまし」
キュリアさんは、“聞こえない振り”をした。
「もう良いわ、行きましょう、キュリアさん」
「ああん、逃げるのかよ、エセ貴族とその取り巻きがよ!!」
「いい度胸ね、表に出なさい!!」
私とて、ここまで自分と友人を馬鹿にされて黙っていられなかった。
デッキを取り出し、決着を付けるべきだと思った。
だが、キュリアさんは私よりも早かった。
こと、と彼女はテーブルに定食のお盆を置いた。
「おい、だから俺はてめぇらと────」
「その口を閉じろ、下郎が」
隣で聞いていた私が思わずゾッとするような声色だった。
そして、目にも止まらぬ速さで、キュリアさんはその男子生徒の首を片腕で掴んでいた。
「あがッ」
「私はまだ何も為せていない当主です。私への批判は仕方ありませんわ。
だが貴様は、我が家を、祖先を侮辱した。万死に値しますわ」
その端正な表情を怒りに歪め、壮絶な表情でキュリアさんそう言った。
「大使館に赴きましょう。我が領地の法で、処刑──貴様を八つ裂きにしますわ。その後、貴様の家族とその近縁三代までを皆殺しにし、壁に吊るして我が家を侮辱した愚かさを魂まで刻み込んで差し上げましょう」
キュリアさんは、貴族だった。
中世の価値観を持つ貴族だった。
彼女は片腕だけで、人一人を持ち上げていた。
苦しみ悶える男子生徒がキュリアさんの腕を外そうと試みているが、まるでビクともしない。
周囲も異変に気付いて騒然としていた。
「キュリアさん!? やり過ぎだって!!」
「トキコさん。やりすぎなどではありません」
これはマズすぎる流れだと理解し、私は必死に止めたが。
「この侮辱を赦せば、領民たちは我が家を侮ります。
それは結果的に、領民たちの安全を脅かすことに繋がります。
我が一族は、領民を守る義務がありますので」
彼女の行動は、当主としての責務だった。
彼女の個人的な動機ではなかったのだ。
「お嬢様、何事ですか」
「ヨコタさん、止めてください!!」
異変に気付いた執事のヨコタさんが、駆けつけて来た。
「止めるな、ヨコタ。こいつは我が家と祖先を侮辱した」
「……それなら、仕方ありませんな。
とは言え、お嬢様、ここはアセンション学園ですぞ」
「…………」
「まずはアセンションによる決闘にて、場を収めるべきだと存じます」
「そうね」
それでようやく、キュリアさんは手を離した。
「げほッ、げほッ」
「アンティをしますわ。貴方がこの私に勝利すれば、水に流しましょう。しかし、私が勝利すればさっきの言葉をそのまま実行します。これは我が家と祖先に誓いましょう!!」
「ひ、ひぃ!!」
このバカな男は、ようやくキュリアさんが本気で言っていることに気づいたのだ。
「御覚悟を決めなさい。逃げれば貴様の家族の方から殺さねばなりません」
ヨコタさんは怯える男子生徒の腕を掴み、引きずるように外へと向かって行った。
その後を、優雅にキュリアさんが続いて行った。
「ちょ、ちょっと待ってよキュリアさん!!」
私は二人を追いかけた。
メグルやシュウ君にメッセージを送りながら。
「おい、トキコ、状況は!!」
メグルが駆けつけた時には、既にアセンションは佳境に向かっていた。
男子生徒の場にはユニットが四体。典型的なアグロ──バニラユニットを並べて速攻をする戦術を取るデッキのようだ。
「よ、よし、勝てる。勝てるぞ!! た、ターンエンドだ」
「私のターン、ドロー」
対して、キュリアさんの場はがら空きだ。手札は五枚。デッキも半分以下、終始あまり動けてはいない。
「私は魔法カード『乱れ石礫』を発動。相手の全てのユニットに、1ダメージですわ」
「はッ、そんな雑魚カードで何になる!!」
キュリアさんが使用したのは、ノーコストで全体にダメージを与えるカード。
だけど、ユニットは最低でも平均3のスタミナを持っている。1ダメージではあまり意味がない。
「3点以上のダメージが発生した時、手札から私はこのカードを召喚します。
おいでませ、我が祖先!! 『“見通す瞳”キュリア1世』!!」
彼女の場に、長身のタキシードの怜悧な男が召喚される。
それはまさに、キュリアさんの特徴をそのまま映していた。
だけど、彼がキュリアさんの祖先なら、彼女は──。
「我が祖先の効果は、場に居る限り相手は手札とデッキの一番上のカードを公開しなければなりません。
そして、もうひとつ。公開されている手札のカードの効果は発動できない」
手札の妨害を封じる効果!?
「そして、我が祖先のスタミナを8消費し、この御方は墓地から蘇る」
キュリア1世が自ら腕を自傷し、血がしたたり落ちる。
血だまりから、それは膨れ上がるように現れた。
「偉大なりし公爵家の女傑、『“流血公”リーリス1世』!!」
まるで月の光を束ねたような黄金色の髪を揺らし、戦装束を見に纏った女傑が彼女の場に現れた。
「かの御方の効果。ダメージを負っている相手のユニット全てのコントロールを得る」
「は、はあ!? なんだよ、それ!?」
男子生徒の場に居る騎士タイプのユニットたちは、目の前の女傑の前に向かい膝をついて忠誠を誓う。
だが、それは足元から伝う血によって操られているに過ぎない。
「さあ、バトルシーンですわ。全てのユニットで、攻撃します」
自分のカードのユニットたちに、男子生徒は攻撃される。
ほとんど無傷だったデッキの枚数が減っていく。
だが、あと数枚残っている!!
「私は魔法カード『流血公の策略』を発動。
場の月の氏族のクランに属するカードを破壊し、カードを二枚ドロー。
そして、8点のスタミナを捧げ、かの御方は再び蘇る!!」
相手から奪ったユニットの血が流れ落ち、破壊された月光の女傑は再び復活した。
「復活したリーリス様はこれにより、攻撃の権限がリセットされます。
さあ、リーリス様!! 我が氏族を侮辱した下郎に誅罰を!!」
女傑の操る血が鞭のようにしなり、相手プレイヤーにダメージを与える。
これでデッキの枚数は、ゼロ。
「ターンエンド。私の勝利ですわ」
キュリアさんの勝利が決まった。
「く、くるな、化け物!!」
「それが現世での最後の言葉でよろしいですか?」
キュリアさんは微笑んで、その暴言を聞き流していた。
これから出荷される豚を見る目だった。
「お嬢様、恐れながら」
「なに、ヨコタ」
「ただ殺すのは生温いのでは?」
アセンション中もキュリアさんに傘を差していたヨコタさんが口を挟んだ。
「どうせ殺すなら、我が領地の鉱山にでも送り込む方がよろしいかと」
「なるほど、鉱山の働き手はいつも不足していますからね」
二人にとって、目の前の男子生徒の処刑は決定事項だった。
「では、逃げられないようにしましょう」
キュリアさんが指先を噛んだ。
それを、怯え尻もちをついた男子生徒の肌に突き刺した。
「あああああがががががが!!」
おぞましい光景だった。
キュリアさんの血が、男子生徒の皮膚の内側を伝って、神経を支配していった。
そして。
「キュリア様。これまでのご無礼を、伏して謝罪いたします」
あの不遜な態度の男子生徒が、キュリアさんに土下座して謝罪をし始めた。
その所作はぎこちなく、人形のように、平坦な声音で。
「そう言えば、校内での世話役が欲しかったところでした。
ヨコタは校内に入れませんから。お前の鉱山送りは、卒業の後にしましょう」
「ありがとうございますありがとうございますありがとうございます」
キュリアさんが目配せをする。
ヨコタさんが、土下座する彼の頭を踏みつけた。
「今のところ生かしてやっているお嬢様の慈悲に感謝することだ」
「ほほほ、おほほほほ」
キュリアさんは笑っていた。
「最初から、こうすればよかったんですわ!!」
誰かが言った。
「
キュリアさんが操るのは、全て吸血鬼のカード。
それを祖先と呼ぶ彼女はまさしく、吸血鬼の末裔。
人類を主食とする、私達の敵そのものだった。
結局GWの間に更新できなかった……。
でも世の中の全員がGWを満喫できるとは限らないんですよね!!
ではまた次回。感想や高評価をお待ちしております!!
おい、アセンション(対戦)しろよ。
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アセンションする(一話対戦に使う時もある
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半分ぐらいアセンションする(カット進行
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アセンションはフレーバー程度で(現状維持