君はどんな効果だい? いつ発動する?   作:やーなん

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世界で一つだけのカード

 

 

 

 ミクの正体を語る上で、僕らの世界の歴史を語る必要がある。

 

 この世界には創造神がいる。これは小学生の頃にはこの世界の誰でも教わることだ。

 

 かの御方は百年ぐらい前、戦争で殺し合いを続ける人類の前に降臨なされてこう言ったそうだ。

 

「お前達は失敗作よ。この調子で争いが続ければ五年後にはこの世界は致命的な環境破壊で崩壊するわ。

 お前達は私の期待を裏切った。お前達から主権を剥奪せざるを得ない」

 

 ブチギレだった。他に数多の世界に人類を創造し運用しているかの御方にとって、僕らは理想の人類ではなかったらしい。

 

 その結果、僕ら人類は神に平伏し、赦しを乞うた。殺し合いでの問題解決を永久に凍結することにしたのだ。

 そして、戦争の代替手段として用いられたのが、──カードゲームだった。

 

 

「そこはこの世界は一枚のカードから始まった、ぐらいに欲しかったな。気が利かないなぁ、主上も」

 

 僕の歴史の教科書を広げて、ミクはそんな感想を漏らした。

 

「私はね、カードゲームが全ての世界って聞いてこの世界にやって来たって言うのにさ。

 結局下らないリアルの延長線ってわけだね」

「ミクはどこから来たの?」

「宇宙より上」

 

 彼女は黒い靄で指を模り、上を指差した。

 

「私は主上より遣わされる、人類を選り分ける者。

 天は人の上に人を作らず、されど私達一族を創造した。

 私は魔王の一族の末妹。お前達と違って、最初から成功作として創られたんだ」

 

 それは憐れみに満ちた言葉だった。

 ミクは、完全なる上位者。神の代弁を仕事とする者だった。

 

「じゃあ、ミクはこの世界を滅ぼしに来たの?」

「いいや。完全にプライベート。

 でもなかなかに無いよ、主上は普段私らの一族を通して、お前達は滅びる、って通告するのに。

 主上が直接降臨して主権を剥奪するって警告するの、お前らがそれなり以上に下等な連中ってことだよ。

 今も滅ぼされてないってことは、当時の人間どもは上手くやったみたいだね」

 

 僕は当事者じゃないので、そうなんだ、としか言えなかった。

 

「命令もされてないし、この世界を滅ぼしたりしないよ」

「じゃあ命令されたら滅ぼすの?」

「それが仕事だもん」

 

 ミクは事も無げにそう言った。

 

「でもそんなのは今のところ関係のない設定(フレーバーテキスト)だよ。

 ただこうして私が遊びでこっちにきて、好き勝手してるのに何のお叱りも無いってことは、お前達はその程度の価値しかないってことなのは間違いはないね」

「ふーん」

 

 正直、僕には人類の価値がどうだとか、どうでも良いことだった。

 神様にとって人類がどんな資産価値があるかなんて。

 

 そこでふと思った。つまるところ、神様にとって人類はカードと同じなのだと。

 

「多分そうだと思うよ」

 

 ミクは僕の思考を読んでそう言った。

 

「主上にとって人類は資産に過ぎないんだよ」

「……」

「当然、この私もそうさ」

 

 妙な沈黙が起こった。

 

「それで、僕は何をすればいいの?」

 

 話題を逸らすように、僕はそう言った。

 

「君のやりたいようにすればいいよ」

 

 まさかの丸投げだった。

 

「ああ、ごめんごめん。

 君が活動をする時は、私の闇の力で君の顔も声も知人に認識できなくするから」

「闇の力て……」

 

 僕って中二だけど、そういう年頃だと思われたのだろうか。

 

「まあ、実際は私の魔法に何か闇っぽいエフェクトを付けてるだけなんだけど」

「魔法ねぇ。それはそれで胡散臭いんだけど」

「良いんだよ、こんなの。フレーバーテキストなんだから」

 

 ミクはちょっと不満そうにそう言った。

 

「君は他人をカードにして収集したいんだろ? 試しにやってみなよ」

「……」

「どうしたの、怖気づいたのかな?」

 

 実のところ、そうだった。

 僕にも倫理とか、常識とか、これまで培ってきた社会の通念ってものがある。

 

 ある日突然拳銃を拾って、誰にもバレないから撃ってみなよ、と言われてそうするのはただの狂人だ。

 

「うわぁ、自分がまともだと思い込んでるサイコパスってこんな感じなのかな」

 

 呆れたように、ミクは言った。

 

「どうせ君はやるよ。遅いか早いかだけ。ここで躊躇ってやらない人間に、私が相手をするわけないじゃない」

 

 彼女は僕を唆すようにそう囁く。

 そうだ、僕はやる。僕は、狂ってるんだ。

 

「……じゃあ、始めは悪い人から」

「いいね。君の好きにやってみなよ。安心しなって、危なくなったら私が守ってあげるし」

 

 そうして、僕はミクの走狗となった。

 

 

 

 

 

 そんな在りし日を思い返しながら、僕はメグル君と相対していた。

 

「先行は僕だ、ドロー」

 

 僕はデッキからカードを引いて、手札からカードを発動する。

 

「僕は常駐魔法『ディメンション・ダストボックス』を発動するよ。

 このカードが存在する限り、お互いに墓地に送られるカードはロストする」

「強力な墓地メタカード……!!」

「そして紹介するよ、メグル君」

 

 僕は手札のカードを場に出した。

 

「僕は、『久遠クミコ』……僕のママを召喚するよ」

「ッ!?」

 

 場に、うつろな表情な僕のママが召喚された。

 

「ああ、言い忘れてたけどこれは勿論闇のゲームだからね。

 カードが破壊されたりしたら、それそのものがダメージを受ける、らしい。

 本来はカードの精霊の干渉を牽制するものらしいんだけど。僕に精霊は見えないからね」

「正気か、シュウ!!」

「つまり、君が僕を倒したければ、君は僕のママを殺さなければならないわけだ」

 

 僕は彼に勝つためにアセンションをしているわけではなかった。

 ただ、ミク……魔王と戦うにふさわしい勇者か、彼を試しているだけだ。

 

 それが四天王としての、僕の仕事だ。でなければこんなふざけたデッキを使うわけがない。

 僕としては、本気で彼に勝つのなら別にカードにした後でも良いのだ。

 

「ちなみに効果もあるから説明しておくよ。

 僕のママは、プレイヤーが久遠シュウである時に発動できる効果がある。僕に2ダメージを与えるデメリット効果さ」

「……メリットは?」

「無いよ。そんなの。僕のママが僕にメリットを与えるわけないじゃないか」

 

 僕の言葉に、メグル君は絶句した。

 

「僕のママのパワーはゼロ、スタミナは2のクソ雑魚ユニットだから簡単に倒せるよ」

 

 当然のステータスだ。だってママはただの一般人なのだから。

 普通のカードのステータスの平均は3/3はある。

 

「そう言えば、エデン・コードの設定では、ロストしたカードは消滅するって感じだったよね」

 

 僕の場には、「ディメンション・ダストボックス」のエフェクトで開いた次元の裂け目があった。

 これは効果の演出じゃない。実際にそこにある。

 

「使えないカードは、そこにポイだ」

「自分のお母さんなんだぞ!!」

「でも、僕のアドにならないし。ゲームでも、リアルでも」

「そんなッ」

「そう言えば、最初に僕がカードにした相手もママだったな。

 僕も最初は愕然としたよ。僕のママは僕を傷つけることぐらいしか能力(スキル)が無いって」

 

 僕は肩を竦めてそう言った。

 

「次に僕はパパを紹介するよ。僕は『久遠ハジメ』を召喚」

 

 エデン・コードには召喚に条件が存在しない限り、好きなだけ自分のカードを召喚できる。

 今度は虚ろな表情のパパが場に召喚された。

 

「パパの効果はちょっとは使えるよ。

 パパの効果を発動!! 一枚ドローして、カードを三枚捨てる」

 

 僕はカードをドローし、三枚を捨てる。

 次元の裂け目に、カードが三枚吸い込まれていった。

 

「そしてその後、プレイヤーが僕ならダメージを1か、場にママが居るならそれに1ダメージを与える。

 パパ、いつも通りママを殴りなよ」

 

 虚ろな表情のパパは、拳を振り上げてママを殴った。いつものように。

 

「パパはカードの投資に失敗してね、それで借金をしてからはこの有様だよ。

 パパはいつも言ってたよ、カードは価値が全てだって。

 かわいそうだからカードにしてあげたんだ。きっとパパも喜んでるよ、世界で唯一のカードになれたんだから」

 

 まあ、カードとしての価値はカスも良いところだったけど。

 

「止めろ、シュウ!! こんなのアセンションじゃない!!」

「嫌ならサレンダーしなよ。これは殺し合いなんだ!!半端な気持ちで入って来るなよ!!」

 

 僕はそう言ってからふんと鼻を鳴らした。

 

「僕が自分のカードをどう扱おうと、僕の勝手だろ。……ああ、ひとつだけ言っておくよ」

 

 僕は目を細めて、憤る彼に警告した。

 

「僕のコレクションには、トキコちゃんも居るよ」

「ッ!?」

「君が負けたら、彼女を破り捨ててそこに捨ててやる。本当は君と一緒にスリーブに入れて飾りたかったし、その方が資産価値が上がりそうけど、君がやる気が無いなら仕方ない」

 

 これはただのアセンションじゃない。

 ミクという魔王に挑む、世界を救うための前哨戦。

 

 覚悟の無い奴は、ミクに挑む資格なんて無い。

 本気じゃないと、ミクは楽しめないんだ。

 

「僕はターン終了だ」

「う、うあああぁぁ、俺のターン!!」

 

 メグル君は叫び声をあげながら、ユニットを展開し始めた。

 僕と言う障害を乗り越える為に。

 

 そうだ、メグル君。それで良いんだ。

 

 

 

 

 

 

「……ママが、カードになった。カードにしちゃった。パパも」

 

 僕はその事実に、無性に腹の底から笑いがこみ上げて来た。

 

「あは、あはははッ、あはははは!!

 今日から僕が二人をユニットとしてコントロールするんだ!!

 僕が誰を殴るか決めるんだ!!」

「ゴミみたいな両親だけに、ゴミみたいな能力のカードが出来ちゃったね」

 

 ミクは黒い手を伸ばし、僕の両親のカードを値踏みした。

 

「もっと能力や才能のある人間をカードにしないと、強いカードは産み出されないかもね。

 いや実際にはわからないけど、私もカードにした人間にテキストを出現させたのは初めてだし」

「関係無いよ」

 

 僕は目元の涙を拭って、そう言った。

 

「カードショップのストレージに無造作に放り込まれたカードから、掘り出し物を探すのは楽しいからね」

「それは同意するかな!!」

 

 僕は笑った。ミクもだ。

 

「私は二人を召喚する」

 

 ミクは無造作に二人のカードを放った。

 カードが落ちた場所から、パパとママが出現する。

 

 だが、表情は虚ろだった。ミクが二人の主導権を全て握っているんだ。

 

「お前達の全てを私に捧げろ」

 

 ミクはそう命じた。そしてその中には、僕も存在している。

 

 

 パパは仕事に行き、ママは家事をする。

 二人共魂を抜かれたかのように、そうしている。

 いや、実際にはそうなんだろう。二人の魂は、本体はカードに存在しているんだ。

 

 僕は試しにパパが飲んでいるビールを飲んでみた。

 苦みが口に広がる。ぺッ、こんなのの何が美味しいんだろう。

 

 ママは何も言わずに、僕が吐いたツバを掃除する。

 実に愉快な気分だった。

 

「私と一緒に居る間は不自由させないよ、シュウ」

「ありがとう、ミク」

「私には家族がいっぱい居るんだけどさ、これを見てると恵まれすぎてるって思うのも残酷なんだね」

 

 ミクはそんなことを言った。

 

「ミクの家族?」

「そうそう。兄上と姉上がいっぱい。

 お金も使い切れないぐらいあるし、欲しいものはなんでも手に入る。

 私自身最高の能力と才能を持っててさ、正直人生ヌルゲーなんだよねぇ」

 

 ミクは、つまらないのだ。

 自分に対等な相手な遊び相手がいないから。

 

「寿命も軽く千年は生きられるらしいんだけどさ、正直ゾッとした。

 こんな退屈な人生を千年も生きろなんて、私のママも主上も残酷だよね」

 

 だから、世界滅亡ごっこをしているんだ。

 彼女は魔王だから。

 

 彼女は彼女を楽しませてくれる存在を愛している。

 

「だから、シュウ。私を欲しいって言ってくれて嬉しかった」

「そうなの?」

「そうそう。私の価値なんて産まれた瞬間に決まってたし、永遠に変動することは無いんだろうなって思ってたし。

 でもそれは公人としてだし。私人として私が欲しいなんて、始めて言われた」

 

 虚空から伸びるミクの黒い腕が、僕の下顎を掴んだ。

 撫でまわすように、その形を確かめるように。

 

「苦しいんだけど」

 

 僕は不細工な猫みたいな顔になりながらそうぼやいた。

 

「ああ、ごめんごめん。それじゃあ明日から、いっぱいカードを漁って行こうね!!」

「うん、楽しみだね」

 

 僕らはもう、人間をカードとしか認識していなかった。

 僕らの為の資産でしかなかった。

 

 僕ら二人が消費する為の、娯楽にしか過ぎなかったんだ。

 

 

 

 

 

 




続きを書くつもりは本当に全く無かったのですが、なぜか赤バーが付いちゃったし、一話だけだと物語として完成度もあれなのでもう一話書きました。
別に自分の考えたオリジナルのカードゲームをやりたいわけでは無いので。

次回以降は、本当に需要があれば考えます。感想とかあると嬉しいです。
では以上です。
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