君はどんな効果だい? いつ発動する?   作:やーなん

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魔王とか神とかって名前のカードって案外大したことないよね

 

 

 

 シュウが敗れた。当然だ、私は負けろと指示した。

 彼は勝ち筋の無いデッキで、メグルと対峙した。

 

 ただ彼の心を折り、打ちのめすことにだけ特化したデッキで。

 

「う、うあああぁぁぁ、シュウ、シュウ!!」

 

 メグルは勝利した。だが、勝者は膝をつき、カードの姿に戻ったシュウの前で嘆き叫んでいた。

 

 しかし、彼は資格を示した。

 

 私に、──魔王に挑む資格を。

 

 

「一万の人間のカードが、今のアセンションで捧げられた」

 

 大ウソだった。正確にはあと二十五枚ぐらいで一万枚に達する。

 でも雰囲気は大事だ。

 私の復活を目論む集団──アデプトどもには一万枚で私が復活すると言ってたけど、別に私は封印されたり力を失ったりなんてしていない。

 

 ただそう言う設定で遊んでるだけだった。

 

「絆道メグル。君の事はシュウから聞いているよ」

 

 私は玉座からゆっくりと立ち上がり、手を翳した。

 シュウのカードが引き寄せられ、私の手に収まる。

 

「私は君のようなプレイヤーを待っていた。

 カードに愛されし勇者よ。この世界の命運を掛けたアセンションをしよう」

 

 勿論、これも大嘘だった。

 だって私にこの世界をどうこうする権限なんてないもん。

 

「シュウを返せ!!」

「面白いことを言うね」

 

 私は玉座の置かれている上座から、階段を一つ一つ降りながら言った。

 

「いつから彼は君のものになったんだい?」

「シュウは俺の友達だ!!」

「あはは、友達は所有物って言いたいのかな? まあこうしてモノになってしまったんだ。言い得て妙かもね」

「ふざけるな!!」

 

 メグルは激昂して、私に敵意を向ける。

 

「俺をお前と一緒にするな!! アセンションは神聖で、みんなを笑顔にするものだ!!」

「ふふッ」

 

 だけど私は嬉しかった。

 まるでホビーアニメの主人公みたいに青臭くて、若くて、そして勇敢な相手が欲しかったんだ。

 

「神聖か、そうだよね。

 エデン・コードってゲームはそういうモノだ」

 

 かつて、失敗作の烙印を押されたこの世界の人類は、神に慈悲を乞うた。

 

 故にカードゲームを通して自分達を高め合う行為を対戦(アセンション)と呼び、自らを祈る者(プレイヤー)と呼ぶようになった。

 彼らにとってこのゲームは遊びではない。自分達を高める儀式なんだ。

 

 彼らの神、創造神メアリースは人類の理想の楽園を作ることを至上命題としている。

 失敗作たる彼らにその地に踏む権利はない。故に、彼らは儀式を用いてその権利を得んと自らを高め合っている。

 

 崇高で優れた魂だけが、神々のアーカイブに記録され、いずれ完成する完全無欠の楽園に導かれる。そういうことになっている。

 このカードゲームが“エデン・コード”と呼ばれてるのはそういうことだ。

 

 馬鹿馬鹿しい。私は知ってる。

 理想だとか、完全無欠だとか、そんなものはどこにも存在しないと。

 

 人間とはあの狂った女神のリセットマラソンに付き合わされてるだけの、憐れな家畜なんだ。

 私はそんな彼女の手先。それ以上でもそれ以下でもない。

 

 人間が神のモルモットなら、私は神の下僕。

 神に与えられた使命をこなすだけの、奴隷だ。

 

「でもね、私にとってこの瞬間が全てなんだ。これだけが私の楽しみなんだよ。

 そうだ、私に勝てたら何かご褒美をあげるよ」

 

 私は煽るようにそう言った。

 だけど、これは魔王の作法だ。古典ゲームにもそうある。

 

「何が欲しいか、言ってみな」

「……俺が欲しいものは、全部お前が壊しただろうが!!」

 

 彼は実に無欲だった。

 ただ自分の愛する日常だけを欲していた。

 

 あはは、まさに理想の主人公だった!!

 

「いいよ。あげるよ。私が壊した全部、私に勝てたら返してあげる」

「ほざくな、化け物!!」

 

 じゃあ、始めようか。

 

 

「「アセンション!!」」

 

 

「魔王の特権により、先行は私が貰うね」

 

 メグルはそんなのアリか、という表情をしているが、別に文句は言わなかった。

 だってエデン・コードはカードゲームにありがちな、先行有利のゲームデザインでは無いからだ。

 

「さて、決戦には舞台が必要だよね。

 私はドローの代わりに、デッキから『魔王城 天空要塞カードヤード』を手札に加え、テリトリーゾーンに発動するよ」

 

 本来なら立体映像で周辺の様子が変わるんだけど、生憎ここは実際に天空要塞にいるからね。何も変化は起きない。

 

「魔王城の効果を使うよ、私に関連するカードを一枚選んで生成する」

「生成する、だって!?」

「エデン・コードのルールにデッキに無いカードを後から生成しちゃダメだってルールは無いよ。

 私は、魔法カード『四天王召集!?』を生成し、発動する」

 

 彼は何を驚いているんだか。デッキに無いカードを創造するなんて、ホビーアニメじゃ普通じゃないか。

 

「『四天王召集!?』の効果により、手札とデッキから“四天王”カードを一種類ずつ、召喚条件を無視して場に出す。

 さあ、我が前に集え。我が四天王たち」

 

「「「「はッ!!」」」」

 

「四天王アカネ。ここに」

「四天王アオナ。御前に」

「四天王イワオ。参上しました」

 

 赤い髪の美女が、青い髪の女神官が、マッスルポーズを決めた偉丈夫が私の前に膝をついた。

 

「四天王シュウ。僕は常に君の側に」

 

 そして、そこには当然シュウも居る。

 

「この効果で呼び出した我が配下たちは、効果を発動できず、攻撃できず、ターン終了時に墓地に送られる」

「……皆」

 

 彼ら四人は、当然メグルや彼の仲間が対峙した面々ばかり。

 全員彼の顔見知りだ。

 

「魔王城の更なる効果を、四天王の四人を生け贄に発動する。

 さあお前達、その全てを私に捧げろ!!」

 

 四人の存在が、改めてカードになって墓地へ送られる。

 

「手札・デッキから召喚条件を無視して、このカードを召喚する」

 

 そして私は、プレイヤーの位置から一歩前に出た。

 

「せっかくなので、私が場に出ようか。

 改めて、この場で君に名乗ろう」

 

 

「我が名は、『序列39位 “狂楽王”魔王アテンムード』!!」

 

 私自身が、この場に召喚された。

 

 

「魔王、アテンムード……!!」

「折角ママから貰った名前だけどさ、あんまり慣れないから君もミクって呼んでくれると嬉しいな」

 

 私の気さくな態度を無視して、メグルは私のやたら長いテキストを確認している。

 

「ステータス、20/20だって!?」

「これでも控えめな方だよ。だって私が君を殴ったら、一瞬で爆散して地面のシミになるし」

 

 エデン・コードにおいてプレイヤーのライフに相当するのは、デッキの枚数だ。

 最低40枚から始まる。プレイヤーはダメージを受けると、その分だけデッキトップからカードを墓地に送る。

 最終的に自分のターン開始時に、デッキがゼロなら敗北となる。それが基本ルールだ。

 

 私のステータスは20/20。つまり攻撃が通ればデッキが20枚消し飛ぶ。

 だがそもそも、私のパンチを普通の人間が一回耐えられるなんてまず無いのだから、控えめと言って差し支えない。

 

「そして私が召喚された時点で、君の勝利条件は追加される。

 私が場から離れた場合、君は勝利する。ただし……」

「お前がフィールドから離れる場合、代わりに墓地の四天王ユニットを一枚ロストすることができる。その後、このカードのスタミナを10回復する……」

「その通りだよ。たった六十点分のダメージだ」

 

 正攻法ならデッキ枚数がちょっと増えた程度だ。私はちゃんとゲームバランスを考えている系魔王だからね。

 でも、これぐらい突破してくれないと面白くない。

 

 ちなみにエデン・コードには10点のダメージを与えるハイコストの魔法カードがあるけど、大体のユニットカードにはオーバースペック過ぎて誰も使わないレベルである。大型ユニットのスタミナは9くらいが平均だし。

 でもシュウは強力なドラゴンデッキの切り札のスタミナが13だったから、一時期みんなそれを積んでたとか言ってたかな。

 

 でもまあ私のパパは邪竜だしママは女神だし、私のスタミナが20あるのは妥当であるかな。

 

「私はこれでターンエンドだ」

 

 この、大型ユニットを立たせて相手にターンを渡す悪役ムーブ、ちょっとしてみたかったのだ。アニメみたいだし。

 

 エデン・コードは先行で無効効果のあるカードを大量に並べたり、罠カードをガン伏せして終わりみたいなゲームデザインをしていない。

 

 耐性のあるユニットが少なく、除去カードが豊富で逆転がしやすく盤面が目まぐるしく動くので見栄えが良い。

 ルールも単純だから、この世界でも世界的に広まっているのだ。

 

 まあ、私はその耐性がある制圧カードな訳だけどね!!

 

「俺のターン」

 

 メグルはカードを引いた。

 そして、彼はそのカードを示した。

 

「俺は魔法『女神メアリースの剪定』を発動する」

 

 ん? 確かそれって、激つよ制限カードだったはず。

 

「相手の墓地を全てデッキに戻し、場のユニットを全てロストさせる」

 

 おい。

 おいおいおい。

 

「ちょっと、トップ制限カード解決なんてズルい!!」

「お前にはこのカード一枚で十分だったね」

 

 雷のエフェクトが私に直撃し、彼は勝利条件を満たした。

 

「俺の勝ちだ」

 

 ぐえー、負けたンゴー。

 

 

 

 

 

 

 

「さあ、全部元に戻せ!!」

 

 遊び(ゲーム)は終わった。彼は聞いていた以上の豪運の持ち主だった。

 

「うーん。どうしようかな……」

 

 私は手札のカードを見ながら、悩んでいた。

 

「実は私には第二形態があってね。ほら、魔王だし、お約束だからさ、まだ負けてないって言い張ってもいいんだけどね」

「なんだと!!」

「遊びにムキになるのもどうかなって。これは仕事用だしなぁ」

 

 仕事用に仕事場から貸し出されてる社用車を私的に使うみたいな、そんな躊躇いだった。

 でも、こんな負け方は流石になぁ。

 

「……やっぱりいいや、今回はこのくらいで」

 

 私は手札をデッキの上に置いた。

 素直に負けを認めることにした。

 

 今回は彼に華を持たせよう。

 

「君の要望通り、これまでカードにしてきた人間を、すべて元に戻してあげるよ」

「ふざけるな!! それでシュウの両親はもう戻ってこないんだぞ!!」

「なに言ってるの君は」

 

 私は次元の裂け目を作り出し、その中からシュウの両親のカードを引っ張り出した。

 

「カードゲームで人が死ぬわけないじゃん」

「……」

 

 メグルは絶句していた。

 何を当たり前なことを。ホビーアニメは子供向けだよ、死人が出たらダメに決まってるじゃん。

 

 彼はへなへなとその場に座り込んだ。

 

「カードゲームはこれだから面白いけど、こんな負け方は納得いかないし。

 次は市販のカードでやろう。私だけしか使えないカードとか正直ズルいし」

「なんで、なんでこんなことを……」

 

 私は彼に話した。私はただ、ホビーアニメごっこをしたかっただけだ。

 良い暇つぶしになったよ。

 

「それじゃあ、私は帰るよ。いい加減向こうでの仕事も進捗してるだろうし。

 ああ、もし何らかの損害が発生してたら請求書を送ってね」

 

 私はそれだけ言って、この世界から離れた。

 

 

 

 

 

 

 私の仕事は、女神が不要だと判断した世界を滅亡させること。

 

 私は仕事先の世界に存在する居城の玉座に座った。

 大勢の魔物としか言えない連中が、我が前に平伏している。

 

「お前たち、紹介するよ」

 

 私はカードを放り投げた。

 それが落ちたところに、シュウが召喚され、彼は私に膝をついた。

 

 私は言った。

 

「彼は私の新しい四天王だ」

 

 私の配下たちは、異論を挟まない。

 たとえ新しい四天王が、幼い少年だろうとも。

 

「魔王様」

「なんだい、シュウ」

 

 彼は頭を上げ、こう言った。

 

「この世界の連中は、どんな効果を持っているんですか?」

 

 私は、ただただ笑みを浮かべた。

 

「シュウ、共に新しいストレージを漁ろうよ」

「うん、ミク。楽しみだね」

 

 どうせ、この世界は滅ぼし、皆殺しにするんだ。

 それが魔王としての、私の仕事だ。

 

 全員カードにした方が、まだ人道的って奴かもしれないね。

 そう思うだろう、シュウ。

 

 

 

 




正直こんな手慰みに書いた短編に高評価がこんなに貰えると思えずビックリしています。
とりあえず短編なんでこれで一旦完結風にしておきます。

続きを書いて連載にするかは、また今後の反応次第で考えます。
でもネタは無いので期待しないでね!!
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