あと、今回AIイラストでミクの挿絵を挿入しています。
嫌な人は右上の観覧設定でOFFにしてね!!
「ふぅ……清々しい朝ね」
ミクは僕の入れたコーヒーを飲みながら、朝食を取っていた。
ブルーローズマウンテンとか言う豆のトリプルショットだ。日本円にして百グラム4500円と言うとんでもない代物である。
一度試しにも呑ませてもらったが、僕には苦くてとても飲めなかった、その時はカフェオレにして飲んだ。砂糖をたっぷり入れたけど。
ミクは子供だね、と笑っていた。くそぅ、見た目の年齢はそんなに変わらないのに。
「それそろ地球に戻る時期ね。スケジュールはいつかな」
「三日後にはメアリース教団が主催する国際会議があるから、ミクはそこに出席する予定になっているよ」
僕はメモをまくりながらそう言った。
すっかり僕はミクの執事みたいなことが板に付いた。
魔王軍にも、ちゃんと教養がある魔物が居て、その人たちに教わったんだ。
魔物と聞くとカードのイラストに描いてあるモンスターって思い浮かぶけど、人型の魔物の中にはメアリース様に平伏し、人類に帰属した人たちがかなり居るらしい。
彼らは人間と同じ権利を持ち、同じ教育を受けて、志願者は魔王軍として登用しているらしい。
だから僕もしばらく学校に行ってないけど、ちゃんと勉強してるんだよ!!
「こっちの進行状況は?」
「八割ぐらいかなぁ。もう僕が出なくても十分なくらいカードにしたし」
国家を丸ごと収めたテリトリーカードに、場所や道具とかを映した魔法カード、武器やアクセサリーと言った装着カード、そして人間そのものであるユニットカード。
これを全部、ミクは僕にくれたんだ!!
その数は数億枚にもなるから、一枚一枚確認するだけでどれだけ時間があっても足りないくらいだ。困っちゃうよね。
「反撃も散発的だし、もうみんな教会に籠ってメアリース様に祈ってるって偵察部隊が言ってたよ」
「じゃあ、もう終わりで良いかな」
ミクは目玉焼きをフォークで突き刺し、ぺろりと食べた。
黄身が零れてるから、僕はナプキンでミクの口元をを拭った。
「ってことは」
「そう。この世界を滅亡させるってこと」
それがミクの仕事。前々から聞いていたけど、やっぱり実感が薄い。
「アオナの言い回しで例えるなら、この世界の連中はアセンションしようとしなかった。お互いに足を引っ張り合い、文明の進歩を破壊と殺戮、怒りと憎悪にしか用いなかった」
僕は目を伏せた。悲しかったのだ。
その光景を僕は沢山この世界で見て来たから。
「残酷だけど、この世界そのものを維持するのはタダじゃない。
太陽も、海も、風も大地も、メアリース様の御力によるもの。
主上に貢献しない者より、より健全に文化的で文明的に発展している者たちにリソースを注ぐべきだから」
ミクはそう語った。
僕もメアリース教団の経典を読んだことがあるので、よくわかる。
女神メアリース様は人類の文明を司る御方。
人類の歴史は戦争の歴史だから、かの御方は別に争い自体は否定していないし、出来ない。争わない人間なんて、それは人類とは呼べないからだ。
だけど、限度はある。
自らをも滅ぼす兵器が蔓延し、環境を汚染しつくす技術を止めることなく、終わらない戦争を憎しみだけで続ける。
そんな理性と知性を放棄した者達の前に、ミクは……魔王一族は現れる。
滅びたく無くばこの魔王を倒せ。それを以て、自らの価値を示せ、と。
それは女神の慈悲であり、試練でもあった。
この世界は、それが適わなかった。ただそれだけの話だ。
試練は終わった。慈悲は尽きた。
ここからは、憐みの時間だ。
「我は、魔王なり」
朝食を終えたミクが、ゆっくりと立ち上がった。
「未だ神のゆりかごに眠る、幼年期を終えられぬ人々の揺籃を守護する者である。
今こそ私は、芽生えに至らぬ木の枝を断とう」
ミクの身体が、どんどんと膨れ上がる。
ミクの、魔王アテンムードの真の姿、第二形態だ。
巨大だ。山のように巨大な竜だ。
黒く、邪悪な、この世界を滅ぼす竜神の姿だった。
「私は、惑星マルサムボーンをドローして、ターンエンド」
そんな彼女が、大地に手を付け、引っ張った。
たったそれだけだった。
この星が、大地が、その手に収まる。
星が、たった一枚のカードと化した。
「ゲームセット。人類の幼年期、未だ終わらず」
世界が、滅びたのだ。
そして僕は、生身で宇宙に放りだされていた。
凄まじい寒さで、僕の命が急速に尽きようとしていたのだが。
「あ、ごめんごめん」
ミクはそっと、僕を手に乗せた。
「ううう、ありがとう、ミク」
ミクの何らかの魔法なのか、僕の周囲は適温で保たれた。
だけど僕はぶるぶる、と震えるしかなかった。
「そう言えば、あと二日ぐらいあるんだっけ?」
「うん、そうだけど」
「じゃあさ、宇宙の果てまで行ってみない? 私達の居る世界が張りぼてだって教えてあげる」
そして僕はミクと一緒に、丸二日ほど宇宙旅行をした。
どれだけ探しても宇宙人は居なかったし、宇宙は無限に広がっているわけではなかった。
けど楽しかった。ミクがふざけてブラックホールに突っ込んでいった時とかは生きた心地がしなかったけど。
そうして、僕たちは余暇を楽しんだ後、僕の故郷に戻って来た。
ミクの空中要塞の玉座の間に転移すると、他の四天王の三人が膝をついて待っていた。
「お待ちしておりました。魔王様」
「再び御身を拝謁する栄誉を賜り、光栄でございます」
「魔王様、ご機嫌麗しゅうございます」
彼らは頭を下げていたんで、分からなかったんだと思う。
僕は上着を脱いで、ミクにそっと後ろから被せた。
ミクはあんな巨体になってたんだから、普通に衣服とか弾け飛んでいた。僕はそんなことに今頃になって気づいたんだ。
「みんな、久しぶり!! 突然で悪いけど、魔王様はお召し物を御所望だよ!!」
ミクは殆ど素っ裸なのに、堂々と玉座に座り込んでいる。
三人は玉座のある階段の下で膝をついているから、今顔を上げたら下から見えて大変なことになる。
僕は……今更かな。
ほら、ミクって王族みたいなものだから。着替えとかお風呂とか、独りでやらないんだ。
僕がミクのお世話をして良いのかって話になると、ミクは女の子みたいな見た目してるけど、厳密には性別は無いらしいしいから構わないって彼女は言っていた。
「イワオお爺ちゃんみたいにパンプアップしてたから、ちょっと大変なことになってるんだ!!」
「それは、困りましたな」
「かしこまりました、すぐに手配いたします」
頭を下げたまま苦笑するお爺ちゃんに、表情を変えずに行動をするアカネさん。
彼女はすぐに服を持って来た。
「もっとスケスケでヒラヒラの、角度がエグいハイレグとかが良かったんだけど」
「ご要望に応えられず申し訳ありません」
意訳、勘弁してください。
アカネさんの表情はそう語っていた。
「ミク、これから偉い人の前に行くんだから、そう言うのはちょっと……」
「わかってないなぁ、シュウ。それにカードゲームってのは奇抜な女の子のイラストとインフレするカードの効果で売るもんなんだよ。
環境デッキの女の子はみんなそんな格好になるものなのよ」
「僕はそんな格好のミクのカードは嫌だけどな……」
僕がそう言うと、ミクは唇を結んで黙り込んだ。
「今の格好も良いと思うよ、エジプトの王様みたいで」
「あ、わかる? 私の格好も名前も、昔のエジプトの王様をリスペクトしてるのよ」
僕が褒めると、ミクは機嫌を直したようだった。
「見てよこれ。これぐらいゴールドを巻いて、派手じゃないとダメよね」
「う、うん……」
ミクは王族で竜みたいなものだから、光物が好きなのかもしれない。
「魔王様、そろそろお時間です」
アオナさんが腕時計を確認し、そう言った。
「はーい」
ミクは玉座からひょいと立ち上がった。
「それじゃあ、行こうか。お前たち」
「御意のままに」
そして僕たちは、会議場に向かった。
国際会議の会場は、意外にも日本だった。
場所は、ほら、コミケの会場とかになってる有名な建物だった。
ミクは上座でふんぞり返って、多くの偉い神官たちに挨拶をされている。
逆に、各国の首脳陣からは遠巻きに見られているようだった。
僕ら四天王はミクの背後に控えていて、生きた心地がしなかった。
他の三人は人前に出ることに慣れてるだろうけど、僕普通の中学生だったんだけど。
そろそろ、時間だ。
円卓に各国のお偉いさんが席に着いた。
報道陣が生放送し、パシャパシャとカメラで撮っている。
居心地は最悪だった。
「この度は我らの魔王、アテンムード様のご降臨に際しお集まりいただき感謝いたします」
ミクは何もしゃべらない。アオナさんが彼女の意思を代弁して語りだす。
「魔王様はこの度、我らメアリース教団の最高指導者として、またメアリース様の代行者として、この世界をより良くアセンションするべく遣わされました。各国の代表の皆様におかれましては──」
「アオナ」
「はッ」
「エンターテイーメントじゃないわ」
ミクの不満そうな言葉に、アオナさんは頭を下げた。
「私は魔王。お前たち失敗作の処分を保留してやっているのは、私を愉しませる為なのよ」
何処までも傲慢、何処までも上位者。それが、ミクの
「そうね、年に一度くらいかな。最高の舞台を用意し、最強のプレイヤーを用意しなさい。
その者が我が四天王を倒した時、私はその者の挑戦を受けるわ」
報道陣のフラッシュが無数に光った。
「そして私に勝利した者の望みを、私の権限の及ぶ範囲で何でも叶えてあげる。金銀財宝、若さ、死に別れた愛する者、何でもいいわ」
「お言葉ですが魔王様。メアリース様は死者の復活は否定しております」
「ああ、そうだったわね。それは無しね」
アオナさんの諫言を受けて、ミクは訂正をした。
「でも、ムカつく国とかを滅ぼしてほしいとかは全然アリよ」
ミクは冷酷に各国首脳人を見渡した。
「それは、横暴ではありませんか!!」
アメリカの国の偉い人が、そう言った。
それはそうだと思う。ミクの存在は、多分安全保障って言葉の意味を無意味にするから。
「文句あるの?」
「我々はメアリース様に従い、武器を捨て平和的かつ文化的に生きてまいりました。それがこの仕打ちなのですか!!」
「ドロー」
ミクは無造作に、虚空から何かを引っ張った。
「地下核ミサイル基地」
「そ、それは……」
「どこの誰が武器を捨てたって?」
ミクはカードに映し出されたイラストを示した後、ビリビリにそれを破いた。
「メアリース様は全知全能よ。これを知らないとでも思ってるの?」
露骨に視線を逸らした大国の首脳陣が結構いたのが、僕にも分かった。
「ドロー。私はね」
地球上から、また兵器が消えた。
「ドロー。こんな危ないものを持ってたら危ないでちゅよって言ってるの」
ビリビリに、破ける。
「ドロー。お前たちのように、言葉の分からない赤ちゃんが、この私に意見するですって?」
ミクの目の前に、ちぎれた紙が積み重なる。
「ドロー。笑わせるな、下等生物ども」
ミクは全世界の目の前で、世界中の核兵器を根絶して見せた。
「私を愉しませている間は生かしてやる。主上からお前たちの生殺与奪の全権を私は頂いているのを忘れるな。
そして、それが嫌だと言うのなら、さっき言った通りだよ」
ミクは沈黙している議場で、報道陣に向けてこう言った。
「私に挑み、勝利しろ。その時に、お前たちに主権を返してやる」
僕はようやく歴史の教科書で習った、神様の言葉を思い出した。
人類から主権を剥奪せざるを得ない、と。それはまさにこのことだったんだ。
「私は
完全に赤ん坊扱い。
それが今の人類のレベルだった。
それからは、責任の追及合戦だった。
核兵器を隠し持っていた責任はどうするんだ、とか。
メアリース様から見捨てられたらどうするつもりなのか、とか。
挙句の果てには。
「そもそも我が国はメアリースを神とは認めていない!!」
中東らへんのお偉いさんがそんなことを言い出した。
「ならお前たちの神に祈ればいいじゃん。居もしない神が何をしてくれるのかは知らないけど」
暇になり過ぎてスマホを弄りだしたミクがそう言った。
「メアリース様はお前たちの宗教という“文化”を認めている。信仰は自由だと。考え方は自由だと。
だけど主上を必要としないのなら、なんでこの大地に住んでるの?
なんで息してるの? 酸素もそれを必要としてる者のリソースなんだけど、要らないなら主上に返還しなよ」
ミクは本当に容赦なかった。
「ミク、そう言う言い方は良くないよ」
「……」
「生きる権利は誰だってあるはずだよ?」
そうじゃないと、カードに成れないじゃないか。
「そうね。悪かったわ」
戦々恐々としていた首脳陣は、ほっと息を撫で下ろした。
「魔王様、我々の今後の方針についてお伺いしたく」
「お前達に全部任せる、好きなようにやっていいよ」
「ははッ」
会議が終わり、今後のメアリース教団の方針決定はたったそれだけだった。
「そんなことより来須社長。私の第二形態を模したドラゴン型のジャンボジェットはいつ頃できそう?」
「は、あと一年ほど掛かるでしょうか」
「じゃあ、遊園地、アテンランド作って!!」
「かしこまりました」
イワオお爺ちゃんは微笑ましく孫を見るようにそう頷いた。
「アセンション学園は土地の選定が終わり、今は日本の無人島に大規模な工事を行っております。
来年には新入生を受け入れられるでしょう」
アカネさんは以前から命令されていたことの報告を行った。
「流石ね、予算に糸目は付けないから最優先で。
そうだ、シュウ。あなたも入学しない? 高校の卒業資格ぐらい取っておいた方が良いわよ」
「それもそうだね」
僕はちょっとおかしくて笑ってしまった。
僕はミクの四天王なのに、将来の心配なんてしている。
「そう言えばミク、アセンション学園に何か封印するカードを用意するって言ってなかったっけ?」
とは言え、僕の興味はカードだけしかなかった。
「ああ、それなんだけどね、主上に面倒ごとを押し付けられちゃった。もうそれでいいかなって」
ミクは、心底面倒くさそうにそう言った。
そして、その面倒ごとはアセンション学園で大きな波乱を呼ぶことになるのを、僕たちはまだ知らなかった。
ちなみにこの後、新パック「マルサムボーンの都市国家たち」の第一弾が地球で発売する模様。
みんな大喜びします!!(ニチャア
ではまた次回。