いよいよアセンション学園に入学する直前。
メグさんがこんなことを言い出した。
『二人共、頼みがあるんだ』
彼女は非常にまじめな表情で、そう言った。
正座と言う文化ないのに、正座して居ずまいを正して。
私たち二人は、いったい何事かと思ったのだが。
「メグ、いったいどうしたんだ?」
「そうよ、そんな真剣な表情で」
私もメグルも、顔を見合わせた。
『まあそこに座りたまえ。まず結論から言おう』
余りにも真面目な態度なので、私達も自室の床に正座して、彼女の言葉を待った。
『二人共、セッ●スしてほしい』
「……は?」
『いや、だからセッ――』
「二回も言わなくて良いわよ!!」
私は立ち上がって、怒鳴り散らした。
「真面目な態度だったから真剣に聞いたのに、いったい何なのよ!!」
『私はふざけてなどいないが?』
だけど、メグさんは普段のように人好きの良さそうな笑みを浮かべていなかった。
『最初に私は自分の事を、魔術師にして錬金術師と言ったはずだよ。
メグルと言ったら、最初こそ目を輝かせていたのに、修行が地味過ぎて全く進んでないんだよ』
「それとこれとは関係ないだろ」
メグルがちょっとムッとしたようにそう言った。
『私もカードに封印されているとはいえ、このままでは余りにも不自由でね。自由に動かせる身体が必要だと思ったのだ。
それ故に、ホムンクルスを生成しようと考え、メグルに頼んで色々と触媒や素材の調達が何とか完了した。最後の一つを除いて。
そして、最後の材料と言うのが男性のせ――』
「だから、説明しなくていいわよ!!」
私は彼女が何を言いたいのかわかって、更に怒声を挙げた。
「なんで私が協力しないといけないのよ!!」
『別にメグルの自家発電でも構わないのだが、その場合私が妄想の
「うぐ……」
この相談は、彼女なりの誠意のつもりらしかった。
「いいよ、トキコ。今時そういう画像や動画なんてネットに幾らでも転がってるし」
「メグル、なんでそんなこと知ってるの?」
メグルは露骨に顔を逸らした。こいつ!!
いや別に、私達って15歳だし、そう言う欲があるのは否定しないし、私もどちらかって言うとそう言うのが強い方だけどさ!!
「ってか、私達15なんだよ、そう言うのは早いって言うか……」
『私の国では成人じゃないか』
「この、中世の倫理観!!」
『ちなみに、私は自家発電で構わないと言ったが、可能なら君の破瓜の――』
「それ以上言ったらあんた破くからね!!」
『なに、まさか経験済みなのか?』
私は無言で床に置いてある彼女のカードに向かった。
「ふーーッ、ふーーッ!!」
「や、止めろトキコ、落ち着けって!! メグもだ!!」
『私はただ、素材の価値を性交という儀式を用いて高めよういうだけで――』
「もういい、この話は終わりだ!!」
「 は な し てッ !!」
私は結局落ち着くまでメグルに羽交い絞めされることになった。
「メグ、やっぱり俺達の年齢で責任は取れないから、そっちは無しだ」
『ふーむ、遅いか早いかの違いでしかないだろうに』
「この、他人事だからってッ」
『いいや、当事者だよ。私はメグルなのだからね』
「だからメグ、これ以上火に油を注ぐなって!!」
『わかった。仕方がないから、私がひと肌脱ごう』
そう言って、おもむろにメグさんは服を脱ぎ始めた。
幽霊同然の身体なのに、器用なモノである。
「お、おい、ここで始めるなよ!!」
メグルが焦ってそう言った。
そうよ、ここは私の部屋なんですけど!!
「メグルはッ!! こんなことに協力するのに賛成ってわけ!!」
「だ、だって、ずっとカードに閉じ込められて、可哀想だろ」
「それはそうだけど、自業自得なんでしょ!!」
「聞いてくれ、トキコ」
メグルの鋭い声に、私の身体は固まった。
「メグは身体と魂がカードに封印されて、精神だけ分離してる状態なんだ。
これは人間として非常に不完全な状態で、長続きすると悪影響がでるんだよ」
「……」
「霊視の魔法の訓練で、本物の幽霊を見たりしたんだ。大半の幽霊は何の力も無くて、最後には消える。狂ったり、病んだりしながら。寒い、寒いって」
「…………」
「肉体が無いってそう言うことなんだ」
「……悪かったわよ」
人一人がちょっと自家発電するくらいで助かるのなら、メグルは迷わずそうするだろう。彼はそう言う人間だった。
それに、カードにされた時の寒さは、私にも覚えがあった。
「わ、私は何もしないから、メグルが勝手にやってよ……」
「う、うん」
「み、見せるだけ、だかんね……」
「おう……」
私が覚悟を決めてから、およそ十五分くらい経って。
『よし、メグル。そのまま採取してくれ、メグルの部屋で調合して錬成を行おう』
「……うん」
お互いに気まずい雰囲気なのに、メグさんは淡々と指示を出す。
「そうして、私が出来たってわけだ」
それから一時間ほどして、メグさんは新たな身体を手に入れた。
手乗りサイズ、15㎝くらいの人間がメグルの肩に載っていた。
「ちょっと待って、昔人形遊びしてた頃の人形の服が合ったと思うから」
ハンカチを巻いていた彼女に、私はタンスの奥から人形用の服を引っ張り出した。
「本当に、これを作ったの?」
「ああ、まさか疑ってたのかい?」
人形用の服で、ぴったりだった。
容姿は小さい頃のメグルが、女の子っぽくなったような感じだった。
生命の神秘だった。
着替えの間、メグルはそっぽを向いていた。
「本当に、スゴイよな。俺、もっと真面目に修行しようかな」
「君はアセンション以外にもっと興味を持った方がいい」
「うるさいやい」
メグルは今度は拗ねたようにそっぽを向いた。
「時間があれば五歳くらいの身体なら作れたんだが、この国で人間が一人増えるのはマズいだろう?
この状態ならある程度の魔法も扱える、隠れて君たちに付いて行くのも容易だ」
「容易って、まさか、学園までついてくる気!?」
「初めからそのつもりだが?」
「寮にペットはダメでしょ……」
誰がペットだ、とメグさんは憤慨したようだった。
アセンション学園は日本海にある孤島にある。
当然、通学するには寮生活になるのだ。つまり、共同生活なので、動く人形サイズの人間なんてバレるに決まってる。
「俺、特待生だから個室貰えるんだ。何とかなるかもしれない」
「いいなぁ、メグル……」
私も個室が良かったなぁ。
そんなこんなもありつつ、私達のアセンション学園の入学式の日が来た。
船に揺られること一時間。私達は前日に入島し、寮の部屋に荷物を運んでいたり、島内を散策するなどしていた。
日本海に浮かぶ孤島に、アセンション学園がそびえ立っている。
魔王はなんでこんな場所に学校を建てたのか、アオナさんがインタビューで応えていた。
「魔王様のご趣味です」
と。ならしょうがないかぁ。
ちなみに、寮は四つあり、それぞれ魔王の四天王の苗字を取って割り当てられており、制服もそれに対応して赤、青、黄色、白のジャケットが存在する。
それらを羽織っていれば、それ以外の服装はほぼ自由らしい。
私達は天見寮に割り当てられ、制服から赤寮としか呼ばれなさそうだった。
ちなみに白取寮が白、来須寮が青、久遠寮が黄色の制服が割り当てられている。
多分、寮対抗での催しをやりやすくする為だと思う。
「寮生活か、私も学生時代を思い出すよ」
登校の最中にメグルのジャケットの内側のポケットから、メグさんのそんな声が聞こえた。
この日の為に植えられた桜並木が、桜吹雪を舞わせている。
今日から、私達の新学期が始まるんだ。
「いよいよだな!!」
「そうだね」
私達はそこで。
「やあ、二人共」
シュウ君に、遭遇した。
後ろから話しかけられ、私達は振り返る。
彼だった。間違えようもない。
「久しぶり、二人共背が伸びたね」
「……ああ、シュウもな」
彼とメグルは、そんな言葉を交わした。
一年近く振りの、再会だった。
「シュウ、あのさ」
「今日は入学式だけだから、その後にしよう。これから時間は幾らでもあるよ。
メグル君は特待生として、入学生代表としてお話しなりするんだから、遅れたらダメだよ」
「ああ、そうだな」
まるで何も変わっていない、以前と同じ日常のような会話だった。
シュウは黄色いジャケットを翻して、校内へと向かって行った。
彼は自分の名前を冠した寮にいるらしい。
体育館で入学式が始まると、私達生徒は緊張に包まれた。
魔王だ。彼女は理事長として、参加していた。
「えー、それでは、魔王様におかれましては、生徒達に訓示などをお願いします」
校長先生が彼女の方を見やってそう言った。
初めから予定されていたのか、彼女は何も言わず壇上に立った。
「お前達がなぜ、失敗作なのか、教えてあげるよ」
魔王はそう、口火を切った。
「主上、メアリース様は人類文明を司る、人類の概念そのもの。
神にとって時間や因果律なんてものは無い、永遠の存在だ。
かの御方は人類の誕生以前から存在し、そして人類が滅んでも存在する。
つまり、主上にとって人類の繁栄や衰退など、箪笥から服を取る時に上か下の段から取るかの違いしかない」
それは興味深い話だった。
私達が聖典と呼んでいる、メアリース様の自著伝には彼女は死後自分が神だと気づいたと書いてあった。
つまり、メアリース様は初めから存在していたのに、人間として後から産まれたと言うことになる。
まさに魔王の言う通り、神様は時間や因果律に囚われない存在ということなのだろう。
「要するに、見ようと思えば人類がどのように消え去るのかわかるわけだ。全知全能とはそう言うことさ。
重要なのは、主上はそれをせず、人類の成長をお前達に託し、期待していると言うことだ」
神の期待、か。私達はそれに応えられなかった。
「主上は文明の最果てを見渡す者。人類の想像する全ての技術を可能とする御方だ。
それ故に、お前たちに求める文化的、文明的な成長で重視されるのは、精神の成長となる」
文化や文明による繫栄ではなく、精神の成長……。
「つまり、アセンションせよ。というわけだ。
それが人類が次なるステージに進む為の、偉大な進歩なわけだ。
お前達人類全体がその領域に至った時、お前たちは神の揺りかごから離れ、自らの足で立って歩くことが出来るわけさ」
以上だ、と言って魔王は自分の席に戻った。
多くの拍手が起こった。
魔王なんて肩書にはそぐわない、為になるお話だった。
「次に、入学生代表。絆道メグル君」
はい、と名前を呼ばれてメグルは立ち上がって、壇上に向かった。
そして、手元のメモを読み上げ始めた。
「本日、僕たちはこのアセンション学園の門をくぐりました。
ここは、世界中のプレイヤーたちが憧れ、高みを目指すための新たな学び舎です。
僕には、信じていることがあります。
カードはただの道具ではありません。
アセンションとは、互いの魂をぶつけ合い、絆を深め、より良い自分へとアセンションしていくための神聖な儀式なのだと。
この学園で切磋琢磨し、仲間と共に、楽園への道を切り拓くことを誓います!」
すごい無難オブ無難な定型文だった。きっとアオナさん辺りにお願いしたんだと思う。
メグルって、授業中もアセンションの事ばかり考えて、あんまり勉強の成績良くないし……。
それなりの拍手を受け、メグルは一礼して席に戻った。
そんな感じで、始業式は終わった。明日から勉強とアセンションの日々が始まる。
私達は校門で、彼を待っていた。
「やあ、二人共」
シュウ君は、当たり前のようにやってきた。
「よお」
「うん、お互いに積もる話はあるだろうけどさ」
彼も、何から話せば良いか分からない様子だった。
「アセンションだ。こういう時はアセンションすればいい」
メグルは相変わらず、ブレなかった。
「本当のアセンションをすれば、俺達は分かり合えるはずだ」
「……そうだね。やろうか」
場所はどこにしようか、二人がそう考えていると。
「君が、メグル君だね?」
私達に話しかけてくる者がいた。
背が高くて、鋭い三白眼の少年だった。
「えーと、あんたは?」
「俺は来須ガイ。来須コーポレーションの現社長の孫だ」
それを聞いてシュウ君は、ああ、と頷いた。
「君はイワオお爺ちゃんのお孫さんなんだね!!」
「そうです、シュウさん」
ガイ君はシュウ君を一瞥して、頷いた。
彼は家名を関する寮の青いジャケットを着ていた。
「そして、お爺様より直々に、次期四天王に推薦されている」
「へぇ、スゴイなぁ」
「だからこそ、この俺を差し置いて生徒代表に選ばれたお前が気に食わない!!」
素直に感心しているメグルに、ガイ君は敵意を向けた。
凄い分かりやすい……。もう御曹司って呼ぼう。
「俺とアセンションしろ!! 魔王様に認められた実力とやらを見せてみろ、そしてどちらが上か、証明してやる!!」
何と言うか、その、こういうタイプってさ。
「ああ、望むところだぜ!!」
メグルって大好きなんだよねぇ。
「……また始まった」
そうやってメグルはいつも友達を作っていた。
でも御曹司のようなハングリー精神は、アセンションに必要なモノだし。
「仕方ないよ、メグル君だもん」
「あ、シュウが先か? 約束してたし」
「僕は後で良いよ。時間は幾らでもあるって言ったじゃないか」
「そうだな!!」
ああ、でも。
これを見てると、私達の日常が帰って来た。
そんな風に、思えるのだった。
今回は正統派ライバルキャラの登場でした。
次回は正統派ではないヒロインが登場する予定です。
アンケートでは意外にも対戦シーンを要望する読者が多くてびっくりしました。
描写してほしい派とこれまで通り派が概ね半々なので、作者が力尽きない程度に書こうと思います。これ、大事。
それではまた次回!!
おい、アセンション(対戦)しろよ。
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アセンションする(一話対戦に使う時もある
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半分ぐらいアセンションする(カット進行
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アセンションはフレーバー程度で(現状維持