クソ怪しいスキル持ちの喫茶店マスター、いろんな連中からよくない目で見られる   作:あやしす

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1 俺は決して怪しくない

 俺の夢は、人のこない喫茶店を開店し、店員に「このままじゃ店が潰れちゃいますよ」と言われながらのんびり過ごすことだった。

 もっと具体的にいうと社会の柵に縛られず、道楽で店を開いても問題ない資金を持ち、適当に生きていくこと。

 なんて俗な願いなんだ。

 でも、そういう生活に現代人なら一度は憧れるもんだよな。

 それでいて、周囲から後ろ指刺されないだけの社会的地位もあれば完璧だ。

 

 とはいえ、それがあまりに無謀な願いであるということは、俺も理解していた。

 前世においてはそんな夢を抱きながらも、毎日社畜生活を送っていたのだ。

 しかし、俺はファンタジー異世界に転生した。

 冒険者とかスキルとかある、非常にオーソドックスな異世界だ。

 ここでなら、俺の夢を叶えることは前世ほど難しくない。

 魔術やスキルのおかげで、非常にお手軽に強くなれる。

 それによって金を稼ぐ手段も豊富で、冒険者としての等級を上げれば社会的な地位までついてくるのだ。

 無論これには才能が必要だけど、俺には転生者特有のチートじみたスキルがあった。

 かくして俺は、資金をためて念願かなって道楽の店を開くことができたのである。

 

 ただ、このスキルには問題があった。

 その問題とは二つ。

 スキル名と、使用した際の俺の見た目が()()()()()ということである――

 

 

 ◯

 

 

 人のいない閑散とした喫茶店の優雅な昼下がり。

 俺が適当においた調度品を、店員のリリナがいい感じに置き直して調和が保たれている店内。

 窓から降り注ぐ穏やかな日差しをあびながら、俺は自分で入れたコーヒーを口にしていた。

 言うまでもなくこのコーヒーは商品だが、ここは道楽喫茶店、飲みたくなったら飲めばいい。

 そういう自由が俺にはある。

 今日も今日とて、店には客の一人も来やしない。

 一日に数人来れば繁盛していると言えるほどの、暇な喫茶店だ。

 

 そんな喫茶店の扉が、不意に開いた。

 からんころんと合図が鳴って、俺の視線もそちらへと向けられる。

 

「いらっしゃい」

「失礼するわ」

 

 入ってきたのは、十代半ばの凛とした少女だった。

 クソデカリボンと紫の髪、鋭いツリ目に女子の平均より少し低い程度の背丈。

 ドレスと鎧を組み合わせたような出で立ちは、可憐でありながらどこか力強さも感じられる。

 総じて、少女騎士といった言葉がぴたりと当てはまる少女だった。

 

「相変わらず、客がまっっっっっっったくいないわね」

「含みのある言い方だな、フェリーシャ。今日はリリナは休みだぞ」

「知ってるわよ。だから来たんだもの」

 

 名をフェリーシャ。

 この街有数の冒険者であり、ついた二つ名は可憐。

 もう見たまんますぎる二つ名だ。

 そしてこの喫茶店に定期的にやってきてくれる数少ない客であり、店員のリリナとは親友といっていい関係なのだが――

 

「――今日こそは、貴方の本性を見抜いてやるんだから」

「はいはい。いつものコーヒーでいいか?」

「ええ」

 

 ――なぜか、俺のことをずいぶんと疑っているのだ。

 まるで俺がなにかとんでもないことを隠しているのではないかという、鋭い視線。

 それはもう、正面からじいっと俺のことを見つめてくるのである。

 

「……俺は無害な喫茶店のマスターなんだけど」

「ぜぇったいそんなはずないでしょ! その呑気な顔の下に、でっかい陰謀を隠してるに違いないわ!」

「隠してない隠してない」

「隠してるわよ。だってマスター、顔がいいのに胡散臭すぎるんだもの!」

 

 転生したことによる恩恵か、俺の顔面偏差値は前世と比べてずいぶんと上昇している。

 しかしそれと引き換えになんとなーく胡散臭く見える顔立ちをしており、自分でもなにか企んでそうだなぁ、と思う顔だ。

 こんな顔の人間が喫茶店のマスターや教会の神父をしていたら、黒幕を疑うものもでてくるだろう。

 でも、フェリーシャが疑う理由はそれだけじゃない。

 

「それに、こんな儲からない喫茶店をやってるのも怪しい。絶対なにか企んでる!」

「いやいや企んでないって、ずっと言ってるけど俺は適当にのんびり暮らしたいの。そのために、こんな客のこない寂れた喫茶店を道楽で経営してるんだから」

「しってる、昼行灯ってやつね! 悪いことしてるんだか、実はいいことしてるんだか知らないけど、絶対裏の顔があるのよ!」

「疑い深いなぁ」

 

 いいながらも、できたコーヒーをフェリーシャに出す。

 味に関してはひがな一日コーヒーか紅茶を作っては自分で飲んでいるので、そこそこ自身がある。

 ただブラックで飲むのはフェリーシャにとってはハードルが高いのか、一口だけ口に含んで「にがっ」と言ってからミルクと砂糖を加えていた。

 これ、うちのコーヒーを飲むたびに毎回やってるけど、そろそろ諦めてもいいんじゃないだろうか。

 今日は行ける気がするって? あぁ、そう……

 

「それに、何より! これを見てちょうだい!」

「これは?」

「マスターが怪しい人物であるという動かぬ証拠よ!」

 

 いいながら取り出したのは、一枚の新聞だ。

 魔導映写機と呼ばれるこの世界におけるカメラによって撮影された、ある人物の写真が一面を飾っている。

 内容はこんな感じ。

 

『七天魔王またしても暗躍、夜の街を躍動する影!』

 

 そこには、フードを被って夜の街を駆ける一人の人物が激写されていた。

 というか俺だ。

 そしてこのフードというのがまた曲者で、身にまとっている衣装から何から、あらゆるものが黒幕っぽい。

 全身黒ずくめで、どこか軍服を思わせるような厳かな雰囲気。

 こいつが“魔王”ですって言われたら、おそらく八割の人物が信じてしまうだろう怪しさがあった。

 で、顔がどう見ても俺である。

 

「――ほら!」

 

 フェリーシャも、そんな新聞を俺に見せつけて、どこか自慢げに俺を見る。

 これはまさしく動かぬ証拠だろう――と。

 だが、俺はきっぱりと正面から言い換えした。

 

「で、その写真の人物が俺であるという決定的な証拠は?」

「え? いやだって、明らかに顔が一緒じゃない!」

「でも、証拠はないよな? むしろ、魔導映写機で撮った写真は、写真に写った人物の魔力すら記録するんだ。その写真の人物と俺の魔力は()()()()()()だろ。むしろ、この写真こそ俺と噂の七天魔王が別人であるという決定的な証拠だ」

「うぐっ!」

 

 ――まぁ、この写真に写ってるのは俺なんだけど。

 多分、夜中に帰るのが遅くなって、面倒になってスキルを使って屋根伝いに帰ったのを写真に撮られたんだろう。

 横着するから、こういうことになる。

 しかし、できる横着は躊躇なくするのが俺のスタイルだ。

 多少こうして話題になったとしても、楽ができるならそれでいい。

 

「と、とにかく! 仮に証拠がないとしても、貴方が七天魔王だっていうのは誰もが噂にするところよ!」

「噂にするだけなら、好きにしてもらって結構だよ。俺は俺の穏やかな生活さえ邪魔されなければ、それでいいんだから」

「むううう……コーヒーおかわり! あとお腹すいたからナポリタン!」

「まいど」

 

 日々を穏やかにすごせればそれでいい、俺の信条だ。

 しかし、だ。

 そんな俺には一つ、大きな障害が立ちはだかっている。

 それはこれまで何度も話題に出したが、俺のスキルが胡散臭すぎること。

 スキルの影響なのか、顔すらなんか胡散臭いのだ。

 そのスキルの名が――七天魔王。

 もうなんというか、名前からして胡散臭い。

 しかも使用すると、写真に写っているような胡散臭さ百倍のスーパー胡散臭いフォームに変身してしまうのだ。

 なおこれ、複数段階ある変身の第一段階である、更に上の段階はもっと胡散臭い。

 というか最終段階は完全に化物だし、あんなのに町中で変身したら魔物として討伐されてもおかしくないぞ。

 

「うううう、ナポリタンは本当に美味しい! 素朴でジャンクな味付けだけど、やすいし……これこそ至高のナポリタンだわ……!」

「そう言ってくれると嬉しいよ」

「おかわり!」

 

 しかも、厄介なことに俺のスキル名は様々な事情から割れていて、しかも街では絶対こいつなにかやってる、と常々話の種になっているのだ。

 結果、この形態の俺は七天魔王と呼ばれ、街の裏側で暗躍する黒幕として注目を集めてしまっている。

 フェリーシャのように、俺の正体を暴こうとしてくる連中も多い。

 それを、俺はスキルの効果で魔力が変質したりするのを利用し、証拠がないの一点張りで否定していた。

 これが逆に七天魔王の怪しさを増幅させてしまうわけだが、認めるよりはずっといい。

 かくして、今日も俺は怪しすぎるスキルを持った喫茶店マスターとして、周囲からの注目を集めるのだった。

 結果、一部の連中からは良くない目で見られているわけだが……個人的には不本意である、と声を大にして言いたい。

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