クソ怪しいスキル持ちの喫茶店マスター、いろんな連中からよくない目で見られる 作:あやしす
俺、ラグナの人生はそこまで怪しいものではない。
田舎の寒村に生まれ、厳しい環境を持ち前のチートやらなんやらで乗り越え、冒険者となった。
その後は冒険者として頭角を表し、資金を集め、念願かなって喫茶店を開店。
道楽マスターとして、たまにやってくる客を相手しながらのんびりとした日常を過ごす。
――そんな、どこにでもいる普通の人生を送っている男だ。
ただここに、七天魔王という固有スキルが絡むことで、俺の人生はずいぶんと複雑になる。
七天魔王、名前の通り非常におっかないスキルだ。
使用すると莫大な力を手に入れる代わりに、見た目が怪しいことこの上なくなる。
手に入れる力も、闇系のスキルや精神支配系のスキルという、いかにも悪役っぽい代物ばかり。
これはもう、世界の裏側で暗躍してくれと言わんばかりのスキルだが、俺は別にそういうことに興味はなかった。
幾度となく言ってきたことだが、俺は毎日を穏やかに過ごせればそれでいいのだ。
しかし世の中ってのは、強い力を持っている人間に注目が集まるようにできている。
加えて俺は、別にその力を隠して使ったりとか、あんまりしなかった。
意識したのは、あくま一般冒険者であるラグナが七天魔王であるという決定的な証拠を残さなかったことだけ。
人前で変身したりするようなことをしないというだけで、結構がっつり使い倒したのである。
だって便利だし、胡散臭いからって使わないのも、それはそれで不便なのだ。
面倒事をさけるためにチートを隠すっていうのも、手間が増えるだけだしな。
それに尻尾さえ出さなければ、配慮してくれる人は配慮してくれる。
逆に、そういう配慮してくれる人は俺を必要以上に買っている気がするんだけど、そこはまぁ置いておこう。
というわけで、そんな紆余曲折を得て周囲から怪しまれながらも喫茶店のマスターをのんびりやる男はこうして誕生した。
正直俺自身、今のポジションを決して疎ましいとは思っていない。
だって、なんだかんだ周囲から高い評価を受けるっていうのは、嬉しいことなのだ。
それが悪い評価でないなら、なおさら。
悪い評価ではないだろう……多分、きっと、めいびー。
少なくとも、俺が住んでいる街レアルバートでは、俺の評価は決して悪くない。
新聞社は好き勝手書き立てるし、フェリーシャみたいに俺の正体を探ろうとする人もいるけれど、俺を排斥しようとする人間はいないからだ。
なにせ本気で怪しまれているなら、こんなふうに正体がほぼ俺であるとバレていても、放っておかれるのはおかしい。
じゃあなんで放って置かれているかというと――理由は結構単純だ。
◯
その日、俺はダンジョンに潜っていた。
ダンジョン、まぁだいたいオタクが想像する通りの代物だ。
そこには無数の魔物がいて、倒せば素材をドロップする。
レアルバートの街は冒険者の街であり、街からダンジョンに直接アクセスすることが可能。
俺も冒険者として、昔からこのダンジョンにはお世話になっていた。
で、今何をしているのかといえば、食材の調達である。
現在俺がいるダンジョン上層には、生けるトマトの魔物”アタックトマト”とデカいイノシシ型魔物”ワイルドボア”が出現するのだ。
どちらもナポリタンの具材として使用する素材をドロップする。
別に商店から仕入れてもいいのだけど、うちの店は基本何もかもが赤字経営。
店を開くよりも閉めて食材を自分で調達したほうが経済的という、すごい店なのである。
ついでに他の魔物も上層を中心に活動する冒険者のじゃまにならない程度に狩れば財布の足しになる……というわけで、俺は自前で食材を調達するようにしていた。
「はあ!」
そして言うまでもないが、現在の俺は七天魔王を使用して第一段階に変身している。
黒いフード姿の怪しい男が、上層の比較的雑魚とされる魔物を蹂躙していた。
――怪しい。
なにか狙いがあるとしか思えない光景だが、店で使う食材を集めているだけである。
――――もっと怪しい!
こほん。
現在俺が相手をしているのはワイルドボアの方だ。
迫りくるイノシシを、正面から受け止めている。
そんな俺の手には黒い闇のようなものがまとわりついており、これまたなんとも胡散臭い光景だ。
しかも俺が受け止めたワイルドボアは、干からびるようにしわしわになって消滅する。
もう完全に悪役の所業だ。
こんなことして肉は大丈夫なのかと思うが、この世界の魔物は倒されると消滅して素材を落とす。
たとえ干からびて死んだとしても、ドロップする肉は新鮮だ。
「こんなものかな」
イノシシ魔物を倒し、ドロップした素材を回収する。
この時、俺はそれをアイテムボックスに格納するが、端から見た時の絵面が怖い。
手から黒い光が漏れてオオカミの口を思わせる形に変化、そして素材を食らうのだ。
アイテムボックスのスキルを持っている人間は少なくないが、このような格納を行う人間は俺だけだろう。
原因は、俺のアイテムボックスが七天魔王のスキルに紐づいているから。
とりあえず何でもかんでも胡散臭くしないと気がすまないのだ、この厄介なユニークスキルは。
こういうところを見られると、またこないだの新聞みたいなことになる。
とはいえ今回は、周囲に人の気配はないのだけど。
「……ん」
そんな時だ。
俺の探知能力が、異変を察知したのは。
周囲に人の気配はないが、俺の七天魔王は非常に優秀な探知能力を持っている。
それがあれば、ダンジョン内の同じ階層はすべて探知が可能。
するとどういうことができるかというと――窮地に陥っている冒険者を探知できるようになるのだ。
俺は、自然と探知した場所に向かって足を向けていた。
「まったく、しょうがないな」
俺は穏やかにいきたい。
それはストレスを可能な限り排除したいということで、中でも特にストレスとなるのが眼の前の人間に死なれることだ。
もっと大きなストレスに、パワハラ気味に説教されることが挙げられるものの、今の俺は一人で自由にいきているので、そういうことはなかなか起きない。
逆に命が軽い異世界だと、人が死にかけることのほうが起こりやすいのである。
自分にそれを防げる力があるのに防がないって、気持ちよくないよな。
そういうわけで、俺はこういう事態が発生した時、救援へ向かうようにしていた。
「うわあああ!」
『ぶおおおおおお!』
たどり着いたそこでは、複数のワイルドボアが一人の冒険者を囲んでいる。
放っておけば命に関わるだろう。
早速俺は足に力を込めると、ワイルドボアの一匹に飛びかかった。
『ぶお!?』
「ふん!」
そのまま今度は、ワイルドボアを爆殺して対処する。
干からびさせるよりは絵面がひどくないので、人前ではこうしているのだ。
これでもめちゃくちゃ派手なので、怪しさは決して抜けないのだが。
更に連続で他のワイルドボアにも襲いかかり、殲滅する。
それを、後方から助けられた冒険者はじっと見つめていた。
「こんなものか」
「し、七天魔王……!」
そして、ボアがいなくなりドロップ素材を俺が回収すると――このくらいは命を助けたお代として徴収しても文句は言われないだろう――七天魔王の名で俺を呼ぶ。
同時に
「かっこいい……!」
と、口にした。
そう、これが俺が放って置かれる理由。
俺のことを肯定的に思っている人間も、結構多いのである。
なにせ見た目は普通にイケメンだし、装いも怪しくはあるけどぶっちゃけ中二チックで男心をくすぐるデザインをしているのだ。
案外、俺に対するファンは多い。
加えてこうやって人助けをすることもあるから、普通に俺のことを善良な存在だと思っている人もいるそうな。
俺を黒幕だなんだと書き立てる新聞社の中にもファンはいるそうで、時には好意的な記事が出ることもある。
何より雰囲気が怪しいだけで悪いことなんてしてないから、取り締まられることもない。
そういうわけで俺は、怪しまれながらも一部からは普通に指示を獲得しているのであった。
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