法国勇者のアウトサイドロード   作:遥野みしん

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ブルードゥクお祭り編
第一話 屋台の食べ物って高いよね。


「忍よ、ここに」

 

 荘厳なる王の間に響くは年老いてなお力強き王の声。

 

 そして! 王の声が消え去らぬうちに影のように参上仕る美しき忍が一匹……。

 

「はっ!」

 

 発声、完璧。

 

 顔の伏せ加減、完璧。

 

 影のように何かうねうねしてるマントの端っこ、完璧。

 

 完璧でござる! 

 

 素晴らしい、今日もグレートでござる! 

 

 あぁ、だめだ、口元が綻んでしまう。それをやったが最後、拙者は完璧な忍びでなくなってしまうというのに、んんっ! 

 

 だめだ、目もやばい。ほんっとうにやばい……いや、目はいいか。拙者の目、切れ長だし、ちょっと垂れても美しいでござる。

 

 嗚呼、オナゴと見紛うばかりの麗しき我がFace。

 しかし目の周囲の筋肉の加減によっては野獣のようなワイルドさも演出できる優れもの。

 そしてこの美Body。この筋肉は飾りじゃない! 

 

 飾りじゃないのに優男の印象すら与えかねないしなやかなる肢体。そう、脱いだら凄いんです。ふふっ(*^_^*)。

 

 思えばここまで来るのに大変でござった。雨の日も風の日も、完璧な忍者になるための修行をこなす日々。

 

 我が友が隣でアイスクリームをぺろぺろするのを見て歯噛みし、我が友が前方でポテトフライをカリッカリさせるのを見て歯噛みし、我が友が後方でクレープを啜り喰らうのを見ては歯噛みした、あの地獄のような日々。友への殺意は未だ衰えぬ。

 

 くそっ、思い出しても腹立たしい! なんだあいつのあのスイーツを食べるときの見せびらかすような幸福顔は、コマーシャルのオファーが殺到するぞ!

 

 いや、待て。話が逸れた。拙者何の話をしておったでござるか? 

 ……ああ、そうそう、拙者が完璧な忍であるという話でござった。いけないいけない、最近物忘れが激しいのでな。

 

 さて、拙者がいかに完璧な忍びであるかはまだまだ納得していないでござろう? ふっ、慌てなさるな! 今からゆっくりと話してやろうではないか。まずは拙者の誕生から――

 

「……この少女だ」

 

 え?

 

「……御意」

 

「ふっ、さすがだ。お前の寡黙さと察しの良さにはいつまでたっても慣れんな」

 

 そう言って王は立ち上がったでござる。

 

「期限はこの少女が魔王の元に辿り着くまでだ。よいか?」

 

 ……御意。

 

「え?」

 

 と、拙者の間の抜けた声が王の間に響く。あ、やっべ。

 

「え?」

 

 とこれは王の声でござ。

 

「……御意」

 

「ふっ。やはり最後に頼るのは我が影。我が忍びよな。では我は優雅に待つとしよう。ふっはっはっは! ふーはっはっはっは!」

 

 王の間に響き渡る笑い声。拙者は時を見計らい、軽く礼をしてその場を後にするのであった……。

 

 ☆(←手裏剣)

 

「副将軍殿」

 

 拙者は音もなく副将軍の背後に立ち、その耳元で囁いた。副将軍は余裕のある物腰でふり返った。

 

「なんです? 忍び殿」

 

「拙者に与えられた任務について詳細を詰めたいのだ」

 

「なるほど、例の少女の暗殺ですな。それではどうぞこちらへ」

 

 今回の教えて、副将軍! のコーナーはこちら! いやぁ、ありがとうでござる~いつも助かってるでござるよ~。

 

 宮殿においても甲冑を外さない猛々しい益荒男、ツッパリ髭だるまの副将軍はいつもの資料室へ拙者を導きたもう。

 

 そして副将軍は眼鏡を掛けるとホワイトボードにマジックペンで今回の任務の要点を話し始めた……。

 

「なるほど。つまり軍事産業国家である我が国はこのまま魔王と戦争を続けたい。しかし聖バーナード法国の箱入り勇者が成人し、魔王討伐への旅を始めてしまった。この勇者は数々の暗殺者を出し抜きながら進み続け、今現在、我が国を通過中……ということか」

 

「左様」

 

 と副将軍は頷いた。

 

「すでに魔王とも密約済み。忍び殿はいつも通りやればいいのです。我々も魔王軍もバックアップの用意は万端。しかし忍び殿と言えど今回は幾度も失敗を伴うことでしょう。忍び殿が気を付けるべきは殺されないこと。作戦を継続すること。あの少女は……どういうわけか歩いている。本気を出せばもっと早く着けるだろうに、この分だと魔王の元に辿り着くまでには随分とかかるでしょう。忍び殿は勇者が魔王を討伐するまでに暗殺を成功させればよいのです。どうか、長期戦を覚悟して頑張ってもらいたいものです」

 

「承知」

 

「忍び殿は変わりませんな」

 

 副将軍は笑うと、「あとはそちらでやってほしい」と資料室をあとにした。

 

 残された拙者は資料を手に取る。恐らく勇者修行時代の頃の盗撮だろう。隠密精霊の象るカラー写真に決め顔でピースする少女をしげしげと眺めるのでござった。

 

 ☆

 

 太陽! 忍びと言えどもこの温かな陽を全身で浴びるのは心地よいものでござる。

 

 祭りの会場から少し離れてもうっすらと伝わってくる盛り上がり。

 人の海の如きコロシアムと比べることはできないでござるが、いつもまばらな通りが賑やかで歩ているだけで楽しくなってくるでござる♪

 

 そして例の少女……あれが例の少女でござるか。

 

 肩口と胸元にフリルのついた小麦色のシャツ、膝の上が破れたダメージジーンズ、へそ出しルックの白いへそには四角くカットされた黒の宝石のピアスが二つ。

 

 背中には法国を示す朝の月の浮かぶ旗をマントのように留めている。

 

 その頭部にも白く淡い月が見えた。でかでかと帽子にプリントされておる……。少女は金色の長い髪を後ろで結び、風に揺らして歩いていた。

 

 うん……DQNでは? 周りの者ドン引き……ああいや、しかしよく見ればあの少女もまた、楽しそうに屋台を見て回っているでござるなぁ……。

 

 ふむ、それでは皆様方にレクチャーして進ぜよう。拙者が師から教わった完璧なる忍びの尾行術。とくとご覧あれ!

 

 

 完璧な忍びの尾行術一

 目で追わず、心で追う

 

 人間も随分退化したとはいえ野生の本能がござる。本来、野生動物であれば他者に見られることはそれすなわち命の危機。人間にもこの視線に対する危機感がまだ少し残っているのでござる。

 

 なので、そう、このように視界の端で捉えたその一瞬で少女の動きを計算し、障害物に隠れる前に再度視界の端で確認す。これを繰り返す。

 

 そう、視界の端で動く少女をナチュラルに視界から消して、目の前のアイスへ。

 

 そして、たぶんこの辺! とばかりに少女を視界の端で捉えるのだ! 

 

 えっと、あれ、いないな。まあいいか。アイスうまっ……! あ、いたわ。

 

 

 完璧な忍びの尾行術その二

 目前のことに集中する。

 

 アイスを持ったままアイスを食べずに少女をいつまでも目で追っている、これすなわち不審者也。

 

 つまり、少女を心で追いながら、それ以上にアイスを美味しく食べるのに集中しなくてはならないということ。

 

 そうしていれば拙者は恐らくアイスを美味しそうに食べる人に見えるのに違いなし。

 

 拙者が何を考えてるかは周囲には一目瞭然! 

 

 アイス美味しい! 

 

 その情報は周囲に必ず与えなければならず、逆に言えばそれ以上、それ以外の情報を与えるのは得策ではない。

 

 何を考えてるかわからない奴認定が一番危険でござる。

 

 ほら、こうしてアイスを美味しそうに食べていれば例の少女だって拙者を見て思うはずであろう。あぁ、アイス大好きな人なんだな……って。

 

 うむ、見ておるな。見ておる。ほらどうだ、美味しそうであろう? んんんんっんまい! くそがっ、まだ見てやがるでござる! 

 

 こうなったらぺろぺろしちゃうもんね! 思い出せ、あの憎き友を。

 

 友はどんなふうにぺろぺろしていた? そうだ、こんな風に舌の面積を広げて一度によりたくさんアイスを味わおうといういかにも意地汚い発想を……をを⁉ 近づいてくるでござる。近づいてくるなでござる! 

 

 なぜだ⁉ 拙者の美味しいと思う心が足りないでござるか。ええい、ままよ。心を無に。

 

 こんなことも考えるべきではない。我を空っぽにして空いた器にアイスを入れるのだ……! あ、冷たっ。

 

「ねえ」

 

 ぺろぺろぺろぺろ……。

 

「そこの変態」

 

 変態? 変態が出没してるでぺろか⁉ 拙者はアイスをぺろぺろしながら周囲に気を配った。

 

「ちげーよ。お前だよ、アイスをやたら舐め回してるお前」

 

「ぺろ?」

 

「ぺろじゃねえよ! おいてめえ何の真似だよ」

 

「あ、拙者か。なんでアイスか? 今アイスを食べるのに忙しいでアイスが」

 

「口調……」

 

「あいや、失敬……何のようだい? 出来れば手短にお願いしたいな、君みたいなのに構っているとアイスが溶けてしまうのでね」

 

「キャラうぜえ。っつーかお前間者だろ? なんでそんな目立ってんの?」

 

「はぁ? 目立って? ふん、ずいぶんと馬鹿なことを言うじゃないか。僕はアイスを食べてるだけだよ? どれだけ目立ちたくっても目立ちようがないってわけよ」

 

「いや……もういいわ。私、スキルで視線と敵意察知できるから。あんたが私を殺そうとしてるのバレバレだからね」

 

「は……? セコすぎ」

 

「気持ちはわかるんだけどねー」

 

 帽子のつばをゆらして頷く少女。拙者は逃走経路を確認しつつ少女に尋ねた。

 

「それで、僕が暗殺者だとして、君はどうしようというのかな?」

 

「うーん、そうねえ……」

 

 少女は腕を組み、悩ましげに指をとんとんさせた。

 

「ねえ、三千ユーン持ってる?」

 

「当然! あまり拙者をなめないでもらおう……アイスだけに。ほら!」

 

「あぁ、ありがとう! 屋台の食べ物って高いよね。あのお金ってどこ行ってるんだろう。ほんと困っちゃうわ」

 

 少女は拙者のお金を握り締めて屋台の方へと歩いていく。一度振り返り、

 

「またね!」

 

 と手を振って。

 

 拙者は手を振って少女を見送り、少女を見失ってから気づいた。

 

 三千ユーン取られた⁉

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