法国勇者のアウトサイドロード   作:遥海みしん

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第一四話 渚のエピローグ

「忍よ、ここに」

 

 荘厳なる王の間に響くは若さと鋭さを兼ね備えた女王の声。

 

 そして! 女王の声が消え去らぬうちに影のように参上仕る美しき忍が一匹……。

 

「はっ!」

 

 発声、完璧。

 

 顔の伏せ加減、完璧。

 

 影のように何かうねうねしてるマントの端っこ、完璧。

 

 完璧でござる! 

 

 素晴らしい、今日もグレートでござる! 

 

 あぁ、だめだ、口元が綻んでしまう。それをやったが最後、拙者は完璧な忍びでなくなってしまうというのに。

 

 堪えろ、堪えるのだ。オナゴと見紛うばかりの優美なる我がFace。

 その表情筋たるや幾多の修羅場をくぐり抜け拙者を寡黙な暗殺者へと育て上げた立役者といえる。

 

 昔拙者が担任に怒られてる最中に我が友が変顔を仕掛けてきた時も、あるいは一人前の忍びとして国のお偉方にこの身を売り込む際、我が友が変顔を仕掛けてきた時も、拙者の表情筋は敗北しなかった。

 

 というか今思い出しても腹立たしい! なんだあいつのあの表情筋は、人の筋肉であの角度まで持って行けるのか⁉ 人類の神秘ではないか!

 

 いや拙者の表情筋だって負けちゃいない! 奴の猛攻を耐え抜いたではないか! お前なら出来る! 出来るぞ! よっ、影の仕事人! 必殺裏社会! 完全記憶合――

 

「面を上げろって言ってんじゃん。殴られたいの?」

 

「はっ」

 

 恐れ多くも拙者は顔を上げる。

 

 高い玉座に腰掛けるのは透けるような薄手のドレスを纏い、半透明のマントを肩に羽織った若い女王、そしてこの御仁こそ歴代最強とも名高き圧倒的な力をもつ魔王でもあった。

 

 魔王は虫の糸みたく一本一本が繊細な灰色の長髪を手で払う。

 そして、拙者にこちらを見ろと抜かしておきながら自分は天空のような薄青の瞳をスマホから離さずに言う。

 

「ヒョールドについて聞きたいんだよねぇ」

 

「と、いいますと」

 

「私ってさ、嫌われてたわけ?」

 

 こいつ、面倒な……報告書から察してくれたもれ……! 

 

 スマホを指で操作しながらどうでも良さそうに聞くが、実際にはどうでもよくないのだろう。

 これが若者のコミュニケーション……⁉ さて、どうしたものか。拙者は表情を崩さずに言う。

 

「嫌ってはいないでしょう。許せなかった、辺りが近いのでは?」

 

「その二つってなんか違うの?」

 

「違いますな」

 

「ふーん」

 

「はっ」

 

 魔王はスマホの操作を止めてじっと画面と向き合い何やら内省している模様。拙者もう帰っていいかな。面倒くさくなってきた。

 

 魔王は内省に飽きてきたらしい。そうした思考を打ち切るためにか切り替えたように言う。

 

「ま、やるこたぁ変わんないよ。ヒョールドがどう思おうがこの戦争はまだまだ続く。私も、変わってなんかやらない」

 

「さいですか」

 

「うん。勇者もどうせ、私とラーくんの最強ラブパワーにイチコロ? っていうかね、そんな感じじゃない?」

 

 ……御意。

 

「は?」

 

 と、拙者の間の抜けた声が魔王の間に響く。あ、やっべ。

 

「あん?」

 

 とこれは魔王の声でござ。魔王様、目が怖いでござるよ……ずっとスマホ見ててください。

 

「……そっすね」

 

「うんうん。さっすが忍び。話わかんじゃーん」

 

 魔王は少しの間表情も明るくスマホを触っていたが、すぐに椅子の上に気だるそうに姿勢を崩すと、今度は心ここにあらずといった風でぼけーっと遠くを見つめ始める。忙しいでござるな。

 

「っていうか最近四天王たちと会ってないな~。みんな元気ぃ?」

 

「……気になるなら会いにいっては?」

 

「別に、私なんかと会いたくないって。どうせ」

 

「そうですね」

 

「いや同意すんなし」

 

 魔王はため息をつく。ため息を吐きたいのは拙者でござる(-_-)

 

「魔女は、なんかもう、どこまで行くねんって感じだし、シンシンは相変わらずだよねー。そういえば新入りはどうしてたっけ。なんかずっと人間と遊んでない?」

 

「そう言いなさるな。当人なりに頑張っておられる」

 

「えー、そうなの?」

 

「ですです。魔族の間では自分たちの勇者であると騒ぐ者もおりますです。本物の勇者が人格破綻者なぶん、自分たちの勇者こそが本当の勇者に相応しいのだと」

 

「四天王が本物の勇者ねえ」

 

 魔王は一瞬興味をもったように目を光らせるが、次には目を瞑り、こんなことを言う。

 

「世も末だ」

 

「そう言いなさるな」

 

 魔王と拙者は同時にため息をつく。

 

 ☆

 

 太陽の下、細波の数だけ光を反射し海は何処までも広がっている。のどかな風景にして変わらぬ風景……オーマイプレシャス!

 

 波打ち際をしゅばばばばと走るは拙者、忍者!

 

「おーい、勇者~!」

 

 パラソルの下、艶めく真っ白なサマーベッドに座っているのは……って、

 

「なんじゃこりゃあぁぁぁ⁉」

 

 二つ並んだサマーベッドの上に、上に! 腕が四本ある錆のような肌をした女となんか腕が刀になってる男が寝転がってるではないか! 

 しかもこいつら、女の方にはグラサンが、男の方には麦藁帽が顔に被せてある……! 間に挟まるミニテーブルにはストローの刺さったカラフルなジュースまで……これは絶対に勇者のいたずらに違いない。

 

「ったく、うるさいなぁ」

 

 声のした方を見れば、勇者がちょうど国旗を海水で揉み洗いしているようであった。

 

「勇者よ、ほれ」

 

 と拙者は勇者所望の品をフリスピーのように投げて渡す。品はフリスピーみたくあらぬ方へ曲がっていったが勇者が海に体を投げ込んでキャッチ、事なきを得た。

 

「おー! わざわざありがとね」

 

 勇者は拙者から受け取った帽子をぶんぶん振って水を切り、びしょびしょになった髪を軽く整えると、何も気にせず帽子を被る。

 

 朝の月がプリントされたつば付きの帽子だった。拙者はこれを法国まで買いに行っていたのだ!

 

「で、あちらでバケーション中の二人は暗殺者ガチャか?」

 

「ガチャ? うんまあ、いつものだよ、いつもの」

 

「どれくらい強かった? 何か言ってなかったか? ゴリラノ介と戦うとどちらが勝つ?」

 

「質問が多いな~。そんなんじゃ私から嫌われちゃうよ?」

 

 と小悪魔めいた笑みを浮かべる勇者、目の上にどす黒い血がこびり付いてるぞ、早く洗え。

 

「え、嘘……とれた?」

 

 勇者は海水で顔をバシャバシャしてこちらを見る。

 

「取れた取れた。それで、どうなった?」

 

「ああ、えっとね。二人は踊り狂う死骸って名乗ってた。私が笑っちゃったら女の人が怒って、なんか光る玉をたくさん投げつけてきたから、近づいて斬ろうとしたんだ」

 

 勇者は一度そこで言葉を切る。ふむ、何か考えたいことがあるらしい。拙者は相槌代わりになんかわかってる風に言ったでござる。

 

「邪魔が入ったか」

 

「うん。男の人が割り込んできてさ。まあ、結局二人一片に斬ったんだけど。それでたまたまね、あの椅子の上に二人ともバウンドして椅子から落ちたんだ。それでさ」

 

「それで?」

 

「なんか惜しいなって」

 

 はぁ……。

 

「だから並べてみた」

 

「はぁ」

 

「それで、あの、楽しそうにしてみた」

 

 自覚があるのか少し気まずそうに勇者が言った。

 

「お前はやばい奴だ。自覚せよ」

 

「いや、わかるよ? わかるんだけどさぁ。ほんと、どうしてこんなことしちゃったのかなぁ。忍者の悪趣味が移ったかなぁ」

 

「……今拙者を馬鹿にしたか?」

 

「それで強さだよね。男の方は何もしてないからわかんないけど、女の人はゴリラには勝てるんじゃない? あの光りの玉、爆発してたし。ゴリラだと普通に爆死で終わるかも」

 

「そうか……ならばレアだな」

 

「レア?」

 

「こちらの話だ、気にするな」

 

 拙者は男の被る麦藁帽を取り上げると、男をのせたままサマーベッドを持ち上げた。

 勇者も真似して女のグラサンを外すと、サマーベッドを大仰な動作で抱きかかえる。

 

 拙者たちは上半身だけのそれらを海に流し、海水でサマーベッドをごしごしと洗ったのであった。

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