朝月の勇者   作:遥海みしん

24 / 25
聖バーナード法国編
第二四話 移動又移動にござる


 太陽! 今日も元気でござるな。もうちょい休んでも怒らんぞ! しかしこの暑さも風情というもの。ああ、平らな甲板に燦燦と陽の光が降り注ぐ!

 

「なんかさー」

 

 パラソルの影から光が差し込み、勇者は手のひらを顔の前に翳す。

 

「前の船より波を感じる」

 

「そうだな」

 

 船が小さいからな。こうして寝ていてもサマーベッドを通じて船体が揺れるのがわかる。というか目の前のプールも海みたいに細波めいておるからな。

 

「忍者」

 

「なんでござるか?」

 

「太陽動いてる」

 

「うむ」

 

「パラソルは動いてない」

 

「うむ」

 

「動いてないよ」

 

「そうだな。よくよく考えると確かにパラソルは動かん。勇者の知恵を授けて頂き誠に感謝感激でそうろ」

 

「もう」

 

 勇者はぶすっとして体の下に敷いていた国旗を顔に被った。たまには気を利かして勇者をサマーベッドごとプールに投げ込んでやろうかと思った時、スピーカーからツクシの船内放送がかかる。

 

「エッマージェンシーエマージェンシー♪ 右舷方向に敵影確認! ジェットスキー楽しそう! 戦闘班に処理を要請しま~す! 以上、ではでは~」

 

 拙者はため息をついて言う。

 

「ノーマルでござるな」

 

「まだ見てないじゃん」

 

 自分で言いながらも国旗を被ったままの勇者。

 

「動きたくないでござる」

 

「私もでござる~」

 

 そう言いつつも勇者は喉で呻き、気だるげに立ち上がって海を覗き込む。

 

「ジェットスキー……気持ちよさそー」

 

 拙者も起き上がって見ると、顔がサメで体が海パン男子の魔族がジェットスキーをブイブイ言わせていた。サメ男(さめお)は真っ黒なグラサンを光らせてにやりと笑い、その手に銃を構える。

 

 勇者はしゃがんで手すりの影に隠れ、辺りを見渡す。

 

「投げる物を探しておるのか?」

 

「うんそう。これとか投げてもいいのかな?」

 

 勇者の指差すものを見て拙者は頷いた。

 

「なんでも投げればよかろう。この船はネギのだ。怒らんし気にせん」

 

「確かにそうかも?」

 

 納得できたらしい、勇者はサマーベッドを持ち上げると、狙いを定め、サメ男におりゃっと投げつける。サメ男はジェットスキーのハンドルを切ってサマーベッドを華麗にかわし、眼鏡クイならぬサングラスクイを見せつける。

 

「は?」

 

 勇者は額に筋を浮かばせると甲板上を走り出す。

 

「ふんふん、ふん!」

 

 勇者がパラソルにサマーベッドに丸テーブルを次々投げつけるが、さめおの機体は波に乗り、波を切り、上がる水しぶきを突っ切って華麗な線を海上に描いていく。さめおは爽やかな笑みとともに勇者にサムズアップして見せた。

 

 勇者は拙者のサマーベッド&パラソルを恨めしそうに見ている……これは絶対譲らんでござるよ! 拙者はパラソルとテーブルを腕で囲って赤子のようサマーベッドで丸くなる。

 

 勇者は舌打ちし、その辺で転がってた剣を見るが、これはスルー。無手で手すりの前に立つと、腕を剣のようにぶんっと振る。

 

 風が吹く。勇者の髪を柔らかに梳く風であったが、さめおの側では絨毯爆撃の衝撃波が叩きつけられていた。

  

 ジェットスキーの爆発と同時に海上にびしゃっと血が撒き飛び、血煙が上がった。機体の爆発で血煙は高く舞い上がって空へと消えていく

 

「ふう」

 

 勇者は額に手を置いてそれを見上げ、一仕事終えた表情である。

 

 初めからそれをやれやでござる。

 

 ☆

 

 夜、クルーザーは寝静まった静寂に噴きつけるようなエンジン音を響かせ街の運河へと入った。橋の下で停止すると、ツクシの印でボンッという音と共に白煙の中に消え去った。

 

 街から一段低い運河沿いを、ツクシを先頭にしてそろりそろりと移動する。

 

「ねえ忍者」

 

 拙者の前を行く勇者が振り返って耳打ちしてくる。

 

「なんだ」

 

「これって忍者の歩き方? 全国共通?」

 

「いや、これはパンピーがイメージする泥棒の歩き方だと思われる」

 

「あ、やっぱり!」

 

「(ちょっと、静かにしてください! 見つかったら……あ)」

 

 ひょこひょこと角から顔を出した見回り兵士二名とツクシが目を合わせる。ツクシは即座に飛び掛かって両者の顎をジャンプキックで蹴り抜くと、どこから出したか縄で縛り、運河へポイポイと投げ捨てる。

 

「え」

 

 勇者は投げられた兵士の方を見る。

 

「(忍!)」

 

 ツクシが指を立てる。すると水中に軽い衝撃があり、沈んでいた兵士二人が浮き上がってくる。

 

 なんと、兵士を縛った縄が浮き輪になったのだ! 浮き輪をつけた兵士二人が運河をぷかぷか流れていく……。

 

「(イッツにんじゅ~つ! 忍者アカデミー主席に掛かればこの通り!)」

 

 手をパンパン払うツクシ。拙者は勇者と顔を見合わせ言う。

 

「やはりマジシャンだな」

 

「ごめん、これはさすがに」

 

「(そ、そんな……)」

 

 勇者も擁護できないようで、ツクシの抗議の目線を受け流していた。

 

「っていうかなんでこそこそしてんの?」

 

「(なんでだと思います?)」

 

 上目づかいであざとく聞き返すツクシを勇者が無表情で見下ろす。ツクシは誤魔化すように咳払いをしていった。

 

「(え~こほん、勇者さんは今、世界中から恐れられてる悪魔みたいな女なんですよ!)」

 

「は?」

 

「(シシシ失礼しましたっす! 要は法国が世界の敵になったからです、敵の最強戦力の勇者さんを恐れてるんです! た、他意はないっすよ~……へへっ)」

 

 片目をつぶってぺろりと舌を出すツクシ。しかし勇者の冷徹な視線にさらされてツクシの表情は真顔になり舌はそっとしまわれた。

 

「ちょっと前までは曲がりなりにも人類の希望だったのになー」

 

「名実ともに悪夢の白い月ござるな」

 

「やめろや」

 

「(今の時期は顔を隠すと声をかけられちゃいますからね。このまま門の近くまでいったら堂々と門を飛び越えちゃいましょう。外に出たらまたお楽しみを用意してますから、もう少しだけ指示に従ってくださいっす)」

 

「ふぁ~い」

 

 勇者はあくびの混じりに返事をした。

 

 ☆

 

「で、飛び越えたけどどうするわけ?」

 

 下でワーワー騒ぎ回っている兵士たちを見下ろし勇者は言う。飛んできた槍を掴み、投げ返すふりをして兵士たちを怖がらせてニヤニヤ笑っておる……悪夢の白い月……。

 

 しかし黄色い月の方は反対側のなだらかな丘の向こうに浮かんでいる。ツクシは丘を指差し言う。

 

「あの丘まで競争しましょうか。そこからはツクシにお任せっすよ~」

 

「ふーん、じゃ、ビリは罰ゲームね」

 

 お、この勇者、自分で自分に罰ゲームを課すとは殊勝な心掛けでござるな。修行でござるか?

 

「3、2、1、……ドン!」

 

 自分で言うが早いが、勇者は歯茎剥き出しで拙者に向かって腕を伸ばす。ふっ、これは当然読めていた! 拙者はそれをひょいと避け、避けた先に……はぁ。

 

 勇者を避けた先にツクシが腕を拡げて待ち構えていた。拙者は勇者みたく歯茎剥き出しなツクシの頭部にチョップを見舞う。

 

「いでぇっす!」

 

 拙者は頭を抑えるツクシの頭上を飛び越えそのまま門から落下、着地してダッシュ! ではな馬鹿二人よ! 拙者はあの丘の下で待っておるぞ! 

 

 ☆

 

 馬鹿二人が醜く罵倒し合いながら走ってくる。

 

 走る傍ら、ツクシが腕を振るうと煙と共に生まれた小鳥たちが勇者の顔をつつき出す。

 

「うわわっ! やめてやめて!」

 

 と勇者の勢いが落ち、ツクシが優勢になる。そのまま決着かと思いきや、勇者は大剣の面で丸ごと小鳥たちを薙ぎ払って消し去った。

 

「あー! 私の可愛い小鳥さんたちになんて酷いことを!」

 

「うるさい、そんなもん使うなー!」

 

 勇者が地面に着き刺した剣を振るうとまるでお豆腐のように地面が割れていく。

 

「そんな、ここまで⁉ いやぁぁぁぁ……!」

 

 ツクシは青い顔で地割れに呑み込まれていった。

 

 ☆

 

「うむ、勇者が一歩速かったでござる」

 

「な、なんですとー⁉」

 

「勝ったー! いぇーい! ぴーすぴーっす」

 

 肩を落とすツクシに勇者はピースサインをどしどし押し付ける。ツクシがゴール手前で地割れから飛び出し、勝負はギリギリではあったが逆転は起きず勇者勝利。まあ妥当であろう。

 

 追っ手の方は……うむ、門の前で編成を組んでいた兵士たちが地割れを見て門の内側へ引っ込んでしまったでござるな。将らしい立派な兜をつけた髭だるまが門の隙間からひょこひょここちらを窺っておるのが見える。

 

「反則っス! あんなん認められませんよ!」

 

「ねえ、ここからどうするの?」

 

「切り替え早っ!」

 

 ツクシは泣く泣く印を結んで忍と呟く。ボンッと音がして煙の中から現れたのは……ビッグな車輪にパワフルな機械の体、屋根の代わりに裸のバーの支えが上部を覆うその移動手段は魔力自動車! その背に刻まれたzeepの銘が光り輝いている……!

 

「なにこれ、見たことないよ!」

 

「へっへーん、魔女様の国でしか流通してないですもん。今回は魔女様から提供いただきました~。いぇいっ」

 

「いぇ~い!」

 

「ささ、運転はツクシに任せてお乗りくださいっす!」

 

 ツクシが開いた後部座席に拙者たちは乗り込む。階段を二段上がって目線が高くなる。気持ちいいでござるな!

 

 クッションはまあ、及第点といったところか。庶民の馬車よりマシといったところ。しかしツクシがエンジンをかけると車体に微振動が起こり、嫌でもテンションが上がる。勇者もうわぁ……! と息を漏らしておる。

 

「じゃ、風になる準備はいいですか⁉ 馬の三倍速いですからね!」

 

 ツクシがアクセルを踏む。風と共に景色が流れ、街の門がぐんぐん遠ざかる。ブロロロロ……と土煙を上げてzeepは走り出したのだ!

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。