朝月の勇者   作:遥海みしん

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※この回には下劣かつ残酷な描写がございます。苦手な方はご注意ください。


第二六話 村長の屋敷

 勇者が片手で門に触れる。何か違和感があったようで、勇者はこちらを見る。

 

 勇者は拙者のイケメンに少しの間見とれていたようだが、鼻に違和感があったのかふんっと鼻から息を吐き、門に向き直る。

 

 勇者が門を押す。門は軽い抵抗を示した後、バキッと音がし、吹き飛んだ。

 

 散り散りになって飛んでいく門の破片……いや、門を抑えてた男衆か。

 

 勇者は何事もなく村へ入っていく……。

 

 止まれ止まれー!

 

 さっそく槍や杖の先端が差し向けられ、勇者は歩みを止める。遅れてツクシと拙者がのんびりと勇者の背後についた。

 

 槍や杖を向ける戦闘員を割って奥から人が歩いてくる。

 

 白い月の縫われた上着に赤いスカーフを巻いたその男は、ちょうど勇者と同年代ほどの若さ。男は勇者を見るとギョッとした顔で目を震わせるが、立場もあるのかこちらに近づく足は止めなかった。

 

 対して勇者は……なんだその悪魔みたいな顔は。勇者は下卑た感情を隠そうともせずに唇の端を釣り上げて笑っていた。

 

 男が勇者の前に立ち、ようやく口を開いて絞り出すように何かを言おうとした瞬間、勇者が被せて言った。

 

「よっす~。おさっち元気だったぁ?」

 

 男が歯を噛みしめて顔を上げるが、勇者と目を合わせるやすぐにその強気は挫かれ、逃げるように顔を逸らした。

 

「勇者~? なんですかこのうじうじは?」

 

 恐れを知らぬツクシが堂々と尋ねる。勇者はニヤニヤ笑いながら周囲を見渡して言う。

 

「うーん、そうねえ。なんて言えばいいかな、私とこいつの関係は」

 

 びくりと肩を震わせて男が声を上げた。

 

「待ってくれ! わかった! 場所を変えよう!」

 

 勇者は満足げに頷くと、まるでカナブンが羽根を拡げるようにばさりと背中の国旗を拡げ、周囲に向かって言った。

 

「みんな、私が法国の勇者だ! みんなを助けに来たよ~!」

 

 一拍置いて、周囲を囲む法国民が歓呼の声を上げた。それで村中から引きこもっていた村人たちが何事かと顔を出す。勇者だ! 勇者だ! と声が伝わっていき、沈んでいた村人たちの表情が明るくなっていく。

 

「待て、おかしいではないか!」

 

 それに抗うように男が言う。

 

「なぜ包囲された我らが村に勇者が現れた? 全員倒したわけではあるまい!」

 

 勇者を告発するように男は破壊された門の方を指差す。門の向こうには当然軍が控えている。勇者は副将軍と目を合わせると、「うわっ、気まず」と笑って手で合図する。向こう側で魔術師の女二人が前に進み出て杖を構える。その詠唱が始まると同時に地面から土の壁が盛り上がり、村の出入り口が塞がった。

 

「ま、急造だけど、こんなもんでどう?」

 

「違う、そうじゃない!」

 

 勇者は不快そうな目で男を見て言う。

 

「なに? 私が外の人間と仲良くするのが気に入らないの?」

 

「そ、そうは言ってないが……」

 

「じゃあとりあえずいいじゃん。みんなも聞いてー! 今私、敵の副将軍に交渉を持ち掛けられててね、私のために首都への攻撃も止めてもらってるんだ」

 

 途端にざわざわと声が広がっていく。敵は勇者様を恐れてる? 攻撃しない理由があった! 勇者様だ! 私たちには勇者様がついてる!

 

 かどうかはわからぬが。特に今の勇者はおかしい。ツクシが耳打ちしてくる。

 

「先輩、もう逃げたくて仕方ないんですけど。法国民より勇者が怖すぎるっす」

 

「勇者も法国民だぞ」

 

「そーでした……」

 

 とにかく収集をつけねばな。拙者は一歩前に進み出て男に言う。

 

「失礼。拙者は勇者のバディ、忍と申す者」

 

「は、はあ」

 

「バディじゃねーよ」

 

 勇者が白んだ上に殺気も籠った目を向けてくるがこれは無視。拙者は続ける。

 

「とにかく場所を変えて具体的な交渉に移るのがそちらにとっても都合がよいとみた。村長殿か? 落ち着いた交渉の出来る場所へ案内していただきたい」

 

 男は逡巡し、拙者の言葉に縋ることにしたようだった。

 

「忍殿の提案を受け入れたい。勇者様、忍び殿、それと……」

 

「ツクシっすよ!」

 

「ツクシ殿も、私の後について来てもらいたい」

 

 そう言って早々に背を向け男は歩き出す。

 

「ま、いいけどさ」

 

 未だ虐め足りないのか、勇者が軽く帽子を被り直して歩き出す。田舎道の道路を割って兵士や村民たちが勇者に歓声を浴びせ、勇者は不機嫌なのも構わず歓声にこたえて手を振っていた。

 

 ☆

 

 向こうに見える教会よりはやや小さめか、そんな屋敷のドアを男が開けると、村長の妻を名乗る小綺麗にした女が出迎えた。

 

 女は拙者たちを客間に案内し、そのまま残って我らの相手をしようとしたようだったが、村長に腕を引かれてどこかへと消えてしまう。客間には拙者たちだけが残されたっ……!

 

「で、なんなのだ。あの男は」

 

 拙者が問うと勇者はどうも整理できてないような顔で応える。

 

「いやー、昔私、アイツに虐められてたんだよねー」

 

「え、勇者様ぁ~。ちゃんとやり返したっすかぁ~?」

 

 ツクシが机の上に溶けて勇者の方に顔を向ける。勇者は軽くツクシの方を見やって首を横に振る。

 

「そんな、やられたらやり返さなきゃだめっすよ。わかりました、このツクシが一肌脱ぎましょう……男も女もツクシが拷問します! 勇者様は酒でもあおっててくださいっす! 最高のエンターテインメントをお届けしてみせますよ!」

 

 ツクシがさっそく縄を取り出し両手の間でピシャンと張る。勇者はそんなツクシを見つつも、どこか懐かしがるように続けた。

 

「でも、アイツのことちょっといいなって思ったりもしてて……」

 

「寝取りましょう! これ、感度百倍の媚薬です! 一滴でバキバキっすよ!」

 

 ツクシが怪しいピンク色の液体の小瓶を取り出す。勇者はその小瓶のちかちかと瞬く水の光を瞳に映し、さらに続ける。

 

「でもねぇ、私、馬鹿だったから、いじめってわかんなくてさ。アイツだけが構ってくれてると思ってたんだよね。ホント馬鹿だったなぁ。傷ついて泣きそうになってるのに、よくわかんなくて。アイツが喜んでくれてるのに嬉しくなっちゃってさ」

 

「一瓶全部飲ませましょう! ち〇こ爆発して死にます!」

 

 これには勇者も我慢しきれずくすっと笑った。

 

「ごめん、ち〇こ爆発は流石に見てみたいかも……」

 

「つまり、何か? 勇者はあの男にちょっかいをかけるためにこの村に寄ったということか?」

 

「まあ、そういうこと。今の私が来たらアイツびっくりするかなって……思ったんだけど……」

 

「なんか違いました?」

 

「うん。なんていうか、怖がってもらいたかったわけじゃなくて。どういえばいいのかな。ちょっと嫌がらせはしたかったけど、でも違くて……。正直もう面倒くさいかも、うん」

 

「まあ、面倒なのはいいっすけど、これからどうします~?」

 

 椅子の足を浮かせるほど体を反らせ、頭の後ろで腕を組むツクシ。ツクシが悪い顔で勇者に問いかける。

 

「いっそのこと、逃げちゃいます?」

 

 勇者も悪い笑みで答える。

 

「アリだね」

 

「では行くでござるか」

 

 拙者が立ち上がり、みんな立ち上がったところで残念、村長が現れてしまった! 村長は会釈をして席に着くと、立っている我らを見上げて困惑する。

 

「どうしたのだ、席に着かないのか?」

 

「あー、おっけ」

 

 と勇者が席に着いたのでツクシと拙者も不承不承席に着く。そして沈黙……。

 

「あー、最近どう? 元気だった?」

 

 探り探りの勇者の一言が勘に触れたか、村長は表情を硬くして言う。

 

「俺に聞いているのか? ああ、体調は悪くないさ。だがな、村の若い衆の多くが戦死した。覚えているか? 小太りでみみっちいハルグ、大人ぶって読めもしない本をいつも抱えてたユージュ、親が死んで一人ぼっちだったミィカ、俺たち、ミィカを元気づけるために色々考えてやっただろ? 信じられるか、アイツら全員が死んだ……俺には受け入れられないことばっかりで、なんだかな……」

 

 項垂れる村長をよそに、ツクシが勇者にぼそっと尋ねる。

 

「(全員いじめっ子っすか?)」

 

「(うんそう)」

 

「(確認大事っすね)」

 

 勇者は話題をずらそうとして言う。

 

「あー、それはご愁傷様。で、一応なんだけど、もし私が来なかったら、これからどうするつもりだったの?」

 

「それは当然、村一丸となって抵抗しただろうな」

 

「あー……勝てると思った?」

 

 勇者が言葉に迷いながらも聞く。村長は特に引っ掛かりもなく答えた。

 

「思わないが、何かが起きて救われるとは思っていた」

 

「何か? 何かって?」

 

「それは、わからなかったが。だが、確信はしていた。朝の月は俺たちをいつも見守ってくれている。実際この通り、勇者(おまえ)が来てくれただろう?」

 

「うーん、私かぁ……」

 

 勇者は眉を寄せて唸る。唸りながらも、少し聞き苦しそうに確認する。

 

「これも一応なんだけど、聞いてみてもいい?」

 

「ああ、何でも聞いてくれ」

 

 村長の答えに満足し、勇者は言った。

 

「お前、どの立場で私を頼れると思ってるの?」

 

 勇者の雰囲気が変わったのを察し、村長は先ほど勇者と再会した時のように縮こまりながらも言う。

 

「それは⁉ そうではないが……! だが、お前は法国の勇者だろ? ならこの村を救うのは当然だと……ああ、当然だと思っていた……」

 

 言いながら村長は合点がいったように静かに俯いた。

 

「そうか、違うんだな」

 

「うん」

 

 勇者が頷く。

 

「俺を笑いに来たか」

 

「そうかもね」

 

 と勇者。

 

「副将軍との交渉も嘘か……そうだな、お前が俺たちのために動くはずがない」

 

「あ、いや、それは本当。条件を飲めば全員生き残れる。約束したもん」

 

「なんだ、それ……」

 

 信じられないとばかりに村長は呟く。

 

「生き残れる? 生き残れるだと? 全軍を引かせた後、謝罪と共に遺族や国への賠償を支払う贖罪ではないのか? 勇者、お前は一体何をしにここに来た……?」

 

「えーっと、降伏勧告?」

 

 険しく問いかける村長の視線から逃れ、こてんと首を倒して勇者は答える。

 

 どん! と村長はテーブルに拳を打ちつけて叫んだ。

 

「馬鹿な⁉ するわけないだろ! 勇者、お前は何のために存在してると思ってる⁉ 昔から頭の出来の悪い女だと思っていたが、あろうことか教えを忘れたか! いいかよく聞け……! 朝には姿は見えずとも月はあり続け、光を放ち続ける、その光に選ばれた俺たちが、外の無知蒙昧な虫けらどもに頭を下げていい道理があるか‼」

 

 怒鳴りを真正面から受けた勇者は表情を失い真顔になった。真顔でツクシに合図する。

 

「ツクシちゃん、縄」

 

「あいっす!」

 

 ツクシが村長に飛び掛かる。

 

「やめろ、こんなことを……やめろ!」

 

 立ち上がろうとするが間に合わず、村長は椅子に縛り付けられた。

 

 ぱっぱっぱっと手を払って見せるツクシ、さらに追加の合図。

 

「忍者、ツクシを手伝ったげて」

 

「承知の助」

 

 拙者は背後に回り、村長のでこに腕を回して上を向かせ、綺麗に髭の反られた顎に手を掛けて口を開けさせる。

 

「んなっ! なにをするつもりだ、がっ……⁉」

 

 天井に向かわされた顔から、必死に目線を下へと送り勇者に問いかける村長。しかし勇者はもう哀愁モードだった。目を細め、昔好きだったこ奴や自分の姿でも思い描いているのだろう。

 

「変わってなくて安心した。でも、もう一回くらいドキッとさせてもらいたかったな」

 

 じゃあね。

 

 そう言ったのを皮切りに、ツクシが男の口に媚薬を流し込む。その瞬間に拙者が口を抑えて強引に飲ませてやる。

 

「な、何を飲ませた⁉」

 

 半狂乱で問いかける村長に勇者はもう口を聞かない。ツクシが村長の前に立つ。

 

「失礼っす」

 

 そう言ってツクシが男のズボンをパンツごと下ろす。

 

 村長の、その、あれがもっこりと起き上がり、どんどん膨らんでいく。

 

「ま、まさか……お前たち、なんて残酷な!」

 

 男は自らのあれを見下ろし青褪める。それを同じように隣で見下ろしてツクシが言う。

 

「残酷なのはお前っすよ、幼き純情な勇者様を弄んだ罪、ち〇こで償うっす」

 

「お、幼かったのは俺も同じなんだ!」

 

「問答無用っす!」

 

 若き村長のあれは空気を限界に詰めた風船のように膨らみ続け、表皮に押し付けられた内部の血管は青や紫を越えてどす黒く変色していた。

 

「ぐ、んっああああああああっ⁉」

 

 村長が悲鳴を上げて暴れようとするが、縄を解くことはできない。ちなみにここでの拙者の仕事は椅子が倒れぬようにしゃがんで椅子の足を抑えるだけの簡単なお仕事也。

 

 村長のち〇こは部屋いっぱいに光り輝き、一瞬の収縮音の後、解放の音とともに、ついにはち切れる……!

 

 村長の足がだらりと垂れる。拙者は椅子を抑えるのをやめて立ち上がると、勇者に尋ねた。

 

「満足したか?」

 

 飛んできた血しぶき肉片を顔に貼り付け、勇者はほほ笑んで答える。

 

「まあ、多少?」

 

「じゃ、完璧っすね!」

 

 ツクシが勇者に抱き着くと、勇者は立ち上がり、部屋を後にしようとする。が、廊下の角からふっと勇者の前にさっきの女が現れる。女は勇者とすれ違い、客間へと走っていった。

 

 悲鳴に嗚咽、そして男の名を何度も呼ぶ声に勇者は迷ったようだったが、立ち止って踵を返す。

 

「あ、あああっ、あなたがやったの? 勇者様⁉」

 

 興奮から女の言葉は呂律が怪しくなっていた。勇者はこくんと頷いた。

 

「そうだよ」

 

「どうしてか聞いてもいいですか⁉ どうして私の夫がこんな目に遭わなくてはいけないんですか⁉」

 

 絶叫するように女が尋ねる。勇者はちょっと気まずそうに言うだけだ。

 

「私、昔そいつからいじめられててね。復讐してやろうか迷ってたんだけど、酷いこと言われてカッとなっちゃって。でもまあ、うん。今、あなたのことを見て後悔してるよ」

 

 女の涙にぬれた目がキッと光を帯びる。女は拳を握って叫んだ。

 

「ふざけないで……!」

 

 女が勇者を断罪するように人差し指を突き出す。その指が赤く光り、空中に滑らかに魔術文字を描いていく。

 

 文字は空中で熱を帯び、足の多い長虫を象って蠢き出す。

 

 勇者はただ、黙って見ている。長虫が空中を駆けて自分に迫ってくるのを。しかし、今回は横やりが入った。

 

水遁(すいとん)水条錐(すいじょうすい)の術」

 

 ツクシが印を結んだ指にふーっと息を吹きかける。息は立てられた人差し指と中指の上で一条の鋭い水流に変換されていく。

 

 まっすぐに進む水の線が長虫の炎を真っ向から貫き、同一線上にあった女の額を突き破った。

 

 女は頭から壁に叩きつけられ、怒りに目を見開いたまま動かなくなる……。

 

 勇者はぽつりと呟く。

 

「慕われてたんだ、アイツも」

 

 ツクシが勇者の声に反応して言う。

 

「それはそれ、これはこれっすよ。あ、っていうかツクシがやってよかったですか?」

 

「もちろん。ありがとね」

 

 勇者は軽く言うと今度こそ部屋から出る。

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