法国勇者のアウトサイドロード   作:遥野みしん

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第三話 征け、ごぶ左衛門!

 拙者、只今木陰にて、対象を監視っ中。

 対象はお月見ゴブリンの、群れっと交戦中。

 冷たいアイスもぺろぺろで、至福を満喫中、いぇあ☆ 

 

 さて、勇者、えげつないでござるよ。墨をよく吸ったお習字の半紙みたくゴブリンたちが真っ二つになっていくぅ……! 

 数年前まで世に蔓延っていた両断派はここに生きておったか! 

 

「ご、ごぶぶぅ……」

 

 おや、いつの間にかゴブリンが拙者の隣で隠れていたでござる。こ奴、なんとむさくるしい顔につぶらな瞳を宿しておることか。ごぶ左衛門と名付けよう。

 

 ごぶ左衛門め、ぶるぶる震えながら木に背中を押し付けて丸くなり、この勇者による虐殺をやり過ごそうとしておった。これは捨ておけぬ!

 

「ごぶ左衛門! こんなところに隠れていたら駄目でござる! 貴殿が生き残るためにはもはや撃って出るしかない也よ」

 

「ご、ごぶごぶ、ごぶぅ……!」

 

「そんなことないでござる。貴殿はやればできる奴でござ。思い出すがいい、本当に真剣に何かをやろうとしたとき、その何かが応えてくれる経験はなかったか? ひょっとしたら長らく味わっていなかったかもしれぬが、真実やればできる。世の物事とはそうなっておるのだ。成功の感覚を思い出すござよ」

 

「ごーぶ、ごーぶ、ごーぶっ!」

 

「なに? 詐術で金を騙し取ろうとしてるんじゃないかって? 疑ってるでござるか! とんでもない、拙者怪しい者ではござらん。というか、理屈で考えてみて欲しいでござる。貴殿は奴から逃げきることはできないだろう。じゃあ、隠れるか? 否。奴はもう貴殿の居所など掴んでいて、後回しにしてるだけでござる。戦えぬチキンなどただの換金素材でしかないからな。ならばこそ、貴殿は戦わねばならぬ。それもなるべく早く。時間は貴殿に味方せぬだろう。貴殿の仲間はこの瞬間にも勇者によって数を減らしている。なるべく仲間が多い内に打って出るのが最善なのは明らか!」

 

「ごぶぅーうっ」

 

「大丈夫でござる。貴殿には無限の潜在能力がある。この完璧な忍者である我の眼を信じてみせろよ」

 

 そう言って見せると、ごぶ左衛門は拙者の目を覗き込んできたので、拙者はよく見やすいように瞳孔に忍者スパークを走らせてキラキラとさせてやったでござる。

 

「ごぶ!」

 

「その意気でござる! さあ行くでござる! 勇者に一泡吹かせえい!」

 

「ごぶごぶぅ‼」

 

 ごぶ左衛門は目を輝かせながら、その大根みたいな剣を片手に引っ提げて勇者に突撃した。

 

 勇者は新たに表れたゴブリンをちらとだけ見て大剣を手先だけでびゅんっと振った。

 

 その瞬間、ごぶ左衛門は真っ二つになってべしゃっと地面に落っこちた。

 

「きゃ、見てられない!」

 

 その悲惨極まる光景に拙者は目を覆うことしかできなかったでござる。その間にも勇者はゴブリンを処理していく。

 

 ゴブリンを一体、拙者のいる木の方に追い詰めると、大剣を大きく振りかぶった。追い詰められたゴブリンはそれを受け止めようというのか、剣を横にして掲げる構えを見せた。

 

 だが、勇者はゴブリンを、その掲げられた剣ごと叩き斬った。

 

 ん? ギイイイイ……! と何やら変な音が木から聞こえるでござるな。この異変を突き止めるべく、拙者は耳を木に押し付けて木の悲鳴を聞き候! 

 

 だが、おかしい、木は何やら傾いていって、倒れてしまい、拙者は虚空に耳を充てて目を瞑る変態になって……あっ!

 

 真っ二つになって倒れた木の向こう側に、勇者と目が合っちゃった♡ 勇者は既に横薙ぎに剣を振るおうとぉうっイナバウアァァァ! 

 

 ふっ、美しい。美しい反りでござる。これは10点! 10点! 10点! 間違いなし……ではなく、

 

「あっぶなー。ちょっとぉ、気を付けるでござるよ。たまたま拙者が完璧な忍びであったから何事もなく済んだでござるが、拙者に傷でもつけて見ろ、拙者の弁護士が黙っちゃいないでござる」

 

「ちっ、外したか……」

 

 勇者はイナバウアーする拙者をまるでゴミでも見るかのような目つきで見下ろし、ため息をついた。

 

「おいおい、何だその反応は? まだ拙者を恨んでるでござるかぁ」

 

「そうだよ、お前! あのときは私が悪いと思って謝ったけど、あとから考えたらやっぱりどう考えてもお前が悪いじゃねえーか! どうしてくれるんだ⁉ 国旗! 洗ったのにまだアイスの匂いする!」

 

 と勇者はわざとらしく国旗を握り締める。いや、血塗れですがな。

 

「お財布はホテルに忘れてきちゃったから勘弁してほしいでござる……」

 

「ホテルだぁ……一泊幾らだ?」

 

「んぇ?」

 

「一泊幾らだって聞いてんの!」

 

「あー、三食天然温泉付きの十六万ユーンでござるな……」

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

「……てへっ♪」

 

 拙者がほほ笑みを浮かべてウインクしたからか、勇者は再び剣で斬りかかってきた。

 

 拙者もまた再びイナバウアーで避ける……うん、縦斬り。イナバウアー要らんかったでござるな。なんなら避けた後煽っただけでござる。こういう無駄な動作は拙者としても不本意極まる。

 

「お前、人をおちょくっといてなんだその不満顔は」

 

「勇者殿、申し訳ないがもう一太刀頂けないだろうか。今の避け方は拙者的にポイント低かった」

 

「死ね!」

 

 ぶちぎれた勇者が幾度も剣を振るう。その全てが拙者には当たらぬ。勇者からしてみれば毎回当たったと思ってしまうでござろう。それほどすれすれで躱しているのだ。

 

 拙者は身体を柔らかくして剣にまとわりつくように動きながらも、時には剣の背を指筋でつつっと撫でて埃の加減をチェックしながらも、その威力の振るわれる瞬間にだけ、威力の振るわれる方向からひらりと身を躱していくでござるよ。

 

 ふっ、美しい……。これぞ(ninja)。これぞ(shadow)……。

 

「当たらない……もう! 世界を救う私がぼろ宿に泊まってるっていうのに、どうして私を暗殺しようとしてる奴が私よりもいい生活してんのよぉ!」

 

 確かにでござる。拙者が逆の立場だったらぶちぎれて世界を滅ぼしてしまうだろう。

 

 というか……あれ、意外と避けれるでござるな。これ、真面目にやれば勝てるのでは? 

 

 勇者は軽装だ。しかし法国侮るなかれ、恐らく現代っ子ファッションに見せかけて超高密度な魔力が流れているはずでござる。きっと表面的な物理攻撃だけでなく、毒や温度の変化、精神汚染からも纏うものを守る作用があるに違いない……。

 

 となると確認すべきは……。

 

 拙者は腰のポーチから細なっがい毒針を二本取り出すと、勇者の眼球に向けてコンマ一秒の差で二本ともを投擲する……!

 

「うぐっ、あっ……!」

 

 勇者は苦悶の声を上げて動きを止める。ふっ、どうでござるか。一本目で眼球を刺し貫き、二本目で刺さっている一本目の針を叩いて脳まで押し込む。

 

 普段は披露する機会も必要もない(スーパー)テクニークでござる。さぁどうでござるか? どうでござるかぁ……?

 

 勇者はゆっくりと体をのけぞらせ、倒れるか……と思いきや踏みとどまって頭をぶるぶる振り出したでござる。

 

「痛ってえな……」

 

 あら、どすの利いた声。お兄さん逃げちゃおうかしら♪ ……あっ。

 

 カラン、カラン……と針が地面の上に転がった。

 

「はぁ、お前凄いんだな。細い針が全く同じところに二本とか、人間やめてない?」

 

 それはこちらのセリフでござる……。

 

「あ~怖かった。めちゃくちゃビビった。それでさ……まあ、ばらしてもいいか。暗殺者さんはよく勘違いするんだけど、この服に防御の機能は無いから。ただのかわいいお洋服だから」

 

 そう言って笑う勇者。帽子の影が目の上にかかって怖いでござる。それもお洋服の機能でござ……?

 

「私の防御はね、これ」

 

 そう言って勇者は身の回りに半透明の薄い膜を張って見せる。

 

「これで服とその内側、あと体の表面をいつも覆ってるんだ」

 

 それこそ寝てるときも。勇者は呟くように付け足した。

 

 拙者はぽふんとその膜に触れ、叩き、蹴り、噛みつき、藁人形に勇者の髪の毛を埋め込んで釘を打ってみるのだが、どれも効果はないようだった。

 

 勇者は拙者を見てドン引きしながらも周りに張った半透明の膜を消し去った。

 

「ちなみに毒の類も体内に流れる勇者の気が存在を許さないから一瞬で消し去っちゃう。ま、そういうわけだから。私の暗殺は諦めなよ。お前は殺すの面倒くさそうだし」

 

 チート! チート! チートにござる! 運営さんこっち、こっちです、ここにチーターがいます! 早く早く! 早く垢BANでござるよ!

 

「っていうか、あれ? 防御がその魔法であらせられるなら、そのお洋服は本当にただのお洋服にござるか? 法国の装備とかは……まさか旗だけ持たされてるでござる?」

 

「え……そうだけど」

 

拙者は出かかった言葉を何とか呑み込み、慈愛の表情を浮かべるのだった。

 

「……なかなか大変な旅でござったな」

 

「ま、まあね……あははは……」

 

 正直我ながら言葉の選択ミスったと思わんでもなかったが、向こうは向こうで混乱しててセーフでござね! あぶねー。

 

「……ちっ」

 

 突然勇者殿が剣で斬りかかってきた! やっぱり駄目だったでござる! といっても取り乱した勇者の剣など拙者のイナバウアーの深度には当然届きようも無いのでござるが。

 

「はあ、やっぱりお前を殺すのは手間がかかりそう。ねえお前、私を殺そうとするのやめてくんない?」

 

「嫌でござるよ」

 

「仕事だから?」

 

「あたぼうよ。こちとらプロでござよ」

 

「じゃあさ、お前に仕事を依頼した国を教えてくんない?」

 

「どうするでござるか?」

 

「みんな殺す」

 

 勇者の言葉とは思えん……。

 

「……聖、バーナード法国」

 

「ウソ乙」

 

 ばれたか。

 

「そういえば勇者殿。確認でござるが、今勇者殿が低レベルなゴブリンの集落をぷちぷち潰してるのは、北山の四天王の領地へ向かう資金集めでござるか?」

 

「おーそうだよー……なんか厭らしい言い方だな」

 

「ふーむ。かの四天王は毒を使うゆえ、ひょっとすると勇者殿とは相性がいいかもしれぬな」

 

「え、そうなの?」

 

「そうでござるよぉ。知らんのか?」

 

「うん。人の話聞くの苦手で……」

 

「なるほどなるほど……」

 

 と腕を組み顎をさする完璧な忍者。勇者は訝しんでこちらを見てきたナリ。

 

「よっしゃ、ここはひとつ提案をしようじゃないか」

 

「提案?」

 

「そうそう」

 

 と得意顔の拙者。勇者はまだ警戒しているようだった。

 

「いいかよく聞くがいい! ……一度しか言わないぞ?」

 

「聞いてる聞いてる、早く言いなよ」

 

 はぁ、拙者にそんな口きいていいのかな、まったく。これだから素人は困る。こほん、

 

「資金は、拙者が何とかしよう!」

 

 …………

 

「はっっ、神かっ!!!!!!」

 

 奇妙な間があったのは都合がよすぎて受け入れられなかったからか。焦ったぁ。

 

 しかし我ながらこの提案はいい。雑魚相手の観察は飽きたでござるからな。そろそろ実力の底を見極めないといけないでござる。さっさと四天王にでもぶち当ててみるでござるよ。

 

 とりあえず勇者にだけ都合がいい話でないこともアピールせねば。

 

「はした金で勇者をコントロールできるのなら報告も楽で助かるでござる。行く先々に罠もたくさん張れるでござるよ。どうだ、お互いに理のある話でござろう?」

 

 おっと、罠は言い過ぎたか。

 

「乗った!」

 

「あ、そうでござるか。それでは明日に出立のための買い出しをするのだ。よいな?」

 

「うん、楽しみ!」

 

 楽しみ! ておいおい。

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