朝月の勇者   作:遥海みしん

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二人の王編
第三〇話 おかえりブルードゥク!


「やーやーこちらにおわしまするは四天王ヒョールド、及びシン様を討伐、その後楯突いてきた祖国、法国の教皇を斬首せし偉大なる……いてっ!」

 

 調子に乗りに乗ったツクシの口上をげんこつで止め、勇者はずいと前に出る。

 

 しかし門の前で衛兵たちを従える金髪ケモ耳鎧幼女は乗り気なようだった。

 

「ァ勇者様っ! どうぞお通りくださいっっ……!」

 

 ハハァ……! と喉に引っ掛かるようなガラガラ声で幼女が道を開ける。しかし幼女の背後の衛兵たちは困ったように幼女を見下ろすだけだった。

 

 幼女は衛兵たちに気づくと、琥珀色をした瞳で一瞥し言う。

 

「え、私が勇者様にお通りくださいって言ったよね? 何のつもり?」

 

 衛兵たちが一斉に動き、勇者のために道が出来る。それを見て幼女はにっこりと笑い再び猿芝居に戻ろうとする。

 

「これこの通り……無礼はお許し下され……! さあ、どうぞお通りください!」

 

「いや、あのね。どういう手続きになってるの? その辺から知りたいんだけど」

 

 勇者の微熱すら含まれない声に幼女も真顔になり、大仰に下げていた顔を上げる。うぉっほん、と喉を鳴らし、幼女は言った。

 

「勇者様、まずは一言いわせてください! ありがとうございやした!」

 

 そうして再び頭を下げる。勇者は説明を求める視線を送るだけだ。幼女は顔を上げ、両手で名刺を渡しつついう。

 

「あっし、ブルードゥクの軍事領域大臣と、あとついでに大将軍やらせてもらってます。ライメといいやす。どうぞよろしく!」

 

「はぁ」

 

 勇者はたった今受け取った名刺に目を落とし、

 

[しょーぐん らいめ]

 

「はぁ」

 

 もう一度、今度はため息だろうか。

 

「勇者様の活躍もあって法国首都は容易に陥落、個々の村の制圧も勇者様に提供して頂いた情報が役立っていると聞いています。あっしが直々に面倒見てた部下たちにも死者が出なかったと聞いてます。これは間違いなく勇者様のおかげでごぜーやす! 感謝してもし足りません~……!」

 

「あー、そうなんだ。ならまあ、よかったよ」

 

 ほっとしたように頷き、勇者はようやくライメの感謝に納得した様子。というところでライメが言う。

 

「副将軍のヤロウからは全部聞いてますぜ。ですから勇者様、あっしらから見ても勇者様のおなーりー……ってわけです!」

 

 ライメは再び大仰な動作で頭を下げ、ブルードゥクの門の内側へと勇者を招き入れた。

 

 ☆

 

 門の向こうには黒塗りの馬車が止めてあった。後ろから追って門をくぐってきたライメが説明する。

 

「王宮までの馬車を用意してありますが、ご自分の足で街を歩いてもらっても構いませんぜ! 夜に歓迎パーティーがあるので、それまでに王宮まで来ていただけたらどっちでもいいです。どうします?」

 

「え、うーん」

 

 勇者は街の通りへ目をやった。以前来たときのようなお祭り騒ぎもなく、通りを行く人たちに浮足立った様子は見られない。

 以前は通りに面し露店を並べていた商店も、今はみんな各々の店に引きこもっている。  

 軒先に品物を並べる土産屋ですら地元の住人と世間話をし、客が品物を持って来ても世間話のながら対応だった。

 

 勇者はほほ笑み、振り返って言う。

 

「せっかく用意してもらったし、馬車に乗っちゃおうかな」

 

 ライメは「にゃっ!」などとほざいて馬車の扉を開ける。勇者は段差を上がって馬車に乗り込もうとして一瞬止まる。

 

「どうしたんすか?」

 

 後ろに続くツクシが尋ねる。

 

「ううん、なんでもない」

 

 勇者が乗り込み、その後にツクシ、最後に拙者が馬車のフカフカ座席に着席。ライメが外から扉を閉めて合図をし、御者が馬に合図して馬車の車輪が動き出す。

 

 小走りスピードで馬車はブルードゥクの通りに入っていった。

 

 窓の外では馬車を気にも留めない人たちの姿が見えるが、勇者は馬車に揺られながら、背もたれに体も預けず、ずっと正面を見続けていた。

 

「ねえ」

 

「なんでござるか」

 

「忍者違う」

 

「ツクシっすか?」

 

「ツクシちゃんも違うかな」

 

「……ああ、俺か」

 

 勇者の正面では、体に沿うような黒い丈の長い軍服に、真っ白な胸当てと肩当のセットに肩を通す、長髪の男性が足を組んで座っていた。勇者は頷く。

 

「そう俺。俺さんは(だあれ)?」

 

「俺はミクロ・シュナウザーだ。この国の剣術顧問をしている。今日は護衛だ。話すのは苦手だからあまり話しかけるな、以上」

 

 シュナウザーは帯剣してることを示し、もう関わるなと目を瞑る。勇者は目をパッチリと開きながらも頷き、腕を組んでもたれ、窓の外を見る。

 

 遠くにコロシアムを通り過ぎ、馬車はゆっくりと王城に近づいて行く。

 

 ☆

 

 夕焼けを受けて小麦色に輝く王城を馬車の中から見上げ、勇者とツクシは感嘆の声を上げる。

 

「「おお~!」」

 

 エントランスで馬車の扉が開けられる。そこには執事にメイドたちがずらりと並んでいた。

 

「「おお~!」」

 

 勇者とツクシが左右からカーテンを引っ張ると、部屋に夕陽が差し込む。

 

 キングサイズのベッドが一人一つ、マホガニーテーブルにクッションふかふかの椅子が並べられ、その横には使用法不明のオシャレスペースがこれでもかと広がっていた。

 

「「おお~!」」

 

 銭湯の両開きのドアを左右から勇者とツクシが開く。

 

 そこには淡い水色とピンクのタイルに覆われたゆるふわ大浴場が広がっていたのだった。

 

 ☆

 

 ちゃぽん、とお風呂の中央で潜っていたツクシが水面に顔を出し、縁にもたれて浸かる勇者の隣にくる。

 

「お風呂に入ったのはアカデミー以来っす」

 

 長い髪をタオルでまとめた勇者がツクシの方を見て言う。

 

「へえ。ハクルナムでは入らなかったんだ」

 

「はい! 洗い流すだけで充分でしたから。アカデミーでは寮でみんなと温泉でした」

 

「ふーん」

 

 勇者は天井を仰ぐと身体をスライドさせて湯に肩まで浸かり、縁のタイルにとんと頭を乗せた。

 

「忍者~、そっちはどう?」

 

 カラフルなパネルに間延びした勇者の声が響く。拙者は答えた。

 

「ふぃ~、いい湯でござるなぁ」

 

「そっかぁ」

 

 そう言いながら勇者は凍り付いた表情で隣を見る。そこにはタオルを頭に乗っけて気持ちよさそうな顔をしたイケメン忍者の姿が……あ、こんにちはでござる。

 

「なっ⁉ ななななななっ、なっ!」

 

 勇者は拙者を指差して立ち上がると、溜めに溜めたそのセリフを言い放つ。

 

「なんでおんねんっっ‼」

 

 野蛮な勇者による空手チョップ! 恐らく拙者の頭にタオルが乗っていたから試割用の瓦と間違えてしまったと思われる。

 

 当然拙者は身を反らしてスマートに躱す。勇者のチョップが水を叩き、浴槽の水が大きく跳ね上がる。

 

「もうっ、なんでおんねん! なんでおんねん! なんでおんねーん⁉」

 

「ここは?」

 

「お、おんせーん……? いや死ね!」

 

 さ中にも繰り出される勇者の連続チョップは全て空を切る。拙者の頭までは

 

 まだ遠い。新幹線に乗っても届かぬ。ひとまず冷静で親切、及び紳士でもある素晴らしい忍者であるところの拙者は勇者の頭を冷まそうと言ってやるのだ。

 

「まあ湯に浸かるがいい……見えるぞ?」

 

 ちゃぽん。

 

 静寂の中で勇者が湯に浸かる音が反響する。勇者が殺気まみれの横目で拙者を睨みながら言う。

 

「忍者さ。ここ、女子風呂だよ?」

 

「今さらでござるか」

 

「今さらじゃないですけど⁉」

 

 キレられた。まあさすがにでござるか。

 

「ならば、こうしよう」

 

 忍法、変化の術・ツクシよりも百倍くらい素早く美しい印の連鎖、まさに拙者でなければ見逃してしまうほどっ!

 

 どろんっ、と白い煙が立ち上り、それが消え去ったとき、拙者の体は……。

 

「え、かわいい……けどなんか、綺麗すぎてこっちが緊張してくるかも」

 

 顔を赤くして背ける勇者。ちょっ、拙者の最高傑作たるこの肢体、もっとよく見てほしいでござる! 

 

「やめろ! みせつけてくんな! 痴女じゃん!」

 

 勇者が拙者の体を押し退けようとするが、その手がふれそうになった瞬間、勇者がくっ、と歯噛みして手を引っ込める。

 

「おー! どこからどう見ても女の子っすね。じゃあ今度はツクシの番っす! 最強の塩顔イケメンを見せてやりますよ!」

 

「やめて!」

 

 ツクシが結ぼうとした印を勇者が手で握って止める。勇者は少し疲れたか、だらんと縁にもたれて言う。

 

「ああもう、なにがなんだか。忍者ぁ、さすがに今回のはライン越えだからね」

 

「壁があれば飛び越えよとアカデミーで教わったのでな」

 

「あ、教わりました!」

 

 ツクシがそういえば、とばかりに手を上げた。

 

「そういう意味じゃねえよ。ったく、暗殺対象も割に合わないなー」

 

 勇者は拗ねたように湯に口まで浸けてぶくぶくとやり始める。

 

 ひとまず殺気は収まったようだ。拙者と勇者の会話が途切れたからか、ツクシが夢見心地な声で話し出す。

 

「まあでも楽しかったすよ、この依頼を受けて」

 

「そういえば法国までの案内の依頼だったっけ? ありがとねツクシちゃん。船とか車とか、他にも色々助かったよ」

 

 勇者は拙者のスキを窺いつつも表面上ツクシの方を向いて会話を始めようとする。ツクシはニシシ、と笑って言う。

 

「ああ、それなんすけどね。今だから言えるんですけどツクシの任務、案内はあくまでも口実なんですよねー」

 

「へぇ……」

 

 勇者は少し面白がって相槌をうつ。ツクシは秘密をばらすクソガキみたく楽しそうに続けた。

 

「勇者様を信頼して言いますけど、ツクシの本当の任務は法国上層部の暗殺でした。いやぁ~上手くいって良かったっす!」

 

 勇者に満面の笑みを浮かべるツクシ。お湯に浸かって少し赤みを帯びたその頬を見つめ、勇者はほほ笑んだ。

 

「そ。ならウィンウィンでよかったじゃん」

 

「はいっす。あ、私がばらしたこと、ネギ様には言わないでくださいよ~? ネギ様勇者様に嫌われたくないみたいで、この依頼を出したこと、ちょっと気にしてたんで」

 

「じゃ、言っちゃダメじゃん」

 

「いいっすよぉ、別に」

 

 顔を覗き込んでくる勇者の視線を軽く流すように笑い、ツクシは言う。

 

「だって勇者様、ネギ様を嫌いにならないじゃないですか」

 

 勇者はその言葉に納得したのか、乗り出していた身を引っ込めて圧も引っ込める。ツクシは続けて言う。

 

「ここでブルードゥク国王からの褒章も二重取りしたらお別れっすから、その時まではよろしくお願いしますね」

 

 ふてぶてしくも言ってのけるツクシに勇者は苦笑し、指先から軽く手を振って言うのだった。

 

「はいはい」

 

 ☆

 

「うわぁ~! よせ、やめろ~!」

 

 嫌がる勇者もなんのその、メイドたちは勇者を取り囲むと、完璧なチームワークで勇者をドレスに着替えさせ、メイクを施していった。

 

 謎スペースはこのためだったのだ! 衝立の向こうからドレス姿の勇者がひょこっと顔を出す。しかし無残にもメイド二人組がせっせと勇者の隠れていた衝立を撤去してしまう。

 

「あ」

 

 勇者は覗き込む格好のまま遠ざかっていくつい立てを目で追いかけていた。

 

 滑らかで艶のある真っ白な生地の上に、肩口から薄く広がる青のレースがかかる。

 ヒールのある靴には繊細なラメ入りの青い刺繡で羽根を拡げた蝶……いや、蛾か。小さなかわいらしい蛾が二羽、半円状に羽根を拡げて留まっているところが描かれる。

 青いリボンで髪を結ばれ、勇者は服装的には準備万端といえる。

 

「こ、こわかった……恐ろしかった……」

 

 一人で震えてる勇者をよそに、拙者とツクシは目を見合わせる。

 

「では拙者どもも」

 

「ええ!」

 

 拙者らは今着ていた忍者衣装を頭上に放る。そこには立派なタキシード姿の拙者とツクシが……!

 

「行くでござる!」

 

「はい!」

 

「いやだぁ、行きたくないぃ!」

 

 ツクシが勇者の手を引き、拙者たちは部屋を出た。

 

 ☆

 

 方々に吊るされたシャンデリアがホールを明るく照らし出していた。ビュッフェ料理がこのホールを囲うよう壁際にずらりと大皿で並び、その中に混じる銀の保温容器の表面で光は引き延ばされていく。

 

 ホール中央には程よい距離感でテーブルクロスの敷かれた丸型テーブルが置かれ、そこにはブルードゥクのお偉方から軍人、文化人までが揃い立つ。会場前方には舞台が設えられていた。

 

「勇者様、どうぞ壇上へお越しください!」

 

 司会の言葉に会場中の視線が勇者に集まる。

 

「ほら勇者様、出番っすよ」

 

「うぅ、嫌だなぁ」

 

 勇者はスカートの裾を掴んで大股で歩き出そうとするが、先ほどメイドさんにそれを叱られたことを思い出し、掴んでいた裾を離してとぼとぼ歩き出した。

 

 壇上に上がった勇者は死にそうな顔で司会からマイクを受け取ると、死にそうな声で話し出す。

 

「えー、本日はみなさまお集まりいただきありがとうございま~す、えへへ、あの、勇者でぇす。お食事しながらでよければですけど、なるべくたくさんの人と話が出来るよう頑張りますのでよろしくぅ……」

 

 しーんと静まった会場、勇者は困惑したように拙者の顔を見る。拙者が渾身の変顔を決めたせいか勇者は顔を背けて体を震わせるが、そこで司会が助け舟を出す。

 

「みなさん、拍手をお願いします!」

 

 その一言で会場は一斉に拍手で湧き立つ。勇者の顔を緊張した面持ちで見つめていた面々は我に返ったように笑みを浮かべる。勇者も少し照れ臭そうにしながら眼下の人たちへ笑みを向けていた。

 

 ある程度拍手が収まったころを見計らい、司会は言う。

 

「それでは皆様、グラスをお持ちください」

 

 給仕たちからワイン入りのグラスが配られ、拙者とツクシも受け取る。

 

 司会からジュースの注がれたグラスを受け取った勇者は、グラスを掲げた。

 

「じゃあ、ここにいる皆さんの幸せを願って。かんぱーい!」

 

 ☆

 

 ツクシが腹を抱えて笑っていた。

 

「違いますよ~、みんな勇者様に見とれてたんっす」

 

「え、そうなの?」

 

 そう言いながら勇者は肉汁に浸けたヌードルを啜る。

 

「そうっすよ。ね、将軍様」

 

「はいにゃ!」

 

 勇者の向かいに立つライメは骨付き肉にかぶりついて、ほっぺが落ちそう! なジェスチャーをひらすら繰り返していた。

 

 疑わしそうにライメを眺める勇者にツクシが言う。

 

「ギャップが効いたんですよ、ギャップが」

 

「ギャップぅ?」

 

「はぁい、勇者様は四天王二名を討伐して法国教皇を抹殺した天変地異のミラクルガールですからね。みんな、恐れてたわけです。それが綺麗におめかししてちょっと緊張してるものだから、あれ、なんか普通の女の子っぽくない? っていうかよく見ると綺麗じゃん? ってびっくりしちゃったんですって」

 

「そういうもんかなあ」

 

 納得しきってはいないようだったが、ひとまず勇者もライメと同じ骨付き肉にかぶりつくことにする。

 

 ライメが思い出したように言った。

 

「あ、そうです、言わなきゃいけないことがありやした。勇者様の今後の予定なんですけど、王様も交えた会議が三日後の夕にあります。そこで勇者様の褒章について、また今後の勇者様の行動と、それに対するわーくにの対応について、経済大臣や外交大臣も交えた場でお話しするので、それだけは! それだけはぜひとも参加していただければ……! ですにゃ!」

 

「……うん」

 

 勇者は肉を咀嚼しながら横目でライメに頷く。ライメは続々と勇者の周りに集り始めた参加者たちを目でけん制しつつ、もう一言続ける。

 

「あとあと、もしよければなんですが、明日のお昼前くらいによかったら講演をしてもらえたり、とか……?」

 

「え、講演?」

 

「はい、勇者様のお話をみんなに聞かせてやりたいんです!」

 

「みんな、みんなねぇ」

 

 勇者は悩みながらもライメの軍服をちらと確認する。

 

「それって兵隊さん向けのやつ?」

 

「はい! 勇者様から兵士たちに発破をかけてもらいたいんです! きっとこれまで戦ってきた強者たちとの話をするだけでも効果があると思うんですよ……もっと危機感を抱いてもらいたいというか、人類連合を束ねる国家だからと軍に志願しただけで何者かになったつもりの輩がごまんといてですね……。勇者様は人類の営みがどれだけ風前の灯火か、その絶望を最前線で見てきたと思いやして」

 

「なるほど、現実を教えてやってくれってわけね」

 

「はい!」

 

 勇者は骨付き肉にかぶりつき、咀嚼を続けながらうーんと悩む。

 

「私がねえ……」

 

 もう一口、口から溢れそうになる肉汁に慌てて上向きに口許を抑えながら、周囲に群がってきた人たちを眺め、ゆっくり咀嚼して呑み込んで言う。

 

「うん、やってみてもいいかも。私にしか言えない言い方ってある気がするし」

 

「本当ですか! あ、ありがとうごぜぇやすにゃ~!」

 

 ライメは飛び上がって喜ぶと、浮かれ調子のまま簡単な挨拶だけして会場を出て行ってしまった。ライメの出て行った扉を見つめ、勇者は言う。

 

「忙しいっぽいのに。あれだけ聞くためにここに来てたのかな」

 

「王のいる会議を報せることが第一で、自分の担当は出来ればといったところではないか?」

 

 拙者の言葉に勇者は頷き、空になった皿をもって料理を取りに行く。そんな勇者を周囲のお偉方がじっと目で追っていく。

 

「勇者様、帰って来てからが大変っすね」

 

「まあ、食したいものは死守するであろう」

 

「それは……そうっすね」

 

 ツクシが苦笑し、空になった皿を持って勇者の後を追いかける。

 

 ☆

 

 

  扉が開き、明かりの灯った部屋に勇者が入ってくる。勇者は酔いつぶれたツクシをベッドに寝かせてやると、薄い窓を開けてバルコニーに進み出る。

 

「ああ、ここにいたんだ」

 

 バルコニーに立つ美しき影、最強の忍びであるところの拙者の隣に立つと、夜風に当たって伸びをする。

 

 月のない夜だった。眼下には暗闇に沈黙した庭園が広がり、その先に構えられた門、その隣の詰め所では、小さな明かりの元に兵士が四人座って何かしているのが見えた。

 

「忍者もありがとね」

 

 妙にしおらしい声に拙者は胡散臭いものを見る気満々の目で勇者を見て言ってやる。

 

「な~にがありがとうでござるか?」

 

 が、勇者は普通に答えちゃったでござる。

 

「これまで色々」

 

 拙者は腕を組み、月のない空を見て答えた。

 

「ふん、拙者は暗殺者だからな。勇者などずっと拙者の手のひらの上よ」

 

「でもさ、今日色んな人と会って話したじゃん?」

 

「話しておったな」

 

「明日……は流石に覚えてるけど、明後日の予定、覚えてる?」

 

「午前から午後にかけて経済大臣、将軍と会食だ。ハクルナムの街とそこに生きる者たちの暮らしぶりについて、その所見を話してほしいと言っておったな。午後はモデルの仕事だ。大手武器ブランドの新発売モデル、それとミリタリーウェアの宣伝写真だ……な~にを笑っておるか」

 

「ふふっ、いやね、ホント助かってる。ありがとう」

 

 勇者は笑みを残して部屋へと戻っていく。

 

「【悲報】世界最強の暗殺者、メモ帳だった……( ;∀;)」

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