法国勇者のアウトサイドロード   作:遥野みしん

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第五話 武闘祭

 打楽器が連続して打ち鳴らされ、管楽器の音が盛大にスタジアムに広がっていく。

 

 拍手や歓声を浴びながら、スタジアムの中央まで歩み出てきた黒服の男がその手に力強くマイクを握ると、息を大きく吸い込んで声の限りに叫んだ。

 

「レッツゲットゥ、レディトゥ、ランボォォォォ!」

 

 爆発するような歓声が湧き上がった。

 

「いぇーい‼ フゥーッ↑↑」

 

 客席最前列で勇者の小娘も拳を高くつき上げている。ブルードゥクの国旗に囲まれながら一人法国の国旗を振り回す。やばすぎ。

 

「ほれ、勇者殿、ご所望の品はこちらであるな」

 

 と拙者は勇者にポップコーンと炭酸ジュースを手渡した。

 

「ありがとー!」

 

 勇者は笑顔で受け取ると、さっそくストローを兜の隙間から射しこみジュースを啜る。

 

 ふっ、かかったな! それはただの炭酸ジュースなどではない。待て待て~、そう急くでない、炭酸ジュースに毒を入れた、普通はそう思うでござろう? ノンノン、想像力がまるで足りていない。

 これは言ってみれば、炭酸ジュース味の猛毒液。一滴で人を百人殺めることのできる毒液をなんとか炭酸ジュースの味にできやしないかと試行錯誤を重ねた究極の一品。

 

 さあ、とくと味わうがイイ、勇者よ……ふっふっふ、はっはっはっは……!

 

 Gokun☆……勇者がジュースを嚥下した……!

 

「これ、すごい。こんなに透明感のある炭酸ジュースは初めてかも。のど越しも滑らかで、胃に冷たい清らかさが落ちていくのがわかる」

 

 あー、それ、口に入れた瞬間勇者の気が浄化したからですねえ……。

 

 まあ、物は試しと仕掛けてはみたが、勇者の言葉は本当だったようだ。では次。ポップコーン。こちらもまた我が研究の成果より生まれたポップコーン味の食べられる爆弾。とくと味わうがイイ!

 

 勇者は四粒ほどまとめて口へ放り込み、咀嚼する……飲み込んだ!

 

 さぁ、今か、今か……。

 

「ねえ!」

 

「なんでござるか?」

 

「あの剣士、強そうじゃない?」

 

 勇者が指差したのは自らの背丈を遥かに超す巨大な大剣を肩に背負う少年だった。少年は瞳に星を宿し、目の前にいるモブをどのように調理してやろうとでも考えてそうな歪んだ笑みを漏らす。

 

 大剣には文字が刻まれていた。忍者'sアイでズームしてみると、そこには一刀☆両断と書かれていた……。

 

「あのガキ、勇者と同じ流派でござるよ」

 

「え、そうなの?」

 

「両断派でござろう。真っ二つ至上主義。今時流行らんでござる」

 

「なっ、私が魔王を倒せば流行るかもしれないよ」

 

「無理でござるな。両断派は馬鹿しかおらん。あの少年とて、両断派と知れたならあの剣の大きさにも説明がつく」

 

「……どうして、あの子の剣はあんなに大きいの?」

 勇者が聞いてくれた。優しい。

 

「剣を重くしてなんとしても真っ二つにしたいから、であろう」

 

「バカの発想だ⁉」

 

 いや、お主も大概でござるが……。

 

 そして試合が始まった……! 

 

 モブの男は相手のバカでかい剣に恐れを抱きながらもなんとか覚悟を決めて踏み込み、剣を振り上げる。少年はふっと鼻で笑うと、片手で大剣を振り上げ、そのままモブの振り下ろしの剣に上から重ねるようにして叩きつけた。

 

 キィン……! と高音が響き、モブの剣は二つに分かたれて宙へと舞う。会場にいる誰もがくるくると回りながら落ちていく剣の二つを目で追っていただろう。剣の二つは同時に地面に突き刺さった。

 

「こ、降参だ……!」

 

 モブが両手を上げた。少年は再び鼻で笑うと、踵を返して闘技場の出口へと歩いていく。

 

 その背後ではモブが両ひざを着き、膝当てをしていなかったことをそこで思い出して、両膝を抱え込んでごろごろ転がりながら呻き声をあげ始めた。

 

 一瞬の静寂を経て、会場は大いに沸き上がった。

 

「どうでござるか?」

 

 尋ねると、勇者はポップコーンをさらに口へ運んで言った。

 

「まあまあじゃない? でもまあ、まだまだ甘いかな。私だったら相手ごと真っ二つにしてみせるし」

 

 世界の希望たる勇者が何か言うてるでござる。あ、そういえば。

 

「ところで、ポップコーンはどうでござった?」

 

「美味しかったよ!」

 

「それはよかった(*^-^*)」

 

 続いて現れたのは……あ、あれは、副将軍! 甲冑に包まれた厳つい髭だるまがのっしのっしと中央へと歩み出てくるでござる。嗚呼、なんと勇ましいそのがに股。あれこそ益荒男のあるべき姿でござる! 

 

 それと比べてなんですか、なんなんですかぁ~? お相手の優もやしは。

 信じがたいでござる。あんな軟弱な体で武闘祭に出場するとは、恥を知れ! クッ……! あばずれ共の歓声が鳴りやまぬでござるな……。

 

 はぁ、全く。よかっでござねぇ、お相手が副将軍で。副将軍は世紀末の胸板に優しき心を秘めた真なる武人。とち狂った勇者とは人としての出来が違うでござる。きっと骨の一本二本で済ましてくれるでござろう。

 

 さあ、両者見合って、よーいスタートでござる!

 

「お前に恨みはないがころぉぉぉす! 顔面と股間をボコボコにしてやるぜぇ!」

 

 まず飛び出したのは副将軍であった。副将軍は背中のハンマーを抜かずに突然殴り掛かったのでござる。

 

「ねえ忍者、どっちが勝つと思う?」

 

 勇者の問いに拙者は答えた。

 

「答えたくないでござる」

 

「は? 意味わかんない」

 

「拙者も意味わかんなーい」

 

 殴られた。

 

 と、横目で見るとちょうど副将軍も殴られたところであった。会場にどよめきが広がり、勇者も唖然としたように見守っていた。

 

 一発カウンターを喰らった副将軍は距離を取ると、今度はガードをあげてステップを踏みながら慎重に距離を詰めていく。対して優男もまたゆっくりとガードをあげての警戒の目つきっぽいかな、うん。

 

 シュッシュッ、と副将軍の繰り出すジャブを上体を振るステップで掻い潜った優男は鋭いフックを副将軍の脇腹へと突き刺した。

 

「ぐぅっ!」

 

 副将軍の体がくの字に折れ曲がる。だが、副将軍は歯を噛みしめると、左右のフックで目の前の優男を捉えようとしたか。優男はそれをリズムよく屈んで躱し、再び距離を取る。

 

「いいぞー! 殴り合え!」

 

「背中の獲物を抜け、馬鹿ヤロー!」

 

「俺たちが見たいのは殺し合いなんだよ!」

 

「あの駆け引きの面白さがわからないなんて、この素人どもめ!」

 

「うっせえ血を見せろぉ!」

 

 男二人が殴り合うと、会場はますますヒートアップしていく。勇者などは拳を振り上げて獲物を抜けー! 殺せー! と叫んでいる……いやお前かい。

 

 しかし、やはり読み通り優男が上手か……こうなると駆け引きなんぞはしておれんぞ? どうする副将軍。

 

 副将軍もそれを感じ取ったか、今度は強引に距離を詰めながらパンチのラッシュを見舞った。

 

「オラオラオラァ! 逃げてばっかりじゃこの俺様に勝つことは出来ねえぜ? そのモテなさそうな顔を男前にしてやるぜぇ!」

 

 ステップで逃げようとする優男だったが、前に出ながら拳を振るってくる副将軍の圧力からは逃れられず、優男のガードの上からごつごつと副将軍の拳が叩きつけられていく。優男は目を細めながらも反撃の機を伺い、そして、その一瞬を見逃さなかった。

 

 優男のガードを薙ぎ払おうとしたのだろう、副将軍が思いっきり腰だめに右のフックを放った。優男は細めていた目を見開くと、副将軍のフックを体を反らせて躱す。副将軍の拳が優男の張りのある唇をぷるんと震わせる。

 

「なにぃっ! 唇、だとぉ……!」

 

 副将軍は驚愕し、副将軍の体は拳に引っ張られるようにして左へ流れていく。

 

 優男が一歩踏み込み、上半身を思いっきり捩じってパンチを振りかぶる。

 

 副将軍は憎々しげにそれを見るが、すぐにその表情は敗北を受け入れ安らかなものへと変わる。優男のパンチは副将軍のチン(顎)を撃ち抜いた。

 

 会場総立ち……という奴であろうか。鳴りやまぬ拍手。大歓声。戦い抜いた二人を称える声。クソあばずれ共の黄色い声……。興奮の渦が会場を支配していた。

 

 そんななかで、どうしてか勇者は冷めた表情で拙者を見ると、少し笑って言うのであった。

 

「ねえ、もう出よっか」

 

「よいのか? このあとは王庁守護者のシュナくんの出番でござるよ?」

 

「うん、もういい。十分楽しんだから」

 

 シュナくん可哀想……。まあ、勇者がそういうのであればいた仕方なし。我々は興奮冷めやらぬ会場を後にするのであった。

 

 背後のコロシアムで大歓声が上がった。恐らくはシュナくんが大活躍したのであろう。勇者は一度だけ振り返りってコロシアムを見上げたが、すぐに歩き出してしまう。

 

 そのまま祭りで盛り上がる路地を一言も喋らずに歩き続け、ちょうど日が傾いてきた頃に、勇者は宿泊している宿に辿り着いたでござる。

 

「荷物取ってくる」

 

 そう言った後で勇者は拙者を見て言った。

 

「ねえ、お前はあれを守るために人を殺してるの?」

 

 ……突然何を言い出すかと思えば。勇者の言葉の意味はよく分からなかったが、なんか雰囲気はよさげっぽかったので意味深に頷いておく。

 

 すると、勇者は「そう……」と言って俯いた。よし、これは正解の反応だ! 拙者の凄いところはここで止まらないところ! さらに畳みかけにいくでござる!

 

「国に生まれた者はみな国によって生かされるのだ。みな、そのようなものであろう?」 

 

 どうだ? 合ってるか? コロシアムの方を意味深に見つめながらも拙者は視界の端の勇者を全力で意識する。と、勇者は言う。

 

「私が今まで通ってきた国々はね、魔王軍に侵略されてる国々への支援だ、ってもっと悲惨だったんだ。かさむ戦費に上がる税。働き手の若い男は援軍に駆り出されて、街はどんどん衰えていく。なのに、ここはあまりにも豊かで、どこにいても人々の笑い声が聞こえてくる。私、ここに来てからずっと夢を見てるみたいだった」

 

 少しの間を開けて……ヨシ、低めの声で。

 

「わかるぞ、勇者」

 

 勇者は顔を上げてほほ笑んだ。

 

「そうよね、わかってくれるよね。私も忍者のいうこと、ちょっとわかるもん。だって、私の生まれた法国もそうだったから」

 

 少し空気が湿っぽくなってしまったか。勇者は再び宿の方を見て、その扉に手を掛けて言う。

 

「今日中にここを出る。一緒に来るのかはわからないけど、私は前に進むから」

 

 拙者はそんな勇者の背に、声をかけたのだ

 

「何ゆえ、前に進む?」

 

 勇者は拙者の顔を振り返る。ふわりと揺れる金色の細い髪。夕暮れがほつれた髪の一本一本までを柔らかな輪輪に包んでいく。勇者の細めた目がささやかな笑みを浮かべて、言う。

 

「わかんないけど……出来るなら、その理由を見つけるために」

 

 パタン、と音を立てて、宿屋の扉は締まった。

 

 拙者はそれを見届けると移動を開始する。まあこんなものだろう。さて、拙者も旅の準備でござる。報告書も、書かねばな。

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