第七話 ダルメィシア
「「「「「我らは影、我らは忍び!!!!!」」」」」
勇者は目の前のバカ5人を指差して言った。
「なにこいつら?」
しかし、その声に答える者はいない。バカ五人組の他にこの森には勇者一人しかいないのだ!
「え、忍者のお友達じゃないの?」
「はぁ⁉ どう見ても違うであろうが! と言いたいところだが、後輩ではあるかもしれんな。アカデミー出身であろう?」
「アカデミー?」
勇者の言葉を拾ったらしい。5人が一斉にいう。
「「「「「その通り! 我らマルチーズ忍術アカデミー第272代卒業生代表組! 通称絆のマルチーズ!」」」」」
「忍者もマルチーズ?」
「いんや、そっちは支部だな。拙者は本部校のシヴァでござるよ……っていうかあの、あんまり話しかけないでもらえる? 今擬態中なのだ。見てわからんか?」
「擬態……?」
勇者が見つめる先には腕を左右に伸ばした立派な木として立つ拙者がいたのだった。
「「「「「誰と話している⁉⁉⁉⁉⁉ 来ないならこちらから行くぞぅ‼‼‼‼‼」」」」」
5人は一斉に煙球を地面に叩きつける。
「「「「「「ぼふんっ!!!!!」」」」」
と一瞬のうちに辺り一帯が煙に覆われた。
「「「「「ふはははははっ!!!!! 見よ我らの連携を!!!!!!」」」」」
「「「「この煙幕の中ですらお互いの思考を把握し合い、位置関係を把握できるのだ!!!!」」」」
「「「そら、同時の猛毒クナイを受け止めるがいい!!!」
「「ちょこまかと動く……だが次で決める!!」
「必殺! 5人がった……ぐうぇ⁉」
煙が晴れたのち、そこには勇者に喉を掴まれ宙に持ち上げられた忍者が一匹だけいた。
「み、皆の者⁉」
忍者が周囲を見渡すと、そこには両断された仲間の死体が血の海の中であちこち転がっていた。
「いや、うるさかったー」
勇者はため息をつくように言う。
「ほざけ!」
と忍者が口から針を吐く。目を狙った一撃だったが、勇者は頭を振って躱すとそのまま忍者を軽く宙に放り、落ちてきたその体を叩き斬った。
噴出する血を国旗いっぱいに浴びせ、勇者は気だるげな足取りで一本の木に向かって歩いていく。
「こ、怖いでござる……ぶるぶるぶる……」
木は震えているが、鬼勇者はそれにも構わず言ってのける。
「この木、蹴ったら木の実とか落ちてこないかな」
「げ、げぼしか出てこないでござるよぉ~?」
「きったな」
勇者はくすりと笑うと木をグイグイと押した。
「ちょっ、押すなでござる! 倒れる……!」
と、倒れかけた木の根元が急に広がって二本の足になって立った!
「あ、そういえば拙者、人間だったわ」
そう、これが拙者でござる! 並ぶ者なき美貌の持ち主にしてさえたる技の持ち主……! 皆の者、改めてよろしくな!
華麗に決めポーズを決める拙者を見て、勇者はなんか納得したそぶりで足を進めるのであった……とまあ、これが勇者の日課の暗殺者ガチャでござるな。今日はノーマルでござる。
☆
あ~、あちらに見えますは~、北の砦が発展して街と化しました~、ブルードゥクの誇る要衝にして要塞都市、ダルメィシア~……その街が誇るは巨大な白の防壁ぃ~ぃぇっ!
毎日手入れを欠かさず清潔な白さを保つ壁はいつ見ても拙者の肌のように美しい。それと対を為す巨大な黒き門もまた、よく磨かれて拙者の瞳のようにつるつるとしておる。そしてなんかそこに群がっておりますは~……。
「行列だ……」
「行列でござるな」
門の前には人だかりが出来ており、さらに人だかりに合流するように彼方より長い列が出来ていたのだ! 拙者は腰に手を当ててため息をつく。
「だから南から行けとあれほど」
「順番抜かしちゃだめ?」
「おい勇者」
「だって私勇者だし」
「穏当に門番の方にお願いした方がいいんじゃないかな~なんて!」
拙者の言葉を聞いたか否か、勇者は防壁を見上げ始めた。嫌な予感がするなぁ。
「じゃあ、飛び越える」
「なにを馬鹿な……って、あー」
勇者は地を蹴り、高く跳ぶ。
「あー、あーあ。でござ」
勇者は防壁からはよ来いとこちらに向けてジェスチャーしていた。では、拙者はこれにて。
どろん。
「は?」
騒ぎ出した警備兵たちに見上げられながら、勇者が間の抜けた声を上げた。
☆
「で、言い訳が聞きたいんだけど」
「ぷっ、警備兵にさんざん言われたセリフでござるかぁ?」
檻の中からこちらを見る勇者に拙者は手を叩く。脳内写メでも取っちゃおうかしら。と親指と人差し指で窓を作ったところで、勇者が檻を破壊した。
「で、言い訳が聞きたいんだけど」
「こっちだ。ついて来るがいい」
拙者は勇者に背を向け牢獄の中を歩き出した。
「ごくろう、にござる」
大仰に礼をする刑吏たちに拙者は苦しうない、と手を振る。ほれ、どうだ? 拙者、けっこう神々しいんじゃない?
前を向いたまま忍者’sアイで背後を確認すると、勇者は拙者のすぐ背後、触れそうなほど近くについて歩いていた。
いや、実は知ってたんですけども。こんな人いないから、実際に見るまでは信じられなくて……。
牢獄を出ると、外は昼過ぎ。街から離れたムショは人通りが少なくてのどかでござるなぁ~。
「ござるなぁ~じゃねえよ」
おや、活きのいい勇者の声だ。早く鎮めるでござる。
「これを」
そう言って拙者は勇者に背を向けたまま肩越しに手の中の物を投げつける。
勇者はバシッと空中でそれを受け取ると、手のなかにあるものを胡散臭げに眺めた。
「なにこれ、カード?」
「通行証を兼ねた身分証だ。それがあればブルードゥク、及びその同盟国は自由に行き来できるぞ。これからは旅が楽ちんでござるよ~」
拙者の超有料級スマイルに幾分ほだされたか、勇者は舌打ちすると、その場にしゃがみ込んだ……うん? ありんこでも見つけたか?
「私、勇者なのに。偉い人が世界に向けてもてなすようお触れを出したって言ってたのに……」
「ああ、バーナード法国のことか」
「そうだよ! お前は世界に愛される、魔王を倒すお前に世界の全てが味方するだろう、って言われたのに!」
「相変わらずでござるなぁ。ここまで旅をして違和感はなかったのか?」
「え? やたら白い眼で見られると思ってたけど、それってまさか……」
「うむうむ。他には?」
「じゃ、じゃあ勇者を名乗ると舌打ちされるとは思ってたけど、そっちは……」
「そうだ勇者、教えてやろう。それぜーんぶ、法国が悪い。問題だらけでござるなぁ、法国は。いつも自分の国だけで何が正しいかを決めて、それを全世界に布告する。従わなかったら悪者扱い。魔王とどっこいの嫌われだぞ?」
「うわぁあああ、やっぱりかあー!」
勇者が頭を抱えて叫ぶ。
「くっそー! あの狸ども! 帰ったら絶対ぶっ殺してやるかな!」
勇者が空に宣言したと思ったら今度は国旗にくるまってもじもじし出した。忙しいな。
「うぅ、前科者になっちゃった……」
どうやら国旗の中で泣いてるらしい。マジウケるww
ってところで市街に出たござよ。すえた匂い、人いきり。子どもの泣き声。
うーん、変わっちゃったな、お前、と拙者はダルメィシアの肩を組むが、ダルメィシアはやめてくれよ……と拙者の腕を払った。俺が俺だけで変われる訳ねえだろ、変わっちゃったのは世界だよ……とダルメィシアは目を震わせて拙者の瞳を捉えた。最後に、ダルメィシアは言うのだ。変わらないお前が羨ましいよ……。
「忍者、たまにやるその独り言、キモイからやめた方がいいよ」
「はっ? 拙者忍者なんだが? 口に出るとかそんなわけないんだが? 噓乙」
にしても変わっちったでござるなぁ。中心街はモダァンな雰囲気で統一されておったのだが。今では収容場所の用意されてない難民たちが街に溢れ出している。市場は機能せず、兵隊たちは見回りを厳しくしながらもどうしていいかわからない様が見て取れる。
「忍者、あんたは何が起こったかわかってるんだ」
「モチでござる餅でござる! はふはふ」
と拙者はちょうど火遁で焼いた餅をアツアツと手のひらの上で踊らせる。
「私に出来ることはある?」
帽子を深くかぶり直し、勇者の目の光は爛爛として強く輝く。こ奴もまあ、法国産とはいえ勇者ではあったのか……。
「いや、勝手に納得してないで教えてって」
ゆ、勇者の奴、拗ねたように拙者から餅を奪い、しかもよりによって拙者の前で見せつけるようにやたら餅を伸ばして食らいおった……!