おお~、見えてきた見えてきた。石を積んで土で固めた大壁に鉄の硬い門。
よっ、無骨な前線都市! 寡黙なツレナイ男ぉ! って感じでござるな~……と、ここに来るたび思ってたが、やはり襲撃があったご様子。
石壁には突貫で修理した痕跡が見受けられる。整っていた壁の形がごろごろと突起まみれに……あれでは赤ん坊が寝返りを打つ事すらできんぞ。
それにあれはなんだ。半壊した扉の隙間に毒色をした暖簾がかかっているではないか! あれでは勇者が屋台と間違えて覗いてしまうのも時間の問題と見た!
「間違えるか!」
とあいさつ代わりの勇者の斬撃。当たらん当たらん。だって止まって見えるもんっ。
「もんっじゃねえよ。ったく、あい、やってるー?」
と暖簾をくぐる勇者。相変わらずノリがいいでござるな。
「ちょっ、勇者様!」
後ろで作戦会議してた調査団の皆さんが真っ青な顔で勇者を抑えようと走るがもう遅い、貴様らの平安よりもボケる方が優先度高いに決まっておろうが。神をも恐れぬ勇者だぞ?
「おっ、いるじゃん」
と勇者は腰を低くして暖簾をくぐって行った……。
暖簾を前にしんと静まる調査団の方々。拙者は代表の肩をとんと指で叩いて言う。
「勇者を追うぞ。なに、離脱の自由はある。調査が貴殿らの仕事だからな」
「くっ、行くしかないのか」
調査団の方々は命の覚悟を決め、暖簾をくぐっていく。では拙者も。
「おーい、おっちゃん。でござるぅー」
暖簾をくぐってみると、やはり予想通りであった。土気色の肌をした踊る死骸の皆さんがわらわらと。黄色いヘルメットを着けて木材を運び、石材を運び……なんだ、こいつら聞いてたよりもけっこう便利でござるな。
ぐぁぁぁぶぁあああいっ、ぐぁあぁぶぁぁぁあいっ!
うん。拙者にはわかるぞ、奴が何て言ってるか。おーらーい! おーらーい! で間違いないであろう。みんなで運んでる石材の設置場所を両手を振って音頭を取ってるでござる。なかなか明るい職場でござるな。
「ねえ忍者、こいつらって本当にみんな死んでるの?」
勇者が困惑気味に聞いてくるのも無理はない。拙者は指をさして言う。
「死んでおる。よく見ろ、頭が真っ白の頭蓋っ子もいるではないか」
「でも、斬ってだいじょうぶかなって。なんか個性とかありそうだし」
拙者はため息をついて答えた。
「はぁ、これだから勇者は。踊る死骸についての法律を学んでおらんのか?」
「ない」
「そかww」
勇者が斬りかかってきた! テンポ悪くなるでござろう、やめい!
拙者は勇者の剣戟を躱しながら言う。
「まあ勇者が知らんのも無理はない。なんせあの法国だからな。代表殿、簡単に説明してやってくれ。クソガキでもわかるようにな!」
「うっざい!」
と剣が振るわれる。おっと、フェイントでタイミングずらしてきたか。代表殿は動き回る勇者に聞こえるように軽く声を張って言った。
「踊る死骸は魔女が魔王軍四天王に加わってから各地で猛威を振るう半永久魔導兵器です! 一言でいえば、死んだ者がゾンビとなって魔王軍の戦力と化します! 踊る死骸が問題になってからは法国を除く各国で話し合いの場がもたれ、踊る死骸に対する共通の法律を作りましたー! えー、わかりやすく一言でいうなら、踊る死骸への攻撃、損壊は一切の罪に問われないということです! つまり、勇者様、やっちゃってください!」
「ということだ。いい加減敵の前でじゃれ合うのはよそうではないか!」
「このくそ忍者、いい加減マトリックスやめろってば!」
駄目だ、呼び掛けても勇者は聞く耳を持たん。調査団の方々はあわあわし、作業をしていたゾンビどもが慎重に資材を床においてあちこち指差し確認した後唸り声をあげてこちらに走り寄ってくる。
ひ、ひい!
とお互いに抱き合う調査団員たち。
これにはさすがに勇者も見苦しかったのか、ようやくゾンビたちに体を向ける。
「ゆ、勇者様、お気を付けください! 踊る死骸は一体一体が強力です! 当人の生きていた頃よりも強化されていると言います!」
「ふーん。あ、建物って壊しちゃまずい?」
「で、出来るのなら! 難民たちが返ってきたらそのまま使いますので」
「めんどくさー」
ボヤくように言うと、勇者は肩に担いだ剣を迫りくる死骸の第一陣に向け雑に横薙ぎに振り抜いた。
範囲内にいた死骸たちの首が一斉に吹き飛ぶ。血が噴出し空に舞い上がった。同時に背の低いために難を逃れた子どもの死骸を勇者は蹴り飛ばす。子どもの死骸は遠くの建物まで吹っ飛ばされ、壁に衝突する。勇者はそちらの方を見もせず、第二陣、第三陣の死骸たちへと次々剣を振るい、首を飛ばし続けた。
やがて襲撃が落ち着く。門の前の広場は散り散りの死体で血に塗れていた。そこに一人立つ勇者は子どもの唸り声を聞く。勇者はそちらに体を向けると、ゆっくりと歩き出した。
勇者の向かう先には子どもの死骸が壁にもたれた状態で牙を剥き、唸っていた。勇者は子どもの前で立ち止まると、剣を振り上げて言う。
「ごめんね。手加減してたみたい。苦しかったよね」
勇者は剣を振り下ろし、今度こそ子どもの死骸は倒れた。
「ねえ忍者、今のってみんなどうなってるの? 意識があるの?」
「あると聞いたでござるよ。当人の魂に生きてると勘違いさせて体を延命させる魔術だからな。ただ、悪夢を見ている感覚らしいが。終わらせてやるのが救いであろう」
「そうかな?」
「いや、適当言ったわ。忘れい」
「はあい」
勇者は足のプレートに引っついた肉片をぶんぶん振って払い落とすと、辺りを見回し拙者に尋ねる。
「どう、忍者、このへんにまだいる?」
「建物内に複数いるぞ。大勢でじっとしていることから隠れているというよりは仕事の待機組であろう」
「シフト制なんだ」
「まあ、多すぎても困るだろうしな」
「なるほど。じゃ、案内して」
そう言いながら拙者を待たずに勇者はずんずん進んでいく。はぁ、今通り過ぎたぞ。
「ああ、調査団員どのにやってもらいたいことがある」
と拙者は方々を集めて必要なことを説明した。
☆
プチブル家の屋敷の窓から夕焼けの街並みが見える。風景は物音一つしないほど静まり返っていた。薄暗い屋敷の、夕陽の差した床の上で、勇者は国旗を敷いてごろ寝していた。いや猫か。
「指揮官クラスはそいつらだけ?」
勇者の視線の先には真っ二つになったキノコ人間と肌が青くて今にも吐きそうだった酔っ払い男の二人がぺしゃんとしていた。
「蝙蝠が飛んでいったでござる。きっと報告が行ってるであろうな」
「いいよ別に。そこまでやるとめんどい」
「で、ござるか」
拙者は勇者を置いて屋敷の外に出た。
こんな街でも夕陽は綺麗でござるねえ。と伸びをし、調査団員を待つ。屋敷前の広場には積まれた死骸の山があった。
やがて調査団員が着くと、拙者に教えてくれる。
「本人所持の特別と思われる品は全て取り除きました。管理体制が出来ていないので分別に時間はかかりますが……」
「代表殿、やったという姿勢が重要なのだ」
「はっ」
「では焼くか」
「そうですね」
目の前の死体の山に拙者は火遁の火を飛ばす。肉の山は一瞬のうちに火に包まれ、黒い煙が上がり始める。それを合図に、街のあちこちから同じような黒い煙が上がり始めた。
「手筈通り、我らはヒョールドの討伐に向かう。代表殿は報告して難民に吉報をもたらしてやるがいい」
「はい……あの、なんて言ったらいいか」
「感謝は勇者に言ってやれ。人並みに喜ぶぞ」
「そうですね。そうします」
拙者が屋敷の扉を指し示すと、代表殿は屋敷に入っていく。
「はぁーあ、テンション下がるでござる。カラオケが恋しいでござるよ~」
いや、こっそり行っちゃうか。拙者、足早最強忍者でござるし。
では、大都会ブルードゥクへ、拙者だけ帰還でござるぅー、びゅーんっ♪