私を人間界へ連れてって ~シンギュラリティ美少女がダンジョンから出てきたら、世界がゲシュタルト崩壊しました~   作:よっちゃ

11 / 28
第11話 歌声とバフ効果

 第11話

 

 モンスターはダンジョンの外へは出てこない。

 それはダンジョンマスターが定めた絶対のルールだった。

 ──例外がひとつだけ存在する。

 現代兵器によってダンジョンそのものを破壊しようとした場合だ。

 

 八年前。

 愚かにもその禁を犯した小国があった。

 

 結果、ゾンビ、スケルトン、ミイラ

 ── アンデッドの群れがダンジョンから溢れ出し、

 その国は数日のうちに壊滅した。

 

 今もその地では、死者たちが彷徨い続けている。

 生き残った人々は巨大な壁に囲まれた都市を築き、抵抗を続けていた。

 ダンジョンマスターの報復を恐れ、国連はあからさまに手を貸すこともできない。

 

 ────────

 

 亡国

 

 壁の上。

 レジスタンスに参加する二十代の青年が、ぼんやりとスマホを眺めていた。

 疲れ果てた彼の目に、もはや光はない。

 

 画面に映っているのは、今世界中で話題になっているという

 遠い国のダンジョン配信。

 若いハンターの青年と女性、

 そして──異様なまでに美しい少女。

 

 眼下ではアンデッドの群れが蠢いている。

 

 この壁も、いつまで持つかわからない。

 壁が破られた時、自分もゾンビとなって彷徨(さまよ)うのだろう。

 アンデッドに殺された者はアンデッドになる。

 彼の家族も、あの中にいる。

 

 最初の二人が歌った日本の歌は、

 歌詞こそ分からなかったが、嫌いではなかった。

 青年のほうは、正直少し微妙だったが。

 

 そして次は、あの美少女の番らしい。

 

 ──なんて、心に染みる歌なのだろう。

 疲れ切った体の奥から、静かに力が湧いてくる。

 

 そして、見た。

 

 壁の下にいたゾンビの一体が、かすれた声のような何かを発し、

 柔らかな光に包まれて静かに消えたのだ。

 続いて、もう一体。

 さらにもう一体。

 

 青年は息を呑む。

 何が起こっているのか理解できない。

 戸惑いながらも何かに導かれるように、

 彼はスマホを緊急放送用のスピーカーへと繋いだ。

 音量を最大にする。

 なぜそうしたのか、自分でも分からなかった。

 

 

 少女の歌声が、壁の内と外へ静かに響き渡る。

 

 国を滅ぼされ、死してなお人々は尊厳を踏みにじられてきた。

 忌むべき存在、そして哀しき死者の群れ。

 

「……」

 

 喉が鳴ったが声にはならなかった。

 

 次々と光に包まれ、

 白く、淡く、まるで夜明けの霧が溶けるように消えていくアンデッドたち。

 

 あまりの眩しさに、青年は思わず目を細める。

 

 その耳に──

 

「ありがとう」

 

 誰かの声が、確かに聞こえた気がした。

 

 

 

 ────────

 

 

 同じころ、日本

 

 まだ幼い少女は、生まれつき原因不明の病を(わずら)っていた。

 自由に外を歩くことはできず、この病室だけが彼女の世界のすべて。

 

 そして、その彼女の見る世界には『色』がなかった。

 

 色の無い世界でも、彼女は決して悲観的ではなかった。

 日々の小さな楽しみを大切にしていたからだ。

 そのひとつがスマホで見る配信。

 ダンジョンハンター・レンの配信だった。

 

 何度も肝を冷やしたが、

 恐ろしいモンスターに立ち向かうレンの姿に、彼女は憧れていた。

 

 私もいつかハンターに。

 もちろん、それが決して叶わない夢だということは分かっている。

 

 今日の配信はどうやらカラオケらしい。

 

 レンの歌は、正直とても褒められたものではなかったが、

 少女は目を閉じ、一生懸命に歌う彼の声に静かに耳を傾けていた。

 

 次の曲は、知らないアニメソング。

 テンポが良くとても素敵な歌だった。

 

 そして── 目を閉じたままでも分かった。

 空気がはっきりと変わった。

 

 

 ──奇跡が彼女の耳に届いた。

 

 何の言葉なのかも分からない。

 それなのに、涙が止めどなく溢れてくる。

 

 気がつけば、生まれてからずっと当たり前だった胸の苦しさが、

 嘘のように消えていた。

 

 手で涙を拭いふと窓の外を見る。

 

 そしてはじめて知った。

 この世界の、なんと美しいことか。

 

 

 ──空が青い。

 

 

 それはまるで、

 生まれつき視力の弱い赤ん坊が、

 初めて眼鏡をかけて、

 目の前の大好きなお母さんの顔を見た瞬間のような、

 そんな笑顔だった。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 ────────

 

 その日、日本中で。

 そして世界のあちこちで。

 

 説明のつかない奇跡が、静かに報告されていった。

 

 

 




 ここまで読んでくださって、ありがとうございました。
 評価やブックマーク追加で応援もしていただけたら喜びます^^
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。