私を人間界へ連れてって ~シンギュラリティ美少女がダンジョンから出てきたら、世界がゲシュタルト崩壊しました~   作:よっちゃ

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第14話 執事と邪龍とフィギュア 【番外編①】

 番外編①

 

 森の奥深く、訪れる者もいない古い洋館の地下。

 邪龍を信仰する黒いフードを被った邪教徒の集団が、長い年月をかけて準備を進めて来た魔法陣。

 ついにその魔法陣を作動させるべく最後の儀式が行われていた。

 

「さあ現れるのだ、我らが神、邪龍ファブニーズよ」

「そしてこの世に破滅を! この世界を破壊し尽くすのだ。そして全てが崩壊した後にこそ、我ら選ばれし民がこの地上を治める」

 

 魔法陣が完成した瞬間、空気が裂けた。

 中心の歪みからその半身を現したのは、黒き鱗に覆われた邪龍。

 その眼は飢え牙は不気味な黒光を帯びていた。

 

「ほう……人間共が我を喚び出したか」

 

 邪龍は赤く光る眼を邪教徒の集団に向ける。

 

「おおお──成功だ、ついに我ら選ばれし民の時代が開ける」

「あああ、ついに我らが悲願が!」

 

 歓喜の声をあげる邪教徒たち。

 

 しかし邪龍が冷酷に彼らに告げる。

 

「では人間どもよ、褒美にまずは貴様らを頭から喰ろうてやろう」

 

「ひぃい、どういうことだ、制御できるはずでは!?」

「邪龍よ、我らの命令を聞け!」

 

 術者が杖を振り邪竜を制御しようと試みるが無駄だった。

 

「愚かなり人間、我を矮小な貴様らごときがどうにかできると思ったか」

「ば、馬鹿な、古文書にはたしかに」

「はははは、気分が良いぞ人間! 喰ってやる、この地上にいる全ての人間を喰ろうてやる!」

 

 邪龍がそう叫び、ついにその全身が魔法陣から現れる。凄まじいプレッシャーが全世界を駆け巡る。

 

 もしこの太古の化け物にランク付けをするのなら。

 

 SS級モンスター《邪龍ファブニーズ》

 終末の厄災。

 世界に終わりをもたらすモノ。

 

 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

「ふむ、何事かと思って来てみれば」

 

 いつの間にいたのか。

 地下室の奥、一人の老人が立っていた。

 燕尾服に身を包み、白粉を引いたような真っ白な顔。 年齢の読めない笑み。

 執事然とした佇まいで、手袋を外し静かに問いかける。

 

「——ここに何をしに来た。邪龍よ」

 

 その一言で空気が圧し潰され空間が歪んだ。

 その場にいた邪教徒たちは失禁し、意識を失う。

 

 邪龍は今しがた喚び出された魔法陣の中へ逃げようとしている。

 

 老執事が静かにその尾を掴む。

 

「ひゃ……ひゃだあ! ち、違うのよ! アタシは喚ばれただけ! 人間が勝手に——」

 

 邪龍の声が裏返り口調が崩れる。

 

 老人は懐から、丁寧に包まれた何かを取り出した。

 大切に、そして愛おしそうに。

 その手にあるのはコンビニの梅しそ入りごはん、土産物屋にありそうなキーホルダー、そして可愛くもない人形。

 

「これが何かわかるか、愚龍よ」

 

 邪龍はその全てを見通す邪眼を持ってそれを鑑定した。

 

 ──鑑定結果──

 

 コンビニの梅しそ入りおにぎり: 詳細不明 / 破壊不可

 富士山のキーホルダー : 詳細不明 / 破壊不可

 微妙な人形 : 詳細不明 / 破壊不可

 

 

「お優しいお嬢様が、この爺めにお土産にと買って来てくださったものだ。時間も空間も止めてある。永遠に存在するように」

「貴様にわかるか? 太古の愚かなトカゲよ」

 

 老人は、にこりと笑い、一歩踏み出す

 

「お嬢様はたいそうこの世界と、人間達を気に入っておられる」

 

 さらに一歩邪竜に近づく。

 

「わかるか? お嬢様はカラオケが楽しかったと仰った」

「わかるか? お嬢様はこの爺めにも、今度一緒に温泉に行こうと仰ったのだ」

「わかるか? お嬢様は抹茶味ロールケーキをとても美味しそうに召し上がる」

 

 老執事の()()()()()が、邪龍の顔のすぐ目の前に来た。

 

「ひぃいい、ちかいです、お顔がちかいです、許してえ、アタシまだ何もしていないわよお」

「なんでもするわ、アタシなんでもするからあ」

 

 

 老執事は不気味に笑い、邪竜の耳元で囁く。

 

 

「—お前も フィギュア(にんぎょう)にしてやろうか?」

 

「フハハハハハハ」

 

 邪龍は、その場で気絶した。

 

 

 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

 —— 邪教徒の館は跡形もなく消えていた。

 

 世界を滅ぼす悪しき龍が人の世界に爪を立てようとした痕跡は、まるで最初から存在しなかったように。

 燕尾服の老人は埃一つ払わずに踵を返す。

 

 人間界に害を成そうとした愚か者が、

 

 

 ──今夜もまた一匹、コレクションとなった。

 

 

 




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