私を人間界へ連れてって ~シンギュラリティ美少女がダンジョンから出てきたら、世界がゲシュタルト崩壊しました~ 作:よっちゃ
番外編①
森の奥深く、訪れる者もいない古い洋館の地下。
邪龍を信仰する黒いフードを被った邪教徒の集団が、長い年月をかけて準備を進めて来た魔法陣。
ついにその魔法陣を作動させるべく最後の儀式が行われていた。
「さあ現れるのだ、我らが神、邪龍ファブニーズよ」
「そしてこの世に破滅を! この世界を破壊し尽くすのだ。そして全てが崩壊した後にこそ、我ら選ばれし民がこの地上を治める」
魔法陣が完成した瞬間、空気が裂けた。
中心の歪みからその半身を現したのは、黒き鱗に覆われた邪龍。
その眼は飢え牙は不気味な黒光を帯びていた。
「ほう……人間共が我を喚び出したか」
邪龍は赤く光る眼を邪教徒の集団に向ける。
「おおお──成功だ、ついに我ら選ばれし民の時代が開ける」
「あああ、ついに我らが悲願が!」
歓喜の声をあげる邪教徒たち。
しかし邪龍が冷酷に彼らに告げる。
「では人間どもよ、褒美にまずは貴様らを頭から喰ろうてやろう」
「ひぃい、どういうことだ、制御できるはずでは!?」
「邪龍よ、我らの命令を聞け!」
術者が杖を振り邪竜を制御しようと試みるが無駄だった。
「愚かなり人間、我を矮小な貴様らごときがどうにかできると思ったか」
「ば、馬鹿な、古文書にはたしかに」
「はははは、気分が良いぞ人間! 喰ってやる、この地上にいる全ての人間を喰ろうてやる!」
邪龍がそう叫び、ついにその全身が魔法陣から現れる。凄まじいプレッシャーが全世界を駆け巡る。
もしこの太古の化け物にランク付けをするのなら。
SS級モンスター《邪龍ファブニーズ》
終末の厄災。
世界に終わりをもたらすモノ。
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「ふむ、何事かと思って来てみれば」
いつの間にいたのか。
地下室の奥、一人の老人が立っていた。
燕尾服に身を包み、白粉を引いたような真っ白な顔。 年齢の読めない笑み。
執事然とした佇まいで、手袋を外し静かに問いかける。
「——ここに何をしに来た。邪龍よ」
その一言で空気が圧し潰され空間が歪んだ。
その場にいた邪教徒たちは失禁し、意識を失う。
邪龍は今しがた喚び出された魔法陣の中へ逃げようとしている。
老執事が静かにその尾を掴む。
「ひゃ……ひゃだあ! ち、違うのよ! アタシは喚ばれただけ! 人間が勝手に——」
邪龍の声が裏返り口調が崩れる。
老人は懐から、丁寧に包まれた何かを取り出した。
大切に、そして愛おしそうに。
その手にあるのはコンビニの梅しそ入りごはん、土産物屋にありそうなキーホルダー、そして可愛くもない人形。
「これが何かわかるか、愚龍よ」
邪龍はその全てを見通す邪眼を持ってそれを鑑定した。
──鑑定結果──
コンビニの梅しそ入りおにぎり: 詳細不明 / 破壊不可
富士山のキーホルダー : 詳細不明 / 破壊不可
微妙な人形 : 詳細不明 / 破壊不可
「お優しいお嬢様が、この爺めにお土産にと買って来てくださったものだ。時間も空間も止めてある。永遠に存在するように」
「貴様にわかるか? 太古の愚かなトカゲよ」
老人は、にこりと笑い、一歩踏み出す
「お嬢様はたいそうこの世界と、人間達を気に入っておられる」
さらに一歩邪竜に近づく。
「わかるか? お嬢様はカラオケが楽しかったと仰った」
「わかるか? お嬢様はこの爺めにも、今度一緒に温泉に行こうと仰ったのだ」
「わかるか? お嬢様は抹茶味ロールケーキをとても美味しそうに召し上がる」
老執事の
「ひぃいい、ちかいです、お顔がちかいです、許してえ、アタシまだ何もしていないわよお」
「なんでもするわ、アタシなんでもするからあ」
老執事は不気味に笑い、邪竜の耳元で囁く。
「—お前も
「フハハハハハハ」
邪龍は、その場で気絶した。
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—— 邪教徒の館は跡形もなく消えていた。
世界を滅ぼす悪しき龍が人の世界に爪を立てようとした痕跡は、まるで最初から存在しなかったように。
燕尾服の老人は埃一つ払わずに踵を返す。
人間界に害を成そうとした愚か者が、
──今夜もまた一匹、コレクションとなった。
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