私を人間界へ連れてって ~シンギュラリティ美少女がダンジョンから出てきたら、世界がゲシュタルト崩壊しました~ 作:よっちゃ
第16話
その日、地球の天界は年に数度訪れる繁忙期を迎えていた。
──クリスマスイブ。
地上では恋人や家族のための祝祭の日だが、こちら側では転生者が行き交うため、大忙しとなる。
「この魂は生前、良い行いをしていたから、この世界ね。来世は楽しんでね」
「元英雄か……お疲れ様。地球では裕福な家に転生かしら」
「この人、生前はかなりの悪人ね。はい、ヘルモード決定」
普段は静かな転生管理局が、書類と光の奔流に埋め尽くされる日だった。
「……だから言ったでしょう。今日は忙しいから地上には行けないって」
同僚女神の言葉に、こずえ──いや、こずえの体を借りている女神は、露骨に不満げな顔をする。
「今日“も”予定があるんですけど」
「却下」
「ねえ、お願い」
「却下」
「だって、あの子が私を待ってるもの」
「ダメだってば」
むげもなく切り捨てられた。
「あなた、最近地上に入り浸りすぎなのよ」
「必要な観察です、仕事です、お仕事」
「あのだらしない態度と顔で? 」
「……だって可愛いし、いい匂いするんだもん」
結局、女神の身体は淡く光り、転生管理局の執務席へと強制転移させられた。
「じゃ、よろしく」
冷たい宣告だけが残る。
「──えー、うそでしょ……」
女神は天井を仰ぎ、深いため息をついた。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
クリスマスイブ
東京某所
今日は急用でこずえが来られないため、レンと少女、そしてなぜか遠くから二人を見守るメイドという構成で、クリスマスで賑わう東京の街を散策していた。
街はすっかりクリスマスの色に染まっている。
昼間でもはっきり分かるほどの装飾と、どこか甘い空気。
少女は白いコートを羽織り、縁にはふわりとした毛皮があしらわれていた。
中は落ち着いた赤のワンピース。
首元の小さなマフラーが、彼女の銀髪によく映えている。
「……変じゃない?」
控えめに尋ねる少女に、
「あの、すごく素敵です」
「ありがとう」
それだけで、少女は小さく頷いた。
『なんだこれなんだこれなんだこれ』
『クリスマスイブだからふたりっきり?』
『いや、メイドさんが後ろにいる』
『ニッポンノ イブワ トクベツデスヨ』
クリスマスイブの雰囲気と、いつも騒がしいこずえがいないせいかどこか空気が違う。
メイドは少し距離を取って後をついてくる。
街は人で溢れ、配信ドローンによって世界中に配信されているとは言え、なぜかふたりっきりのデートのようでレンは落ち着かない。
気を落ち着かせるため、そして少女の護衛も兼ねているので今日も手に持つ霊刀富士山の「富士山」の文字をなぞる。
途端、レンにバフがかかる。
・状態異常無効
・完全自動回復
・完全自動蘇生(一日99回)
・即死無効
・物理・魔法攻撃99%カット etc
状態異常無効の効果のおかげか、少し気持ちが落ち着いた。レンなりに話題を作り少女に話しかける。
「あの、人間界はどうですか?」
「うん、とても楽しい。来てよかった」
「それは良かった。例えば、何が好きですか?」
「抹茶味のもの全部。それとカラオケ」
「他にもありますか? 」
「温泉も好き。パフェも全部好き、マンガも好き」
少女は特に何の意図もなく、ただ好きなものを挙げていく。
そして── 少女はレンをじっと見つめ、少し首を傾けて言った。
「──レンも、好きだよ」
──── 一瞬、世界が止まった。
「えっ」
その言葉の意味って。
「ぐはぁっ!?」
突如、レンの胸に鋭い痛みが走る。
頭の中で緊急アラートが鳴り響いた。
「ステータスオープン!」
霊刀富士山のスキル
《ステータス表示》を行使する。
何か異常がないか素早くステータスを確認。
完全自動蘇生(一日54回)
「……回数が減ってる!?」
まさか、今の一瞬で四十五回も死んで蘇生したのか?
攻撃を受けた?
いつ? どこから? 誰から!?
素早く攻撃ログを確認する。
警告
同時に以下の者達から攻撃を受けました。
以下ランダム表示。 総数
女神/高木勝也/菊池和真/地球の神/元魔王/木下徹/お父さん/執事の爺さん/鈴木朱里/藤井麻衣子/元剣聖/ダグラス・マーシャル/大谷平蔵/中村修二/護衛騎士※/護衛騎士[]/護衛騎士β/メイド/キム・ジョンフ/新垣大輔/ドローン先輩/元剣聖(二回目)/元大神官/ダンジョンマスター/神谷由加里/山田杏奈/マイケル・クルーズ/異界の王様/ロードリッチ ──以下、スクロール──
いつも一行を優しく見守る、AI搭載自動追尾型配信ドローンから、決して出ては行けない禍々しいオーラが溢れ出している。
物理・魔法99%カット、即死無効が抜かれた!? いや、それをもってしても、この回数
レンが何とか状況を把握しようと頭を高速で働かせる中、
ふいに、少女が配信ドローンに近づき首をかしげ、カメラに向かって上目遣いで可愛らしく告げた。
「──みなさんも、大好き──」
次の瞬間、禍々しかった配信ドローンが一転して輝き出し異様な気配が霧散する。
『ええ子や』
『まあ分かってたけど』
『レンごめん』
『ワシら
『お前ら変なことするなって』
『ちょっと殺気が漏れただけや』
『ダイスキ キター』
『ああ……幸せ』
『守らなきゃこのスマイル』
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それから、一緒にパフェを食べたり本屋に寄ったりした後、二人は大きなクリスマスツリーの前にやって来た。
無数のイルミネーションが、夕方の街を柔らかく照らしている。
そして、多くのカップルが幸せそうに手を繋いで歩き、それぞれのクリスマスイブを楽しんでいた。
「ねぇ、なぜ、みんな手を繋いでいるの?」
「クリスマスイブだから……ですかね」
「クリスマスイブには、手を繋ぐの?」
「いえ、まあカップル……」
少女がじっとレンを見つめ、そっと手を差し出す。
「──私たちも、つなごっか? 手」
その瞬間、霊刀富士山が悲鳴のような音を上げた。
「ス、ステータスオープン ! 」
完全自動蘇生(一日2回)
「……っ!」
や、殺られる!
「い、いえ! そ、そうだ、いいアイデアがあります。みなさんと手を繋ぎましょう。ほら、こうやって……配信ドローンのここを持ってみてください」
少女は言われた通り、ドローンの一部に手を添える。
画面越しには、まるで視聴者全員が少女と手を繋いでいるように見える。
『うおおおお!』
『小僧グッジョブ』
『キサマを許す』
『神対応』
『拙者ドキドキしてる』
『見てお母さん、ボクついに』
『お願い私だけ見て』
ステータス表示
バフが上書きされました。
完全自動蘇生(一日99回)
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少女は楽しそうにドローンと手を繋いで歩き、その後ろをレンが続く。
そういえば、
少女はふと、さきほど雑誌で読んだ事を思い出す。
「──クリスマスイブは恋人と過ごす? 」
「──恋人って、好きな人? 」
「──私が──好きな人は? 」
「──それじゃあ、私の──―」
少女が、手を繋いでいる ( ように見える ) 配信ドローンのカメラをじっと見つめる。
──その先にいる世界中の人々へ優しく告げる──
「──恋人は──―人間さんたち──」
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神も含めた全ての存在が認識もできない速度域で。
「むう、御館様! 」
「爺、合わせろ! 」
《 絶対防御魔法──サンダクローズ、対象は地球 ! 》
少女の父と執事の力で、
すんでのところで地球崩壊は免れた。
──それほどの破壊力を持った言葉だった。
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「クリスマスにはプレゼントを贈るんですよ」
レンは簡単な、日本らしいプレゼントを少女に渡した。
すると突然、なぜか配信ドローンを介して世界中の人々からもプレゼントが少女の前に転移してくる。
少女はとても嬉しそうに、少し困った顔をした。
「私も何か、お返ししなきゃ……ちょっと待ってて」
喜ばれるプレゼント第一位。( 好きな人もイチコロ )
「ふうん」
「これが、みんなに一番喜ばれるの? イチコロ? ? 」
レンと、それから配信カメラを見つめる。
可愛らしく、上目遣いで、そして少し頬を染めて。
「──クリスマス──」
「──プレゼントは──」
「──わた────―s 」
──────
「御館様!!」
《──究極絶対防御──―反転──遮断魔法──―
──―シタワ──スマスリクーリメ──》
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