私を人間界へ連れてって ~シンギュラリティ美少女がダンジョンから出てきたら、世界がゲシュタルト崩壊しました~   作:よっちゃ

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第17話 こたつとちゃんこ鍋

 第17話

 

「世界中のみなさん、こんばんは。えー、というわけで、早速ですが」

 

 レンとこずえの二人が並んで立ち、リポーターのようにマイクを手にして、配信ドローンへ向かって話し出す。

 

「本日は年末特別企画。

 題して──美少女とこたつで忘年会・鍋パーティー企画配信です」

 

『きたああああああ』

『忘年会!?』

『!?』

『なおフラグ』

『コタツダイスキデス』

 

 画面の向こうでは、世界中の視聴者が一斉に湧き立った。

 当初は未知の存在への不安や畏れ、そして異常なまでの美しさゆえに、どこか遠い存在として見られていた少女。

 

 しかしクリスマス配信を境にその印象は一変し、今では完全に視聴者の心を掴んでいた。

 

「レン君、今日はですね、美しい我らがお嬢様にぜひ日本らしい体験をしていただきたい。その思いから、本日は日本国政府の協力のもと日本の伝統的な家屋からの配信となっているんですよ」

 

 画面が切り替わり、古き良き日本家屋が映し出される。

 木の温もりを感じさせる廊下、障子越しのやわらかな光、畳の香りが伝わってきそうな落ち着いた造りだ。

 

 ──────────

 

「お嬢様、メイドさん。靴はここで脱いでくださいね」

「日本の家では、靴を脱いで上がるんです」

「はい。お邪魔します」

「心得ております。お邪魔いたします」

 

 二人はきちんと靴を揃え丁寧に向きを整えてから家に上がった。

 

 居間へ案内されると、そこには長方形の特注こたつが据えられ中央にはすでに湯気を立てる鍋が用意されていた。

 

『こたつで鍋か『いい雰囲気』

『今日はしんみり回?』

『ニッポンノコタツワサイコーデス』

 

「どうぞ、こちらにお座りください」

 

 こたつの長辺側に少女とメイドが並んで座り、向かいにレンとこずえ。短辺側には配信ドローンが位置取りする。

 まるで視聴者自身もこたつに入っているかのような構図だった。

 

 こたつに入る銀髪の美少女。

 距離が近くなったせいか、画面越しにも一気に親近感が増す。

 

「はあん……こうして近くで見ると、本当にお嬢様の顔って、綺麗……」

「日本では、こうやってこたつで鍋を囲むのが、冬の風物詩なんですよ」

 

『美少女とこたつ、絵になる』

『肌が綺麗すぎる』

『今こっち見た!』

『俺らも一緒に入ってる感じ』

『鍋うまそう』

 

 レンとこずえがカメラを意識しながら話す。

 

「闇鍋にしようか、なんて案もありましたが……今日は王道です。伝統的なちゃんこ鍋をご用意しました」

 

 鍋の中では鶏ガラ出汁の香りが立ちのぼり、白菜や長ねぎ、豆腐、肉団子が食欲を刺激する。

 湯気とともに冬の夜らしい温かさが部屋に満ちていった。

 

 少女は鍋を覗き込み少し首を傾ける。

 

「これが……鍋料理。美味しそう」

 

 ──────────

 

「それでは恒例、鍋をつつきながらの特別企画です」

「視聴者さんの質問コーナー、わーい、ぱちぱちー」

「答えられる範囲で構いませんので、ランダムに選ばれた視聴者さんが質問し、こちらの美少女お嬢様に答えていただくというものです。選ばれた方はマイクで質問してください」

 

「では早速行きましょう。最初の方──腹ぺこサラリーマンさん、どうぞ」

 

『うわ、え、僕!? えっと光栄です。

 じゃあ……好きな人はいますか?』

「さあお嬢様、ビシッとお願いします」

「好きな人は……人間の皆さんです」

 

 少女がカメラに向かって、にこりと微笑んだ。

 

『ヒャッハー』

『何回殺せば気が済むんだ』

『幸せ』

『アレ ワタシニ イッタンデス』

 

「どんどん行きましょう。次はポケちゃんさん」

『趣味はなんですか?』

「読書が好きです。それから……旅行も」

「ありがとうございます。次は──あ、元勇者さん」

『単刀直入に聞きます。貴方様はダンジョンを通って別次元から来た存在なのですか? そして貴方様は何者なのですか?』

 

『今さらどうでもいいだろそんな事』

『元勇者ってなんだよ厨ニかよ』

『我らの七次元的美少女お嬢様だろが!』

 

 なぜか他の視聴者からブーイングが飛ぶ。

 

「その質問には、私がお答えいたしましょう」

 メイドが静かにカメラを見据えた。

 

「あるお方よりある程度まで話す許可を得ております。ご指摘の通り、私どもは地球とは異なる高次元の世界から参りました」

『並行宇宙のようなものでしょうか?』

「宇宙は複雑で広大です。地球から観測できない領域は数え切れぬほど存在します」

『どうやって移動を──』

 

「はーい、そこまで。それ以上は色々ヤバいコードに引っかかります。次いきましょう、ペンペンちゃんさん」

『犬と猫、どっちが好きですか?』

 

 その質問に少女の頬が、ほんのり赤く染まる。

 

「……猫です。地球の猫のキャラクターが好きで……以前、温泉で買った“きてぃさん”が、とても気に入ってしまって……それでお父様にお願いして……」

 

 普段はおっとりとした少女が珍しく早口になる。

 

『めっさ早口w』

『よっぽど好きなんだな』

『ワシは犬派じゃ』

『実際きてぃさんは猫? 』

 

「ありがとうございます。次はアカリちゃんさん」

『メイドさんに質問です。メイドさんから見たお嬢様って、どんな方ですか?』

「そうですね……」

 

 メイドは一瞬考え、そして語り出す。

 

「まずお嬢様は、全ての世界において最も可憐で美しい存在です。正直に申し上げますと──」

「残念ながら現在の人類の魂や精神構造では、お嬢様の美しさを()()()()()()()()しか認識できておりません」

「私の見ているお嬢様と、皆様がご覧になっているお嬢様の間には、決定的な隔たりがあり──」

 

 そこから先は、難解な話とピー音の嵐だった。

 

「……お嬢様の美しさを理解するには、まず(ピー)していただき、霊的な(ピー)をさらに(ピー)で──」

 

 慌ててこずえが話に割って入る。

 

「ごめんなさいね、あのー、色々とまだ地球では言ってはいけないことも話しておられますが、そこは適当にモザイクとピー音、よろしくー」

 

『要するに、人間にはお嬢様の本当の美しさが認識できてないってことか』

『お嬢様的可愛さは、超次元を超えた正義ってやつだな』

『どこかのオタクが言ってた、七次元的美少女ってやつが意外と答えに近かったな』

 

 ──────────

 

 こうして、鍋をつつきながらの忘年会は賑やかに過ぎていった。

 なお、メイドはその後も延々と少女の美点を語り続けていた。

 

 ──────────

 

「それでは次の企画を発表します。

 こたつに鍋といえば、その次は──レン君!」

 

「はい。次は──みんなでゲーム大会です。

 そして年末のゲームといえば……」

 

「新幹線で行く──柿太郎電鉄です──」

 

 

 

 この時はまだ誰も知らなかった。

 恐怖の夜が始まる。

 

 

 

 ────第18話へ続く

 

 

 




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