私を人間界へ連れてって ~シンギュラリティ美少女がダンジョンから出てきたら、世界がゲシュタルト崩壊しました~ 作:よっちゃ
異世界編 ― ①
その世界は静かに死につつあった。
大地は黒くひび割れ、かつて森だった場所には灰色の苔しか残っていない。
風が吹けば土は砂のように崩れ、空気には腐った鉄の匂いが混じる。
五年前、突如復活した邪神とその軍勢は、地上に生きる人間や生物を滅ぼさんと進撃を開始した。エルフ、ドワーフ、獣人たちも協力し反撃したが、敵はあまりにも強かった。
幾つもの星を滅ぼしてきた終焉の邪神。星そのものを「終わらせる」存在。
星の命── この世界ではそれを「星の精霊」と呼ぶ。かつては大地を巡り海を満たし、空に命を与えていた存在。
だが今、その鼓動はほとんど聞こえなくなっている。
────────―
神殿の最奥。
白い石の床にひとりの女が膝をついていた。
女僧侶。
かつて勇者やその仲間達と共に破壊神シドレーンと戦った、唯一の生き残り。
共に戦った仲間達は破壊神と相打ちになり、みな逝ってしまった。
若い彼女だけが生き残った。いや、生かされた。
二十八歳になった彼女の表情には、隠しきれない疲労があった。
神殿では英雄として高位に就いているが、その肩は常に重い。
「……今日も、祈ることしかできません」
声はかすれ唇は乾いている。祈りの言葉は、もう何万回も口にしてきたものだった。
──勇者とその仲間達が死んでから十三年。
破壊神は倒され世界は救われたはずだった。だが邪神はそれよりも、はるかに残酷で絶望的な敵だった。
「神よ……どうか……我々を」
答えはない。もう何年も神からの啓示は途絶えている。女僧侶は祈りながら、ふと胸の奥がひどく冷えるのを感じた。希望がすり減っていく感覚だった。
「……私がもっと強ければ……」
破壊神との戦いでは回復しかできなかった。最後まで守られる側だった。勇者は、仲間たちは命を懸けて世界を救ったのに。
「みんな……私は……一番弱かった私が死ねば良かった……うう……ニーシャさん……ダレン……勇者様……」
「誰か……お願い……」
「誰か……助けて……」
女僧侶は一心に祈り続けた。
そのとき── ごごごごご…… 神殿全体が震えた。
「……地震? いえ、まさか邪神の軍勢がここまで」
「大司祭様! ご無事でしょうか? この音は!?」
違う、これは地震ではない。
音は上から来ている。
ごごごーっ!! 雷鳴のような轟音。
天井の装飾がきしみ神殿の外がざわめく。
今は大司祭となった女僧侶はゆっくりと立ち上がり、静かに告げる。
「邪神の手の者かもしれません。私が出ます」
最後まで諦めない。生かされた者の意地。諦めて……たまるものか!
勇者様、ニーシャさん、ダレン、お願い私に力を貸して。最後まで見守っていて。
女僧侶の手は震えていた。
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空を見上げた瞬間、言葉を失う。
そこには── この世界には存在しない巨大な鉄の鳥があった。翼を持ち、腹から風を吐き出し、あり得ない速度で降下してくる。
邪神の配下のドラゴンではない。
「……なに、あれ……?」
「大司祭様を守れ! 武器を取れ!」
轟音と共に鉄の鳥が大地に着陸した。砂塵が舞い衝撃が走る。神殿の兵たちが武器を構える中、鉄の鳥の横腹が開いた。
どこからか階段のような物が現れ降りてくる人影。
敵? 黒い髪。見慣れない服装。
だが、その立ち姿──その顔立ち。
「……勇者様……?」
喉から自然と名前が零れ落ちた。
そんなはずはない、ありえない。だがその黒髪の人物は、かつてこの世界を救った勇者トロに生き写しだった。
その青年は顔を上げ、自分と目が合った瞬間、驚愕の表情を浮かべた。
「……君は……君の……名は? 」
「……あ、あなたは、ゆう……いえ、私は、この神殿の司祭をしている者です……」
「ああ……その声……サマンサ……きみなのか」
気がつけば、二人とも涙を流していた。
青年の声は確かに違う。髪の色も肌の色も違う。
女の見た目は、少し歳はとったものの、今でも美しいあの頃のまま。
「サマンサ、俺だ。信じられないかもしれないが、君と、ニーシャとダレンと共に、破壊神
「勇者トロの頃の記憶もちゃんとある」
膝から力が抜けた。
サマンサと呼ばれた女僧侶はその場に崩れ落ち、顔を覆う。
「……ああ、神よ……」
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破壊神と相打ちとなり地球へと転生した元勇者、そして現Aランクダンジョンハンター。
──―
「変わらないね、サマンサ」
「もう、そろそろ三十路ですよ」
「いや、とても綺麗だ」
「勇者様は……昔そう言って私を口説いたこともありましたね」
「いや、それは言わないでくれよ」
巨大な鉄の鳥の横腹から人影が現れる。
信じられない程の美貌の、十代半ばに見える少女。その少女に付き従うメイドの格好をした若い女性。
そして、二十代前半に見える不思議な雰囲気の女性と若い剣士。
さらに── 宙に浮かぶ、見たこともない箱型の何か。
『いやーここが異世界か』
『時間の流れ、日本とあまり変わらないのか』
『結構早く着いたな、三時間くらい?』
『アノジョセイ ナイテマース』
『ほえーゲームを現実にした感じだな』
『賞品の異世界往復航空券、本当に使えるとはね』
『部屋でポテチ食べながら異世界をライブで見られるなんてね、時代も進んだよ』
この絶望の大地に、配信ドローンを通じて地球の視聴者達の頼もしく愉快なコメントが流れる。
その光景を見て、女僧侶ははっきりと理解した。
神に祈りが、届いたのだと。
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サマンサは一行を神殿へと案内する。
かつては白く輝いていた大理石の回廊は、今や所々が欠け黒ずんだ染みが残っていた。邪神の影響はここにまで及んでいる。
「……ここも、ずいぶん変わったな」
元勇者は低く呟く。床の傷、壁に刻まれた修復の痕。それらはすべて、勇者がいなくなった後の年月を物語っていた。
「勇者様達が守ってくれた平和は、確かに続いていました、しかし五年前に……」
サマンサは震える声で世界の現状を語る。
邪神、死につつある星。
たとえ邪神を倒したとしても、救えないかもしれない未来。
話を聞き終え、元勇者は共に鉄の鳥──飛行機でやってきた一行に深く頭を下げる。
「……すままい、助けてほしい」
レンは霊刀富士山を握りしめ、一歩前へ出る。
「見過ごせません。
こずえは静かに首を振る。
「私は、ごめん。直接は介入できないけど、できることはするわ。女神の世界にもルールがあるの。これは人間のあなた達の戦いよ」
『同じ人間同士、俺らが力を貸すぜ』
『フフフ、拙者らがいれば心配はありませぬ』
『サマンサちゃん、大船に乗ったつもりでね』
『ワタシモ イッショニ タタカイマス』
『邪神狩りじゃあああ』
『仕方ない。邪神とやらを
『ヒャッハー! 地球の
地球の同胞達が、力強い言葉をくれる。
続く。
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