私を人間界へ連れてって ~シンギュラリティ美少女がダンジョンから出てきたら、世界がゲシュタルト崩壊しました~ 作:よっちゃ
異世界編②
神殿の最奥。
分厚い扉が重々しい音を立てて開かれる。そこは祈りの間であり同時に── 英雄を祀る場所だった。
壁にはかつて破壊神を破った一行の銅像。
戦士、魔法使い、僧侶、そして勇者。
そしてその中央。
台座に静かに安置されている一本の剣。
元勇者は懐かしそうに呟いた。
「……まだ、あったのか」
トロの剣。
勇者トロが愛用した両手剣。
破壊神と相打ちになった瞬間まで、その手に握られていた勇ある者の剣。
だが剣身には無数の細かな傷が刻まれている。それは磨耗ではなく数多の強敵達と戦った証そのものであった。
しかし今──
「……その剣に、力は、ほとんど残っていません」
サマンサの声はわずかに震えていた。
そのとき、銀髪の美少女が一歩前へ出た。
小さな美しい手がそっと剣に触れる。
──瞬間。
空気がわずかに震えた。
サマンサは、はっと息を呑む。この神殿にまで及んでいた邪神の気配が、絶望の空気が晴れた気がした。
「……
そう言って美少女が剣を元勇者に渡す。
剣が──唸っている。
また暴れようぜと、やれるよな? と。
元勇者──―
「……あ、これやばいやつだ」
────────────
一年前、邪神の軍勢に奪われた獣人の首都にもはやかつての面影はなかった。地上は焼き払われ建物は瓦礫と化し、空気には血と煤の匂いが染みついている。
かつて子どもたちの笑い声が響いていた広場は、今では処刑場として使われている。
生き残った獣人たちは地下へと追いやられていた。暗く湿った坑道。光の届かない地の底で彼らは奴隷として働かされていた。
倒れた者に助けはない。
動かなくなった者はそのまま放置される。
ともだちが、近所のおじさんたちが次々と死んでいく。
──―次はじぶんだろう。
まだ幼さの残る獣人の少女は痩せ細った腕で妹を抱いていた。
妹の呼吸は浅く今にも消えそうだった。
「……だれか……」
声を出す力も、もう残っていない。
「私は……どうなってもいい……」
震える唇で少女は祈る。
「……妹だけは……おねがい、たすけて……」
助けなど来ない。
かつて無敵を誇った獣人国騎士団は、とうの昔に壊滅している。
ここは何の希望も抱いてはならない場所。
少女の視界が、ゆっくりと暗くなっていく。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
その少し前
獣人、エルフ、ドワーフ、人間── 生き残っている各種族の代表が一堂に会していた。
獣王、ハイエルフ、ドワーフ王、人間の王。そして大司祭サマンサ。
その背後には、元勇者
少女、メイド、女神こずえはこの場にはいなかった。
宙にはAI追尾型配信ドローン先輩。
その光景は地球の視聴者たちにもリアルタイムで共有されている。
「……本当に、その男が勇者トロなのか?」
ドワーフ王が疑わしげに土呂野を見つめる。
「たしかに、凄まじい力は感じるが……」
獣王も腕を組み同じく視線を向ける。
二人の視線は自然と土呂野の持つ剣へと吸い寄せられていた。
──―明らかに、桁違いの業物。
見るからに危険な気配を放っている。
「……隣の坊やも、相当な強者ね」
ハイエルフが静かに言った。
その視線は、レンとその手に持つ「霊刀富士山」に向けられている。
土呂野は軽く肩をすくめた。
「まあ……百聞は一見にしかず、だ」
次の瞬間。
──―力が解放された。
空気が震え周囲の者たちは息を呑む。
「……これは……」
ドワーフ王の目が見開かれる。
「こちらに来てから、どうやら全盛期の力を取り戻したみたいだ」
「おお、なんと……」
ドワーフ王は感嘆の息を漏らす。
「今はお主は、土呂野というのか、
……ならば──
作戦は決まった。
まずは邪神四天王に奪われた獣人の首都を奪還する。
この星の未来をかけて。
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「サマンサちゃん、私を召喚して」
「……はい、わかりました。よろしくお願いします」
サマンサは深く息を吸う。
「ワシイチ、カナエさんを召喚」
光が弾ける。
配信ドローンのレンズから、一人の六十代半ばの女性が現れる。
「スキル── イセカイ、ユージは、ソンリツ、キッキジターイ!」
現れた女性が呪文を詠唱しスキルを使用する。
突如、どこからともく
規律正しく、迷いなく統制された圧倒的な動きで。
── この地を理不尽に奪い、獣人達の楽園を踏み荒らした憎き邪神の手下、モンスター、悪魔たちが次々と
「……サマンサさん、次は僕を呼び出すんだ」
「はい。獣人達の国を、いえ、この星のために、お願いします!
オオカワ、シンペイさんを召喚!」
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召喚されたのは、
二刀流の戦士は軽やかに走り出すと、手に持つ
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サマンサは驚愕していた。
あまりにもこの人達は強すぎる。
あの恐ろしい邪神の手下達が手も足も出ないまま、次々と片付けられていく。
悪魔のように恐ろしい上級モンスターが、今も
サマンサは手に持つ
進軍の途中、姿が見えなかった例の美少女がサマンサの元へ現れこの謎の人形を渡してくれた。
「これ、イオニで買った人形なの、これでみんなを呼び寄せて」
意味はよくわからなかったが、人形を手に取りそっと念じてみる。
すると頭の中に突然情報が溢れ出す。
スキル──―
同時召喚可能人数200人。
所持召喚地球人一覧。
──―28,794,367人
『 ──― ──― 』検索
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異世界に来た者がチートスキルやチート能力を得るのは、テンプレだった。
そしてその恩恵は、配信ドローンを通じて視聴している地球の視聴者たちにも及んでいた。
『俺のスキル強奪だわ』
『俺のは火魔法( 極 )』
『私のは回復魔法』
『わしのはネットでお買い物』
『ワタシノハ ヴァンパイアカ デスネ』
『ボクのは、ちょうめつきょくだいせんめつまほう、あばどん? なんかへんなのー 』
『私のは、おいしい料理だ』
『拙者は超アイテムボックスですな』
少女がショッピングモールで買った、謎の人形。
それを掲げることで、サマンサは
「サマンサ殿、次は私を」
「はい……どうかお願いします。タダノ、クタビレタサラリーマンタナカさんを召喚」
ドローンのレンズから、スーツ姿のくたびれた中年の男が現れる。
「スキル、社畜」
発動した瞬間。
モンスターと悪魔たちが、突然うずくまり始めた。
「もう……嫌だ……」
「帰りたい……」
「働きたくない……」
「ブツブツ、ウフフ」
モンスターや悪魔達の精神が、崩壊していく。
「今のうちに、囚われている獣人の皆さんを助けましょう!」
タナカさんが叫んだ。
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「そういえばレン君は何かスキルを得たのかい?」
「はい、僕のは自動販売機召喚でした、何か飲みますか?」
「そ、そうか、じゃあ冷たいコーヒーをもらおう」
「土呂野さんは何でしたか?」
「俺は新しく持久力アップ( 中 )をもらったよ」
「あー結構良さそうですねそれ、あ、そろそろ終わったみたいですよ」
レンと土呂野勇者は特に出番も無く、無双を続ける召喚地球人の後をついて行った。
続く。
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