私を人間界へ連れてって ~シンギュラリティ美少女がダンジョンから出てきたら、世界がゲシュタルト崩壊しました~ 作:よっちゃ
異世界編③
獣人の首都奪還が目前に迫ったそのとき、空気が歪んだ。
大地の裂け目から黒い霧が噴き上がる。
「……ほう」
低く不快な声。
霧の中から現れたのは異様な存在だった。
背中からは黒曜石のような翼が生えており、顔は仮面のように歪み眼孔の奥で赤い光が揺らめいている。
「我は邪神軍の四天王が一人── 第四災厄・グラ・ヴァルゼオン」
その声だけで、周囲の兵士たちの足が竦む。
「この地を取り戻すだと? 愚かな……貴様らのような、奪われるだけの弱き獣に何ができる」
獣王が歯を食いしばる。
「貴様……!」
「フフフ、獣の王よ。
そのままこそこそと逃げ隠れておればよかったものを、わざわざ自ら命を捨てにくるとは」
圧倒的な威圧。空間そのものが恐怖に染まっていく。
──―だが。
「こやつは、ちと厄介だな。サマンサおじょうちゃん、ワシを呼び出しなさい」
「……あ、はい、お願いします。トオヤマノテンサン( 102 )さん」
サマンサは目を見開いた。現れたのはどう見ても高齢の老人だったからだ。
しかしその背中には何か宗教的なものだろうか。見事な
邪神軍四天王グラなんとかは動けなかった。
いや、体が動かなかった。
自分の前に立つ一人の老人。
ただの老人のはずだが、発する圧は異常。
「……じじい、貴様は何者だ?」
無言のまま睨み合いが続く。
次の瞬間!
ゴンッ、グシャッ
鈍い嫌な音がし、
四天王グラさんの頭部が── ひしゃげた。
「……え?」
獣王が間の抜けた声を出す。
グラさんの背後から高速で走ってきた大男オオカワシンペイが、手に持つ
「皆さん、こんな
「あ、ハイ、すみません」
ハイエルフは少し震えていた。
ドワーフ王はしばらく固まった後、ぽつりと呟いた。
「儂、ちょっとちびっちゃった」
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──―地下に囚われていた奴隷の獣人少女は、物音で目を覚ました。
身体が温かい。
毛布がかけられていた。
「あ、おねえちゃん、目が覚めた」
顔を上げる。
そこには── 元気に飛び跳ねている、妹の姿があった。
「……え?」
信じられない。
死んだはずの妹、死んだはずの仲間たちが。
──―全員、生きている、元気に走り回っている。
「目が覚めましたか、暖かいココアをどうぞ」
メイド姿の綺麗な女性が、優しげな笑みで飲み物をくれた。
一口飲んだだけで、涙が溢れそうになった。
こんなに甘いものが世界にあったなんて。
きっとここは天国なのだろう。
「あ、あの、こ、ここは天国で、貴女は天使様ですか?」
「違いますよ」
「で、でも、死んだはずの、妹や、みんながいる。
そ、それに、こ、こんなに美味しい物も」
「それはホットココアです。
あなたの妹さん達は、お嬢様が
「え、そ、そせい? ええ? えええ? 」
「他にも亡くなった方がいたらおっしゃってください。部分が
「
少女は幸せそうに笑みを浮かべ、
そのまま気絶した。
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次々とワシイチ、カナエが的確な指示を出す。
獣人の首都は── 死者ゼロ。
どころか、ほとんど生き返っている分かなりプラスで奪還された。
──―人類種の大勝利だった。
────────────
戦いの後。
「次では、これ使いたいなー」
「そういえば……今回、一回も戦ってないですね」
スキル自動販売機召喚で買ったコーラ( 有料 )を飲みながらレンが苦笑した。
その後、地球人召喚で建設系のスキルを持つ者たちが次々と呼び出され、獣人国の王都の復興は驚くほど順調に進んでいった。
壁は一瞬で組み上がり、崩れ落ちていた塔も次々と再建される。瓦礫に覆われていた街に再び生活の匂いが戻っていく。
──とはいえ、かかった時間はほんの二時間弱だった。
一方、王都が元の姿を取り戻すころ、郊外には巨大な建物や不思議な店がいくつも出現していた。
スズキさんのスキル《イオニモール召喚》。
ヤマダさんのコンビニ召喚スキル《ローソニ》。
ダイチさんのスキル《ヤマシタ電気召喚》。
初めて見る異世界の品々に貴族も王も庶民も関係なく、エルフもドワーフも獣人も人間も皆が心を躍らせていた。
そこには生きることの喜びが確かにあった。
──だが、ひとつだけ大きな問題が残っていた。
それが食料問題だった。
農業系スキルを持つ者たちが畑に立つが、土がまるで応えない。
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「星の力が……ほとんど残っていません」
完全に修復された王城の一室でサマンサが悔しそうに言った。
「星の精霊が、死にかけているのです」
ハイエルフが苦痛の表情で続ける。
かつてサマンサが語った「邪神を倒しても滅びは免れない」という言葉の意味が、ようやく皆に理解された。
「何か、方法はないものか……」
人間の王が頭を抱える。
「当初は手を貸すつもりはありませんでしたが……」
そう言ってメイドは、コンビニで買ってきた抹茶味ロールケーキを皿に盛りお嬢様の前へ配膳した。
「お嬢様が、この星と皆さんを、お気にかけていらっしゃいますゆえ」
メイドはそう言うとメイド服の内側から何かを取り出し、
それを床に放った。
王城がわずかに揺れ、床の中から──星の精霊が姿を現した。
見た目は完全に衰弱した老人のようだった。
「……うう? どこじゃここは?
ワシはもう力が出ぬ……ハイエルフ? 人間?」
そして……
「貴女様は──!」
星の精霊は少女を見るなり驚愕し、禿げ上がった頭を床にこすりつける。
少女は精霊に優しく微笑みかけ、手を差し出した。
「精霊さんも、これを召し上がって?
こうすると、美味しくなるのよ」
そう言って少女は、抹茶味ロールケーキにメイドカフェで教わった──「おいしくなーれ」をかける。
「おお……麗しきレディー……では、ありがたく。しかしワシは歯がなくてですな……どれ、もぐもぐ……」
「かあああああああああっ!!!!!」
突如、星の精霊の体が金色に輝き出す。禿げていたはずの頭髪が逆立ち、大地が震え空気が一変した。
光が収まった時、そこに立っていたのは── 筋骨隆々の老人だった。
精霊は筋肉を震わせ満面の笑みでポージングを取る。
「ありがとうございます……麗しきレディー。
これで、この星は──二十四時間、十億年は戦えますぞ」
土は蘇り作物は芽吹く。
この星に再び生命が満ち溢れた。
異世界編④へ続く
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