私を人間界へ連れてって ~シンギュラリティ美少女がダンジョンから出てきたら、世界がゲシュタルト崩壊しました~   作:よっちゃ

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第22話 獣人国解放と四天王グラ『異世界編③』

 異世界編③

 

 獣人の首都奪還が目前に迫ったそのとき、空気が歪んだ。

 大地の裂け目から黒い霧が噴き上がる。

 

「……ほう」

 

 低く不快な声。

 霧の中から現れたのは異様な存在だった。

 背中からは黒曜石のような翼が生えており、顔は仮面のように歪み眼孔の奥で赤い光が揺らめいている。

 

「我は邪神軍の四天王が一人── 第四災厄・グラ・ヴァルゼオン」

 

 その声だけで、周囲の兵士たちの足が竦む。

 

「この地を取り戻すだと? 愚かな……貴様らのような、奪われるだけの弱き獣に何ができる」

 

 獣王が歯を食いしばる。

 

「貴様……!」

 

「フフフ、獣の王よ。

 そのままこそこそと逃げ隠れておればよかったものを、わざわざ自ら命を捨てにくるとは」

 

 圧倒的な威圧。空間そのものが恐怖に染まっていく。

 

 ──―だが。

 

「こやつは、ちと厄介だな。サマンサおじょうちゃん、ワシを呼び出しなさい」

「……あ、はい、お願いします。トオヤマノテンサン( 102 )さん」

 

 サマンサは目を見開いた。現れたのはどう見ても高齢の老人だったからだ。

 しかしその背中には何か宗教的なものだろうか。見事な神に見える人物(かんのんさま)が彫られていた。

 

 邪神軍四天王グラなんとかは動けなかった。

 いや、体が動かなかった。

 

 自分の前に立つ一人の老人。

 ただの老人のはずだが、発する圧は異常。

 

「……じじい、貴様は何者だ?」

 

 

 無言のまま睨み合いが続く。

 

 

 

 次の瞬間! 

 

 ゴンッ、グシャッ

 

 鈍い嫌な音がし、

 四天王グラさんの頭部が── ひしゃげた。

 

「……え?」

 

 獣王が間の抜けた声を出す。

 グラさんの背後から高速で走ってきた大男オオカワシンペイが、手に持つ()()()()()()()()()()()でグラさんの頭をぺしゃんこにした。

 

「皆さん、こんな()()にかまっている場合じゃない。囚われの獣人がいるのでしょう、さ、急ぎましょう」

「あ、ハイ、すみません」

 

 ハイエルフは少し震えていた。

 ドワーフ王はしばらく固まった後、ぽつりと呟いた。

 

「儂、ちょっとちびっちゃった」

 

 

 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

 

 ──―地下に囚われていた奴隷の獣人少女は、物音で目を覚ました。

 

 身体が温かい。

 毛布がかけられていた。

 

「あ、おねえちゃん、目が覚めた」

 

 顔を上げる。

 そこには── 元気に飛び跳ねている、妹の姿があった。

 

「……え?」

 

 信じられない。

 死んだはずの妹、死んだはずの仲間たちが。

 

 ──―全員、生きている、元気に走り回っている。

 

「目が覚めましたか、暖かいココアをどうぞ」

 

 メイド姿の綺麗な女性が、優しげな笑みで飲み物をくれた。

 

 一口飲んだだけで、涙が溢れそうになった。

 こんなに甘いものが世界にあったなんて。

 きっとここは天国なのだろう。

 

「あ、あの、こ、ここは天国で、貴女は天使様ですか?」

「違いますよ」

「で、でも、死んだはずの、妹や、みんながいる。

 そ、それに、こ、こんなに美味しい物も」

「それはホットココアです。

 あなたの妹さん達は、お嬢様が()()させました」

「え、そ、そせい? ええ? えええ? 」

 

「他にも亡くなった方がいたらおっしゃってください。部分が()()()()()()()()再生できますから」

 

欠片(かけら)も無いのなら、()()()()()()ですよ」

 

 

 少女は幸せそうに笑みを浮かべ、

 

 そのまま気絶した。

 

 

 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

 次々とワシイチ、カナエが的確な指示を出す。

 

 獣人の首都は── 死者ゼロ。

 どころか、ほとんど生き返っている分かなりプラスで奪還された。

 

 

 ──―人類種の大勝利だった。

 

 

 ────────────

 

 戦いの後。

 

「次では、これ使いたいなー」

 

 土呂野(とろの)勇者は、手にした“やばそうな剣”を見つめる。

 

「そういえば……今回、一回も戦ってないですね」

 

 スキル自動販売機召喚で買ったコーラ( 有料 )を飲みながらレンが苦笑した。

 

 

 その後、地球人召喚で建設系のスキルを持つ者たちが次々と呼び出され、獣人国の王都の復興は驚くほど順調に進んでいった。

 壁は一瞬で組み上がり、崩れ落ちていた塔も次々と再建される。瓦礫に覆われていた街に再び生活の匂いが戻っていく。

 

 ──とはいえ、かかった時間はほんの二時間弱だった。

 

 一方、王都が元の姿を取り戻すころ、郊外には巨大な建物や不思議な店がいくつも出現していた。

 

 スズキさんのスキル《イオニモール召喚》。

 ヤマダさんのコンビニ召喚スキル《ローソニ》。

 ダイチさんのスキル《ヤマシタ電気召喚》。

 

 初めて見る異世界の品々に貴族も王も庶民も関係なく、エルフもドワーフも獣人も人間も皆が心を躍らせていた。

 

 そこには生きることの喜びが確かにあった。

 

 

 ──だが、ひとつだけ大きな問題が残っていた。

 それが食料問題だった。

 

 農業系スキルを持つ者たちが畑に立つが、土がまるで応えない。

 

 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

「星の力が……ほとんど残っていません」

 

 完全に修復された王城の一室でサマンサが悔しそうに言った。

 

「星の精霊が、死にかけているのです」

 

 ハイエルフが苦痛の表情で続ける。

 かつてサマンサが語った「邪神を倒しても滅びは免れない」という言葉の意味が、ようやく皆に理解された。

 

「何か、方法はないものか……」

 

 人間の王が頭を抱える。

 

「当初は手を貸すつもりはありませんでしたが……」

 

 そう言ってメイドは、コンビニで買ってきた抹茶味ロールケーキを皿に盛りお嬢様の前へ配膳した。

 

「お嬢様が、この星と皆さんを、お気にかけていらっしゃいますゆえ」

 

 メイドはそう言うとメイド服の内側から何かを取り出し、

 それを床に放った。

 

 王城がわずかに揺れ、床の中から──星の精霊が姿を現した。

 見た目は完全に衰弱した老人のようだった。

 

「……うう? どこじゃここは? 

 ワシはもう力が出ぬ……ハイエルフ? 人間?」

 

 そして……

 

「貴女様は──!」

 星の精霊は少女を見るなり驚愕し、禿げ上がった頭を床にこすりつける。

 

 少女は精霊に優しく微笑みかけ、手を差し出した。

 

「精霊さんも、これを召し上がって?

 こうすると、美味しくなるのよ」

 

 そう言って少女は、抹茶味ロールケーキにメイドカフェで教わった──「おいしくなーれ」をかける。

 

「おお……麗しきレディー……では、ありがたく。しかしワシは歯がなくてですな……どれ、もぐもぐ……」

「かあああああああああっ!!!!!」

 

 突如、星の精霊の体が金色に輝き出す。禿げていたはずの頭髪が逆立ち、大地が震え空気が一変した。

 

 光が収まった時、そこに立っていたのは── 筋骨隆々の老人だった。

 精霊は筋肉を震わせ満面の笑みでポージングを取る。

 

「ありがとうございます……麗しきレディー。

 これで、この星は──二十四時間、十億年は戦えますぞ」

 

 土は蘇り作物は芽吹く。

 この星に再び生命が満ち溢れた。

 

 

 異世界編④へ続く

 




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