私を人間界へ連れてって ~シンギュラリティ美少女がダンジョンから出てきたら、世界がゲシュタルト崩壊しました~ 作:よっちゃ
続き
闘技場に熱気が満ちていた。
勇者チームと邪神──神の一柱との戦いが始まった。
通常、人間の武器では神に傷ひとつ与えられない。だがトロの剣と霊刀富士山だけは別だった。神性に干渉する特攻効果を持つその刃は、確かに邪神の肉体を捉えダメージを与えていた。
「効いてる、効いてるぞ!
邪神に対して勇者パーティーが攻め立てる!」
リングアナ兼実況が興奮しながら戦いの様子を全世界に実況する。観客席の大歓声と視聴者欄のコメントが洪水のように流れる。
《そこだレンいけー!》
《魔法使いの詠唱きれい!》
《ヨイパーティデスネ》
『邪神とは言え相手は神。人間では傷つける事は叶わぬはずだが』
『ぼくのあばどんでじゃしんなんていっぱつなのに』
『デバフかけろデバフ』
『魔法使いの人好みだわ』
戦士ダレンにも対邪神のバフがかけられ、巧みな剣技で邪神を切り裂く。かつて破壊神すらも圧倒した魔法使いニーシャの大魔法が炸裂する。
僧侶サマンサは一瞬も手を止めず、バフ、デバフ、回復を完璧なタイミングで回していた。
レンは即席パーティーにも関わらず、前に出過ぎず、連携を優先するように立ち回っていた。
「この戦いをどう見ますか、解説の
「美しい連携ですね。これぞかつて破壊神を倒した伝説のパーティーです。そしてそれに付いて行くレン君も素晴らしいの一言」
解説席の館長さんの言葉どおり、邪神の攻撃はすべてが即死級にもかかわらず、誰ひとり倒れない。霊刀富士山による耐久バフ、サマンサのバフが、邪神という神の攻撃を防いでいた。
試合開始前に執事から「
「いくぞ邪神よ、これが受けられるか!」
「その技は!! いいだろう、見せてみよ!」
「ふははは、勇者パーティーよ、次はこちらの番だな。この一撃、受けてみよ」
邪神が両手をクロスし、力を溜め始める。
「邪神が何かやってくるつもりだぞ、勇者パーティーは耐えられのか!?」
『む、いかんあの技は!?』
『見る見る邪神の攻撃力が上がっていく!』
『ねえ、
『お約束っていうのがあってね』
勇者パーティも全身全霊を持って構え、邪神の攻撃を受けて立つ。
互角の戦いが続く。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
その頃、闘技場の王族専用の特別観覧席で、少女はメイドに給仕された焼きそばを口にしながら、優雅に戦いを眺めていた。
執事が丁寧に説明を添える。
「ご心配なくお嬢様。先程お嬢様に貸していただいた、きてぃさんのぬいぐるみを使わせていただき、この闘技場全体にバフをかけておきましたゆえ」
「うん、ありがとね」
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
その時、ついに戦いが動いた。
邪神の渾身の一撃が戦士ダレンの胸を貫いた。
「ぐはあ、みんな、すまん、先に逝くぞ……」
「ダレン!」
「いやあああ」
叫び声が上がる──が。
「……ん? あれ?」
ダレンは、何事もなかったかのように立っていた。
「おおっと、自動蘇生のバフか!? 」
実況が即座に説明する。
「えー、執事様からの情報によりますと、この闘技場には皆さんの安全の為の各種の処置や、選手たちには自動蘇生バフ等がかけられている、との事です」
「ですから皆さん、安心してご家族でご覧下さい」
「それは安心ですね。しかしそうなると、勝敗はポイント制でしょうか」
続いて勇者パーティーの合体技、ミナデアウトが邪神の胸を貫く。
「ぐはあ、ば、バカな!」
「やったか!? 」
邪神は崩れ落ち──
そして、同じように自動蘇生された。
場内にどよめきが走る。
「勇者パーティーの決定打が入りましたが、邪神にも自動復活は適応されるうう」
『ラスボスまで蘇生ワロタw』
『じゃあこれいつ、どうやって終わるの?』
『配慮に感謝だよ、今子供と見てるからさ』
『解説がポイント制とか話してなかった?』
『星の命運をかけた戦いなのに、優しい仕様』
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
勇者パーティ、邪神、互いに全てを出しあって戦いは続いた。邪神にとっても、これほどの
戦いの最中、邪神が僧侶サマンサに話しかける。
「そこの女僧侶よ、なぜお前はそのように楽しそうに戦っているのだ」
「だってこうやって、皆でもう一度一緒に戦えるのが嬉しいんです。貴方だって、どこか楽しそうに見えますよ」
「ふっ、そうか」
邪神はレンの攻撃をギリギリのところで躱しながら、いつの間にか物思いにふけっていた。
何故かあの女僧侶を見ていると、同じようによく笑っていた彼女の事を
かつて、邪神がまだ下級の神だった頃。
同じ下級の女神を愛した。
しかし彼女は卑劣な人間と魔族の罠にかかり殺された。
その悲しみと絶望から逃げるために、彼は狂った。
彼には、狂うしか方法がなかった。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
戦いは遂にクライマックスを迎えた。
空中からの勇者の必殺の一撃を受け、邪神は闘技場に叩きつけられた。
もう、力が出ない。
先程の勇者の攻撃、あれは本当に見事だった。レンという少年の華麗な技の数々、蘇生バフがなければとうの昔に終わっていたはずだ。
「……もうよい。我は疲れた。
勇者よ、トドメを刺せ。
執事様……どうか蘇生はしないで頂きたい」
邪神は数百年ぶりに、かつて愛した女性を
忘れていたはずの、愛した人。
もし彼女が、今のこの情けない自分の姿を見たらどう思うだろうか。
愛した女性の死に目を背け、ただひたすらに狂った男の末路、真の
「勇者よ、頼む。もう、終わらせてくれ」
「……」
邪神は目を閉じたまま、静かに終わりを待った。
異世界編⑥へ続く(次で異世界編は終わりです)