私を人間界へ連れてって ~シンギュラリティ美少女がダンジョンから出てきたら、世界がゲシュタルト崩壊しました~ 作:よっちゃ
第27話
執事からの連絡によると、お嬢様はしばらく人間界散策を休まなければならないとの事だった。
理由は単純で、最近あまりにも頻繁に人間界へ通っていたため、父親である御館様が少しだけ拗ねてしまったのもあるが、実は祖父母が遊びに来ており、しばらくその相手をする事になったからだそうだ。
──その間に世界は大きく変わっていった。
少女が勝手に開通した
各国は異世界との正式な交流窓口を設置し、共同会議、文化交流、技術提供の話が昼夜を問わず進められていた。
街を歩けば、もはや違和感はない。
角を曲がれば、尻尾を揺らす獣人がコンビニの前でスマホを操作している。
カフェのテラス席では長耳のエルフが人間と並んでコーヒーを飲み、ドワーフが「日本の工具は素晴らしい」と量販店で目を輝かせていた。
日本人女性とエルフ男性のカップルが往来でキスをし、日本人男性と獣人女性、アメリカ人男性とドワーフ族女性など、さっそく種族を越えた恋人たちが手を繋いで幸せそうに歩いている。
──異世界は、もはや「異なる世界ではなく、異国、異なる国という認識」になりつつあった。
そんな街の一角。
Aランクダンジョンの前に、レンと土呂野は並んで立っている。
二人の頭上には、いつもの配信ドローン先輩。
レンと常に共にあり、トイレとお風呂と寝る時以外は視聴者たちにその一挙一動を届ける存在だ。
レンにとっても、視聴者は友達、家族のような感覚なので特に気にはしていない。
「今日は二人でダンジョンアタックですね」
「ああ。たまには攻略もしないとね。最近は政府もダンジョンマスターから色々言われているらしいよ。ダンジョンのこと忘れていないかって」
ダンジョンの隣に建つビルの巨大スクリーンでは、派手なCMが流れていた。
異種族混合アイドルグループのCM、エルフの里観光ツアー、獣人国名物の肉料理―ドワーフの国への留学など。
──― そして、映像が切り替わる。
──― 獣人国で開催される
開催準備が着々と進むその様子と共に、次の土曜日に開催される第一回戦の対戦表が大きく表示された。
──第一回戦 バカップル対決。
★★神のカップルと人間のカップルが、ガチンコの殴り合い★★
リア充は爆発しろ! チケット好評発売中。
☆ 堕ちた神ゼラリス( 元邪神 )+ 美しき情熱の女神エアリス
VS
☆ 勇者
「あ、一回戦の対戦表出てますね。
ニーシャさんに聞きましたよ、土呂野さんからサマンサさんに告白したって」
「うん、実は、死ぬ前にも破壊神シドレーンとの戦いが終わった後、正式に告白するつもりだったんだ」
「あーそれは……あれですね、フラグ、ですよね」
「地球に来る前じゃ、フラグとか知らなかったからね。盛大にフラグを立てちゃったよ。
で、やっぱり死んじゃったと。こっちに転生して、俺も高校の時は彼女とかいたんだけどすぐ別れてね。やっぱりサマンサへの気持ちがあってさ。もう会えないってわかってたのに」
照れくさそうに頭をかく土呂野。
「とにかく、死ぬ前の時は、サマンサもまだ15歳で聖職者だったから、平和になってからって考えたんだよね。
今の彼女は若返ってちょうど俺と歳も近いし、告白したらOKしてもらえたよ」
「それは……本当におめでとうございます。
生まれ変わって前世で好きだった女性と結ばれるなんて、すご過ぎですよ。
サマンサさんには何て言って告白したんですか?」
「いや、それはさすがに恥ずかしいよ、配信もしてるから世界に向けて話すようなものだからね」
配信画面には即座にコメントが流れ始めた。
『勇者で彼女持ちって、リア充
『でも幸せそうで悔しい』
『サマンサちゃん大事にしろよ!』
『僕のサマンサちゃんがー』
『
『あまり虐めてやるなって……はよタヒねよ土呂野』
『悪いな土呂野、サマンサちゃんなら今俺の横で寝てるぜ? 』
続いて、第二回戦の予定が映し出される。
──チームバトル開催(開催日未定)
☆ 地球・ガイア連合チーム
VS
☆ 邪龍ファブニーズ──―SS級モンスター
「これ、今メンバー募集してるみたいですね」
「いくら自動復活があるとはいえ、あの邪竜は洒落にならないよ。レン君あれと戦える? 」
レンが画面を見つめる。
画面にはとてつもなく恐ろしい凶悪な龍が映っていた。
あの目は捕食者の目。やはり本能的に嫌悪感がある。実際、邪神と邪龍の強さを比べると、邪龍の方がやや強い程度なのだが、邪神はほぼ人型だった分やりやすかった。
「……というか、あんな化け物をどこから連れて来たんですかね?」
「あの執事さんが、どこかから捕まえてきたらしいね。ほら、闘技場って言うくらいだから、神々だけじゃなく、モンスターvs人類っていうのもやるみたい」
「捕まえてきたって野良犬じゃないんだから……でもさすがは執事さん。あれ一匹で世界が滅びますよね?
そう言えば、皆さんは参加するつもりですか?」
レンが配信ドローンの視聴者に問いかける。
『俺は参加希望出したよー』
『チームバトル100人参加だって』
『地球人70人とガイアの人族、エルフ族、獣人族、ドワーフ族合わせて30人だってさ』
『邪龍vs100人とか地獄絵図w』
『自動蘇生あっても喰われたくはないな』
『腹の中で自動復活? 』
『食われた場合は復活地点で復活らしいよ』
そんな事をみんなでワイワイ話しながら、ダンジョンへ足を踏み入れた。
──― ダンジョンに入って数分後。
「……あ」
床が淡く光る。
「レン君?」
「すみません、踏みました」
『また転移トラップ踏んだか』
視界が反転し転移。
転移した先、そこにいたのは──懐かしい顔だった。
「小僧、よく来たな」
「ヒサシブリダブモ」
「ロードリッチさんにロードミノタウロスさんじゃないですか。お久しぶりです。先日は色々ありがとうございました」
軽く頭を下げるレン。
「小僧、ずいぶん腕を上げたようだな」
「ハジメテ、アッタトキトワ、クラベモノニ、ナラナイ 」
「小僧、邪神との戦いを見たぞ! 良い動きだったが、まだ修行不足だ。あの程度の異界の邪神に手間取るとは」
「ブモモ、ソコノ、ユウシャモ、ケイコヲ、ツケテヤロウ」
自然な流れで二組が向き合う。
Sランクハンターレン VS S級モンスターロードリッチ
Sランクハンター土呂野 VS S級モンスターロードミノタウロス
『おお、S同士の戦いか』
『遅くなったけどSランク昇級おめでとう』
『最近バトル多いよね』
『お嬢様いないと寂しいな、ごめん俺落ちるわ』
『私も。男なんか見てても面白くないし』
『美少女を見て癒されたいんだよー』
『ビショウジョが イナイナラ ヨウワナイヨ』
「
『ええええ──』
「え、そうなんですか!? 」
「えええ、余も知らなかったぞ」
ロードリッチを含めた全員が驚愕した。
「ミレバ、ワカルダロウ! オマエタチ、オレワ、キズツイタゾ、ブチノメシテヤル!」
昨日の敵は今日の友。
人間とモンスターが、互いを好敵手と認め技を競い合う。
──―銀髪の美少女が、ダンジョンから出てきたあの日以来。
かつての常識は、世界の常識ではなくなった。