私を人間界へ連れてって ~シンギュラリティ美少女がダンジョンから出てきたら、世界がゲシュタルト崩壊しました~   作:よっちゃ

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第28話 ジャパニーズホラーとよしお君【ホラー編①】

 第28話①

 

 城かと見間違うほどの大屋敷、その大広間。

 重厚なカーテンは閉め切られ、巨大なスクリーンの前には屋敷の関係者ほぼ全員が集まっていた。

 

 お嬢様。

 お父様。お母様。

 曽祖父母。

 執事。

 メイド一同。

 護衛騎士団一同。 等。

 

「私の可愛い可愛い貴女。

 今からその「えいが?」というものを見るのね」

「はい、お祖母様、人間界のホラー映画なんです」

「大奥様。お嬢様が懇意にしておられる地球という惑星の、日本と言う国でとても人気があるシリーズ作品でございます」

「お祖母様やお祖父様とご一緒に見たくて。

 とても、怖い映画だと聞きましたから」

「まあまあ、なんと可愛いらしいの貴女は。おばあちゃまがいれば何も怖い事などないのよ。ほらーえいが、でしたかしら?」

 

「しかしそのほらーえいがの、「怖い」というのはどんな感情なのかな?」

 大旦那様が不思議そうに言う。

 

「この映画の紹介文には『これを見た時、あなたは本当の恐怖を知る』と書かれております。大旦那様」

「なるほど、これを見ればそれがわかる仕掛けか」

 

 そこへメイドたちがポップコーンとコーラを運んでくる。

 

「あら、これは何かしら?」

「お祖母様。映画を見る時は、これらを食べながら見るのですよ」

「まあ、貴女は物知りなのね、この白いのが食べ物?」

 

 そう言って大奥様は、ナイフとフォークを使って優雅にポップコーンを一粒口へ運ぶ。

 

「お祖母様、ポップコーンは手で持って食べるのですよ」

「ふむ、手で持って食べるとな? はて、手でどうやって物を食べるのかな?」

「お爺様、こうやってです」

 

 少女がポップコーンをひとつ掴むと、祖父にあーんと食べさせる。

「おお、おお、これは素晴らしいわい」

 孫娘にあーんをしてもらい、大喜びの大旦那様。

 

「執事や、この、ぽっぷこーんを考えた人間に褒美を取らせなさい。財宝でも永遠の命でも、望みの物を与えるように」

 

「仰せのままに」

 

 

 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

 そして映画が始まる。

 

 タイトルは 『邪怨(じゃおん)螺旋(らせん)リング』

 

 あまりの恐怖に失神者が続出し、公開中止になった幻の作品。しかも「観た者のもとに“出る”」という、いわく付きの映画だという。

 

「ふむ、楽しみじゃのう」

「おばあちゃまにもぽっぷこーんを食べさせて頂戴」

 

 少女はずっと曽祖父母にあーんと食べさせ続けた。

 メイドや護衛騎士達までもが期待に満ちた空気の中、映画は静かに始まった。

 

 

 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

 映画も終盤に差し掛かる。

 

 ──白黒の映像。

 

 ──古い(ほこら)

 

「……」

 

 そしてその(ほこら)の中から白い服を着た、髪の長い女が(うつむ)きながら現れる。

 

「……」

 

「あら、この可愛らしい女の子、黒くて、ずいぶん長い髪ね。お顔をこちらに見せてくれないかしら」

「どこか体調が悪そうに見えるのお、心配だ」

「お祖母様、あーん」

 

「なぜこの女は俯いているのだ。顔を見せぬか! お嬢様に無礼であろうが」

 女騎士団長が声をあげる。

 剣に手をかけ、画面の中の異様に髪の長い、陰気で無礼な女を斬って捨てようとする。

 

「ダメ。これあげるから」

 女騎士団長にもあーんでポップコーンを与える銀髪の少女。

 

「……お、歩き出したぞ」

 

 画面の中の、白い服を着た髪の長い女が、俯いたままこちらへ歩いてきた。

 

 

 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

 この映画は呪いの映画と呼ばれ、実際に、見た者が顔を引き攣らせ、気絶する事例が勃発したため、数多くの霊媒師や除霊師がお祓いを行ったが無駄だった。

 ある祓い師曰く、とても強力な呪いがかかっており、祓う事はおろか破壊する事もできぬ、といういわく付きの物。

 

 これを見た者達が、一様に言った言葉。

 

「お、おんなが、髪の長い女が、あああ、や、やめろ、あああ、来るなあ」

 

 

 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

 ゆっくりと。

 ゆらゆらと揺れながら、女がこちらへ歩いてくる。

 

 そして────

 女の、異常に長い髪が、画面の縁から、不気味に這い出してくる。

 

 まるでこちらの世界へ侵食するかのように。

 

 続いて、女の上半身が画面からせり出した。

 

 

 その瞬間── 女──―**貞美(さだみ)**が、正面を向く。

 

 

()()()()()

 

 それは、生者のものではなかった。

 

 

 

 

「きゃあああああああああああああ」

 

 

 

 

 ──―悲鳴。

 

 

 

 ──―貞美(さだみ)は気絶した。

 

 

 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

 

 同じ頃

 一人のメイドがお代わりのポップコーンとコーラを準備するために、玄関ホールを歩いていた。

 

 二階に伸びる螺旋(らせん)階段。

 ふとそこに目をやる。

 

 ──―全身が真っ白で、裸の少年が(うつむ)いて座っていた。

 

「あら? そんな格好で。可愛らしい子ね、どこから来たの?」

 

 幼い少年が、その真っ白な顔を上げる。

 

 そして真っ黒で気味の悪い瞳がメイドを捉える。

 

 

 くぱぁと不気味に口を開け、

 

 

「……」

 

 

 

 ──―そのまま気絶した。

 

 

 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

 真っ白い顔、黒い瞳の幼い少年が目を覚ますと、そこは。

 

 ふかふかのベッド、清潔な客間。

 そして隣のベッドには、見覚えのある長髪の女性。

 

貞美(さだみ)さん?」

「よしお君!?」

 

 二人は思わず抱き合い、ガタガタと震え、えんえんと泣き始めた。

 

 そこへ、静かに扉が開く。

 

「お二人とも、気が付かれましたか?」

 にこやかな笑顔で、お嬢様付きのメイドが入ってくる。

 

「め、めいどが、髪の長いメイドが、あああ、や、やめて、あああ、来ないでええ」

 

 痙攣(けいれん)を起こし、恐慌状態になるよしお君。

 

()()()()()()()逃げ出そうとする貞美。

 

「ひ、ひいい、お、お助けええ」

 

 

 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

「落ち着かれましたか」

「は、はい。すみませんでした」

 

 貞美とよしお君は、ふたりは何者で、決して()()()()()()()()()こと、恐怖の呪いを拡散する、そういう役割だと告白し、命ばかりはと懇願した。

 

「そうでしたか、なるほど。

 結局、屋敷の誰一人として、恐怖という物が何なのか分かりませんでした。

 あのお嬢様のとても残念そうなお顔。

 お嬢様の学びの為にも、お二人にはぜひご協力をお願いしたいのです」

 

 

 ②へ続く

 

 

 ──────────

 

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