私を人間界へ連れてって ~シンギュラリティ美少女がダンジョンから出てきたら、世界がゲシュタルト崩壊しました~   作:よっちゃ

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第4話 初めまして人間のみなさん

 第4話

 

 時刻は十七時過ぎ。

 レンの衝撃的な配信からすでに三時間が経過していた。

 

 ダンジョン入口周辺は異様な熱気に包まれていた。

 報道人、野次馬、警察、政府関係者。

 そして緊急召集されたハンターたち。

 日本に数人しか存在しないAランクハンター――藤堂ノブナガの姿もある。

 

 さらに――

「ついに時は来た……!」

 などと涙を流して怪しげな儀式を行う終末論者。

 白いローブを纏い仮面を被った怪しげな宗教団体。

 彼らは整然と列を作り祈りを捧げていた。

 

 ――自分たちの神を迎えるのだと。

 

 警察と機動隊が周囲を取り囲んでいるが、その配置はどこか歯切れが悪い。

 封鎖しているようでしていない。守っているようで閉じ込めてはいない。

 

 ――絶対に刺激してはいけない。

 

 それが現場にいる全ての人間の共通認識だった。

 簡易指揮所では、警察、機動隊、政府関係者による低い声のやり取りが続いている。

 

「モンスターは地上に出られない。それが、ダンジョンがこの世に誕生した時、

 ダンジョンマスターとやらが示したルールのはずだ」

「いや、そのダンジョンマスターよりも、さらに上位の存在のようだが……」

「そもそも彼女は、ダンジョンのモンスターなのか?

 美貌は人間離れしているが、見た目は可愛らしい少女だぞ。

 おじさん普通にファンになりそうなんだが……」

「配信内容を見る限り、こちらには観光目的で来るつもりらしい」

「我々が今できるのは、刺激しないよう丁重に迎え、好きにさせることだ」

 

 その直後。

 ダンジョンゲートが淡く光を放った。

 ざわめきが波のように広がる。

 

「来るぞ……」

 

 機動隊員が息を呑み、シールドを握る手に力を込める。

 ハンターたちは無意識に一歩下がった。

 刺激してはいけない。

 だが、指先はいつでも武器を抜ける位置にあった。

 

 ――そして。

 少女は、普通に歩いて出てきた。

 まるで学校帰りの女子中学生が、

 その通い慣れた学び舎から出てくるかのごとく。

 

 銀髪。透き通るような白い肌。

 

 その瞳は、見る者によって色合いが違った。

 ある者には深紅のルビーのように見え、

 またある者には、高貴な紫色に見えた。

 

 力のあるハンターたちは、理由も分からないまま膝が震えた。

 恐怖ではない。畏怖とも少し違う。

 今すぐ膝を折り、屈したくなる衝動。

 それを必死に抑え、なんとか踏みとどまる。

 

 Aランクハンターのノブナガが声を出す。

 

「……存在の格が違う。()()()()()()()()()()()()()()

「なるほど……彼女は、何をしても許される存在だ。

 もし我々の死をお望みなら、喜んで命を差し出さねばならない……」

 

 一方で。

 

「……女の子、だよな?」

「めっちゃ、かわい……」

 

 一般人の間から戸惑い混じりの声が漏れる。

 そしてなぜか―― 何がきっかけだったのか。

 ぽつり、ぽつりと拍手が起き始め、それが連鎖した。

 

 畏敬の念とその可愛らしい容姿への安心感。

 曖昧な感情が人々を「歓迎」という形に追い込んでいた。

 

 少女はその光景を見渡し楽しそうに目を細める。

 

 そして。

 

 一歩下がり、優雅にカーテシーを決めた。

 そのあまりの美しさに拍手が止む。

 

「はじめまして、人間のみなさん。

 私の名前は【■■■■■/■■■/ERROR】」

 

 確かに、声は届いた。

 

 だが――

 

「……?」

「今、名前を……?」

 

 少女は名乗った。はずだった。

 しかし、誰一人としてその名前を認識できない。

 音は聞こえた。意味も伝わった。

 

 なのに肝心の「名前」だけが、頭から零れ落ちる。

 

 まるで―― 今の人間が理解することは、許されていない情報のように。

 

「……ふふ。ここが人間界。

 こんな素敵な場所、私に隠していたなんて」

 

 少女は楽しそうに微笑み手を振る。

 群衆から悲鳴にも似た歓声が上がった。

 

 やがてスーツ姿の男が一歩前に出る。

 政府関係者だ。

 

「……日本国政府の者です。

 日本国は、貴方様のご訪問を歓迎いたします。

 こちらとしては、安全確保のため――」

 

 言葉を選び、慎重に続ける。

 

「エスコート役を一人付けさせていただきたい」

 

 少女の視線が、ゆっくりとレンへ向いた。

 

「彼でお願い」

 

「……え?」

 

 レンの喉が鳴る。

 

「私がダンジョンで見つけたの。

 彼に人間界を案内してもらう」

 

 周囲の視線が一斉に突き刺さる。

 政府関係者は即座に頷いた。

 

「……では、彼をエスコート役に」

 

 断るという選択肢は、なかった。

 

 少女は満足そうに頷き、歩き出す。

 

「じゃあ、行こっか」

 

 超越的な美少女による、人間界漫遊。

 

 その一言で、レンは悟った。

 

 ――これはもう、止められる話じゃない。

 世界は、彼女を迎え入れてしまったのだから。

 

 

 




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