私を人間界へ連れてって ~シンギュラリティ美少女がダンジョンから出てきたら、世界がゲシュタルト崩壊しました~   作:よっちゃ

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第9話 ショッピングモールとあーん

 第9話

 

 待ち合わせ場所は、東京郊外の駅前ロータリーだった。

 今朝、レンの所属事務所に昨夜の老執事が現れ、本日の予定を確認していった。

 

「おはようございます、美しいお嬢様。私は佐川こずえです、レン君のサポートを担当します」

「今日はレン君と一緒に、お嬢様をイオニモールにご案内します!」

 

 最近入ったばかりの新人スタッフ、佐川こずえが元気よく挨拶する。

 年は二十歳そこそこ。大人しく人見知りな彼女が、何故か今日の“案内役”を自ら買って出た。

 

『このこずえって子も可愛いね』

『今日はイオニ回か』

『ここ一日中遊べるよね』

『美少女とイオニ』

 

「うん、今日も楽しみ」

 

 日差しの中でも浮いて見える銀髪。

 何気ない仕草ひとつで、周囲の視線を引き寄せる存在感。

 

 ──そして。

 誰にも気づかれない距離で、政府の依頼を受けたハンターたちが黒子のように周囲へと溶け込んでいく。

 

「じゃあ、さっそく行っちゃいましょう!」

「今日も精一杯ご案内します!」

 

(こずえさんって、こんな性格だったかな……?)

 

「うん、いこ」

 

 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

 移動は専用車になると思われたが、用意されていたのはなんと市内バスだった。

 

「なるべく“人間界の日常”を体験していただきたい」

 

 と、老執事からの依頼らしい。

 

 一行は、日常の象徴へと向かい始めた。

 車窓を眺めているうち、郊外に広がる巨大な建物が視界に入った。

 

 その瞬間、少女は目を見開いた。

 

「……すごい」

 

 日本が誇る郊外型巨大ショッピングモール。

 

 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

 自動ドアが開き──

 一気に流れ込んでくる音、光、匂い、人。

 

「わぁ……」

 

「お嬢様、こちらです!」

 

 レンはもともと人混みが苦手だ。

 配信者としては致命的だが、一応人気配信者ではある。

 

 新人のこずえは、やけに張り切っていた。

 

 少女は、興味深そうに周囲を見回す。

 

 子どもが走り、恋人たちが笑い、高齢の夫婦がゆっくり歩く。

 全員が少女の存在に気づきながらも、そこはさすが日本人。

 誰一人、騒ぎ立てることはなかった。

 

「……人間も店も、たくさん」

 

 彼女にとって、それはひどく新鮮な光景だった。

 

『現地から報告。20分前に“あの子が来る”ってアナウンスあった』

『現地民ナイス』

『おもてなしを頼むぞ』

 

 今日も追尾型配信ドローンが、静かに一行の様子を伝えている。

 

 少女は微笑んだ。

 

「これが、ショッピングモール」

 

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 最初に入ったのは服屋だった。

 

「服を売っているところ?」

「そうです! 何でも着てみてください! きゃー楽しみ!」

 

 新人こずえは、完全にテンションが振り切れている。

 

『お、すげえ楽しみ』

『今のお嬢様ドレスもいいんだけどね』

『あの女の違和感、まさか女神か?』

『着せ替えショー始まる? 』

『この可愛さで、S級ワンパンだもんね』

 

 少女はギャルっぽい服を一枚手に取った。

 

「これ、可愛い」

 

「絶対似合います! さっそく試着しましょ!」

「レン君は、どっかあっち行ってて」

 

 ガーリー系、フェミニン系、コンサバ系、ストリート系。お嬢様系。

 二時間ほど、即席のファッションショーが続き、場内は確かな盛り上がりを見せていた。

 

『写真集出してー』

『ドローンいい仕事するなー』

『やはり、あのこずえとか言う女』

『可愛いー』

『何着ても似合うじゃん』

『可愛いは正義』

 

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 次は雑貨店。

 文房具、キャラクターグッズ、意味のない装飾品。

 

「きてぃさん?」

「それ、めっちゃ可愛いですよね!」

 

 少女は小さなマスコットを手に取り、首を傾げる。

 

「……これ、ほしい」

 

『おお、さすがはきてぃさん』

『執事の爺さんが買い占めに来るぞ』

『至急()()()に連絡を』

『結構たくさん買うな』

『キティサンワ ワタシノ クニデモ ニンキデス』

 

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 本屋では足を止める時間が少し長かった。

 文字を“読む”というより、“流し込む”ような視線。

 

「この世界のこと……色々読んでわかった」

 

 少女は満足そうに呟いた。

 

 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

「……そろそろ、食事にしませんか」

 

 空気だったレンが、ようやく声を出す。

 

 フードコートに足を踏み入れた瞬間、空気が一変した。

 油の匂い。甘い匂い。湯気と声と金属音。

 

「……いい匂い」

「全部頼んじゃいましょ!」

「全部……いや、食べきれないんじゃ?」

「いいのよ、全部経費だから」

 

 テーブルいっぱいに並ぶ料理。

 

 少女は一口ずつ、丁寧に味わっていく。

 トンカツを口にした瞬間、その表情がぱっと花開いた。

 

 満面の笑顔。

 

「……おいしい」

 

 配信ドローンが寄り、コメント欄が爆発する。

 

『守りたいこのスマイル』

『今の切り抜き頼む』

『あの()()一体どうやって』

『美味しそー』

『おいしいいただきましたー』

 

「……レン」

「は、はい?」

「これ、半分あげる」

 

 レンはトンカツを受け取り、顔を赤らめる。

 

『アイツヲコロス』

『レンのチャンネル登録解除しました』

『あいつ要らねえよマジ』

『あのガキー』

 

「あなた、()()さんには、これ。あーん」

 

 新人こずえには、たこ焼き。しかもあーんで。

 

「きゃー! うひょひょーい! しぬぅー!」

 

『おい正体バレてるぞ』

『ん? さっきから何の話?』

『俺も行きてぇ』

『頼むから変なことするなよ』

『拙僧にもあーんしてー』

『あの可愛いさで忘れてるけど、S級モンスターがビビり散らかす存在だからね?』

 

 

 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

 食後、少し歩き疲れてベンチに腰を下ろす。

 人の流れは止まらない。

 だが、その中心にいる彼女はこの世界に不思議と溶け込んでいた。

 

「ここは、素敵な場所」

 

 少女は、モールの天井ではなく、

 その向こう──ガラス越しの空を見ていた。

 

「ええ。楽しいでしょ?」

 

 新人こずえもまた、どこか遠くを見るように笑う。

 

「私も、このせかい···“ここ”が大好きなんです」

「……うん」

 

 少女は静かに頷いた。

 

「え? ああ……イオニの事ですか」

 

 少し間を置いて、レンが言う。

 

「僕は初めて来ましたけど、まあ、いい所だと思います」

 

 少女は、ゆっくり立ち上がる。

 

「……次は、どこへいく?」

 

 

 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

 その背後で、ハンターの一人が静かに通信を入れる。

 

 ──今のところ、異常なし。

 ただし、“彼女の好奇心は、確実に広がっている”。

 人間界漫遊は、まだまだ終わりそうになかった。

 

 

 

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