二人の食卓、二人の空   作:erupon

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こちらはペルソナ4主人公(鳴上悠)と花村陽介が、ペルソナ4の事件が終わった後普通の学生として生活してたのにどうしてペルソナでちゃって公安に隷属することになったんだという話を書く場所です。


スターシステムを採用しているため分かりづらいですが、『ペルソナアフターパラレル』とは別世界線で交差することはありません。
オリジナルしかない世界線ですがよろしくお願いいたします。

なおBLタグがついていますがイチャイチャしません。



1期生


 日本武道館の前は、朝からひどく賑やかだった。

 真新しいスーツに身を包んだ新入生と、その隣に立つ家族たちが、門のあたりで足を止めては写真を撮っている。

 式次第の案内を確かめる者もいれば、ネクタイの曲がりを直されている者もいた。

 晴れてはいたが風はまだ少し冷たく、春の陽気と呼ぶには早い気温だった。

 

 鳴上悠は人の流れからわずかに外れた場所で、武道館の屋根を見上げた。

 ニュースや中継で目にしたことはあったが、こうして間近に立つと、建物の大きさが思っていた以上に目についた。

 見上げた先にある八角形の屋根は端正で、何かの儀式にでも向かうような静かな威圧感を帯びている。

 大学の入学式というより、もっと別の節目の場に来たような気がした。

 

 手元の案内には、受付から式の開始時刻まで、必要なことが過不足なく印字されていた。

 忘れ物はない。書類も揃っている。スーツも、ネクタイも、靴も問題ない。

 ここに来るまでの手順に、不備らしい不備は何一つなかった。

 それでも、どこに立てば自然なのかだけが、少し分かりにくかった。

 

 周囲には、同じような年頃の新入生がいくらでもいた。

 だがそのほとんどは一人ではなく、父親や母親、あるいは祖父母らしい相手と並んでいる。

 肩を並べて案内を覗き込み、写真を撮り、会場の方向を確かめている。

 その光景は別に珍しいものではなく、今日という日ならなおさら当たり前のものだった。

 

 鳴上の両親は来ない。

 正確には、来られなかった。

 数日前の時点では、どちらか一方だけでも時間を作れないかと話していたらしいが、結局それは叶わなかった。

 父は海外の発掘現場を離れられず、母も別の土地で修復作業に入っている。

 

 その事情に不満がないわけではなかったが、今さらどうこう言うつもりもなかった。

 子どもの頃ならともかく、大学の入学式に親が来るかどうかで騒ぐ年齢でもない。

 それに、二人がそういう仕事をしていることは、ずっと前から知っている。

 来られないこと自体は、もう珍しいことでもなかった。

 

 ただ、こうして武道館の前に立っていると、来ないことそのものより、周囲の空気の方が気になった。

 一人で来ている新入生が自分だけとは思わない。

 実際、探せば同じような者もいるのだろう。

 それでも、目に入る景色の大半が家族連れで埋まっていると、自分の立ち位置だけが少し曖昧になる。

 

 鳴上は案内を軽く折り直し、腕時計に目を落とした。

 まだ時間には余裕がある。

 このまま受付へ向かってもいいし、少し待ってから入ってもよかった。

 どちらでも構わないはずなのに、妙に足が定まらなかった。

 

「よう、悠」

 

 不意にかけられた声に、鳴上は顔を上げた。

 人混みの向こうから片手を上げて歩いてくる姿を見て、ほんの一瞬だけ言葉が出なかった。

 見間違えるはずもない。

 花村陽介だった。

 

 濃紺のスーツは一応きちんと着ているが、どこか着慣れない感じが残っている。

 ネクタイも曲がってはいないものの、鳴上ほど几帳面には整っていなかった。

 それでも本人はそんなことを気にした様子もなく、人の波をすり抜けてこちらまでやってくる。

 周囲の賑わいの中でも、陽介の動きだけは妙に目についた。

 

「……どうしてここにいる」

「開口一番それ?」

「今日は俺の入学式だ」

「知ってるっつの。だから来たんだろ」

 

 陽介はそう言って、鳴上の隣に並んだ。

 いかにも当然という顔をしているせいで、かえって追及しにくい。

 鳴上は一度だけ武道館を見上げ、それから改めて陽介へ視線を戻した。

 まだ事情を飲み込めていない感覚が、少しだけ残っていた。

 

「明日はお前の方だろう」

「そうだけど、今日は今日だし」

「おじさんとおばさん、八十稲羽から来たばかりじゃないのか」

「ああ、親父たちならホテルも取ってあるし、動けない距離じゃねえし」

 

 言いながら、陽介は周囲を見回した。

 写真を撮る親子、談笑する新入生、案内板の前で立ち止まる人の列。

 その視線が一巡して、また鳴上に戻ってくる。

 いつもの軽い調子のままなのに、見ているところだけは妙に正確だった。

 

「親御さんは?」

「来られない」

「……そっか」

 

 それだけだった。

 同情めいた言葉も、気まずさを埋めるための気遣いも出てこない。

 陽介は短く受け取って、それで終わりにした。

 その素っ気なさが、かえってありがたかった。

 

 鳴上自身、事情を説明される側の顔になるのは好きではない。

 仕方ないと理解されることと、納得することは少し違う。

 そのずれを埋めるような慰めは、たいてい役に立たなかった。

 陽介はそのあたりを、昔から妙に外さない。

 

「まあ、だったらちょうどいいか」

「何がだ」

「俺がいるし」

 

 あまりにも簡単に言うので、鳴上は一拍遅れて意味を取った。

 陽介は肩を竦め、武道館の入口の方へ顎をしゃくる。

 まるで最初から決まっていた予定を確認するような口ぶりだった。

 その気負いのなさに、呆れるより先に息が抜けそうになる。

 

「お前は何の立場で入るつもりだ」

「関係者」

「ずいぶん曖昧だな」

「実際、関係者ではあるだろ。相棒の晴れ舞台だし」

 

 鳴上は思わず目を細めた。

 陽介の言葉は半分冗談で、半分本気だった。

 その半端さがちょうどよく、真正面から礼を言う気にはさせない。

 断る理由を探す方が、よほど不自然に思えた。

 

「別に、来なくてもよかった」

「そう言うと思った」

「事実だ」

「でも一人で突っ立ってたじゃん」

 

 短く返されたその一言に、鳴上は口を閉じた。

 言い返そうとすればできたはずだ。

 待っていただけだとか、時間を見ていただけだとか、いくらでも整った説明は作れる。

 けれど、陽介が見たものはたぶんそのどれでもない。

 

 武道館の前で、自分が少し所在なさげにしていたことくらいは、自分でも分かっていた。

 それを指摘されたからといって、腹が立つわけではない。

 見られたくなかったとも思わない。

 ただ、見つけられたのだと思った。

 

「入るぞ」

 

 鳴上がそう言うと、陽介は小さく笑った。

 やっぱりな、という顔だった。

 その反応に、鳴上はわずかに肩の力を抜く。

 ひとりで立っていた時よりも、足が自然に前へ出た。

 

 二人で人の流れに混じって歩き出す。

 家族連れの間をすり抜けながら、陽介は案内板を見て「T大って思ったより人数多いな」とどうでもいい感想をこぼした。

 鳴上は返事の代わりに、軽く息をつく。

 さっきまで耳についたざわめきが、今は少しだけ遠くなっていた。

 

 受付のある方向へ向かいながら、鳴上は横目で陽介を見る。

 この場に似つかわしい保護者でもなければ、同じ大学の新入生でもない。

 それでも隣にいることだけは、妙にしっくりきていた。

 関係者、という曖昧な言い方は、思ったより悪くなかった。

 

 

 




登場人物をここでまとめておく

鳴上悠(T大に入学した大学生)
花村陽介(M大に入学する大学生(もうすぐ入学式))
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