二人の食卓、二人の空   作:erupon

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こちらはペルソナ4主人公(鳴上悠)と花村陽介が、ペルソナ4の事件が終わった後普通の学生として生活してたのにどうしてペルソナでちゃって公安に隷属することになったんだという話を書く場所です。

スターシステムを採用しているため分かりづらいですが、『ペルソナアフターパラレル』とは別世界線で交差することはありません。
オリジナルしかない世界線ですがよろしくお願いいたします。

なおBLタグがついていますがイチャイチャしません。


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 同居を始めて二週間ほど経った頃には、部屋の中の見え方がだいぶ変わっていた。

 引っ越し直後の段ボールはすべて片づき、机や棚の上にも、それぞれの持ち物が無理なく収まる位置ができている。

 最初は仮置きだった陽介の荷物も、もう最初からそこにあったように見えた。

 

 生活の流れも、完全ではないにせよ形になりつつあった。

 朝は鳴上が先に起き、陽介を起こし、簡単な食事を挟んで二人で家を出る。

 夜は講義や課題の都合で帰宅時間がずれることもあるが、遅くなる方は一応連絡を入れる、という取り決めも自然に定着した。

 

 その日も、鳴上が帰宅した時には、陽介はまだ戻っていなかった。

 時計を見ると、約束の時間を少しだけ過ぎている。

 遅くなるとまでは聞いていなかったが、大学の帰りに何かあったのだろう。

 鳴上は鞄を置き、上着を脱ぎながら、まず台所へ向かった。

 

 冷蔵庫を開けると、朝のうちに買っておいた食材がそのまま残っている。

 今日はどちらが先に帰るか分からなかったから、夕食は簡単なもので十分だと決めていた。

 米を炊くほどではないが、何も用意しないよりはましだった。

 

 野菜を切りながら、鳴上は無意識に時計へ目をやる。

 まだ気にするほどの遅さではない。

 それでも、帰宅予定の人間がいない部屋は、生活の音が一つ足りないぶんだけ少し広く感じられた。

 

 鍋に火をかけたところで、玄関の鍵が回る音がした。

 鳴上は包丁を置き、顔だけそちらへ向ける。

 直後に開いた扉の向こうから、陽介の「ただいま」がいつもより少し疲れた声で入ってきた。

 

「おかえり」

「ただいま……あー、遅くなった」

「見れば分かる」

「そういう時は普通、どうしたって聞くだろ」

「聞かなくても話す顔をしている」

 

 台所へ入ってきた陽介は、鞄を肩から下ろしながら大きく息をついた。

 講義のあとで何か揉めたのか、あるいは課題でも増えたのか、少なくとも疲れていることだけは、歩き方を見れば十分に分かる。

 鳴上は鍋の火加減を見ながら、陽介が言葉を探すのを待った。

 

「ゼミ見学みたいなやつ、思ったより長引いてさ」

「そうか」

「しかも帰りに駅で変な勧誘につかまって、余計時間食った」

「連絡は」

「途中で入れようと思ったんだけど、電車乗ったら忘れた」

 

 最後だけ少し声が小さくなる。

 鳴上はそれに対してすぐには何も言わなかった。

 責めるほどではないが、気に留めないわけにもいかない。

 生活の約束は、こういう小さなところから崩れやすい。

 

「次からは先に入れろ」

「分かってるって」

「分かっていて忘れるなら、なおさら先にやれ」

「はいはい」

 

 陽介はそう返してから、鍋の中を覗き込んだ。

 野菜と肉を適当に煮込んだだけの簡単な汁物だったが、温かい匂いが立っているせいか、さっきまでの疲れた顔が少しだけ緩んだように見えた。

 

「なんか、帰ってきたら飯あるのありがたいな」

 

 何気ない調子の言い方だった。

 だが、その一言が思ったよりまっすぐ耳に残る。

 鳴上は鍋をかき混ぜながら、返事の代わりに火を少しだけ弱めた。

 

「ない日もある」

「それは分かってるけどさ。先に帰ってるやつがいて、台所使ってる音するだけで、なんか家って感じする」

 

 陽介がそこまで言って、自分で少し照れたように黙る。

 鳴上はその横顔を一度だけ見て、すぐに視線を戻した。

 台所の音を“家”だと言われることが、どういう種類の感情を呼ぶのか、まだうまく整理できなかった。

 

 ただ、その言葉が嫌ではないことだけはすぐに分かった。

 むしろ、思っていた以上にしっくりくる。

 この部屋が一人分の生活ではなくなったことを、陽介も同じように受け取っているらしいのが、少しだけ嬉しかった。

 

「手を洗ってこい」

「話そらしたな」

「食べるなら先だ」

「はいはい。そういうとこ、ほんとブレねえよな」

 

 洗面所へ向かう背中を見送りながら、鳴上は食器を並べる。

 最初の頃は一人分の皿を出しそうになることもあったが、今はもう、何も考えず二人分の器へ手が伸びる。

 習慣になるには、意外と時間はかからなかった。

 

 食事を始める頃には、陽介の疲れも少し落ち着いていた。

 大学の話は、最近では夕食時に自然と共有されるようになっている。

 駒場と船橋で生活圏は違うのに、

 その日あったことを最初に持ち帰る相手は、もう互いにほぼ固定されていた。

 

「駒場の方はどうだった?」

「特に変わりはない」

「その言い方、絶対なんかあった時も変わらないよな」

「お前ほど頻繁には起きない」

「いや、俺だって毎日なんか起きてるわけじゃねえよ」

 

 陽介が抗議しながら、汁椀を持ち上げる。

 その表情はもう、帰宅直後よりずっといつもの調子に戻っていた。

 鳴上はそれを見て、食事の温度が下がる前にもう一口運ぶ。

 帰宅して十分もしないうちに空気が整うのは、悪くなかった。

 

「そういえば、洗濯どうする?」

 陽介がふと思い出したように言う。

 食事の途中で出る話題としてはやや唐突だったが、こういう細かい生活の話が混ざるのも、

 同居してから増えた種類の会話だった。

 

「今日回すつもりだった」

「俺の分もある」

「見れば分かる」

「いや、そうじゃなくて。分けた方がいいのかと思って」

「必要ないだろ」

 

 鳴上がそう言うと、陽介は一瞬だけ箸を止めた。

 洗濯物の扱いくらいで気にするのかと思ったが、考えてみれば、生活圏が重なったと実感しやすい部分でもある。

 そういうところで躊躇が出るのは、自然なことかもしれなかった。

 

「じゃあ一緒でいいのか」

「効率がいい」

「また効率で話す」

「他に理由がいるのか」

「いるとかじゃなくて、なんか……慣れねえだけ」

 

 その言葉に、鳴上は少しだけ手を止めた。

 慣れていないのは陽介だけではないのだろう。

 自分の方が平然としているように見えても、共有している生活の範囲は日に日に広がっている。

 

 帰宅時間も、食事も、洗濯も、鍵も、朝の目覚ましも。

 一つひとつは些細なことなのに、それが積み重なると、互いの生活へ入り込む深さはかなりのものになる。

 そのことを鳴上は意識的に数えないようにしていた。

 

「慣れればいい」

 結局、そうとしか言わなかった。

 陽介はそれを聞いて、少しだけ肩の力を抜く。

 投げやりに聞こえたかもしれないが、鳴上としてはわりと本気のつもりだった。

 

 こういうものは、言葉で整えるより先に、繰り返して当たり前にしてしまう方が早い。

 実際、朝の起床も鍵の置き場所も、最初は引っかかったのに、今はもうだいぶ馴染み始めている。

 

「じゃあ、洗剤切れてたら買い足しな」

「分かった」

「あと、俺のシャツと一緒にお前の黒いの入れると色移るかも」

「……なんでそんなことまで把握してんだよ」

「一応見ている」

 

 鳴上がそう返すと、陽介は口元だけで笑った。

 呆れているのか、安心しているのかは曖昧だったが、少なくとも嫌そうではない。

 その反応に、鳴上は内心で少しだけ息を抜く。

 

 食後、陽介が皿を流しへ持っていく。

 最初の数日は任せるべきか迷ったが、今では先に帰った方が作り、もう一方が片づける流れができ始めていた。

 明文化したわけでもないのに、意外とうまく回っている。

 

「今日は俺やる」

「任せる」

「素直だな」

「今はレポートを先に片づける」

「なるほど。じゃあ交換条件成立」

 

 陽介がそう言って蛇口をひねる。

 その背中を見ながら、鳴上は机の上にノートを開いた。

 同じ部屋の中で、片方が皿を洗い、片方が課題をやる。

 その並行した時間が、思った以上に落ち着く。

 

 静かな家で、一人で机に向かう時間には慣れている。

 だが、背後に生活音がある状態で集中する感覚は、慣れていないはずなのに妙に収まりがよかった。

 陽介がいると分かっているだけで、部屋の空気が少し違う。

 

「なあ、悠」

 食器を洗う音の合間に、陽介の声が飛ぶ。

 鳴上はノートから目を上げずに返事をした。

 こうして別々のことをしながら会話するのも、少し前まではなかった習慣だった。

 

「何だ」

「今日、先に帰っててくれて助かった」

「そうか」

「いや、ほんとに。あのタイミングで帰って、部屋真っ暗で、飯もなくて、誰もいなかったら、たぶん余計だるかった」

 

 鳴上はそこで初めて顔を上げた。

 陽介はまだ流しの前に立ったまま、こちらを見てはいない。

 だがその声は、軽く流すには少しだけ真面目だった。

 疲れた日の帰宅先として、この部屋をちゃんと受け取っている声だった。

 

「ならよかった」

 

 返したのはそれだけだった。

 他に言えることもあったかもしれないが、今はその短さで十分な気がした。

 長く返すと、言い過ぎる気がしたからだった。

 

 陽介は「うん」とだけ言って、また皿洗いへ戻る。

 そのやりとりの短さごと、妙にしっくりくる。

 感謝を大げさに受け取らず、それでもちゃんと置いておくやり方が、この生活には合っていた。

 

 夜が更けるにつれて、部屋の中の動きも少しずつ静かになる。

 課題が一段落し、洗濯機を回し、明日の朝の分のコップを置く。

 一つひとつは小さな作業だが、誰かと暮らしていると、生活はこういう細部で形になるらしかった。

 

 鳴上は洗濯が終わるのを待ちながら、

 干す順番を頭の中で組み立てる。

 隣では陽介が、ソファに浅く座ってテレビもつけずにぼんやりしていた。

 疲れが抜けきっていないのだろうが、その顔は家の中のものだった。

 

 帰ってきて、食べて、洗って、少し話して、明日に備える。

 その一連の流れを繰り返すうちに、相手が帰る場所であるという感覚が、もうかなり現実のものになってきている。

 

 最初は寝坊対策のためだった。

 少なくとも表向きは、そういう理屈で始まった同居だった。

 だが、今はそれだけでは説明しきれないものが増えつつある。

 その変化に名前をつけるのは、まだ少し早い気がした。

 

 洗濯機の終了音が鳴る。

 鳴上が立ち上がると、陽介も反射的に顔を上げた。

 何気ないその動きに、生活の中で互いの気配を拾うことが当たり前になり始めているのを感じる。

 

「干す」

「手伝う」

「いい」

「いいって言われても、俺の分も入ってるだろ」

「……なら半分持て」

 

 陽介が小さく笑って立ち上がる。

 そのまま並んで洗濯物を取り出す。

 夜の静かな部屋で、二人分のシャツやタオルが同じ籠の中に重なっている。

 

 それを見ても、もう特別な違和感はなかった。

 むしろ、今さら一人分だけに戻る方が不自然に思える。

 鳴上は洗濯物を広げながら、

 この生活が思った以上に早く根を張り始めていることを静かに受け止めた。

 

 




登場人物をここでまとめておく

鳴上悠(T大に入学した大学生)
花村陽介(M大に入学した大学生)




次回もよろしくお願いします
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