スターシステムを採用しているため分かりづらいですが、『ペルソナアフターパラレル』とは別世界線で交差することはありません。
オリジナルしかない世界線ですがよろしくお願いいたします。
なおBLタグがついていますがイチャイチャしません。
ここから同居2年目(二人の学年がひとつ上がります)になります。
1
目覚ましが鳴る少し前に、目が覚めた。
枕元の時計を見て、予定より三分早いことを確認する。起きるには十分だった。
布団を出て、音を立てないように寝室の扉を開ける。
まだ薄い朝の空気が廊下に残っていて、床は少しだけ冷たかった。
洗面所で顔を洗い、棚の前で一度手を止める。
歯ブラシが二本、同じ向きでコップに立っているのを見て、そのまま蛇口を閉めた。
台所の電気を点けると、昨夜のうちに拭いた流し台が白く光った。
冷蔵庫を開けながら、今朝使うものと、今日の帰りに補充するものを順に頭の中で分ける。
卵は四個。牛乳は半分より少し下まで減っていた。
ベーコンは一食分、食パンは三枚。明日の朝まで考えるなら、帰りに買い足した方がいい。
野菜室を引くと、レタスがだいぶ軽くなっていた。
ミニトマトも残りが少ない。陽介が昨日つまんでいた分を引いても、今日でちょうど切れそうだった。
調味料の棚に目をやり、洗剤の詰め替えも思い出す。
食器用はまだ持つが、洗濯用の方は次を入れておかないと週末まで保たない。
スマートフォンの画面で時間を見ながら、講義予定を思い返した。
一限はない。昼前に出れば間に合うが、図書館へ寄るなら少し早めに動いた方が無駄がない。
陽介の方は、たしか一限からだったはずだ。
昨日のうちに聞いた時間割を頭の中で並べると、家を出る順番まで自然に決まった。
フライパンを火にかけ、ベーコンを並べる。
焼ける音が出る前に卵を割り、トースターにパンを入れ、湯を沸かして味噌汁の準備も進める。
動きはもう考えるまでもなかった。
片手で箸を出しながら、もう片方で二人分の皿を取る順番まで、手が先に知っている。
食器棚の中では、よく使う皿の位置が少し前に寄っていた。
最初は仮置きのつもりだった並びも、取りやすさを優先していくうちに、その形で落ち着いていた。
マグカップを二つ出し、片方にコーヒー、もう片方に湯を注ぐ。
陽介は起き抜けに熱すぎるものを急いで飲みがちなので、少し置けるよう先に作っておく。
炊飯器は使わず、今朝はパンにした。
昼の予定と帰宅時間を考えると、その方が残り物の組み方もきれいに収まる。
味噌汁に豆腐を落としたところで、寝室の方から物音がした。
扉が開く軽い音のあと、足を引きずるような気配が廊下を近づいてくる。
「……おはよー」
声はまだ半分ほど寝ていた。
「おはよう」
フライパンを返しながら答えると、陽介はそのまま洗面所へ曲がっていく。
ほどなくして、水音と小さなくしゃみが聞こえた。
その間に皿へベーコンエッグを盛り、トーストを出し、机の上の位置を少しだけ整える。
戻ってきた陽介は、髪の一部だけがまだ跳ねていた。
寝癖を気にしている余裕はないらしく、椅子を引く前にマグカップへ手を伸ばしかける。
「先に座れ。まだ熱い」
言うと、陽介は手を止めて、あーはいはいと小さく返した。
そのまま向かいに座り、皿を見て少しだけ目を細める。
それが料理への反応なのか、まだ眠いだけなのかは、見慣れていても時々判別しづらい。
「今日パンなんだ」
「昼が学食なら、こっちの方がいいと思った」
「なるほど。そういう計算ね」
頷きながらトーストをちぎる手つきは、まだ完全には起きていない。
ただ、箸やマグの位置を探すことはもうなく、置かれたものをそのまま使っていく。
「一限だろ」
「うん。だいぶ現実って感じ」
「昨夜、レポートは終わってたな」
「終わってる。たぶん。終わってることにしたい」
曖昧な答え方のわりに、机の端へ置いたファイルにはもう付箋が挟んであった。
今朝のうちに慌てて探す気配がないだけで、持ち物の準備自体は済んでいるらしい。
食事を進めながら、頭の中で帰宅後の段取りを組み直す。
今日は自分の方が少し遅くなる可能性がある。なら、買い物は先に済ませておいた方がいい。
「帰り、スーパー寄る」
「なんか切れそう?」
「牛乳とパン。洗剤も」
「了解。俺の方で早く終わったら、先に見とく」
そう言って味噌汁を飲む姿に、無理に気負った様子はない。
手伝うと言うより、二人分の不足を見つけたら埋めるという言い方に近かった。
「無理ならいい」
「無理なら連絡する」
「分かった」
それで話は終わった。
細かく役割を決めなくても、どちらが拾うかはその日の流れで自然に決まっていく。
食べ終えた皿を重ね、陽介が先に立つ。
以前ならそのまま置いていくこともあったが、今は流し台まで運んで水だけは張っていく。
完全に丁寧とは言えない置き方だったが、十分だった。
皿同士がぶつからない向きで重ねてあるのを見て、そのまま何も言わず蛇口をひねる。
「先、顔どうにかしてくる」
「寝癖、右だけ残ってる」
「やっぱある?」
「ある」
「最悪だな」
洗面所へ戻っていく背中を見送り、テーブルを拭く。
パンくずをまとめて捨て、空になった牛乳パックを潰しながら、次に買う銘柄までいつも通りに決まっていた。
台所から洗面所を見ると、棚の上には整髪料が二種類並んでいる。
片方は自分のものではなく、その隣にある予備の歯ブラシも、もう来客用ではなかった。
洗濯籠を覗けば、白いシャツが二枚、タオルが三枚入っている。
どの時間に回せば干すまで無駄なく進むかを考える時、数える単位は最初から二人分になっていた。
玄関脇の棚には、鍵が二組並んでいる。
片方だけが一時的に増えたものとして扱われていた時期は、もうとっくに過ぎていた。
正式に継続の話をしたわけではない。
区切りをつけるなら、そのうち言葉にする必要はあるのだと思う。
それでも、朝の手順は何も迷わない。
食器の数も、買い物の量も、洗面所の混み方も、この部屋の使い方はもう答えを先に出していた。
登場人物をここでまとめておく
鳴上悠(T大に入学した大学二年生)
花村陽介(M大に入学した大学二年生)
次回もよろしくお願いします