二人の食卓、二人の空   作:erupon

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こちらはペルソナ4主人公(鳴上悠)と花村陽介が、ペルソナ4の事件が終わった後普通の学生として生活してたのにどうしてペルソナでちゃって公安に隷属することになったんだという話を書く場所です。

スターシステムを採用しているため分かりづらいですが、『ペルソナアフターパラレル』とは別世界線で交差することはありません。
オリジナルしかない世界線ですがよろしくお願いいたします。

なおBLタグがついていますがイチャイチャしません。






 夕食の片づけが一段落した頃には、外はすっかり暗くなっていた。

 流し台の水を止め、最後の皿を拭いて棚へ戻すと、部屋の中が少しだけ静かになる。

 

 陽介は先にテーブルを拭き終えて、椅子へ座っていた。

 食後に飲むつもりで出した湯飲みを両手で包んだまま、テレビも点けずにこちらを見ている。

 

 その向かいに座る前に、食卓の端へ紙を二、三枚揃えて置いた。

 重ねた順番がずれないよう角を合わせると、陽介の視線がそこへ落ちる。

 

「なにそれ」

「去年の話の続き」

「去年の話って」

「おためし同居の見直し」

 

 言うと、陽介は湯飲みを持ったまま少しだけ止まった。

 驚いたというより、そろそろ来るかと思っていたものが来た時の顔に近かった。

 

 冬を越えて、新学期も始まっている。

 時期として遅いくらいだったが、生活の方が先に安定していて、今まで切り出す機会を逃していた。

 

 紙の一枚を手前へ引き寄せる。

 部屋の契約更新の時期、家賃の内訳、光熱費の推移を簡単にまとめたメモだった。

 

「先に言うと、今のままで問題はない」

「いきなり結論から来たな」

「結論が先の方が早い」

 

 陽介が苦笑して、湯飲みを置く。

 その音を聞きながら、もう一枚の紙を横へずらし、必要なところだけ見えるようにした。

 

「通学は、ここからの方が互いに無理が少ない」

「まあ、それはそう」

「お前はM大まで乗り換え一回で済むし、俺もT大まで許容範囲だ」

 

 大学名を口にしながら、去年の移動時間を思い返す。

 どちらか一方に寄せすぎず、朝の混雑も含めて考えると、今の部屋が一番収まりがよかった。

 

「家賃は今の配分で負担に偏りはない」

「そこ、まだちょっと気にしてたんだけど」

「計算した。光熱費込みでも、大きく崩れてない」

 

 紙には月ごとの金額を並べてあった。

 電気代が高い時期と低い時期、水道代の揺れ、食費の増減もざっと見れば分かるようにしてある。

 

 数字で見ると、二人分の生活はむしろ安定していた。

 一人ずつ別に暮らすより、買い物も調理も洗濯も無駄が少なく、全体の振れ幅が小さい。

 

「食費も、まとめた方が安い」

「それは、悠の運用がうまいからじゃねえの」

「運用って言うほどじゃない」

「いや、だいぶ運用してるだろ」

 

 返しながら、陽介は紙の端を指で押さえた。

 冗談めいた口調だったが、数字そのものはきちんと見ているらしい。

 

 湯飲みに新しく茶を注ぎ足し、自分の席へ戻る。

 そのついでに、紙の一番下へ書いた管理会社の連絡先が見えないよう少し位置を直した。

 

 更新の条件は先に確認してあった。

 必要な書類、期限、保証関係の変更点まで一通り目を通してあるが、それを今すぐ全部言う必要はない。

 

「生活の回り方も、今の方がいい」

「それは?」

「朝の支度が詰まらない。洗濯もまとめた方が早い。買い物の頻度も抑えられる」

 

 挙げていく項目は、感情と呼ぶには地味だった。

 ただ、そういう細かい部分の方が、一緒に暮らす形が続くかどうかを正確に決める。

 

「あと、帰宅時間がずれても対応しやすい」

「対応って」

「飯を分けるとか、風呂の順番とか。片方が遅くても崩れにくい」

 

 言いながら、自分の湯飲みを机の木目に沿って少し寄せる。

 置き場所まで固定されていることに気づいて、手を止めるほどのことでもないと思い直した。

 

 陽介はしばらく黙っていた。

 紙を見て、湯飲みを持ち上げ、また机へ戻す。その間の取り方がいつもより少し慎重だった。

 

「俺さ」

「うん」

「別に、続けたくねえとかじゃないんだわ」

 

 そこは予想していた。

 去年、一度引こうとした時とは違う。今はもう、この部屋の使い方も帰り方も、陽介の中で日常として馴染んでいる。

 

「ただ、なんていうか」

 言葉を探すように、陽介が視線を一度横へずらす。

「そのまま居座ってるみたいになってねえかな、とは思ってた」

 

 湯飲みの縁に指をかけたまま、その先は少し曖昧になった。

 負担という単語を選ぶか迷っているようにも見えたが、そこは言い換えなくても意味は足りた。

 

「なってない」

 返すと、陽介が顔を上げる。

「少なくとも、今の生活に不都合は出てない」

 

「でもさ、最初はおためしだったじゃん」

「だから見直す」

「それ、悠の中ではもう答え出てる感じするんだけど」

「出てるから話してる」

 

 そう言うと、陽介は短く息を漏らした。

 呆れたのか、半分笑っているのか判別しづらい声だったが、否定される時の硬さではなかった。

 

 机の上の紙を、一枚だけ向こうへ寄せる。

 契約更新の期限が書いてある箇所へ指を置くと、陽介がそこを追って見る。

 

「六月までに返事が要る」

「もうそこまで見てんのかよ」

「必要だから見た」

「必要だから、ねえ」

 

 更新料の額、必要書類、連帯関係の確認事項。

 口には出さなかったが、必要なら自分の方で先に進めるつもりでいた。

 

 その想定の中に、陽介が出ていく案はほとんど入っていない。

 そこまで意識してから、紙の角を揃え直し、考えを表へ出さないよう手元へ戻した。

 

「負担の話なら、むしろ一人の時より楽だ」

「え、そうなの」

「家事を分けられる。買い物も頼める。俺が遅い時も部屋が回る」

 

 言い終えてから、言い方が少し直接的だったかと思う。

 ただ、事実として整理するとそうなる。今さら取り繕う方が不自然だった。

 

「お前がいる前提で組んだ方が、生活が安定する」

 その一文だけは、少し間を置いて出た。

 陽介は返事をせず、代わりに湯飲みの中を見下ろしてから、小さく頷く。

 

「……それ、だいぶ強い言い方じゃね」

「事実だ」

「いや、うん。まあ、分かった」

 

 分かった、と言ったあとも、陽介はすぐには顔を上げなかった。

 それでも口元の力は抜けていて、追い詰められた時の硬さはもう残っていない。

 

「じゃあ、続けるでいいのか」

 確認すると、陽介は今度はちゃんとこちらを見る。

「いい。ていうか、俺もそのつもりではいた」

 

 そこでようやく、肩の位置が少し下がった。

 表に出すほどではないが、保留のまま置いていた項目に一つ印がついた感覚がある。

 

「じゃあ、もう一年」

「もう一年って言うと、なんか契約っぽいな」

「実際そうだろ」

「否定はできねえ」

 

 陽介が笑って、湯飲みを空にする。

 その動きに合わせて自分も席を立ち、急須へ残った茶を捨てに流し台へ向かった。

 

 蛇口の水音を聞きながら、頭の中では次の手順へ移る。

 管理会社への連絡の時期、必要な書類、費用の分担、ついでに買い替えた方がいい棚の寸法まで順に並ぶ。

 

「俺、何やればいい?」

 背後から陽介の声がした。

「まず住民票。あと学生証のコピーがいるか確認する」

「もう作業が始まってる」

「決まったなら止める理由がない」

 

 振り返ると、陽介は半分呆れた顔で立っていた。

 けれど帰る支度をする時のような距離の取り方ではなく、食器を下げるため自然に台所の方へ寄ってくる。

 

「じゃ、俺、明日あたり取ってくるわ」

「分かった。必要なものはメモしておく」

「了解。そういうの得意だもんな」

「得意というより、忘れると面倒だ」

 

 受け取った湯飲みを洗い籠へ置き、布巾の位置を少しずらす。

 明日も同じように使うことを前提に整える手つきは、話をする前と何も変わらなかった。

 

 変わらないまま、一つだけ保留が消えた。

 机の上の紙をまとめてクリアファイルへ入れる頃には、意識はもう次の買い物と書類の準備へ移っていた。

 

 




登場人物をここでまとめておく

鳴上悠(T大に入学した大学二年生)
花村陽介(M大に入学した大学二年生)


次回もよろしくお願いします
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