二人の食卓、二人の空   作:erupon

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こちらはペルソナ4主人公(鳴上悠)と花村陽介が、ペルソナ4の事件が終わった後普通の学生として生活してたのにどうしてペルソナでちゃって公安に隷属することになったんだという話を書く場所です。

スターシステムを採用しているため分かりづらいですが、『ペルソナアフターパラレル』とは別世界線で交差することはありません。
オリジナルしかない世界線ですがよろしくお願いいたします。

なおBLタグがついていますがイチャイチャしません。




 陽一おじさんと別れて帰宅したあと、先に上着を脱いだ。

 買ってきた袋を台所へ運び、冷蔵のものから順に出していく。

 

 ひき肉、玉ねぎ、卵、牛乳、じゃがいも。

 普段より品数は少し多いが、冷蔵庫の中で浮くほどではない量に収めてある。

 特別なものを並べるつもりはなかった。

 ただ、今日なら食べられるものを考えていくと、自然にこういう買い方になっただけだ。

 

 陽介は先に居間で鞄を置き、ネクタイを外していた。

 店を出てからずっと肩の力が抜けたままで、家の中に入ってからその傾向がさらに濃くなる。

 

「なんか手伝う?」

 声だけが台所へ飛んでくる。

 返事をする前に、流しへじゃがいもを置いて水を出した。

「玉ねぎ、みじん切り」

「了解」

 そう返して、陽介が袖をまくって入ってくる。

 立ち位置はもう迷わない。まな板を使う側と鍋に触る側で自然に分かれる。

 

 ひき肉をボウルへ入れ、塩と胡椒を振る。

 炒めた玉ねぎを冷ます間にパン粉と牛乳を合わせ、卵を割る順番まで手が覚えている。

 横では包丁が規則的にまな板を叩いていた。

 細かさに多少ばらつきはあっても、火を通せば問題ない程度には揃っている。

 

「今日、やけにしっかりしてんな」

 玉ねぎを切りながら、陽介が言う。

「なにが」

「飯。なんか、ちゃんと洋食」

 

 フライパンで玉ねぎを炒めながら、答えを少し遅らせる。

 香りが立ってきたところで火を弱め、焦がさないよう木べらを返した。

 

「ポタージュにするなら、この方がまとまる」

「へえ」

「あと、今日の時間ならオーブン使っても間に合う」

 

 理由としては、それで足りる。

 足りるように言ったつもりだったが、陽介はそこで納得しきらない顔をした。

 

 ボウルの中身を手で混ぜる。

 温度が上がりすぎないうちに形を整え、型へ詰めて表面を平らに均した。

 じゃがいもは皮をむいて薄く切り、鍋へ移す。

 バターで軽く炒めてから水を注ぎ、玉ねぎも加えると、台所の匂いが少しだけやわらかくなった。

 ミートローフをオーブンへ入れ、時間を合わせる。

 その間にスープを煮て、サラダを作り、食卓へ皿を出す流れも無理なく繋がる。

 

 食器棚から少し深めの皿を二枚出した。

 ポタージュ用に選ぶことはあっても、平日の夜にはあまり使わない形だった。

 その皿を見たところで、陽介がふと手を止める。

 台所の隅に寄せていた買い物袋と、オーブンの中を交互に見たあと、こちらを向いた。

 

「……これ、お祝いか」

 声は探るようだったが、半分はもう分かっている響きだった。

 

 鍋の様子を見ながら、木べらで底をさらう。

 じゃがいもが崩れ始めたのを確かめてから、火を弱めた。

 

「たまたまだ」

「絶対たまたまじゃねえだろ」

「今日なら食べられると思っただけだ」

 

 それで押し切れるかと思ったが、陽介は小さく笑う。

 否定というより、そこまで言うなら受け取っておく、という顔つきに近かった。

 

「まあ、うん」

「嫌なら普通のにする」

「嫌とは言ってねえよ。むしろ嬉しいやつ」

 

 そこでようやく、包丁の音が止む。

 切り終えたきゅうりをボウルへ移しながら、陽介はさっきより少しだけ丁寧に手を動かしていた。

 

 スープをミキサーにかけ、鍋へ戻して牛乳を足す。

 塩加減を見て、もうひとつまみだけ足すと、ちょうどいい濃さに落ち着いた。

 オーブンを開けると、肉の焼ける匂いが一気に広がる。

 表面に焼き色がついていて、肉汁も落ち着いているのを見て、少しだけ時間を置くことにした。

 切るのを急ぐと、形が崩れる。

 今日に限ってそこを雑にする理由はないので、皿を温めている間にサラダを盛りつける。

 

 食卓へ運ぶ頃には、部屋の空気もすっかり家の匂いになっていた。

 窓の外は暗く、換気扇の音と食器の触れる音だけが静かに続いている。

 

 ミートローフを切り分け、ソースを少しだけかける。

 厚みは揃えたつもりだったが、一枚だけ端の形が崩れたので、それは自分の皿へ寄せた。

 

 陽介は何も言わず、その皿の並びを一度見た。

 そのあと椅子を引いて座り、テーブルの上を見回してから、またこちらを見る。

 

「やっぱ祝いじゃん」

「通った日だから、手間をかけても無駄にならない」

「言い方がすげえ現実的」

 

 そう言いながらも、口元は緩んでいる。

 スープに匙を入れる前に匂いを確かめる癖が出ていて、その時点で機嫌は悪くないと分かった。

 

「いただきます」

「いただきます」

 

 先にポタージュへ手をつける。

 陽介は一口飲んで、それからスプーンを置き、何か言いかけてやめた。

 

「なに」

「いや」

 少し間を置いてから、肩をすくめる。

「普通にうまいなと思って」

「そうか」

「そこは、ありがととかないの」

「食えてるなら十分だろ」

 

 返すと、陽介が短く笑う。

 そのまま今度はミートローフへ箸を入れ、断面を見てから口へ運んだ。

 

 食事中の会話は多くなかった。

 大学の予定、来週の講義、洗剤をいつ買い足すか、その程度の実務が間を埋めていく。

 

「更新の紙って、今週中にまとめる?」

「先に必要書類だけ揃える」

「住民票、俺明日取れると思う」

「なら助かる」

 

 そういうやり取りをしながら、皿の中身は順に減っていく。

 もう一年、という言葉を何度も繰り返さなくても、話の前提はそこへ置かれたままだった。

 

 食後、ミートローフが少しだけ残った。

 二切れ分に届かない量だったので、保存容器は小さい方を選ぶ。

 粗熱を取ってから入れた方がいい。

 そう思って皿に寄せておくと、陽介が空いた食器を重ねて流しへ運んだ。

 

 皿を置く音が、普段より少しだけ静かだった。

 気を遣っているというより、今夜の流れを壊さない程度には丁寧に扱おうとしているように見える。

 

「洗う」

「拭く」

 それだけで分担が決まる。

 ポタージュの鍋は油が少ないうちに流した方が早いので、先に水を張った。

 

 洗い終えた皿を受け取り、布巾で水気を拭き取る。

 深皿は縁の裏に水が残りやすいので、一枚ずつ角度を変えて確かめてから棚へ戻した。

 陽介は隣でカトラリーをまとめ、先に引き出しを開けている。

 その置き方が前よりずっと迷わなくなっていて、どこへ何を戻すかをもう覚えているのが分かる。

 

「なあ」

 スポンジをすすぎながら、陽介が言う。

「ありがと」

 

 振り向くほどのことでもないと思い、そのまま手を動かす。

 布巾をかけ直し、保存容器の蓋を確かめてから冷蔵庫を開けた。

 

「残るから、明日の夜に回せる」

「そういう話にする?」

「その方が使い忘れない」

「まあ、悠らしいけど」

 

 返事のあと、すぐ横で小さく息を吐く音がした。

 言葉以上のものを受け取った時の沈黙は、今ではそこまで読み違えない。

 

 冷蔵庫の中で容器を置く位置を少しだけずらす。

 明日の夕方、先に帰った方が見つけやすいよう前列へ寄せておく。

 台所を片づけ終え、最後にテーブルを拭く。

 ソースの跡もパンくずも残っていないのを見て、布巾をたたみ直した。

 

 特別な夜というほどではない。

 酒を開けたわけでも、言葉を重ねたわけでもない。それでも、今日の食卓はいつもより少しだけ先へ進んでいた。

 照明を落とした部屋で、陽介が先にソファーへ腰を下ろす。

 自分は明日の弁当箱を流しの端へ揃えてから、その隣ではなく、手が届く距離の定位置へ座った。

 このくらいでちょうどいいと思う。

 暮らしの形を一つ決めた夜としては、余計なものを足さない方が、かえって長く残る。

 

 




登場人物をここでまとめておく

鳴上悠(T大に入学した大学二年生)
花村陽介(M大に入学した大学二年生)



次回もよろしくお願いします
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